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本編
07 コンサート(前編)
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告白を断られたあの夜以来、本郷ルカが見せるのは仕事の顔ばかりになってしまった。「キスしたい」なんてねだる顔は影かたちもなく、甘えるように名前を呼ぶこともない。距離はきっちりと保たれ、触れる指先には、迷いも熱もない。
本郷にとって櫻井は、あくまで、守らなければいけないタレントのひとりでしかないのだ。
(俺に甘えてきたくせに)
本郷は言っていた。Star Novaにも同じように接している、と。けれど、誰に聞いても、一夜を共に過ごしたことはないと言う。二人きりでキスをしたこともない、と。
(嘘つき。どこが同じなんだよ)
最後の夜、本郷は泣きそうな顔で、櫻井を部屋に迎え入れた。額に口付けた時、縋るような顔で見てきた。それでも、本郷は一線を越えようとしなかった。タレントとマネージャーという立場を、捨てようとはしなかった。
──とっくに堕ちているくせに。
「昨日のコンサートさ、Luminousファンの反応、すごく良かったよ」
本郷の声は、穏やかで、優しい。
「もっとかっこよくなったって。輝いてたってさ」
「本郷さんのおかげです」
「違う。全部、君たちが作ってきたものだ」
水島も、月城も、素直に笑っていた。櫻井だけが、胸の奥に残る違和感を、拭えずにいた。
「Luminousのために、ファンのために、俺はここに居るから」
その声音に迷いはなかった。だからこそ櫻井は、胸の奥がざわついた。
本郷は自分たちより早く会場入りし、チェックやリハに立ち会いながら、メンバーやファンの動きまで目を配っている。それを重荷だと思っていない。あの人は、そういう立場を選び続けている。
仕事モードの時の本郷はギラついていて、鋭く、隙がない。だから、ふとした拍子に見せる静かな表情に、櫻井は踏み込みたくなってしまうのだ。
本郷ルカは、檻の中に居る。自分で作った檻に、自分で鍵を掛けて。それは逃げられないからじゃない。逃げないと決めているからだ。
そこに手を伸ばしたくなるのは、相手が弱いからじゃない。本郷ルカを手放したくない──ただそれだけの、どうしようもない欲だ。
誰にも渡したくないし、独りにも戻したくない。
(……弱いのは、俺だ)
本郷ルカという男に、初めて心を奪われたのは三年前だった。タレントを守る姿も、声を荒らげずに場を収める手腕も、全部が眩しかった。
その背中を追い続けるうちに、憧れは、いつしか恋に変わっていた。
ただ追いかけることしかできなかった時間は、長かった。それでも今、ようやく同じ場所に立っている。
離すつもりは、もうない。
──この人が欲しい。檻ごと、全部。
早着替えのために、ステージ裏の狭いテントに駆け込む櫻井たち。スタッフがバタバタと衣装を替える中、最後に本郷がネクタイや襟元を整える係になった。
「みんな、かっこいいな。良い調子だ。まだまだ先は長いから、がんばれよ」
仕事モードの本郷は、櫻井との距離も、その身体に触れることも気にしない。少なくとも、そう振る舞うことに、何の迷いもなかった。
ただただ、メンバーのみんながステージで輝く姿が嬉しくてたまらない。
「嬉しいです。こうやって、本郷さんと仕事ができて」
櫻井が、本郷の前に立つ。本郷は手を動かしながら、純粋な気持ちを返した。
「俺も。でも、本番はどうしてもちゃんとステージ見れないからさ、後で映像見るのも楽しみなんだよね」
さぁ終わりだ、と送り出そうとした一瞬の隙に、櫻井が本郷の手首を強く掴んだ。
「へ? な、なに?」
手首を引かれ、距離が一気に縮まる。近づいた顔に視線を奪われ、その瞬間、仕事のことが頭から抜け落ちそうになった。
「……はは。なんでもない」
そう言い残して、櫻井は悪びれもせず去っていく。残された本郷は、しばらくその場から動けなかった。
本郷にとって櫻井は、あくまで、守らなければいけないタレントのひとりでしかないのだ。
(俺に甘えてきたくせに)
本郷は言っていた。Star Novaにも同じように接している、と。けれど、誰に聞いても、一夜を共に過ごしたことはないと言う。二人きりでキスをしたこともない、と。
(嘘つき。どこが同じなんだよ)
最後の夜、本郷は泣きそうな顔で、櫻井を部屋に迎え入れた。額に口付けた時、縋るような顔で見てきた。それでも、本郷は一線を越えようとしなかった。タレントとマネージャーという立場を、捨てようとはしなかった。
──とっくに堕ちているくせに。
「昨日のコンサートさ、Luminousファンの反応、すごく良かったよ」
本郷の声は、穏やかで、優しい。
「もっとかっこよくなったって。輝いてたってさ」
「本郷さんのおかげです」
「違う。全部、君たちが作ってきたものだ」
水島も、月城も、素直に笑っていた。櫻井だけが、胸の奥に残る違和感を、拭えずにいた。
「Luminousのために、ファンのために、俺はここに居るから」
その声音に迷いはなかった。だからこそ櫻井は、胸の奥がざわついた。
本郷は自分たちより早く会場入りし、チェックやリハに立ち会いながら、メンバーやファンの動きまで目を配っている。それを重荷だと思っていない。あの人は、そういう立場を選び続けている。
仕事モードの時の本郷はギラついていて、鋭く、隙がない。だから、ふとした拍子に見せる静かな表情に、櫻井は踏み込みたくなってしまうのだ。
本郷ルカは、檻の中に居る。自分で作った檻に、自分で鍵を掛けて。それは逃げられないからじゃない。逃げないと決めているからだ。
そこに手を伸ばしたくなるのは、相手が弱いからじゃない。本郷ルカを手放したくない──ただそれだけの、どうしようもない欲だ。
誰にも渡したくないし、独りにも戻したくない。
(……弱いのは、俺だ)
本郷ルカという男に、初めて心を奪われたのは三年前だった。タレントを守る姿も、声を荒らげずに場を収める手腕も、全部が眩しかった。
その背中を追い続けるうちに、憧れは、いつしか恋に変わっていた。
ただ追いかけることしかできなかった時間は、長かった。それでも今、ようやく同じ場所に立っている。
離すつもりは、もうない。
──この人が欲しい。檻ごと、全部。
早着替えのために、ステージ裏の狭いテントに駆け込む櫻井たち。スタッフがバタバタと衣装を替える中、最後に本郷がネクタイや襟元を整える係になった。
「みんな、かっこいいな。良い調子だ。まだまだ先は長いから、がんばれよ」
仕事モードの本郷は、櫻井との距離も、その身体に触れることも気にしない。少なくとも、そう振る舞うことに、何の迷いもなかった。
ただただ、メンバーのみんながステージで輝く姿が嬉しくてたまらない。
「嬉しいです。こうやって、本郷さんと仕事ができて」
櫻井が、本郷の前に立つ。本郷は手を動かしながら、純粋な気持ちを返した。
「俺も。でも、本番はどうしてもちゃんとステージ見れないからさ、後で映像見るのも楽しみなんだよね」
さぁ終わりだ、と送り出そうとした一瞬の隙に、櫻井が本郷の手首を強く掴んだ。
「へ? な、なに?」
手首を引かれ、距離が一気に縮まる。近づいた顔に視線を奪われ、その瞬間、仕事のことが頭から抜け落ちそうになった。
「……はは。なんでもない」
そう言い残して、櫻井は悪びれもせず去っていく。残された本郷は、しばらくその場から動けなかった。
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