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四章 雨降り小僧と狐の嫁入り
四章 3
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「おい、おまえ。変わった格好をしているな。なんのコスプレだ?」
自分に声をかけられていると気付かず、雨降り小僧は反応が遅れた。通常、人にあやかしは見えない。
振り返ると、スポーツ刈りのはつらつとした少年が立っていた。
「おまえも雨の日が好きなのか?」
「えっ」
人から雨が好きだと聞いたことがなかった。
誰でもあやかしが見えていた時代には、人に「雨を降らしてほしい」と頼まれたこともあったが、それは雨が好きなわけではなく、田畑のためだった。
「だから雨の日に、一人で出歩いてるんだろ」
「うん、そうだよ」
雨降り小僧は話を合わせた。少年は雨降り小僧があやかしだと気づいていないようだった。
「雨っていいよな。独特の匂いがするしさ。雨粒がいろんなところを打つ音もいい。なによりいいのは、こうやって人が少なくなることだよ。別の街になったみたいで面白いし、街を独り占めしてるみたいだもんな。人目を気にせず思いきり動けるし、傘なんてさしてるのはもったいねえよ」
そして自慢げにレインコートを見せた。
「それに、新しいレインコートを着れるのが嬉しいんだ。せっかくカッコイイのにさ、晴れてると着られねえもんな」
雨降り小僧は大きな瞳をまばたかせた。
「雨が降ったらその服を着れるの? そうしたら、きみは嬉しいの?」
「おう、嬉しいぜ」
「じゃあ、明日も雨にしてあげようか」
雨降り小僧はもじもじとしながら言った。雨を褒められると自分のことのように照れくさくなる。そして、そんな人間と話せるのが嬉しかった。
「なに言ってんだ、明日は晴れだよ。天気予報の姉ちゃんが言ってたぜ」
少年はテレビっ子だ。ニュースもアニメも時代劇もなんでも見る。そして覚えた言葉をすぐに使った。しかし付け焼刃のため、よく誤った使い方もしていた。
「ぼくは天気を変えられるんだよ」
「……おまえ、おかしなことを言うなあ」
少年は笑った。
「じゃあ、明日の天気を賭けようぜ。オレは晴れ、おまえは雨。負けたほうは一日、なんでも相手の言うことを聞くこと」
「うん、いいよ」
雨降り小僧が負けるはずがなかった。
「オレは翔太。おまえの名前は?」
「ぼくの名前は……」
雨降り小僧に名前はなかった。
「翔太が名前をつけて」
「はあ? 隠すのかよ」
「違うよっ」
雨降り小僧は慌てた。翔太は胡乱な目で雨降り小僧を見ていたが、「しゃあねえなあ」とカラリと笑った。
「母ちゃんは都合が悪くなると、よく“大人の事情”ってのを持ち出すんだ。でも、子供だって事情はあるよな。武士の情けだ、名前は聞かないでおいてやるぜ。オレがあだ名をつけてやる」
本当に名前がないだけなのに、と雨降り小僧は思ったが、変に勘繰られてはいけないと思って黙っていた。
翔太は雨降り小僧をじっと見た。
「おまえの特徴的なところは、目が虹色なことと、髪が銀色なことだ。だから虹か銀の字を入れたいよな」
翔太は腕を組んでしばらく考え込んだ。
「よし、決めた。白銀と書いてシロガネってどうだ? 去年の戦隊ヒーローのブルーの名前だぜ。カッコイイだろ」
翔太はジェスチャーつきで漢字を説明した。名前を与えられた雨降り小僧の頬に朱が走る。力がわいてくる気がした。
「うん、格好いいね」
「だよな!」
二人は雨のなか遊び、翌日に近くの公園で待ち合わせる約束をした。
そして当然、翌日は雨だった。
「マジで雨だった」
翔太は頭を抱えながら公園に来た。
「おうおう、男に二言はねえぜ。今日は一日おまえのドレイになってやるよ。なんでも言いつけな」
翔太は昨日と同じ、自慢のレインコートの胸を叩いた。
「じゃあね、ぼくのお願いはね」
白銀はもじもじとした。照れくさいときのくせだ。
自分に声をかけられていると気付かず、雨降り小僧は反応が遅れた。通常、人にあやかしは見えない。
振り返ると、スポーツ刈りのはつらつとした少年が立っていた。
「おまえも雨の日が好きなのか?」
「えっ」
人から雨が好きだと聞いたことがなかった。
誰でもあやかしが見えていた時代には、人に「雨を降らしてほしい」と頼まれたこともあったが、それは雨が好きなわけではなく、田畑のためだった。
「だから雨の日に、一人で出歩いてるんだろ」
「うん、そうだよ」
雨降り小僧は話を合わせた。少年は雨降り小僧があやかしだと気づいていないようだった。
「雨っていいよな。独特の匂いがするしさ。雨粒がいろんなところを打つ音もいい。なによりいいのは、こうやって人が少なくなることだよ。別の街になったみたいで面白いし、街を独り占めしてるみたいだもんな。人目を気にせず思いきり動けるし、傘なんてさしてるのはもったいねえよ」
そして自慢げにレインコートを見せた。
「それに、新しいレインコートを着れるのが嬉しいんだ。せっかくカッコイイのにさ、晴れてると着られねえもんな」
雨降り小僧は大きな瞳をまばたかせた。
「雨が降ったらその服を着れるの? そうしたら、きみは嬉しいの?」
「おう、嬉しいぜ」
「じゃあ、明日も雨にしてあげようか」
雨降り小僧はもじもじとしながら言った。雨を褒められると自分のことのように照れくさくなる。そして、そんな人間と話せるのが嬉しかった。
「なに言ってんだ、明日は晴れだよ。天気予報の姉ちゃんが言ってたぜ」
少年はテレビっ子だ。ニュースもアニメも時代劇もなんでも見る。そして覚えた言葉をすぐに使った。しかし付け焼刃のため、よく誤った使い方もしていた。
「ぼくは天気を変えられるんだよ」
「……おまえ、おかしなことを言うなあ」
少年は笑った。
「じゃあ、明日の天気を賭けようぜ。オレは晴れ、おまえは雨。負けたほうは一日、なんでも相手の言うことを聞くこと」
「うん、いいよ」
雨降り小僧が負けるはずがなかった。
「オレは翔太。おまえの名前は?」
「ぼくの名前は……」
雨降り小僧に名前はなかった。
「翔太が名前をつけて」
「はあ? 隠すのかよ」
「違うよっ」
雨降り小僧は慌てた。翔太は胡乱な目で雨降り小僧を見ていたが、「しゃあねえなあ」とカラリと笑った。
「母ちゃんは都合が悪くなると、よく“大人の事情”ってのを持ち出すんだ。でも、子供だって事情はあるよな。武士の情けだ、名前は聞かないでおいてやるぜ。オレがあだ名をつけてやる」
本当に名前がないだけなのに、と雨降り小僧は思ったが、変に勘繰られてはいけないと思って黙っていた。
翔太は雨降り小僧をじっと見た。
「おまえの特徴的なところは、目が虹色なことと、髪が銀色なことだ。だから虹か銀の字を入れたいよな」
翔太は腕を組んでしばらく考え込んだ。
「よし、決めた。白銀と書いてシロガネってどうだ? 去年の戦隊ヒーローのブルーの名前だぜ。カッコイイだろ」
翔太はジェスチャーつきで漢字を説明した。名前を与えられた雨降り小僧の頬に朱が走る。力がわいてくる気がした。
「うん、格好いいね」
「だよな!」
二人は雨のなか遊び、翌日に近くの公園で待ち合わせる約束をした。
そして当然、翌日は雨だった。
「マジで雨だった」
翔太は頭を抱えながら公園に来た。
「おうおう、男に二言はねえぜ。今日は一日おまえのドレイになってやるよ。なんでも言いつけな」
翔太は昨日と同じ、自慢のレインコートの胸を叩いた。
「じゃあね、ぼくのお願いはね」
白銀はもじもじとした。照れくさいときのくせだ。
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