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本編
06 冷たい布団
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本当は、櫻井来夢にキスをされ、優しく寝かしつかされ、温かな布団で眠るはずだった。幸せいっぱい、満ち足りた気持ちで目を閉じれたのに。
「……冷ぇな」
呟いた声は、部屋の静けさに吸い込まれていく。
拒んだのは、自分だ。酒を言い訳にして、欲しいところだけ掠め取ろうとした。櫻井の気持ちに触れる覚悟もないまま、逃げるように背を向けた。
本当は、欲しくてたまらない。本郷ルカという存在ごと、全部、抱きしめてほしい。自分の全てを差し出して、恋人として名前を呼ばれたい。
──それなのに。
どう踏み出せばいいのかが、分からなかった。
静まり返った部屋に、控えめなノック音が落ちる。
一瞬、聞こえなかったふりをしようとしたが、無心で立ち上がり扉を開ける。
そこに立っていたのは、櫻井だった。
「すみません。やっぱり……放っておけなくて」
言い訳めいた声。
それでも、その瞳はまっすぐで、迷いがない。
「……櫻井……」
名前を呼んだだけで、胸の奥がすっとほどけていく。気を抜いたら涙が出そうだった。
言葉は交わさないまま、二人はベッドへ向かう。
櫻井は距離を詰めすぎることなく、けれど離れもしなかった。
背後からそっと腕が回される。抱きしめる力は控えめで、逃げようと思えば逃げられる程度のものだった。それが、かえって苦しい。
振り返ると、額に軽く唇が触れた。
「櫻井……」
「今夜は、ここまでにしましょう」
抑えた声。欲を隠すような、理性を手放さない声だった。
背中越しに伝わる体温が、やけに温かかった。こんなにも近くにいるのに、触れられない。その事実が、胸の奥を締めつける。
安心しているはずなのに、眠れない。
満たされているはずなのに、足りない。
欲しい相手が、すぐそこにいるからこそ──本郷は初めて、一人よりも切ない夜を知った。
恋愛にかまけてる暇などない。Luminousが移籍後、初めてのコンサートツアーが始まる。彼らのファンにとって、大手事務所からの移籍は、まだまだ不安が多いことだろう。それはメンバーにとっても同じだ。
マネージャーとして、プロデューサーとして、責任者として。Luminousに、ファンに、この事務所なら安心だと思ってもらわないといけない。
「ツアー中、何かあったら俺に連絡してください。遠慮は要らない。どんな小さなことでも」
Luminous──櫻井、水島、月城の三人にそう告げる。
「本郷さん怒らないから、心配しないでいーよ」
「お腹空いた~とか部屋思ったより広い~とか電話しちゃうもん、俺」
春陽と晃弥が続けざまにそう言い、笑った。俺は頷いて、三人に微笑みかける。
「不安をひとりで抱え続けるのだけは、避けてほしい」
ツアー初日。たくさんのファンが開演を待つ中、最終リハを見届けた本郷は、外でファンの様子を見てまわる。
「あっ本郷さんだ~!」
「本郷さん、やっほ~!」
気さくに声を掛けてくれるのは、Novaのファン。本郷はニコニコと手を振った。
「あの人が本郷さん? なんか、思ったよりかっこいいね」
「雰囲気あるよね」
コソコソと話しているのは、Luminousのファンだろう。本郷は何か問題が落ちてないかと気にかけながら、歩みを進める。今のところ落ち着いてそうで良かった。
朝一番には、徹夜組のファンと一悶着あったのを思い出す。Novaのコンサート、物販の整理券はファンクラブのアプリから発行する仕組みになっている。そのため物販競争は事前に終わっており、朝早くから来るファンはおらず、みんな整理券の時間通りに来るのだ。
しかし、千早芸能時代では、徹夜して整理券を勝ち取るのが普通だったのだという。事務所としてのやり方が大きく違うのを、周知しきれてなかったのはこちらの責任でもある。
『来夢くんの移籍後、初ドームなのに! 一番に並んでお祝いしたかった……』
そう言われると、こちらも弱い。行動の原点は、全て推しへの愛なのだ。
「……難しいな」
小さく呟いたところを、顔見知りの警備員に笑われた。
「お疲れ様。何か問題は?」
「そう心配しないでも大丈夫ですよ。Novaのみんなは大丈夫?」
「今は楽屋でヘアメイク中。Starは何かあれば連絡してくるけど……Luminousは後で様子見に行くか」
そうして、時は過ぎ──。
開演直前。みんなで円陣を組み、本郷が声を掛ける。
「Ignis Novaが抜けて、Star Novaだけの活動が続いてた。でも今日からは違う」
本郷は、櫻井たち三人を見渡す。
「Luminousは、もう〝迎えられる側〟じゃない。ここからは、俺たちと同じNovaだ」
Star NovaとLuminous。二つのグループと、その統括者である本郷は、まとめて〝Nova〟と呼ばれる存在になった。以降、本郷はLuminousの新しい形を、L-Novaと呼ぶことにしていた。
「初めてのツアーだ。絶対に成功させよう」
──こうして、新生Novaの、コンサートツアーが始まった。
「……冷ぇな」
呟いた声は、部屋の静けさに吸い込まれていく。
拒んだのは、自分だ。酒を言い訳にして、欲しいところだけ掠め取ろうとした。櫻井の気持ちに触れる覚悟もないまま、逃げるように背を向けた。
本当は、欲しくてたまらない。本郷ルカという存在ごと、全部、抱きしめてほしい。自分の全てを差し出して、恋人として名前を呼ばれたい。
──それなのに。
どう踏み出せばいいのかが、分からなかった。
静まり返った部屋に、控えめなノック音が落ちる。
一瞬、聞こえなかったふりをしようとしたが、無心で立ち上がり扉を開ける。
そこに立っていたのは、櫻井だった。
「すみません。やっぱり……放っておけなくて」
言い訳めいた声。
それでも、その瞳はまっすぐで、迷いがない。
「……櫻井……」
名前を呼んだだけで、胸の奥がすっとほどけていく。気を抜いたら涙が出そうだった。
言葉は交わさないまま、二人はベッドへ向かう。
櫻井は距離を詰めすぎることなく、けれど離れもしなかった。
背後からそっと腕が回される。抱きしめる力は控えめで、逃げようと思えば逃げられる程度のものだった。それが、かえって苦しい。
振り返ると、額に軽く唇が触れた。
「櫻井……」
「今夜は、ここまでにしましょう」
抑えた声。欲を隠すような、理性を手放さない声だった。
背中越しに伝わる体温が、やけに温かかった。こんなにも近くにいるのに、触れられない。その事実が、胸の奥を締めつける。
安心しているはずなのに、眠れない。
満たされているはずなのに、足りない。
欲しい相手が、すぐそこにいるからこそ──本郷は初めて、一人よりも切ない夜を知った。
恋愛にかまけてる暇などない。Luminousが移籍後、初めてのコンサートツアーが始まる。彼らのファンにとって、大手事務所からの移籍は、まだまだ不安が多いことだろう。それはメンバーにとっても同じだ。
マネージャーとして、プロデューサーとして、責任者として。Luminousに、ファンに、この事務所なら安心だと思ってもらわないといけない。
「ツアー中、何かあったら俺に連絡してください。遠慮は要らない。どんな小さなことでも」
Luminous──櫻井、水島、月城の三人にそう告げる。
「本郷さん怒らないから、心配しないでいーよ」
「お腹空いた~とか部屋思ったより広い~とか電話しちゃうもん、俺」
春陽と晃弥が続けざまにそう言い、笑った。俺は頷いて、三人に微笑みかける。
「不安をひとりで抱え続けるのだけは、避けてほしい」
ツアー初日。たくさんのファンが開演を待つ中、最終リハを見届けた本郷は、外でファンの様子を見てまわる。
「あっ本郷さんだ~!」
「本郷さん、やっほ~!」
気さくに声を掛けてくれるのは、Novaのファン。本郷はニコニコと手を振った。
「あの人が本郷さん? なんか、思ったよりかっこいいね」
「雰囲気あるよね」
コソコソと話しているのは、Luminousのファンだろう。本郷は何か問題が落ちてないかと気にかけながら、歩みを進める。今のところ落ち着いてそうで良かった。
朝一番には、徹夜組のファンと一悶着あったのを思い出す。Novaのコンサート、物販の整理券はファンクラブのアプリから発行する仕組みになっている。そのため物販競争は事前に終わっており、朝早くから来るファンはおらず、みんな整理券の時間通りに来るのだ。
しかし、千早芸能時代では、徹夜して整理券を勝ち取るのが普通だったのだという。事務所としてのやり方が大きく違うのを、周知しきれてなかったのはこちらの責任でもある。
『来夢くんの移籍後、初ドームなのに! 一番に並んでお祝いしたかった……』
そう言われると、こちらも弱い。行動の原点は、全て推しへの愛なのだ。
「……難しいな」
小さく呟いたところを、顔見知りの警備員に笑われた。
「お疲れ様。何か問題は?」
「そう心配しないでも大丈夫ですよ。Novaのみんなは大丈夫?」
「今は楽屋でヘアメイク中。Starは何かあれば連絡してくるけど……Luminousは後で様子見に行くか」
そうして、時は過ぎ──。
開演直前。みんなで円陣を組み、本郷が声を掛ける。
「Ignis Novaが抜けて、Star Novaだけの活動が続いてた。でも今日からは違う」
本郷は、櫻井たち三人を見渡す。
「Luminousは、もう〝迎えられる側〟じゃない。ここからは、俺たちと同じNovaだ」
Star NovaとLuminous。二つのグループと、その統括者である本郷は、まとめて〝Nova〟と呼ばれる存在になった。以降、本郷はLuminousの新しい形を、L-Novaと呼ぶことにしていた。
「初めてのツアーだ。絶対に成功させよう」
──こうして、新生Novaの、コンサートツアーが始まった。
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