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普通科の彼女と特進科の彼。
眼鏡は体の一部です。
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今度高校に入学して初めての文化祭が開催される。中学ではそういうイベントがなかったのでとても楽しみだ。
クラスの話し合いで決まった出し物は台湾風カフェ。決まった当日から早速準備が始まった。
私の印象としては普通科の生徒は全体的に純粋に文化祭を楽しもうとしているが、特進科は例外だ。
文化祭よりも勉強が大事だと言わんばかりにピリピリしている人が大半の特進科。そのギスギスした空気がこっちにも伝染しそうである。特進科の人から変ないちゃもんつけられなければいいのだけど…
本当は文化祭を思いっきり楽しみたいけど、周りが苛ついているから心から楽しめないとしょんぼりしている一部の特進科の生徒は可哀想だとは思うが。
自転車に揺られて買い物に行ってきた私が学校に舞い戻ってくると、正門そばで帰宅途中の悠木君と遭遇した。
「やっほー悠木君のクラス、もう準備終わったの?」
私が大荷物を自転車の荷台に載せたまま、学校に戻ってきたのに少し驚いた様子の悠木君が目を見張りながら「あ、うん」と頷いていた。
「俺のクラス、塾通いの人間が多いから、準備の手間を省くために簡単な出し物なんだよ」
「ふぅん」
「それと俺は生徒会の人間だから、準備は免除されてんの」
なるほどね、生徒会があるから準備に参加できないのか。
簡単な出し物か…それは楽しいのだろうか。塾の時間があるから仕方ないのだろうけど、せっかくの文化祭なのにもったいないな。…と私が心のなかで思っていると、悠木君がジロジロと私を見下ろしてきた。
「ところでお前は何を買ってきたの」
「出店予定のお店用のユニフォーム。ドンキでコスプレ衣装買ってきたんだ」
いまや衣装を作るより買うほうが安いのだ。私は自転車があるので、代表で買い出しに行ってきた。荷台にはダンボールを紐で固定してその中に大量の衣装が入っている。
「意外だな。バイト優先して文化祭の準備しなさそうなのに」
悠木君は失礼なことを言う。私をなんだと思っているのか。
「失礼な。私は学校行事なら純粋に楽しむ方だよ」
バイトはいつでも出来るけど、文化祭は一瞬なんだぞ。それにバイトは土日にガッツリ入るからいいの。と私が胸を張ると、悠木君は「そっか」と笑っていた。
「じゃあ準備頑張って」
「うん、バイバイ」
悠木君に別れを告げると、私は自転車置き場に自転車を停めに行く。いつもの時間であれば帰宅する生徒で賑わうはずの自転車置き場だが、文化祭準備中で半数以上の生徒が学校に残っているため人影がない。駐輪している自転車もたくさん残っていた。
自転車を空きスペースに停めると荷台から荷物を下ろそうと紐を解いた。
「もっりみやさん♪」
荷物を持ち上げたその時、背後から謎のイントネーションで呼びかけられた。後ろを振り向くとそこには眼鏡がいた。
「うわ、何その大荷物」
「文化祭で使う衣装だよ。ドンキに買い出し行ってきた」
そんなに話したことない眼鏡は馴れ馴れしく私に話しかけながらダンボールの中身を確認しようとしていた。
「衣装? 1組は文化祭で何するの?」
「台湾風カフェ」
私はウエイトレスとして当日は接客担当になった。これも無償奉仕になるが、文化祭なので特別に頑張って働く所存である。
そういえば眼鏡は今日は悠木君と一緒じゃないんだな。いつも一緒のイメージがあったけど。眼鏡単体で声をかけられると一瞬誰だったっけとなりそうになる。
「運ぶの手伝おうか?」
「うぅん、他のクラスの人に手伝わせるわけにはいかないから」
それに私はバイトで鍛えているので腕力に自信があるんだ。心配してくれるな。
悠木君が生徒会なら、眼鏡も今まで生徒会の仕事をしていたのかな。無償奉仕お疲れさんである。
「森宮さんはそういうところ真面目だよね」
「普段は不真面目な言い方しないでくれる?」
よっこいせーとダンボールを抱えて校舎に戻ろうとしたら、眼鏡がその後ろを付いてくる。…帰らなくてもいいのか眼鏡。特進科は忙しいのだろう?
私が横目でちらりと見上げると、眼鏡もこちらを見下ろしていた。…私になにか用があるというわけか。
何だ? と眉を動かして問いかけてみると、眼鏡は薄笑いを浮かべて尋ねてきた。
「森宮さんはさぁ、夏生のことどう思ってるの?」
…悠木君のこと?
「…イケメン、お金持ち、ジゴロ……現地妻」
「あ、いやそういう見たままの印象の話じゃなくて…それとあいつの名誉のために言うけど、後半のは真実じゃないから。それ作られた噂だから」
印象の話じゃないと言えば……あれか? 好きか嫌いかとか恋愛方面の話か?
「友達だよ。眼鏡…あんたがどう誤解しているのかは知らないけど、私と悠木君は科を跨いだ友人同士だよ」
これで満足か。友人の身辺整理でもしてんのかあんたは。私は別に不審者ムーブしているつもりはないのだが…
私が胡乱に見上げると、眼鏡は口元に手を当てて衝撃を受けているような顔をしていた。
「あれ…森宮さんもしかして、俺の名前知らない? 酒谷、酒谷大輔をよろしく」
……よろしくと言われても、あんたの名前すぐに忘れちゃうからなぁ……悠木君と桐生さんの影に隠れてすぐに薄まっちゃうんだ。
「いいじゃん、眼鏡は眼鏡なんだし」
「これは本体でも分身でもないんだよ? 視力矯正のためにつけてるんだよ!?」
階段を登って1年の階に向かう際も眼鏡は付いてきた。横から眼鏡について熱く語ってくる。
「確かに眼鏡は顔の一部と言っても過言ではないけど、俺の存在を眼鏡の一言で終わらせてほしくない」
……少しやかましい。あだ名のようなものだよ。深く考えることはない。
「そうだ! 覚えられないなら手に書こう! 森宮さんは賢いからすぐに憶えられるよ!」
「そこまでしなくていいよ」
「お願い、俺の存在を人名で認識して!」
別のクラスだし、存在を認識されて無くても特に問題ないんじゃ。私と眼鏡はそこまで仲がいいわけでもなしに。
「私達そんなに親しくないから、名前憶えなくても別にいいじゃん」
「良くないよ! これからもっと俺のことを知ってくれたらいいから、もっと俺にも興味持って!?」
マジで私の手に名前を書こうとしているのか、眼鏡がカバンから筆箱を取り出した。やめろ、ダンボール持ってんだから両手が塞がってるんだよ私は。
私が横をすり抜けて逃走をはかると、眼鏡は後ろから羽交い締めにしてきた。私の背中に抱きつく形で私の右手の甲にサインペンで何かを書き始めたではないか。
なんやねんこれ案件か。
被害者、女子高生。背後から羽交い締めにされ、手の甲にサインペンで名前を書かれる。犯人は身長175cm痩せ型の男。黒縁の眼鏡をしている。「俺にもっと興味持って?」と懇願してきた模様
…って地域パトロールメールで配信されるんか。
サインペンの筆先が手の甲にひんやり伝わってくる。それ油性だったりする? お風呂で落とすの大変なんですけど。
耳元で「あっ字が潰れた」と眼鏡が漏らす。なぜ漢字で書くんだ。画数が多いならひらがなにすりゃいいのに。
「……大輔、なにしてるの…?」
硬くこわばったような声が背後から飛び込んできた。一歩進めば泣き出してしまいそうなその声の持ち主。
声に惹かれるように眼鏡が後ろを振り返った。
「礼奈」
あぁ、桐生さんね。
ていうかいつまで私を羽交い締めにしているつもりなのだこの眼鏡は。
「眼鏡、いい加減に離してよ」
「だから俺の名前は眼鏡じゃなくて」
「…大輔、森宮さんが困ってるでしょう。いい加減に離れてあげたら…?」
桐生さんは私と眼鏡の間に入ってきた。私の肩をぐっと握って引き離してきた。
「…っ!」
その力強さに私は顔をしかめる。
痛い。ちょっと桐生さん、あんたそんな「わたし清純派ですぅ」って顔して握力強いね!
ぐんっと身体を引っ張られて足を縺れさせながらなんとか体勢を整える。乱暴だな! ダンボール落としそうになったじゃないか。
「……森宮さん、ごめんね? 彼ったら女の子との距離感が掴めていなかったみたい」
言葉だけにしたら、友人の非礼をわびているだけに聞こえる。
だけど私にはそうは思えなかった。なぜなら──桐生礼奈は冷たい表情で私を睨んでいたからである。
……私は訳がわからなくなった。
悠木君と眼鏡が桐生さんに思慕を抱いているのは噂で聞いたことがあるけど……
この女、まさか…悠木君も眼鏡も両方手に入れなきゃ気がすまない女王様体質なのか…?
クラスの話し合いで決まった出し物は台湾風カフェ。決まった当日から早速準備が始まった。
私の印象としては普通科の生徒は全体的に純粋に文化祭を楽しもうとしているが、特進科は例外だ。
文化祭よりも勉強が大事だと言わんばかりにピリピリしている人が大半の特進科。そのギスギスした空気がこっちにも伝染しそうである。特進科の人から変ないちゃもんつけられなければいいのだけど…
本当は文化祭を思いっきり楽しみたいけど、周りが苛ついているから心から楽しめないとしょんぼりしている一部の特進科の生徒は可哀想だとは思うが。
自転車に揺られて買い物に行ってきた私が学校に舞い戻ってくると、正門そばで帰宅途中の悠木君と遭遇した。
「やっほー悠木君のクラス、もう準備終わったの?」
私が大荷物を自転車の荷台に載せたまま、学校に戻ってきたのに少し驚いた様子の悠木君が目を見張りながら「あ、うん」と頷いていた。
「俺のクラス、塾通いの人間が多いから、準備の手間を省くために簡単な出し物なんだよ」
「ふぅん」
「それと俺は生徒会の人間だから、準備は免除されてんの」
なるほどね、生徒会があるから準備に参加できないのか。
簡単な出し物か…それは楽しいのだろうか。塾の時間があるから仕方ないのだろうけど、せっかくの文化祭なのにもったいないな。…と私が心のなかで思っていると、悠木君がジロジロと私を見下ろしてきた。
「ところでお前は何を買ってきたの」
「出店予定のお店用のユニフォーム。ドンキでコスプレ衣装買ってきたんだ」
いまや衣装を作るより買うほうが安いのだ。私は自転車があるので、代表で買い出しに行ってきた。荷台にはダンボールを紐で固定してその中に大量の衣装が入っている。
「意外だな。バイト優先して文化祭の準備しなさそうなのに」
悠木君は失礼なことを言う。私をなんだと思っているのか。
「失礼な。私は学校行事なら純粋に楽しむ方だよ」
バイトはいつでも出来るけど、文化祭は一瞬なんだぞ。それにバイトは土日にガッツリ入るからいいの。と私が胸を張ると、悠木君は「そっか」と笑っていた。
「じゃあ準備頑張って」
「うん、バイバイ」
悠木君に別れを告げると、私は自転車置き場に自転車を停めに行く。いつもの時間であれば帰宅する生徒で賑わうはずの自転車置き場だが、文化祭準備中で半数以上の生徒が学校に残っているため人影がない。駐輪している自転車もたくさん残っていた。
自転車を空きスペースに停めると荷台から荷物を下ろそうと紐を解いた。
「もっりみやさん♪」
荷物を持ち上げたその時、背後から謎のイントネーションで呼びかけられた。後ろを振り向くとそこには眼鏡がいた。
「うわ、何その大荷物」
「文化祭で使う衣装だよ。ドンキに買い出し行ってきた」
そんなに話したことない眼鏡は馴れ馴れしく私に話しかけながらダンボールの中身を確認しようとしていた。
「衣装? 1組は文化祭で何するの?」
「台湾風カフェ」
私はウエイトレスとして当日は接客担当になった。これも無償奉仕になるが、文化祭なので特別に頑張って働く所存である。
そういえば眼鏡は今日は悠木君と一緒じゃないんだな。いつも一緒のイメージがあったけど。眼鏡単体で声をかけられると一瞬誰だったっけとなりそうになる。
「運ぶの手伝おうか?」
「うぅん、他のクラスの人に手伝わせるわけにはいかないから」
それに私はバイトで鍛えているので腕力に自信があるんだ。心配してくれるな。
悠木君が生徒会なら、眼鏡も今まで生徒会の仕事をしていたのかな。無償奉仕お疲れさんである。
「森宮さんはそういうところ真面目だよね」
「普段は不真面目な言い方しないでくれる?」
よっこいせーとダンボールを抱えて校舎に戻ろうとしたら、眼鏡がその後ろを付いてくる。…帰らなくてもいいのか眼鏡。特進科は忙しいのだろう?
私が横目でちらりと見上げると、眼鏡もこちらを見下ろしていた。…私になにか用があるというわけか。
何だ? と眉を動かして問いかけてみると、眼鏡は薄笑いを浮かべて尋ねてきた。
「森宮さんはさぁ、夏生のことどう思ってるの?」
…悠木君のこと?
「…イケメン、お金持ち、ジゴロ……現地妻」
「あ、いやそういう見たままの印象の話じゃなくて…それとあいつの名誉のために言うけど、後半のは真実じゃないから。それ作られた噂だから」
印象の話じゃないと言えば……あれか? 好きか嫌いかとか恋愛方面の話か?
「友達だよ。眼鏡…あんたがどう誤解しているのかは知らないけど、私と悠木君は科を跨いだ友人同士だよ」
これで満足か。友人の身辺整理でもしてんのかあんたは。私は別に不審者ムーブしているつもりはないのだが…
私が胡乱に見上げると、眼鏡は口元に手を当てて衝撃を受けているような顔をしていた。
「あれ…森宮さんもしかして、俺の名前知らない? 酒谷、酒谷大輔をよろしく」
……よろしくと言われても、あんたの名前すぐに忘れちゃうからなぁ……悠木君と桐生さんの影に隠れてすぐに薄まっちゃうんだ。
「いいじゃん、眼鏡は眼鏡なんだし」
「これは本体でも分身でもないんだよ? 視力矯正のためにつけてるんだよ!?」
階段を登って1年の階に向かう際も眼鏡は付いてきた。横から眼鏡について熱く語ってくる。
「確かに眼鏡は顔の一部と言っても過言ではないけど、俺の存在を眼鏡の一言で終わらせてほしくない」
……少しやかましい。あだ名のようなものだよ。深く考えることはない。
「そうだ! 覚えられないなら手に書こう! 森宮さんは賢いからすぐに憶えられるよ!」
「そこまでしなくていいよ」
「お願い、俺の存在を人名で認識して!」
別のクラスだし、存在を認識されて無くても特に問題ないんじゃ。私と眼鏡はそこまで仲がいいわけでもなしに。
「私達そんなに親しくないから、名前憶えなくても別にいいじゃん」
「良くないよ! これからもっと俺のことを知ってくれたらいいから、もっと俺にも興味持って!?」
マジで私の手に名前を書こうとしているのか、眼鏡がカバンから筆箱を取り出した。やめろ、ダンボール持ってんだから両手が塞がってるんだよ私は。
私が横をすり抜けて逃走をはかると、眼鏡は後ろから羽交い締めにしてきた。私の背中に抱きつく形で私の右手の甲にサインペンで何かを書き始めたではないか。
なんやねんこれ案件か。
被害者、女子高生。背後から羽交い締めにされ、手の甲にサインペンで名前を書かれる。犯人は身長175cm痩せ型の男。黒縁の眼鏡をしている。「俺にもっと興味持って?」と懇願してきた模様
…って地域パトロールメールで配信されるんか。
サインペンの筆先が手の甲にひんやり伝わってくる。それ油性だったりする? お風呂で落とすの大変なんですけど。
耳元で「あっ字が潰れた」と眼鏡が漏らす。なぜ漢字で書くんだ。画数が多いならひらがなにすりゃいいのに。
「……大輔、なにしてるの…?」
硬くこわばったような声が背後から飛び込んできた。一歩進めば泣き出してしまいそうなその声の持ち主。
声に惹かれるように眼鏡が後ろを振り返った。
「礼奈」
あぁ、桐生さんね。
ていうかいつまで私を羽交い締めにしているつもりなのだこの眼鏡は。
「眼鏡、いい加減に離してよ」
「だから俺の名前は眼鏡じゃなくて」
「…大輔、森宮さんが困ってるでしょう。いい加減に離れてあげたら…?」
桐生さんは私と眼鏡の間に入ってきた。私の肩をぐっと握って引き離してきた。
「…っ!」
その力強さに私は顔をしかめる。
痛い。ちょっと桐生さん、あんたそんな「わたし清純派ですぅ」って顔して握力強いね!
ぐんっと身体を引っ張られて足を縺れさせながらなんとか体勢を整える。乱暴だな! ダンボール落としそうになったじゃないか。
「……森宮さん、ごめんね? 彼ったら女の子との距離感が掴めていなかったみたい」
言葉だけにしたら、友人の非礼をわびているだけに聞こえる。
だけど私にはそうは思えなかった。なぜなら──桐生礼奈は冷たい表情で私を睨んでいたからである。
……私は訳がわからなくなった。
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