【完結】手紙

325号室の住人

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俺は今、大事な手紙を探している。

婚約者…いや、元婚約者の兄である当主から預かった、『確かに妹との婚約解消を認める』という内容の手紙だ。
アレがなければ、俺の婚約はきちんと解消されないだろう。
父に言われたのだ。
「あちらの当主が認めたのなら、こちらもお前の主張を聞いてやろう。」
と。




元婚約者の邸を出たのはまだ午前だった。
だが、俺の実家へ到着したのは翌日の午前の遅い時間。

俺は馬車からマリーをエスコートすると、意気揚々と実家のエントランスへ希望への1歩を踏み入れた。

執事がやって来る。
俺は執事にマリーを客間へ案内するよう伝えると、急ぎ逆方向にある当主の書斎へ向かった。

気が急いていて、ノックもそこそこに書斎の扉を開けた。

執務机に齧りついていた父は、その音に驚き顔を上げたが、

ケッ

という表情をして、また書類へ視線を落とした。

俺は、多少イラッとしながら、父の横へ回り込み、上着の内ポケットから手紙を出そうとして……
手紙がないことに気がついた。


俺は慌てる。

慌てて書斎を飛び出し、これまで通った場所、階段、エントランス、そして馬車の中まで目を皿のようにして探した。

けれど、とうとうあの手紙は出てこなかった。






私はマリー。
男爵家の次女であり、伯爵家のエレーナ様へ仕える侍女兼護衛だ。

ただ、エレーナ様はとてもお優しく、夜会などの時には私も実家に一度帰宅し、ドレスを着てから実家の馬車へ。会場で落ち合うことになっている。

この度、私はある特殊任務を仰せつかった。

エレーナお嬢様の婚約者である子爵家の3男の、身辺調査だ。

当主であるエレーナお嬢様のお兄様とは同窓で、成績優秀だったこの男を婿養子として家に迎えようと動く一方で、この男の自意識過剰や選民主義などの噂もあり、そのため私が派遣されたのだ。

その期間、お嬢様とは友人として過ごさせてもらって、子爵家子息に紹介してもらった私は、ある日その男と2人きりで会うことにする。

そして浮気心をくすぐってみて、こちらへ靡いたら婚約は解消すると決まった。

それからその数日後にはその男の父親である、子爵家当主からも依頼を受けた。

どうか息子を誘惑してくれないか、というものだった。

子爵家当主によると、その息子は使用人を下に見て若い下女には直ぐに手を出すし、若い下男からは金を巻き上げる。

しかもそれらの悪事をバレないように隠す頭の回転だけは良い。
このままでは伯爵様に申し訳ない。

だから、婚約解消のための理由付けと、この家から勘当するための理由作りとして息子を誘惑し、既成事実を偽装して子ができたことにして欲しいとのことだった。


結果的に、どちらの依頼も達成させることができて、私は大満足。

執事と共に客間を素通りして、丁度あの男とすれ違う形で、当主の書斎へ参上した次第だ。

伯爵家当主からの手紙を渡せば、依頼達成料として金貨の詰まった革袋を手渡された。

ついでに、あの男を勘当すると記した書類を王宮へ届けるという依頼も受け、私はお嬢様の婚約解消の届けとともに帰りの馬車で速やかに書類提出を行なった。


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