姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第十八話 遭遇

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 地鳴りのような音と共に、飛行船は、ようやくその動きを止めた。
 土煙が舞い、薙ぎ倒された木々の枝がガラス窓を覆った。
 幸い、ドワーフの最高傑作であるミスリル製の飛行船は、森の木々をへし折りながら進んだにも関わらず、装甲に傷一つ付いていなかった。
 
 ただし――中の乗員は別だった。
 操縦席では、世界の天地がひっくり返っていた。
 着陸で墜落の衝撃で船体が大きく傾いたため、ブレイブは宙吊りのような無様な格好で、シートベルトに拘束されていた。
 
「ぐっ、うぅ……くそ、外れねぇ」
 ブレイブは顔を真っ赤にして、複雑に絡まった革ベルトを外そうと必死に指を動かすが、焦れば焦るほど結び目は固くなる。
 
「……もう少し、落ち着いて着陸できないわけ?」
 頭上から、冷ややかな声が聞こえてくる。
 
 ブレイブが首を捻って見上げると、カリーナが、呆れた顔で彼を見下ろしていた。
 
「あ、外れた」
 カリーナの視線に気まずさを感じた瞬間、偶然にもバックルが外れた。

 ドサッ!という音と共に、ブレイブは頭から床に落ちる。
 
「いってぇ……」
 
「ちょっと、聞いてる?」
 ブレイブが痛む頭をさすりながら、聞こえないふりをしてハッチへ向かおうとした瞬間、その耳が強烈な力で引っ張り上げられた。
 
「あだだだだだ! やめろよ、ちぎれる!」
 
「私たちだけじゃなくて、アリスも乗ってるのよ。もう少し丁寧に運転をお願い。喧嘩してる場合じゃないのよ」
 カリーナは鬼の形相で説教をする。
 
「で、そのアリスは?」
 ブレイブはカリーナの手を振り解き、赤くなった耳をさすりながら周囲を見渡す。
 傾いた船内には、二人しか残っていなかった。
 
「アリスたちはもう外よ。アイが守ったから、幸い怪我はなかったわ」
 
「それなら、結果オーライだろ」
 
「そういう問題じゃないわ!」
 カリーナは大きなため息をつくと、ブレイブの背中を叩いて外へ促した。

 外に出ると、惨状が広がっていた。
 巨大な『スターダッシュ号』が地面を滑った跡は、まるで巨人が森を歩いたかのように木々がへし折れ、地面が大きく抉れていた。
 
「おせぇぞ」
 飛行船の外では、ブルーが何事もなかったかのように腕を組んで待っていた。
 自分が操縦を妨害したことなど、記憶の彼方に消し去ったようなその顔に、ブレイブは拳を固めたが、カリーナの鋭い視線を感じ、グッと堪えて矛を収めた。
 
「……この森は、どの辺りだ?」
 周囲は鬱蒼と茂る木々に囲まれ、道らしきものは見当たらない。
 
「とりあえず、方角を確認して進みましょ。北に向かえば街道に出るはずよ」
 カリーナはコンパスを確認し、先頭に立って歩き始めた。
 
「戻れなくなった時のために、目印でもつけておくか」
 ブレイブは腰の短刀を抜くと、近くの大木に、バツ印を深く刻み込んだ。

 深い下草をかき分け、北へ北へと歩き進めていた時だった。
 
 ピクリ。
 
 ブルーの獣の耳が、風の音とは違う異質な音を捉えた。
 枯れ葉を踏む音。それも、一つではない。統率された複数の足音だ。
 
「誰か来るぞ」
 ブルーが低く警告を発する。
 サラマンダーは無言で柄に手をかけ、アイはアリスを背後に庇う。
 ブルーもヘラヘラした顔を消し、臨戦態勢に入った。
 
 ガサガサ……。

 前方の茂みが揺れ、木々の影から数人の男たちが姿を現した。
 装備は統一されていないが、使い込まれた革鎧や鉄の盾を持っている。ただの村人ではない、戦い慣れた雰囲気だった。
 先頭に立つのは、ガタイの良い黒髪短髪の男。彼はカリーナたちを見ると、警戒心を露わにし、剣と盾を構えた。
 
 男の鋭い視線が、異質な集団――特にオークであるブルーと、龍人であったサラマンダーに向けられる。

「森から轟音が聞こえたので見に来ただけだ! ここで何をしている!」
 男は、野太い声を張り上げる。

 彼らが聞いた轟音は、間違いなく飛行船の不時着音だろうと推測できた。
 カリーナ達は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
 
「多分その音、私たちのせいです!」
 カリーナは武器を持っていないことを示すように両手を上げ、一歩前に出た。
 
「私たちの飛行船が、ちょっと着地に失敗しちゃって」
 
「……飛行船?確認してもいいか?」
 
「ええ、いいわよ。怪しいものじゃないって証明になるなら」
 
 男達を連れて、飛行船へと戻る。
 
 木々がなぎ倒された直線の先、鎮座する巨大な青い鉄の塊を見て、男たちは言葉を失った。
 
「こ、これが……乗り物……?」
 男は口を半開きにして、青の輝きを見上げた。
 それは、この田舎の森にはあまりに不釣り合いな技術であった。
「ドワーフが作った最新型の飛行船よ」
 カリーナは、ゴンゴンと船体を叩いた。
 
「中に入って調べさせてもらっても?」
 男がそう言い、飛行船に一歩近づこうとした瞬間――
 
 サラマンダーが男の前に立ち塞がった。

「それはできない」
 
「……そうか。すまない、無粋だった」
 男は冷や汗を拭う。
 
「私の名前はカリーナ。私たちは何でも屋『ベルタ』よ」
 カリーナは改めて友好的に手を差し出した。
 
「俺の名前は、カルだ。すぐ近くの村で自警団をやっている」
 カルと名乗った男は、警戒を解き、カリーナの手を握り返した。
 
「近くに村があるのか!?」
 ブルーが尋ねる。
 
「ある。……寄って行くか?」
 カルはそう言いながら、視線をパーティーの後方へと向ける。
 アイの後ろに隠れるようにしていた、フードを深く被るアリスの姿を見て、彼の目がわずかに細められた。
 
「ん? ……どこかで……」
 カルの視線に気づいたアリスは、ビクリと体を震わせて、アイの背中に隠れた。
 アイがフードを被るのは、敵に見つかるのを避ける為であった。
 
「……いや、気のせいか」
 カルは首を振ると、疑念を振り払うように背を向けた。
 
「ついて来い。案内しよう」
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