姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第十七話 着陸

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『スターダッシュ号』に乗ったカリーナ達は、カルファス王国を目指す空の旅を始めた。
 操縦レバーを握るブレイブは、飛行船の操作に慣れ始め、皆の会話に混じることができるようになっていた。
 
「今、どのあたりだ?」
 
「まだ海の上だから、カルファス王国はまだまだ先ね」
 
 カリーナは、コンパスと地図を手に持ちながら、大陸の位置を確認する。カルファス王国は、ドワーフの国があった大陸とは別の、広大な大陸の沿岸に位置している。
上は青空、下は海。飛行船は、世界の上下の境界が分からなくなるほどの一面の青の中を飛んでいた。
 
「船より速いな。風を切る感じが気持ちいいぜ」
 ブルーは、顔に手を当てて、下の海を眺めている。
 アイとアリスも、後方についた小窓から、あっという間に過ぎ去る海鳥の群れを眺めながら、会話に花を咲かせていた。
 飛行船は、みるみるうちに下を航行する帆船を追い抜いていく。
 一日はかかる距離を、彼らは数時間で飛び越えていたのであった。
 
「見えてきたわ!」
 カリーナは、水平線の向こうに薄い影を捉えた。大陸だ。
 大陸に近づくに連れて、城郭が見えてきた。

 
「アリス、あの城はカルファス王国のもの?」
 カリーナは、視界に入ってきた城郭を指し、カルファス王国であるか尋ねる。
 
「……はい、間違いありません」
 アリスは、故郷の城を見つめながら、どこか悲しげな表情を浮かべていた。
 
「どこに降りたら良い?」
 ブレイブが尋ねる。
 
「そこら辺の森の中に降りたらいいだろ」
 ブルーがそれに答える。
 
「分かった」
 ブレイブは、レバーを前に倒した。飛行船は機首を下げ、急速に滑空を始めた。
 
「おい、傾けすぎだ! 戻せ、戻せ!」
 急降下に、ブルーが慌てて自分の席についたレバーを後ろに引いた。
 
「おい、勝手に操縦するな! 操作が効かなくなるだろ!」
 二人の未熟な操縦が衝突し、飛行船は制御を失い、ジェットコースターのように上昇と下降を繰り返しながら、急速に高度を落とし始めた。
 
「おいおいおいおい! 誰か止めろ!」
 ブレイブは、目の前に迫る木々に思わず目を閉じる。
 
「何やってんのよ!」
「キャー!」
「大丈夫よ、ほら、手を握って!」
 サラマンダーは冷静に座席に踏ん張り、アイはパニックに陥ったアリスの手を強く握りしめた。
 
ズガガガガガガガガ……ズゥーン……!
 
 飛行船は、凄まじい勢いで森の木々を薙ぎ倒しながら、派手な音と共に不時着した。

 ◆◇◆◇
 
 同時刻、カルファス王国の中枢。
 王城の一室からは、男の怒鳴り声が廊下に鳴り響いていた。
 
「ジルがしくじっただと!?」
 黒く縮れた短髪に、顔を覆うほどの濃い髭を持つ上裸の巨漢――グルードは、机をバン!と叩きつけ、怒りを露わにした。
 彼は、目の前の男が読み上げる、“魔法速便”の内容に、ひどく苛立っていた。
 
「はい……どうやら、あの忌々しい姫を逃してしまったようで……」
 小柄な男は、その音にびくりと体を震わせた。

「ふざけるな! あそこには、あの赤蛇のダンがいたはずだ! あいつは何をしていた!」
 
「残念ながら、ダン様は……やられてしまいました」
 小柄な男は、恐る恐る告げた。
 
「誰にだ?」
 グルードは小柄の男を睨みつける。
 
「それが……五人組の冒険者パーティーだとの報告が……」
 
「五人だ? たった五人で、あの拠点を壊滅させたと言うのか?」
 グルードは、信じられないというように机の周りをぐるぐると歩き、考えた。
(あそこのアジトには、ダンを筆頭に、十分な戦闘員がいたはずだ。それをたった五人で……)
 
「そいつらの構成は?」
 
「は、はい。オークが一匹、女性が二人、男が一人、龍人族が一人だと……」
 小柄の男は、まとめられた報告書を震える声で読み上げる。
 
「ふざけているのか! オークだと? そんな与太話を信じろというのか!」
 グルードは、血走った目で男をジロリと睨んだ。
 小柄の男はその眼光に怯む。
 
「ほ、報告書にはそのように……」
 グルードは、小柄の男から報告書を奪い取ると、目を滑らせる。
 
「馬鹿げてる……」
 彼はそう言うと報告書を投げ捨てた。
 ヒラヒラと紙が宙を舞い、小柄の男が慌ててそれを拾い集める。
 
「もういい、下がれ!」
 グルードは、報告書を抱える小柄の男を部屋から追い出した。
 入れ替わるように、別の男が部屋に入ってくる。
 
「あらあら、機嫌が悪いようですね、グルード」
 巻いた金髪に、どこか人を小馬鹿にしているようなおどけた表情をしているその男は――クラリオ・ビザカルといった。
 
「こっちの話に首を突っ込むんじゃねぇよ、クラリオ」
 グルードは、憎たらしいクラリオを一瞥すると吐き捨てるように言った。
 
「一応、私も協力者ですよ」
 クラリオは、小さくため息を吐くと、ゆっくりとした足取りで、グルードの目の前に立ち、親しげにグルードの肩に触れた。
 
「それで、何用だ? 」
 
「例のアレが、ついに手に入りました」
 クラリオは、グルードの耳元で、甘く小さな声で囁いた。
 
「ほお……それは、最高に良い知らせだ」
 グルードは、笑みを浮かべた。
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