姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

文字の大きさ
6 / 42

第六話 雲の割れ目

しおりを挟む
 飛行船の外側にある甲板は、吹き飛ばされないように柵が設けられ、雨天や強風以外の天候では乗客に解放される人気の場所だった。
 
「寒くねぇか」
 動きやすいように半袖を着ていたブレイブは、風に晒されブルブルと身を震わせていた。
 
「軟弱だな」
 ブルーは、厚いオークの皮膚と肉体を誇るかのように胸を張り、そんなブレイブを小馬鹿にした。
 
 少し遅れて、食事を終えたカリーナ、アイ、サラマンダーの三人が甲板に現れる。
 
「風が気持ちいいわね!」
 カリーナは両手を広げ、その身に風を受け止めていた。
 
 ビュン!
 突然、吹いた突風にアイの体が流され、アイは小さな悲鳴を上げた。
 
「わっ!」
 
 ぽす。
 
「大丈夫か?」
 ちょっとした風に体勢を崩しそうになったアイを、サラマンダーは胸で受け止めた。龍人にとってこの程度の風は屁でもなかった。
 アイの華奢な体は、龍人の屈強な体躯に完全に包まれ、アイは慌ててサラマンダーと距離をとる。
 
「ごめんなさい……!」
 
「足元には気をつけてくれ」
 顔を真っ赤に染めたアイは、慌ててカリーナの元へと走っていく。
 
(言ったそばからつまずきそうになってるぞ)
 
 サラマンダーはそう心の中で呟きながら、皆がいる飛行船の先頭へと歩いていった。

 飛行船の先頭では、カリーナが皆を集めて話をしている。

「そうだわ! ブルーとブレイブには言ってなかったね。私たちの足が決まったわよ!」
 カリーナは胸を張って二人に伝える。
 
「足が? まだドワーフの国にも着いてないのに、どう決まったんだ?」
 ブレイブはカリーナの言葉を理解できずに、首を傾げる。ここまで候補に上がった足は『ドライブ』のみ。それなら、飛行船に乗る前に終わっている話であったからである。

 カリーナは、足が決まるまでの出来事を事細かに説明し始めた。
 
「話が見えてこないな」
 なかなか本題に入らないカリーナに、焦れたブルーは、後ろを振り返る。既に答えを知っているアイとサラマンダーに聞こうとした。
 しかし、アイは目線を逸らし、サラマンダーは静かに顎を動かして、カリーナの方を指し示すだけで答えてくれない。
 
「それで結局、何になったんだ?」
 漸く、カリーナの話がひと段落したところで、ブレイブが改めて尋ねる。
 
「新型の飛行船!!」
 カリーナは大声で宣言した。
 
「「は!?」」
 ブルーとブレイブは目を丸くして固まった。
 
「新型の飛行船ったって、どうやってそんなもの操縦するんだ? 」
 ブルーが体を大きく動かしてジェスチャーをする。
 
「そんなの、後で考えたらいいでしょ!」
 カリーナは、根拠のない自信に満ち溢れていた。

「動かせなかったら――
 ブレイブの言葉をカリーナが遮る。
 
「一旦聞いて。飛行船と言っても、どうやらただの飛行船じゃないみたいなの。誰でも操縦できるように作られた、革新的な飛行船だとか……」
 
「だとか……って」
 ここにいる全員、誰一人として飛行船を操縦した経験などない。ブレイブは呆れたように首を振った。
 
「まぁとにかくそういうことだから、報酬には、それを提案してみるわ!」
 
「へーい」
 ブレイブはやる気なさげに返事を返した。
 
 飛行船は果てしなく続く雲の上を飛ぶ。
 
「何も見えねぇな」
 ブルーは柵から上半身を乗り出して、飛行船の下を覆い尽くす白い雲海を見つめていた。
 
「何を見てるんだ?」
 
「うぉい! びっくりした! 何だ、サラマンダーかよ」
 突然の問いかけに、ブルーは危うく雲の海に飛び込みそうになり、冷や汗を垂らした。

「雲だよ雲。雲の上に生き物がいるって聞いたことがあったから探していただけだ」

「聞いたことがないな」
 サラマンダーは雲海を見ながら呟く。
 
「それで、聞きたいのはそれじゃないだろ? 何の用だよ」
 
「……気は済んだか?」
 サラマンダーは、宿屋からずっと苛立ちを見せていたブルーを気にかけていた。
 
「ああ、元通りだ。馬鹿な賭けに乗った俺も悪かっただけだったよ」
 ブルーの顔は、清々しいものに変わっていた。
 
「それなら、良かった」
 サラマンダーは、ブルーの隣に並び、雲一つない青空を見上げた。
 
「そうだ……直接は恥ずかしいから、あいつにこれを渡しといてくれ」
 ブルーは、小さく折り畳まれた一枚の紙をサラマンダーに預ける。
 
 サラマンダーは、その紙が何なのかを確認しようと、何気なく開こうとした。
 
「おいおいおい、ダメだ、ダメだ! 開けるんじゃねえ!」
 ブルーに慌てて止められ、サラマンダーは怪訝な顔で手を止めた。
 
「……分かった。後で渡しておこう」
 サラマンダーは、その紙を胸の裏ポケットにしまった。

 飛行船は、徐々に高度を下げ始める。高度を下げ始めたということは目的地が近づいてきたということであった。
 
「皆ー! こっちに来てよ!」
 カリーナが、喜びを抑えきれない様子で大声で叫ぶ。
 
 それぞれ、自分の好きな場所で空の旅を楽しんでいた一行は、カリーナがいる飛行船の先頭に集まった。
 
「どうしました?」
 アイが尋ねる。
 
「下を見てよ! やっと見えてきたわ!」
 飛行船の下。厚い雲の割れ目から、緑の大地が顔を覗かせた。飛行船の高度が下がるにつれ、どんどんとその解像度が上がっていく。
 
「あれが……ドワーフの国」
「うわっ、耳が……何の音だ、これ?」
「金属音じゃねぇか、これ?」
「…………」
 
 雲を抜け、一行を出迎えたのは、上空を無数に飛ぶ、大小さまざまな飛行船であった。
 そして、地上から空にまで絶え間なく巨大な金属音が響き渡るそんなドワーフの国――アルブヘイブンの姿である。
 
「さあ、みんな準備して。始めるわよ!」
 カリーナは、新たなる冒険の舞台を目にして、目を輝かせながら飛行船の中へと戻っていった。
 
「俺たちも戻るか」
 ブレイブもカリーナの後に続こうと、踵を返す。
 
「ブレイブにこれを」
 サラマンダーはブレイブを呼び止めると、折り畳まれた一枚の紙を渡した。
 
「何だこれ」
 ブレイブは、それを興味深く観察する。
 
「ブルーからだ」
 
「ブルーからねぇ……」
 ブレイブは、折り畳まれている紙を丁寧に開いた。すると中には、乱暴な殴り書きで「ばかやろう」とだけ書かれてあった。
 一瞬、くしゃくしゃにして、そっくり投げ返してやろうかと思ったブレイブだったが、彼はその紙を笑いと共に丁寧に折り直すと、それを甲板から広大な空へ向けて、そっと手放した。
 折り畳まれた紙は、風を受けてどこまでも遠くへと飛んでいった。
 
「いいのか?」
 サラマンダーが、その光景を静かに見つめながら尋ねた。他人に開けられたくないほどの内容が書かれている紙である。飛ばして良いものだったのかが心配になった。
 
「いいよ。終わったことだ」
 ブレイブは、紙の行方を見届けることなく、清々しい顔で飛行船の中へと入っていった。

「そうか。ならいいか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...