姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第十九話 カル

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 森を抜けた先に小さな村があった。村に活気はなく、空気が重く、どんよりとしていた。

「まぁこの国は色々あってな……」
 カルは、村の雰囲気に衝撃を受けていたカリーナ達を見て言った。

「ここが私の家だ。入ってくれ」

 カルは、小さな木造の家にカリーナ達を招き入れた。

「見ての通り何もないが、休むことは出来るぞ」
 カルは自虐めいた口調で言った。

「確かに何にもねぇな、馬小屋みてぇだ」
 真ん中に小さなテーブルと椅子があるだけの部屋に、ブルーが毒づく。

「言い方には気をつけなさい」
 アイはブルーの耳元で囁いた。

 各々が狭い部屋の中で居場所を見つけて座る。

「この国に何があったのですか?」
 カリーナは、コップに水を注ぐカルに尋ねた。

 カルは一息つくと、この国の現状を話してくれた。
 重々しい口調で始まった語り、カルに視線が集まる。

「この国が変わったのは、去年の冬ごろからだ」

「ある日、『正規兵の数が多すぎる。予算を圧迫している』と、貴族に言及され、正規兵が減らされた。そしてその直後のことだ。近くで起きた商人襲撃事件の犯人が、この国の正規兵だったことが明かされ、正規兵への風当たりが強くなってしまったんだ」
 カルの表情がその辛さを物語っていた。

「そうか、それは大変だ」
 ブルーは、テーブルに出された干し肉を口に頬張りながら聞いていた。

「気づけば、正規兵は散り散りに。代わりに貴族のお抱え兵士達が正規兵になった」

「お抱え……」
 アイが小さく呟いた。

「正規兵が変わった辺りから、国民の生活は厳しくなった。貴族お抱えの兵士が街で暴れ、税は引き上げられた。それが今のこの国の現状だ」

「俺もそんな正規兵の一人だったよ……」
 カルは水をグイッと飲み干すと、コップを机の上に置いた。
 
「王は反対しなかったのか?」
 ブレイブが口を挟む。

「王は、ある日を境に表に出てこなくなった。貴族のご機嫌取りが大事で、民なんてどうでもよかったんだろう」
 カルは肩をすくめた。

「違う!」
 静かに話を聞いていたアリスが突然、前にでる。

「アリス?」
 カリーナはアリスの行動に首を傾げた。

「お父様はそんな人じゃない!今の国は、お父様の意思じゃないの!」
 アリスはフードを脱ぐと、カルの前でその正体を露わにした。

「ひめ……さま?」
 カルは瞬時にその正体に気づく。それもそのはず。正規兵であった彼にとって、目の前の少女が王族だと認識するのは容易かったのである。
 
 そして自分が今、王族に不敬を働いていたことを思い出し、慌てて頭を下げた。

「申し訳ございませんでした」

「許します」
 アリスは慣れない口調ながら、王族らしくその謝罪を受け取った。

「ところで……王の意思じゃないとは、どういうことでしょうか?」

「この国は乗っ取られたのよ」
 カリーナは、言い淀むアリスの代わりに答えた。

「乗っ取られた?」

「姫様は、その全てを見ていたのよね」
 カリーナはアリスに確認する。

「はい……」
 アリスは静かに答えた。
 
 カルは椅子に深く座り直すと、天井を見上げて考え込んだ。突拍子もない真実に頭がパンクしたのである。
 
 会話が途切れたところに、ブレイブが話を差し込んだ。

「これからどうすんだ?王都にでも行くか?」

「そうね、でもアリスを連れて王都に行くのは危険だと思うわ」

「船の中なら安全だろう」
 そう言うとサラマンダーは、ゆっくりと立ち上がった。

「そうね。じゃあ別れましょうか」
 カリーナは、立ち上がり大きく背伸びをする。

「王都へは私とサラマンダーとアイで行くわ。ブルーとブレイブはお留守番ね」

「どうして姫様と一緒なんだ?」
 カルは、姫様が王城の外に一人でいること、そしてよく分からない人達と一緒にいることに引っかかりを覚えていた。

「アリスは私たちの依頼主だから」
 カリーナは胸を張って答える。

 カルは一瞬、目を見開くと、また思考の渦にハマった。

「日が暮れる前には到着したいね。もう出発しないと。行くわよ」
 カリーナとサラマンダーとアイの三人は、家から出ていった。

 ◆◇◆◇

「ところで、他の正規兵の奴らって何してるんだ?」
 ブレイブは疑問に思っていたことを聞いた。

「故郷に帰って家業を手伝ってる奴が多いな」
 そう話すカルは、かつての仲間を懐かしむかのようだった。

「親離れができない奴らなんだな」
 ブルーのそんな発言にカルは面を食らい、そして笑った。

「ははは、そうかもな」
 
 カリーナ達が去った後の家では、時計の音がよく響いていた。

「カルは……この国が好きか?」

「……好きだ」
 カルは、捻り出す様に答えた。

「俺たちの仕事に協力しねぇか?」
 ブレイブは、カルを誘おうと左手を伸ばす。

「姫様からの依頼にか?」

「そうだ。この国を乗っ取った奴を叩きつぶす依頼だ」

 カルは少し考えて、そして答える。

「俺は正規兵を退いた身だ。今更、この国の為に何か出来るとは考えられない……」

「出来るだろ、今からでも」
 ブレイブは、カルの気持ちが理解できなかった。
 国を救うのに正規兵かどうかは関係ないと思っていた。

「兵長もいなくなった今、俺たちが立ち上がってもな。この国はとっくに……死んだよ」

 ドンっ!

 ブレイブは勢いよく立ち上がると、対面に座るカルの胸ぐらを掴んだ。

「なっ、何するんだ!」

「おいカル。てめぇもう一度言ってみろ」

「この国はもう死んだ」

 ガン!

 ブレイブは、カルの首元を持つと思いっきり引っ張り上げた。カルの上体が机の上に乗り上げる。

「オメェなぁ。この国がゴミみたいな国になったのは事実かも知れねぇが、まだ諦めてねぇやつがいるんだよ。元正規兵が聞いて呆れるぜ」

「お前こそ、この国出身以外の分際で、何がわかるんだ!この村を見ただろ!皆んな死んだ目をしている!当事者以外にはこの気持ちは理解できないんだ」

「分かるさ」

「分かる?」

「俺の故郷『ベルタ』は、ある日突然、跡形もなく滅んだからな」
 ブレイブはカルを睨みつけると、パッと手を離した。

 カルは、ブレイブの凄んだその目に威圧され口篭り、椅子に座り直す。

「お前の国は、まだ存在している。諦めるんじゃねぇよ。少なくともここにいる姫様は、諦めてねぇぞ」
 ブレイブは座り込んで黙ったカルにそう告げると、扉を開けて家から出ていった。

「全く……空気が最悪だ。そんな空気に心が傷んだ俺へのお詫びとして、この肉を少し貰っていく。誇って良いぜ、この肉は美味い」
 ブルーは干し肉を頂戴すると、二人の言い合いで重くなった空気に別れを告げた。

「アリス、船に戻るぞ」
 ブルーは、カルと見つめ合って動こうとしないアリスに話しかけた。

「待っています」

 アリスは小さく呟くとフードを被り、ブルーと一緒に外へ出ていった。

 ガチャ。

 カルの家の扉が開き、帰ろうとしているブレイブ達の前にカルが現れる。

「どうした?」

「ひとつ聞きたい……この国はまだ間に合うのか?」

「間に合うさ。そう思う人がいる限りな」
 ブレイブは手を振ると、カルに別れを告げた。
 
 

 

 

 
 
 
 

 
 

 
 
 
 

 
 
 
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