バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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普通科の彼女と特進科の彼。

遠くの後輩より近くの妹

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「ありゃ、美玖がこの時間バイトせずに勉強しているとは珍しい」

 短い冬休みも終わり、運命の実力テスト間近の日。私がリビングで勉強していると、姉が覗き込んできた。その手にはマグカップ。彼女も部屋で勉強していたらしく、ここへは台所に飲み物を取りに来たみたいだ。

「今日はバイトのお休みもらったの」

 普段ならバイトしていてもおかしくないのだが、今回は例外なのである。

「なになにどした。成績が落ちたってわけでもないのに」
「……勝たなくてはいけない勝負があるの」

 私はいつだって本気だが、今回は気合いの入り方が違った。何故こんなに真剣なのか姉に理由を話すと、卒業生である姉はすぐに理解を示してくれた。現状を把握した彼女は残念そうに肩をすくめている。

「あぁ、特進科はそういう人居るよね」

 姉いわく昔からそういう雰囲気はあったそう。
 勉強のストレスやプレッシャーの八つ当たりも兼ねて、何の関係もない普通科の人を下に見て馬鹿にするひとがいて、雰囲気が悪くなることは少なからずあった。もちろん特進科全員が全員じゃない。それに黙っていられず反発する普通科の人だっていた。
 数少ない悪意を持つ人間のせいで他の人にまで嫌な雰囲気が伝染し、お互いの科はぎくしゃくして謎の大きな壁に隔たれるようになったのだそう。

「私も当時同じ特進科の人にアレコレ言われたことあるし……相手の不利な何かを突いて優越感に浸りたいんだろうね」

 『私の場合、女だからって下に見てくる人居るし。今でも』とお姉ちゃんは肩をすくめた。お姉ちゃんはお姉ちゃんで苦労しているらしい。

「ところで美玖。悠木君とやらはどうなの?」

 その問いかけに私はため息を抑えられなかった。

「友達だって。第一連絡先知らない相手だよ」
「えぇーそうなの?」
「連絡するようなこともないもん」

 学校に行けば会えるし、特段連絡先が必要だと思ったこともない。悠木君も聞いてこないからあっちも同じこと考えていると思うな。

「私はともかくお姉ちゃんは? お医者さんの卵と勉強してるうちに恋に落ちたりしてないの?」

 大学で華やかキャンパスライフを送っているんだ。さぞかし出会いに満ち溢れているだろう。
 普段は恋話なんかしないけど、自分ばかり冷やかされるのが気に入らないので姉にも色っぽい話を求めた。だけどお姉ちゃんは口をへの字にして首を横に振っていた。

「だめだめ。同じ学部の男どもは、同じ学部の女子を女としてカウントしないから。他の学部の男性陣のほうがよほど紳士だよ!」

 お姉ちゃんの嫌悪混じりのディスりに私は少し身を引いた。
 どうした、急に。普段は明るい姉がここまで不満を露わにするって相当である。

「交流広めようと医学部生が数多く所属するインカレサークル入ろうとしたら、交流先の女子大学の元締めが女性はだめですって門前払いしてきてさ。なんでかなって不審に思ったら、うちの医学部男子学生と、お嬢様大学の学生のみのサークルなんだってさ。いわゆる婚活サークルだよ」

 おう…それは……
 学部と性別で拒否とか有りなんだ……大学はよくそんなサークル許可してるな。

「そこに同じ医学部の女性は必要ない、邪魔なだけなんだってさ。全員が全員じゃないけど、自分と同じくらい賢い女が気に入らずに粗捜しして下に見ようとする男が多いんだよね!」

 男以上にできれば、可愛げない。
 おしゃれすれば、浮かれている。
 逆にボーイッシュに済ませたら、色気がない。
 何かと貶さなきゃ気が済まないんだよ。
 お姉ちゃんは吐き捨てるように言った。

「他の大学の人はどうか知らないけど、あそこの男だけはありえないね。結婚相手には同じ学歴がいいってよく聞くけど、私にはむりむり。彼氏にするならもっと温和で包容力のある人がいい」
「そっかぁ…じゃあ今はサークル入っていないんだ?」
「うぅん、腹が立ったから主催として独自でサークル作ったよね! いろんな学部の人と交流出来て楽しいよ!」

 さすがお姉ちゃんである。自分で道を切り拓くその行動力を私は見習いたい。ないなら作ればいいじゃないってことだな。

「教養コミュサークルって名目で勉強会を開くの。ここではそれぞれの学科で習ったことをシェアする発表の場なんだけど、これが目からウロコなの。世の中知らないことばかりなんだなって新しい発見の連続だよ」

 さっきまで怒りに震えていたお姉ちゃんの表情がぱぁと明るくなった。

「最近は学生から評判聞いた教授も興味持って、間違ったこと教えてないか確認するって言って参加してさ、たまに教授同士の討論会が始まるの!」

 それがめちゃくちゃ盛り上がって楽しいらしい。
 違う学部同士での交流も深まるし、発表の場があるなら自分の専門をしっかり勉強しようって気にもなる。

「その後は持ち寄ったケータリングや飲み物、お菓子で打ち上げするんだ。知識も増えるし、視野も広まったよ。顔も広まるし、見かけたらみんな声かけてくれる。キャンパスが分かれているから、医学部の人とばかり関わるけど、別の学部の色んな人と交流するのも悪くないね」

 そこに色っぽい話はないけど、お姉ちゃんは満たされたキャンパスライフを送っているようだ。楽しそうで何よりである。

「私は教授たちの覚えもめでたいから今はなんとかやってるけど……とにかくね、女を下に置きたがるような男はやめたほうがいいよ」

 私も同じ目にあうかもしれない、と心配して掛けてくれた言葉だろう。
 ……確かに、そういう風に思っている人も居るだろう。今回堂々と表に出てきた輩がいただけで、陰ながら私をよく思っていない人も少なからずいるはず。

 ……でも、悠木君はそういうことなかったけどなぁ。私の夢を応援してくれたし、表立って庇ってくれた。悠木君はああ見えて嘘が下手で、裏でコソコソするのが苦手そうなので彼に嘘はないと思う。ボッチ気質だし。

「ところでなにかわかんないところはない?」

 私が悠木君のことを考えていると、突然スイッチが切り替わったお姉ちゃんが私のテキストを覗き込んできた。

「うーん、今のところは」
「あっそうだ! せっかくだから一緒に勉強しよう! わかんないことあったら何でも聞いてね!」

 なにかに火が点いたお姉ちゃんは部屋に戻って勉強道具をごっそり持ってくると、私と対面する形でテーブルに着いた。

「顔を知らない後輩よりも、大事な美玖を応援するよ! 大丈夫、美玖はとっても賢い子だからね! そんなつまらん輩は一網打尽にしてしまいなさい!」

 母校の特進科の後輩よりも、普通科の妹を応援する気まんまんのお姉ちゃんは意気込んで分厚い本を開いていた。
 開いたその先に人体解剖図がデカデカと乗っており、その横には実際の写真が掲載されていた。
 自分の身体の中にあるものだとはわかっているが、グロ耐性のない私はウッとなったのである。見てるだけで目眩するし、それを触るとか考えられないんだけど。お姉ちゃん強すぎるでしょ……
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