17 / 53
Ⅲ ダイエットには運動も!
⑦
しおりを挟む
「おい! 凛太朗! 大丈夫か⁉」
身体を軽く揺すられた。
「どうしよう、いったん帰らなきゃ。いや、救急車!」
慌てふためく声がする。凛太朗を強く抱きしめる腕が震えている。酒井の身体で日陰が出来て眩暈が少しひいた。
「あ、いや。大丈夫。ごめん」
まだ目を開けられずに深く呼吸をして凛太朗は応えた。
「ちょい、このままで、いい?」
「うん。体重掛けて」
「……サンキュ」
固い身体を直に感じた。胸に抱き留められていると酒井の心臓の音がバクバクと聞こえた。
(すごい、拍動だ……)
酒井の生きている音が響く。温かく支えてくれる酒井に申し訳ない気持ちが生まれて凛太朗は泣きたくなった。
(酒井、ごめん)
このまま密着していると嗚咽が漏れそうで、凛太朗はグイっと酒井の胸を押し返した。
「凛太朗?」
怪訝そうな声に向けて、凛太朗はニカっと笑って見せた。
「悪い、酒井。ちょい眩暈。何だろうな。夏バテ、か?」
ははは、と笑った顔が引きつっていたかもしれない。怪訝そうに酒井が見てきた。
「凛太朗、顔色が悪い。今日は帰ろう」
「あ、もう床屋がその角だ。そこで涼ませてもらいたい」
「わかった。つかまって」
言い終わらないうちに酒井はグイっと凛太朗を横抱きにした。
「わ、わぁ! 降ろせ!」
驚きと恐怖に足をばたつかせてしまった。
「まじ、凛太朗、おとなしくして。落とすから。ガチで」
酒井の怖いくらい真剣な声音にビクリと震えて凛太朗は「はい」と静かにした。
そのまま、ほんの数メートルだが酒井に抱き上げられて移動した。顔から火が出そうに恥ずかしい気持ちと、酒井の力強さに戸惑う数分間だった。
凛太朗を抱き上げて重いだろうと酒井を見れば、歯を食いしばる懸命な顔があった。汗で前髪が分かれていた。眉間に皺を寄せ荒い息を吐く酒井が、カッコよかった。
床屋に着くとすぐに待合の椅子に座らせてもらい、スポーツドリンクをもらった。すぐに火照りが落ち着いて、途端に申し訳なくなくなった。
「あの、すみません。ご迷惑おかけして」
「いいのよ。凛ちゃんが倒れるなんて、おばちゃん腰抜かすわよ」
床屋の奥さんが笑いながら濡れタオルを首に巻いてくれた。
「本当にありがとうございます」
この床屋は家族経営の穏やかな田舎店だ。少し休んで帰ろうかとも思ったが、迷惑だけかけて帰るなど失礼すぎると思い直した。調子は元に戻っている。今日は他に客が居なくて直ぐに二人カットしてもらえそうだ。
「おい、凛太朗。お前の彼氏はすげぇな。お姫抱っこか」
「おじさん、彼氏とかやめてよ」
「ははは。いいじゃないか。若いねぇ」
床屋のご主人が様子を見に来た。ご主人は酒井を見てドンと軽く胸板を叩いた。
「お、すげぇ筋肉だ。鍛えてんね」
「はい。少しだけですが」
「そっか。凛太朗が連れと来るなんて嬉しいなぁ」
ご主人の言葉に凛太朗は食いついた。
「そう。おじさん、今日は酒井をカッコよくしてほしいんだ。ほら、イケメンだろ?」
凛太朗は椅子から立ちあがって酒井の前髪をグイっと手でよけた。酒井の顔の全貌を見てご主人は「おぉ」と小さく声を上げた。
「こりゃ、面白いな。兄ちゃん、切っていきなよ」
「いや、凛太朗の調子が悪いので、またにします」
「酒井、僕はもう大丈夫。ほんとふらついただけ。床屋さんに悪いし、僕も切るから、さ」
「だけど、心配なんだ」
心配そうにする酒井にご主人が口笛を吹いた。
「おいおい、恋人みたいじゃないか」
ご主人の言葉に凛太朗はズッコケそうになった。酒井は耳まで赤くなっていた。
結局、凛太朗の押しが勝って、床屋で髪を切ってもらった。
「切る量が多いから、兄ちゃんからな」
ご主人に誘導されて酒井が席に着いた。
「どんな髪型か決めてるのかい?」
「いえ、特には……」
返事に困っている酒井に代わって凛太朗が答えた。
「酒井、僕が言っても良いかな?」
酒井の真っすぐな瞳が凛太朗を捕らえたまま、コクリと頷きが返ってきた。
「おじさん、酒井をモデルみたいにして欲しい。ほら、その本みたいな」
凛太朗はカット台に置かれた髪型の本を指さした。『男のベリーショート』と書かれた表紙にツーブロックの男性が載っている。
「そうか。ま、刈り上げがダメな学校もあるだろ。側面だけちょっとだな」
「酒井、それでいい?」
ご主人と凛太朗で話を進めていたが、酒井の同意を得なくてはいけない。
「うん。凛太朗の好みに任せるよ」
そんな返事に先ほどの不安感がくすぶる。
「酒井、嫌なら切らなくても良いけど」
ここまで来て何を言っていると思われそうだが聞かずには居られなかった。
「いや、切るよ。こんなチャンスはないって」
酒井の頬がニカっと上がった。それを見て、きっと大丈夫だろうと凛太朗は思った。
身体を軽く揺すられた。
「どうしよう、いったん帰らなきゃ。いや、救急車!」
慌てふためく声がする。凛太朗を強く抱きしめる腕が震えている。酒井の身体で日陰が出来て眩暈が少しひいた。
「あ、いや。大丈夫。ごめん」
まだ目を開けられずに深く呼吸をして凛太朗は応えた。
「ちょい、このままで、いい?」
「うん。体重掛けて」
「……サンキュ」
固い身体を直に感じた。胸に抱き留められていると酒井の心臓の音がバクバクと聞こえた。
(すごい、拍動だ……)
酒井の生きている音が響く。温かく支えてくれる酒井に申し訳ない気持ちが生まれて凛太朗は泣きたくなった。
(酒井、ごめん)
このまま密着していると嗚咽が漏れそうで、凛太朗はグイっと酒井の胸を押し返した。
「凛太朗?」
怪訝そうな声に向けて、凛太朗はニカっと笑って見せた。
「悪い、酒井。ちょい眩暈。何だろうな。夏バテ、か?」
ははは、と笑った顔が引きつっていたかもしれない。怪訝そうに酒井が見てきた。
「凛太朗、顔色が悪い。今日は帰ろう」
「あ、もう床屋がその角だ。そこで涼ませてもらいたい」
「わかった。つかまって」
言い終わらないうちに酒井はグイっと凛太朗を横抱きにした。
「わ、わぁ! 降ろせ!」
驚きと恐怖に足をばたつかせてしまった。
「まじ、凛太朗、おとなしくして。落とすから。ガチで」
酒井の怖いくらい真剣な声音にビクリと震えて凛太朗は「はい」と静かにした。
そのまま、ほんの数メートルだが酒井に抱き上げられて移動した。顔から火が出そうに恥ずかしい気持ちと、酒井の力強さに戸惑う数分間だった。
凛太朗を抱き上げて重いだろうと酒井を見れば、歯を食いしばる懸命な顔があった。汗で前髪が分かれていた。眉間に皺を寄せ荒い息を吐く酒井が、カッコよかった。
床屋に着くとすぐに待合の椅子に座らせてもらい、スポーツドリンクをもらった。すぐに火照りが落ち着いて、途端に申し訳なくなくなった。
「あの、すみません。ご迷惑おかけして」
「いいのよ。凛ちゃんが倒れるなんて、おばちゃん腰抜かすわよ」
床屋の奥さんが笑いながら濡れタオルを首に巻いてくれた。
「本当にありがとうございます」
この床屋は家族経営の穏やかな田舎店だ。少し休んで帰ろうかとも思ったが、迷惑だけかけて帰るなど失礼すぎると思い直した。調子は元に戻っている。今日は他に客が居なくて直ぐに二人カットしてもらえそうだ。
「おい、凛太朗。お前の彼氏はすげぇな。お姫抱っこか」
「おじさん、彼氏とかやめてよ」
「ははは。いいじゃないか。若いねぇ」
床屋のご主人が様子を見に来た。ご主人は酒井を見てドンと軽く胸板を叩いた。
「お、すげぇ筋肉だ。鍛えてんね」
「はい。少しだけですが」
「そっか。凛太朗が連れと来るなんて嬉しいなぁ」
ご主人の言葉に凛太朗は食いついた。
「そう。おじさん、今日は酒井をカッコよくしてほしいんだ。ほら、イケメンだろ?」
凛太朗は椅子から立ちあがって酒井の前髪をグイっと手でよけた。酒井の顔の全貌を見てご主人は「おぉ」と小さく声を上げた。
「こりゃ、面白いな。兄ちゃん、切っていきなよ」
「いや、凛太朗の調子が悪いので、またにします」
「酒井、僕はもう大丈夫。ほんとふらついただけ。床屋さんに悪いし、僕も切るから、さ」
「だけど、心配なんだ」
心配そうにする酒井にご主人が口笛を吹いた。
「おいおい、恋人みたいじゃないか」
ご主人の言葉に凛太朗はズッコケそうになった。酒井は耳まで赤くなっていた。
結局、凛太朗の押しが勝って、床屋で髪を切ってもらった。
「切る量が多いから、兄ちゃんからな」
ご主人に誘導されて酒井が席に着いた。
「どんな髪型か決めてるのかい?」
「いえ、特には……」
返事に困っている酒井に代わって凛太朗が答えた。
「酒井、僕が言っても良いかな?」
酒井の真っすぐな瞳が凛太朗を捕らえたまま、コクリと頷きが返ってきた。
「おじさん、酒井をモデルみたいにして欲しい。ほら、その本みたいな」
凛太朗はカット台に置かれた髪型の本を指さした。『男のベリーショート』と書かれた表紙にツーブロックの男性が載っている。
「そうか。ま、刈り上げがダメな学校もあるだろ。側面だけちょっとだな」
「酒井、それでいい?」
ご主人と凛太朗で話を進めていたが、酒井の同意を得なくてはいけない。
「うん。凛太朗の好みに任せるよ」
そんな返事に先ほどの不安感がくすぶる。
「酒井、嫌なら切らなくても良いけど」
ここまで来て何を言っていると思われそうだが聞かずには居られなかった。
「いや、切るよ。こんなチャンスはないって」
酒井の頬がニカっと上がった。それを見て、きっと大丈夫だろうと凛太朗は思った。
128
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる