真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月

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Ⅴ リバウンド対策☆

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 酒井と並んで歩いて駅前の手作りジェラート店に入った。

 向かう途中で、リレーの時に足が速くて感動したことを伝えると、酒井は真っ赤になって照れた。もともと運動は得意らしい。

 酒井は洋梨味のシャーベットを注文した。凛太朗はシャインマスカット味だ。

「洋梨ってめずらし。メロンとかオレンジとかがメジャーじゃね?」
「そっか? 俺はスッキリして洋梨好きだな」

 酒井の好きという言葉に凛太郎はドキッとする。酒井の好きをもっと聞いてみたいと思う。

 以前の酒井は周囲に興味が無かった。けれど今は違う。

 痩せて変わったのは酒井の内面もだ。食事は美味しいと分かるようになり、洋梨味を選んで『好きだ』と表現する。
 楽しく笑う事や、怒りを含んだ目をしたり、感情が溢れるように見えている。もしかしたら、好きな女子や好みのタイプができているかもしれない。

 スプーンに一すくいしたシャーベットを口に入れて、甘すぎない冷たさに「うま」と声がもれた。

「え? 一口ちょうだい」
 凛太朗のつぶやきに反応して酒井が口を開けた。凛太朗は自分のスプーンでシャーベットをすくって酒井の口に入れた。酒井が嬉しそうにニコっと微笑む。

「やった。あーーん、してもらった」
 言われて、恋人のような事をした自分が恥ずかしくなった。

「ば、ばか! 何が『あーーん』だ」
 焦って酒井から目を離した。

「凛太朗」
 呼ばれて顔を上げれば口元に酒井が自分のシャーベットをすくったスプーンを差し出していた。

 さすがに恥ずかしくなるが、嬉しそうに食べるのを待っている酒井の顔を見ると拒否することができず、凛太朗はパクリとスプーンに食いついた。洋梨味はさっぱりとした甘さの絶品だった。

「何これ! うま! 僕次は洋梨にする」
「ん? 交換する?」

「いや、それは良いよ。つか、酒井。お前、ナチュラルに『あーーん』とか、ヤメロって」
「え? 嫌だった?」

「別に、嫌じゃないけど……」

 嫌かと問われると、嫌じゃないよなぁと思う自分がいる。

 シャインマスカット味のシャーベットを口に入れて、冷たい甘さを味わいながら考えた。
 嫌じゃないけれど、やめて欲しいと思ったのは何故だろう。首を傾げて、ハッと思いつく。こんな簡単な事が思いつかないなど凛太朗は自分がバカかと思った。

「酒井! そうだよ。嫌じゃないけど、お前は恥ずかしさを知れ。羞恥心ってやつだ!」

 閃いたかのように言い切った凛太朗をポカンと見つめてから、酒井がクククッと笑い出した。その様子に言ったことが可笑しかったのかと不安になる。

「な、なんだよ」
「いや、だって。自信満点に言った言葉が羞恥心かよ! あんなに考えて、羞恥心! あはは」

 笑われると壮絶に恥ずかしくなる。

「ふざけんな! 笑うな! 酒井のアホ!」
 フン、と怒った顔を見せると、酒井は目元に滲んだ涙を拭った。

「ごめんって。りーーんたろ、こっち見て」
 凛太朗の目の前に洋梨のシャーベットを乗せたスプーンが差し出されている。堪えきれずに凛太朗は大爆笑した。

「おっまえ、このタイミングで『あーーん』かよ! アホか!」
「あれ? 食べない?」

 ザンネン、とスプーンを引っ込めようとする酒井を驚かせたくて、スプーンにカプリと食いついた。

「うわ」
 小さな酒井の声が聞こえて凛太朗は一泡吹かせた気分になった。
「へへへ」
 満足気に凛太朗が笑えば、楽しそうに酒井が笑う。

 ――この笑顔を独占していたい。

 そう思うと、酒井に好きな人が誰なのかが気になってくる。
 もし酒井が好きな人が本当にいるのなら、もしかして彼女とか作るのなら、凛太朗はこの笑顔を独占できなくなる。この居心地の良い酒井の隣を譲らなくてはいけなくなる。

 ――そんなの、絶対嫌だ!

 凛太朗は急に不安になって酒井を見上げた。
「なに?」
 酒井は凛太朗の気持ちの変化にすぐに気が付く。

「あ――、いや、なんか、さ。酒井って、好きな奴とか、いんのかなって」
 聞いてみて、その答えを聞きたくないような猛烈な後悔が押し寄せた。『やっぱ、今の無し!』と言おうとしたが、酒井の方が一足早かった。

「いるよ」
 凛とした一言に凛太朗は動きを止めた。

 ――いるよ。
 その言葉が凛太朗の頭に何度も響く。夏休みに聞いた時は、これほどの衝撃を受けなかったのに。

 誰なのかを聞くことなど出来ず、冷汗が出そうな震えを感じた。
「凛太朗? 寒くなった?」

 酒井は穏やかな顔をしている。迷いのない瞳から好きな人がいるのは本当の事だと分かった。
 とたんに大きなショックが凛太朗を襲った。言いようのない悲しみが心を襲う。心臓が凍えそうな感覚に気分が悪くなった。

「え? 凛太朗?」
「ちょっと、調子悪いかも。僕、帰るよ」

「待って。送る」
 酒井がすぐにゴミを片付けてくれてジェラートショップを後にした。

 酒井は久しぶりの甘い物だったのに、全部食べられなかったかもしれない。

 申し訳なさを感じながら凛太朗は沈んだ気持ちをどうにも出来なかった。酒井は体調を心配しながら静かに寄り添ってくれた。その優しさが辛かった。
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