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Ⅳ 停滞期
⑨
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凛太朗はトボトボと歩いて本部に向かった。ため息をついて体育祭本部で報告の順番待ちをした。
ふと周囲を見れば、他のクラスの学級委員ははつらつとして優秀そうな人ばかりだ。
(どうしてうちのクラスは僕が学級委員なんだろう?)
そんな疑問が湧いた。
体調不良者と出欠の報告をして応援席に戻るとき、自動販売機で飲料を買っているクラスメイトの声が聞こえた。
「なぁ、後期学級委員決め、どうすっかぁ。第二の風見、いねぇかな」
「だなぁ。雑用係だし、メンド。もう一回、風見推しする?」
「連続ダメだって。あ、酒井でいいじゃん」
「だめだめ。あいつキレるとヤバいって」
「まじ?」
流れるような会話を聞いて凛太朗は頭を殴られたような衝撃をうけた。笑いながら立ち去る彼らは凛太朗がいることに気が付かないままだった。
凛太朗は自動販売機のそばに立ち尽くした。
(雑用係……)
『真面目だから』と推薦されて舞い上がった自分がバカらしくなった。都合よく押し付けられただけなのだと知り、悔しくて手が震えた。
(僕は、本当にバカだ……)
落ち込んだ気持ちをどうにも出来ず、かといって体育祭を放棄するワケにもいかず、凛太朗は応援席に戻った。
席に戻るとすぐに開会式のアナウンスが流れ、グラウンドに整列した。
十月なのに夏のように暑い。心が沈むのは暑さのせいだと自分に言い聞かせた。眉間に皺を寄せていないと自分が崩れてしまいそうだった。
噛んだ下唇がジンと痛かった。
開会式が終わり応援席に戻って水筒の麦茶を飲んだ。こんな調子では熱中症になりそうだった。
「凛太朗」
久しぶりの低い声に凛太朗の身体がビクリと反応した。
「これ、良かったら。調子、良くないだろ?」
見上げると酒井が眉をハの字にしてスポーツドリンクを差し出していた。久しぶりの酒井だ。
酒井の顔を見ると途端に泣きたくなった。見上げたまま凛太朗は動けなかった。
「凛太朗?」
もう一度名を呼ばれて、ハッと我に返った。酒井に寄りかかりたい自分がいる。
けれど、女子の冷たい声が頭に響いた。『役に立たない不要物・嫌われ学級委員』そんな言葉と、先ほどの自動販売機での会話がリフレインする。
酒井と凛太朗は存在価値が違う。傍に居てこれ以上惨めな思いをしたくない。
凛太朗は色々な思いが入り混じり、酒井に返事が出来なかった。
そんな凛太朗を見つめたまま、酒井の顔が弱々しく微笑んだ。それは、今にも泣きだしそうな微笑みだった。
酒井が何も言わないまま凛太朗の手を握った。ドキリとする接触は一瞬で、凛太朗の手にスポーツドリンクが乗せられた。そのまま酒井は立ち去った。
凛太朗はその後ろ姿を目で追いかけた。
手に酒井の温かさが残っている。冷たいスポーツドリンクの心地よさが染み込む。振り向いて『ありがとう』と言えば良い。そう分かっている。けれど、涙が滲みそうな心を持て余して、凛太朗はその一言が言えなかった。
「つぎは大玉転がし障害物です」
実行委員のアナウンスで出場者がグラウンドに集合する。
学級委員は体調不良や全体報告をするのが仕事で、競技の進行は体育祭実行委員が行う。
競技が始まると凛太朗は暇になった。怪我人が出ないよう祈りながら進行を見守った。
大玉転がしなど小学生以来だが、青春高校では一体感と連携の体感のために毎年組み込まれているらしい。手元のスポーツドリンクをパキパキ開けて、コクリと喉を潤した。
酒井は、優しい。
酒井に向き合えなくなっているのは凛太郎の問題だ。酒井が悪いわけでは無い。本来ならば酒井は凛太朗の態度を怒っても良いくらいだ。
そう思いながら、手の中にあるスポーツドリンクをギュッと握り締めた。冷たさがジワリと凛太朗の内側まで染み込んだ。
ふと周囲を見れば、他のクラスの学級委員ははつらつとして優秀そうな人ばかりだ。
(どうしてうちのクラスは僕が学級委員なんだろう?)
そんな疑問が湧いた。
体調不良者と出欠の報告をして応援席に戻るとき、自動販売機で飲料を買っているクラスメイトの声が聞こえた。
「なぁ、後期学級委員決め、どうすっかぁ。第二の風見、いねぇかな」
「だなぁ。雑用係だし、メンド。もう一回、風見推しする?」
「連続ダメだって。あ、酒井でいいじゃん」
「だめだめ。あいつキレるとヤバいって」
「まじ?」
流れるような会話を聞いて凛太朗は頭を殴られたような衝撃をうけた。笑いながら立ち去る彼らは凛太朗がいることに気が付かないままだった。
凛太朗は自動販売機のそばに立ち尽くした。
(雑用係……)
『真面目だから』と推薦されて舞い上がった自分がバカらしくなった。都合よく押し付けられただけなのだと知り、悔しくて手が震えた。
(僕は、本当にバカだ……)
落ち込んだ気持ちをどうにも出来ず、かといって体育祭を放棄するワケにもいかず、凛太朗は応援席に戻った。
席に戻るとすぐに開会式のアナウンスが流れ、グラウンドに整列した。
十月なのに夏のように暑い。心が沈むのは暑さのせいだと自分に言い聞かせた。眉間に皺を寄せていないと自分が崩れてしまいそうだった。
噛んだ下唇がジンと痛かった。
開会式が終わり応援席に戻って水筒の麦茶を飲んだ。こんな調子では熱中症になりそうだった。
「凛太朗」
久しぶりの低い声に凛太朗の身体がビクリと反応した。
「これ、良かったら。調子、良くないだろ?」
見上げると酒井が眉をハの字にしてスポーツドリンクを差し出していた。久しぶりの酒井だ。
酒井の顔を見ると途端に泣きたくなった。見上げたまま凛太朗は動けなかった。
「凛太朗?」
もう一度名を呼ばれて、ハッと我に返った。酒井に寄りかかりたい自分がいる。
けれど、女子の冷たい声が頭に響いた。『役に立たない不要物・嫌われ学級委員』そんな言葉と、先ほどの自動販売機での会話がリフレインする。
酒井と凛太朗は存在価値が違う。傍に居てこれ以上惨めな思いをしたくない。
凛太朗は色々な思いが入り混じり、酒井に返事が出来なかった。
そんな凛太朗を見つめたまま、酒井の顔が弱々しく微笑んだ。それは、今にも泣きだしそうな微笑みだった。
酒井が何も言わないまま凛太朗の手を握った。ドキリとする接触は一瞬で、凛太朗の手にスポーツドリンクが乗せられた。そのまま酒井は立ち去った。
凛太朗はその後ろ姿を目で追いかけた。
手に酒井の温かさが残っている。冷たいスポーツドリンクの心地よさが染み込む。振り向いて『ありがとう』と言えば良い。そう分かっている。けれど、涙が滲みそうな心を持て余して、凛太朗はその一言が言えなかった。
「つぎは大玉転がし障害物です」
実行委員のアナウンスで出場者がグラウンドに集合する。
学級委員は体調不良や全体報告をするのが仕事で、競技の進行は体育祭実行委員が行う。
競技が始まると凛太朗は暇になった。怪我人が出ないよう祈りながら進行を見守った。
大玉転がしなど小学生以来だが、青春高校では一体感と連携の体感のために毎年組み込まれているらしい。手元のスポーツドリンクをパキパキ開けて、コクリと喉を潤した。
酒井は、優しい。
酒井に向き合えなくなっているのは凛太郎の問題だ。酒井が悪いわけでは無い。本来ならば酒井は凛太朗の態度を怒っても良いくらいだ。
そう思いながら、手の中にあるスポーツドリンクをギュッと握り締めた。冷たさがジワリと凛太朗の内側まで染み込んだ。
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