31 / 53
Ⅳ 停滞期
⑩
しおりを挟む
クラス対抗の大玉ころがしは一年から三年までの各クラスから十名ずつ参加する競技だ。単純な競技なのに、思わぬ方向に転がっていく大玉を追いかける姿に周囲から笑いが起きる。
勝敗が決まるころには歓声が上がっていた。その歓声をぼんやりと聞きながら凛太朗は居心地が悪いなぁとため息をついた。
次は凛太朗が出場する大繩飛びだ。大繩は二学年の学年競技であり、各クラスから十五名が参加する。
応援席から出場者待機場所に行く時に、軽く肩を叩かれた。見上げれば酒井がいた。心臓がドキリと音をたてた。
「凛太朗、本当に、大丈夫?」
優しい声が心地良い。凛太朗は少しだけ微笑みを返した。
「うん。スポドリ飲んだから、大丈夫。サンキュ」
無視するわけにもいかず言葉を返せば、会話をするのが久しぶりだと思った。酒井は軽く目を見開くようにしてから弱々しく笑った。
「そっか。そっか。良かった。その、無理はしないで。ほら、運動は苦手、だろ?」
つい凛太朗は「ははっ」と笑った。運動は苦手だけど、夏休みに筋トレや体力作りを一緒に頑張った。前より少しはマシなはずだ。
「おぉ、苦手だけど、夏の筋トレ効果を発揮してくるわ」
懐かしさに凛太朗の頬が緩んだ。一瞬だけど胸がジンと温かくなった。
「凛太朗……」
酒井が泣きそうな顔をした。何て顔してんだよ、と声を掛けようとしたが。
「はぁ、縄跳びとかメンド」
「サボりたいよねぇ」
横を通り過ぎる女子の声に凛太朗の背すじがビクっと伸びた。途端に心臓が冷えるような恐怖が蘇った。
(酒井と一緒にいたらダメだ!)
全身に震えが来そうな感覚がして、凛太朗は酒井から顔を背けた。
「あ、僕、もう行かなきゃ」
下を向いたまま凛太朗は足を進めた。
「凛太朗、頑張って」
凛太朗の背中に温かい声が届いた。きっと酒井は悲しそうな微笑みを浮かべている。そう思うと凛太朗の胸がズキっとした。
酒井を振り返らずにコクリと頷いて、『ゴメン』と心で謝った。
大縄跳びは参加十五人のうち二人が大繩を回し、十三人で飛ぶ。運動が苦手な人は大玉ころがしと大繩に参加することが多い。だから凛太朗だけが足を引っ張ることは無いだろう。
「せーの」
「イ―チ、ニーイ、サーン…」
大繩を回す人が声を掛けてくれて飛び始めたが、三回も飛ばずに縄が止まった。
凛太朗の前にいる女子が縄に引っかかっている。すぐに仕切り直して飛ぶが、どうやら前の女子は飛ぶタイミングがズレてしまうようで凛太朗のクラスは三回以上続かない。
そんな事を繰り返すと、「おい、だれ?」「五回は飛ぼうぜ」と声が上がる。やり始めれば結構夢中になるものだ。
しかし、次も二回で縄が止まった。
「マジ、勘弁しろって」
誰かの一言に、凛太朗の前の女子がビクっとした。
「ご、ごめんなさい」
咄嗟に凛太朗が謝っていた。
前の女子が必死に飛んでいるのは分かる。運動が苦手だと仕方がないのだ。凛太朗にはその気持ちがよく理解できた。だからこそ、そう言う時に責められる心の痛さも知っている。
「風見かよぉ。ま、しゃーねぇ」
「風見君、こんなの、緊張しなくていいって。ジャンプすれば良いだけだし」
「ま、ダメならダメでいいっしょ」
冷たい言葉を覚悟したのに、クラスメイトからは励ますような声が聞こえた。その言葉に身体を固くしていた前の女子の力が抜けたのが分かった。
凛太朗自身も責められないことに安堵した。
「うん。ご、ごめん」
もう一度謝ると、大繩を回す人の「せーの」の号令で大縄跳びが再開した。
結果は大縄跳び五回の記録で最下位だった。けれど「三回より伸びたじゃん」とか「ま、こんなもんだな」という言葉が飛んだ。そう言いながら笑顔になっている皆を見て凛太朗は嬉しかった。
勝敗が決まるころには歓声が上がっていた。その歓声をぼんやりと聞きながら凛太朗は居心地が悪いなぁとため息をついた。
次は凛太朗が出場する大繩飛びだ。大繩は二学年の学年競技であり、各クラスから十五名が参加する。
応援席から出場者待機場所に行く時に、軽く肩を叩かれた。見上げれば酒井がいた。心臓がドキリと音をたてた。
「凛太朗、本当に、大丈夫?」
優しい声が心地良い。凛太朗は少しだけ微笑みを返した。
「うん。スポドリ飲んだから、大丈夫。サンキュ」
無視するわけにもいかず言葉を返せば、会話をするのが久しぶりだと思った。酒井は軽く目を見開くようにしてから弱々しく笑った。
「そっか。そっか。良かった。その、無理はしないで。ほら、運動は苦手、だろ?」
つい凛太朗は「ははっ」と笑った。運動は苦手だけど、夏休みに筋トレや体力作りを一緒に頑張った。前より少しはマシなはずだ。
「おぉ、苦手だけど、夏の筋トレ効果を発揮してくるわ」
懐かしさに凛太朗の頬が緩んだ。一瞬だけど胸がジンと温かくなった。
「凛太朗……」
酒井が泣きそうな顔をした。何て顔してんだよ、と声を掛けようとしたが。
「はぁ、縄跳びとかメンド」
「サボりたいよねぇ」
横を通り過ぎる女子の声に凛太朗の背すじがビクっと伸びた。途端に心臓が冷えるような恐怖が蘇った。
(酒井と一緒にいたらダメだ!)
全身に震えが来そうな感覚がして、凛太朗は酒井から顔を背けた。
「あ、僕、もう行かなきゃ」
下を向いたまま凛太朗は足を進めた。
「凛太朗、頑張って」
凛太朗の背中に温かい声が届いた。きっと酒井は悲しそうな微笑みを浮かべている。そう思うと凛太朗の胸がズキっとした。
酒井を振り返らずにコクリと頷いて、『ゴメン』と心で謝った。
大縄跳びは参加十五人のうち二人が大繩を回し、十三人で飛ぶ。運動が苦手な人は大玉ころがしと大繩に参加することが多い。だから凛太朗だけが足を引っ張ることは無いだろう。
「せーの」
「イ―チ、ニーイ、サーン…」
大繩を回す人が声を掛けてくれて飛び始めたが、三回も飛ばずに縄が止まった。
凛太朗の前にいる女子が縄に引っかかっている。すぐに仕切り直して飛ぶが、どうやら前の女子は飛ぶタイミングがズレてしまうようで凛太朗のクラスは三回以上続かない。
そんな事を繰り返すと、「おい、だれ?」「五回は飛ぼうぜ」と声が上がる。やり始めれば結構夢中になるものだ。
しかし、次も二回で縄が止まった。
「マジ、勘弁しろって」
誰かの一言に、凛太朗の前の女子がビクっとした。
「ご、ごめんなさい」
咄嗟に凛太朗が謝っていた。
前の女子が必死に飛んでいるのは分かる。運動が苦手だと仕方がないのだ。凛太朗にはその気持ちがよく理解できた。だからこそ、そう言う時に責められる心の痛さも知っている。
「風見かよぉ。ま、しゃーねぇ」
「風見君、こんなの、緊張しなくていいって。ジャンプすれば良いだけだし」
「ま、ダメならダメでいいっしょ」
冷たい言葉を覚悟したのに、クラスメイトからは励ますような声が聞こえた。その言葉に身体を固くしていた前の女子の力が抜けたのが分かった。
凛太朗自身も責められないことに安堵した。
「うん。ご、ごめん」
もう一度謝ると、大繩を回す人の「せーの」の号令で大縄跳びが再開した。
結果は大縄跳び五回の記録で最下位だった。けれど「三回より伸びたじゃん」とか「ま、こんなもんだな」という言葉が飛んだ。そう言いながら笑顔になっている皆を見て凛太朗は嬉しかった。
97
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる