バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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普通科の彼女と特進科の彼。

お箸は一膳でよろしいですか?

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 ピンポンと自動ドアが来客を知らせた。私はお弁当袋を広げる作業をしながらお出迎えの挨拶をする。

「いらっしゃいませー」
「…森宮?」

 疑問形の呼び方に私は顔をあげる。
 そこには学校の制服姿の悠木君の姿があった。

「あ、悠木君」
「お前ここでも働いてんの?」
「たまにヘルプで入ってるんだ。ご注文は?」

 授業の時間が終わった時間にしては遅いな。友達とどこかで遊んできたのだろうか。それとも生徒会の仕事で遅くなったのかな。
 カウンター前にやってきた悠木君にメニュー一覧を見せると彼はさほど悩むこともなく、とある一点をピッと指差した。

「唐揚げ&メンチカツ大盛り弁当ひとつ」
「かしこまりました。お味噌汁はよろしいか? 今なら豚汁100円、わかめと豆腐の味噌汁80円で付けられるけど」
「あっじゃあ豚汁ひとつ付けて」

 肉メイン弁当に更に肉を加えたメニューを注文した悠木君。私はキッチンに大声で注文を流した。レジでお会計をしようとキーを叩いていると、ぬっとカウンターに載せられたプリン。

「これも一緒に」
「はい、毎度」

 食後のデザートかなと思いながら会計を済ませて、袋に詰める準備をしていると、プリンを掴んだ悠木君はずいっと私に差し出してきた。

「差し入れ。バイト終わってから食えよ」
「あ…どうも」

 悠木君のではなく、私にあげるために購入したらしい。遠慮するのはなんなので、ありがたく受け取った。

「今日何時まで?」
「22時までだよ」
「帰り大丈夫か?」
「大丈夫。いつものことだから」

 「そうか」と頷いた悠木君は購入済みのお弁当が入った袋を持ち上げると、軽く手を上げて小さく笑った。

「バイト頑張れよ。また学校で」

 わぁ爽やか。
 学校の女子がこれ見たらうらやましがるだろうなぁ。私は手を振り返して見送って差し上げた。
 悠木君の姿が見えなくなったと思ったら、ドスンと後ろから衝撃を与えられた。ふわふわのお肉がぶつかってきた衝撃に私は驚いて「わっ」と声を出してしまった。
 
「えーめちゃくちゃカッコいい子じゃない! 芸能人みたい! 美玖ちゃんの彼氏?」
 
 何かと思えばこのお店の店長の奥さんが私に体当りしてきたのだ。彼女はニヤニヤしながら私を冷やかした。
 …女っていくつになってもこういう話好きなんだね…

「違いますよ」

 いやいや、私と悠木君並べてみたら一目瞭然だろう。美女と野獣ならぬ、美形と平凡だよ。不釣り合いにもほどがある。悠木君に失礼だからそれ以上は止めてやってくれ。

 私が冷静に否定すると、奥さんは「えーつまんない。美玖ちゃんは女子高生成分が足りてないと思うー」と文句をつけてきた。
 だが、世の中の女子高生全てに彼氏がいるわけでもないし、全員が恋愛に興味を持っているとは限らないので、その偏見は良くないと思うぞ。

 私は切ない気持ちになってため息を吐き出した。……私が狙っていたメンチカツを悠木君が購入していったので、揚げ置きのメンチカツの在庫が減ってしまった……のり弁も美味しいけど、まかないのメンチカツ食べたいなぁ…願わくばこれ以上メンチカツのオーダーが入りませんように。


□■□


 お昼休みは私にとって、とても大切な時間だ。
 4階には生徒会室とか音楽室など移動教室が集中しており、常時生徒がいるような教室はない。そのため比較的静かな場所なのだ。
 私は今日も社会科準備室でアイマスクを付けて持ち込みの毛布にくるんで眠る。寒くなってきたから毛布持ってきたの。このぬくもりに包まれて私は眠りの世界に旅立つ…。

 ──ドタドタドタ…
「……」

 しかし、その日はそれを邪魔するものがいたようだ。
 階段をものすごい勢いで駆け上がってきた音が聞こえてきたと思えば、ガラリ! と力いっぱい引き戸を開いた音が身近で聞こえてきた。
 ……この準備室に誰かが入ってきた?
 私は眉間にシワを寄せつつ、アイマスクをずらしながら身体を起こす。外から差し込む光に目を細めながら侵入者の顔でも拝んでやろうとして……更に眉間にシワを寄せた。
 侵入者は悠木君だったのだ。

「森宮! 匿って!!」
「はぁ…?」

 そう言って入ってきたはいいが、この準備室には隠れられそうな場所はない。
 手頃な掃除道具入れなんてないし、そばに配置されている棚は書類を入れる程度のサイズだ。机の下に隠れてもいいけど、出入り口から丸見えの場所になる。

 悠木君はパニック状態に陥り一人でオロオロしているようだった。状況はよくわからんが困っているようなので、私はソファの上に逆戻りして身体にかけていた毛布を持ち上げた。

「仕方ないなぁ。ほらおいで」
「…え?」
「隠れたいんでしょ? おとなしくしててね」

 一瞬何が何だか分からないといた感じで呆けていた悠木君だったが、遠くから近づいてくるバタバタバタという複数の足音にギクッとして、すぐに行動に移した。
 私の上に重なるようにして毛布の中に隠れた悠木君を自分の体にくっつけて膨らみを不自然に見えないように工作すると、私はアイマスクをして寝てるフリをする。

 その後すぐにガラッと扉が開かれる音がした。

「悠木君っ!」
「…あれ? 人が寝てる?」

 開け放たれた扉の向こうから聞こえてきたのは女子生徒の声だ。私の上に乗っている悠木君の体がぎくりと動いたのが伝わってくる。

「う゛ぅん…」

 私はさも今起きましたと言わんばかりのアクションを取ってみせた。

「なに…さっきからうるさいなぁ」
「あ、あんたどうしてこんなところで寝てるの!?」
「私がどこで寝ようと私の勝手でしょうが。なんですかさっきからドタバタドタバタと。走りたいなら校庭で走ってきたらどうなんですか」

 睡眠妨害されて不機嫌なのを表に出しながら相手に苦情を申しつけると、相手の女子生徒は少しムッとしていた。

「ねぇ、悠木君ここに来なかった?」

 一緒になって追いかけてきた別の女子生徒が問いかけてくる。だが私は「さぁ、知りませんけど」と返して差し上げた。

「もしかしたら向こうの階段駆け下りて教室に戻ってるかも」
「いこっ」

 そう言って彼女らは扉を開けっ放しにしてその場を駆け去っていった。
 全くもう…開けたら締める。それを実践できないとはそれでも高校生か!

 ふー…とため息を吐いて、私は毛布を持ち上げた。

「もういいよ。どっかに行ったから」

 顔を上げた悠木君は毛布内の熱気にやられたのか顔が真っ赤だった。

「助けたのはプリンのお礼だよ。今度睡眠妨害したら許さないし、突き出すからね」
「あ、お、おう…」

 なんか急に言葉が出なくなってきたみたいにうろたえる悠木君。一体どうしたんだ。ワタワタと私の上からどいた彼は毛布を踏んで滑ってつんのめって床に転倒しかけていた。なかなか間抜けな格好を見たぞ。今の面白かったな。

「私は寝直すから適当に出ていってね。ついでに扉閉めておいて」
「え?」

 悠木君が疑問符をつけた形で聞き返してきたけど、私は時間が惜しかった。アイマスクつけ直すと、寝直すことにした。



 ピピピ…と聞き慣れたアラームの音が聞こえた。私は両腕を伸ばし背伸びすると、アイマスクをずらした。
 スマホのアラームを消そうと首を動かすと近くに人影があって、びっくりしてスマホを取り落しそうになった。

 …何してるんだろうこの人。

 社会科準備室の本が山積みになっているデスクに備え付けられている古ぼけたデスクチェアに座った悠木君がこっちを怖い顔で睨みつけていたのだ。

「…まだ教室に戻ってなかったの?」
「俺が戻ったら、この部屋の鍵が開けっ放しになるだろ…」
「まぁそうなんだけどさ」

 いつものことだから別に見張りとかしなくてもいいのに。変なところで気遣い屋だな君は。
 私が起きて毛布を畳んでいると、悠木君はじっとりした目でこちらを観察していた。

 なんだよ、他にも言いたいことがあるのか?
 私が目で問いかけると、悠木君は口をへの字にして不満そうな表情を浮かべていた。

「お前さ、少しくらいは恥じらい持てよ…」

 ……恥じらい、とは?
 私がぽかーんとしていると、悠木君は恥じらうように目をそらした。その頬は赤く色づいている。

「男と密着してるのに全く意識しないってどういうことなんだよ」
「緊急事態だから匿ってあげただけじゃない。そこにいやらしいことなんか存在しないでしょ」

 何を言っているんだ、現地妻が居るという噂のジゴロの君が。
 こないだもだけど悠木君は若干そういうのに口うるさいね。

「なにさ、助けてあげたのに」
「他の男には絶対やるなよ!?」
「はいはい」

 感謝はされど、説教なんかされるいわれはないんだが。
 口うるさい男はモテないぞ、と言ってやりたいが、あの伝説の悠木夏生に言ってもただの負け惜しみになるだけなのでやめておいた。
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