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第四十話 望みの報酬
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カルファス王国の正門付近。
カリーナが重い瞼を開くと、ぼんやりと視界に飛び込んできたのは狭い天井と、窓の外を流れる茜色の雲だった。
「……やっと目を覚ましましたね」
頭上から降ってきたのは、どこか懐かしいアイの優しい声だった。カリーナは自分の後頭部に伝わるアイの手のひらの感触と、アイの微かな体温に気づく。カリーナはアイに膝枕されていた。
「ここは……?」
「私たちの飛行船の中ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、記憶がフラッシュバックする。グルードとの死闘に、王城からの脱出。
カリーナはガバッと跳ね起きようとしたが、全身を走る強烈な倦怠感に「うっ……」と顔を顰めた。
「戦いは……どうなったの?」
「……終わりましたよ」
アイはカリーナの肩にそっと手を置き、再び横になるよう促した。飛行船の船内はアイとカリーナ、二人だけの静かな時間が流れていた。
「みんなは?」
「外ににいますよ」
「そう……よかった」
カリーナは再びアイの膝の上に、寝転んだ。アイの手が、乱れたカリーナの髪を優しく撫でる。
「ねぇアイ……私たち、本当に、この国を救えたんだよね?」
カリーナは天井を見つめたまま、確認するように呟いた。
「……悪しき者の支配からの解放は、間違いなく成し遂げられました。アリス様も両親と再会できましたし、国民の皆さんも、もう怯える必要はありません」
アイは一度言葉を切ると、窓の外に広がる、戦火の煙が消えつつある王都の街並みを見つめた。
「ですが、国の未来を救えるかどうかは、これからの彼ら次第です。壊れた街を直し、傷ついた心を癒やすのは、私たち『なんでも屋』ではなく、この国に生きる人々自身ですから」
「……そうね。でも、そのスタートラインまでは連れてこられたかしら」
「ええ。十分すぎるほどに」
アイの肯定に、カリーナは小さく、しかし満足そうに口角を上げた。
「……よし。いつまでも寝てられないわね。みんなのところに行きましょうか。お礼もたんまりもらわないと」
「ふふ、そうですね。みんな待っていますよ」
カリーナはアイの助けを借りてゆっくりと立ち上がると、足取りを確かめるように外へ出ていった。
◆◇◆◇
「あ……カリーナ様!!」
アリスはカリーナの姿に気づき、駆け寄った。その笑顔は、かつて依頼に来た時の不安げな少女のものではなく、これからを背負う王女のたくましいものであった。
「お怪我は大丈夫ですか?」
アリスは心配そうにカリーナの顔を見上げた。
「怪我なんてしてないわ。丈夫だもの私」
カリーナはアリスの手を握ると、にっこりと笑う。
遠くでは、ブルーとブレイブが王様を何やら問い詰めていて、サラマンダーがその仲裁に入っているという、いつもの光景が広がっている。
「何を揉めてるのかしら」
カリーナの素朴な疑問に飛行船から降りてきたアイが答える。
「報酬のことで揉めているのですよ。炸裂玉の全てが今回の戦いでなくなってしまったので、代わりにそれ相応のものをくれと要求して……」
「アイツらは分かってないわね……交渉というものを。ねぇアリス?」
そう言うとカリーナは、自分の服に顔をうずめるアリスの頭を撫でる。アリスはカリーナのその優しい抱擁に、安心したように身を預けていた。
「はぁ……」
アイはそんなカリーナを見て小さくため息を吐いた。
◆◇◆◇
「落ち着いてくれ。望む通りの報酬はやる」
王はブルーとブレイブの必死な形相にたじたじになっていた。
「お前ら……さっきまで国が支配されていたのだぞ。その上で城も崩れた。報酬なんてなくても――
サラマンダーの言葉は遮られた。
「「それは違う!!」」
さっきまで国が支配されていたのにも関わらず、彼らが強く要求するのは、仕事であるからだ。
「いいか、よく聞け。サラマンダー。お前がお人好しなのは結構だが、貰うべきものを要求しないのは違うからな」
「そうだぞ!これは仕事だ」
サラマンダーは、困ったように頭を掻くと助けを求めるようにアイ達の方を横目で見る。すると、同じく困ったように眉を顰めてカリーナとアリスの会話を見守るアイと目があい、なんだか申し訳なくなった。
しばらくして、カリーナ達がやってきた。
「もう体調は平気なのか?」
「平気よ」
カリーナと一緒に歩いてきたアリスは、父のも胸へと飛び込んだ。少しして、アリスを地面に下ろした王はカリーナに礼を言った。
「重ね重ね……この国を救ってくれて感謝する」
「どういたしまして。でも私たちだけじゃないわよ、アリス、兵長達、そして国民。この国のおかげよ」
「その通りだな」
「それに!」
カリーナは王様に詰め寄る。
「この国の今後を考えて言うけど、貴族と仲が悪い状態はどうにかしたほうがいいわよ。また繰り返してしまうわ」
「分かっている……そこは考える」
王はカリーナの言葉を噛み締めるように答えた。
「そういえば、兵長はどこかしら」
「レオンハートは兵士たちと残党の捕縛と国の復興作業に取り掛かっている」
会って最後に一言だけでもと考えていたカリーナだったが、彼の置かれている立場を考えてやめることにした。
「何か用でも?」
「いえ、なくなったわ」
「そうか」
「それで……君たちが、いつ出発するか聞いてもよいか?城があの姿だから、それほど豪華なもてなしはできないが、少しでももてなそうと考えている」
「居ても邪魔になるだけだから、明日には出るつもりよ。それに、もてなしはいらないわ。仕事だから」
「おっと危ねぇ!報酬はどうなった?」
ブルーが思い出したかのように会話に参加する。
「明日に用意しよう」
優しい雰囲気が一変し、鋭い視線が王に向けられると、王は口から漏れ出るように約束した。
カリーナが重い瞼を開くと、ぼんやりと視界に飛び込んできたのは狭い天井と、窓の外を流れる茜色の雲だった。
「……やっと目を覚ましましたね」
頭上から降ってきたのは、どこか懐かしいアイの優しい声だった。カリーナは自分の後頭部に伝わるアイの手のひらの感触と、アイの微かな体温に気づく。カリーナはアイに膝枕されていた。
「ここは……?」
「私たちの飛行船の中ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、記憶がフラッシュバックする。グルードとの死闘に、王城からの脱出。
カリーナはガバッと跳ね起きようとしたが、全身を走る強烈な倦怠感に「うっ……」と顔を顰めた。
「戦いは……どうなったの?」
「……終わりましたよ」
アイはカリーナの肩にそっと手を置き、再び横になるよう促した。飛行船の船内はアイとカリーナ、二人だけの静かな時間が流れていた。
「みんなは?」
「外ににいますよ」
「そう……よかった」
カリーナは再びアイの膝の上に、寝転んだ。アイの手が、乱れたカリーナの髪を優しく撫でる。
「ねぇアイ……私たち、本当に、この国を救えたんだよね?」
カリーナは天井を見つめたまま、確認するように呟いた。
「……悪しき者の支配からの解放は、間違いなく成し遂げられました。アリス様も両親と再会できましたし、国民の皆さんも、もう怯える必要はありません」
アイは一度言葉を切ると、窓の外に広がる、戦火の煙が消えつつある王都の街並みを見つめた。
「ですが、国の未来を救えるかどうかは、これからの彼ら次第です。壊れた街を直し、傷ついた心を癒やすのは、私たち『なんでも屋』ではなく、この国に生きる人々自身ですから」
「……そうね。でも、そのスタートラインまでは連れてこられたかしら」
「ええ。十分すぎるほどに」
アイの肯定に、カリーナは小さく、しかし満足そうに口角を上げた。
「……よし。いつまでも寝てられないわね。みんなのところに行きましょうか。お礼もたんまりもらわないと」
「ふふ、そうですね。みんな待っていますよ」
カリーナはアイの助けを借りてゆっくりと立ち上がると、足取りを確かめるように外へ出ていった。
◆◇◆◇
「あ……カリーナ様!!」
アリスはカリーナの姿に気づき、駆け寄った。その笑顔は、かつて依頼に来た時の不安げな少女のものではなく、これからを背負う王女のたくましいものであった。
「お怪我は大丈夫ですか?」
アリスは心配そうにカリーナの顔を見上げた。
「怪我なんてしてないわ。丈夫だもの私」
カリーナはアリスの手を握ると、にっこりと笑う。
遠くでは、ブルーとブレイブが王様を何やら問い詰めていて、サラマンダーがその仲裁に入っているという、いつもの光景が広がっている。
「何を揉めてるのかしら」
カリーナの素朴な疑問に飛行船から降りてきたアイが答える。
「報酬のことで揉めているのですよ。炸裂玉の全てが今回の戦いでなくなってしまったので、代わりにそれ相応のものをくれと要求して……」
「アイツらは分かってないわね……交渉というものを。ねぇアリス?」
そう言うとカリーナは、自分の服に顔をうずめるアリスの頭を撫でる。アリスはカリーナのその優しい抱擁に、安心したように身を預けていた。
「はぁ……」
アイはそんなカリーナを見て小さくため息を吐いた。
◆◇◆◇
「落ち着いてくれ。望む通りの報酬はやる」
王はブルーとブレイブの必死な形相にたじたじになっていた。
「お前ら……さっきまで国が支配されていたのだぞ。その上で城も崩れた。報酬なんてなくても――
サラマンダーの言葉は遮られた。
「「それは違う!!」」
さっきまで国が支配されていたのにも関わらず、彼らが強く要求するのは、仕事であるからだ。
「いいか、よく聞け。サラマンダー。お前がお人好しなのは結構だが、貰うべきものを要求しないのは違うからな」
「そうだぞ!これは仕事だ」
サラマンダーは、困ったように頭を掻くと助けを求めるようにアイ達の方を横目で見る。すると、同じく困ったように眉を顰めてカリーナとアリスの会話を見守るアイと目があい、なんだか申し訳なくなった。
しばらくして、カリーナ達がやってきた。
「もう体調は平気なのか?」
「平気よ」
カリーナと一緒に歩いてきたアリスは、父のも胸へと飛び込んだ。少しして、アリスを地面に下ろした王はカリーナに礼を言った。
「重ね重ね……この国を救ってくれて感謝する」
「どういたしまして。でも私たちだけじゃないわよ、アリス、兵長達、そして国民。この国のおかげよ」
「その通りだな」
「それに!」
カリーナは王様に詰め寄る。
「この国の今後を考えて言うけど、貴族と仲が悪い状態はどうにかしたほうがいいわよ。また繰り返してしまうわ」
「分かっている……そこは考える」
王はカリーナの言葉を噛み締めるように答えた。
「そういえば、兵長はどこかしら」
「レオンハートは兵士たちと残党の捕縛と国の復興作業に取り掛かっている」
会って最後に一言だけでもと考えていたカリーナだったが、彼の置かれている立場を考えてやめることにした。
「何か用でも?」
「いえ、なくなったわ」
「そうか」
「それで……君たちが、いつ出発するか聞いてもよいか?城があの姿だから、それほど豪華なもてなしはできないが、少しでももてなそうと考えている」
「居ても邪魔になるだけだから、明日には出るつもりよ。それに、もてなしはいらないわ。仕事だから」
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