バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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普通科の彼女と特進科の彼。

コンポタージュの容器、とても熱くなっております。

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 ジングルベールジングルベールと定番のクリスマスソングが流れる街なか。カップルの比率が確実に上がるその日に私は屋外でチキンを販売していた。何を隠そう、クリスマスのバイトである。
 バイト先の1つであるファーストフード店ではクリスマスになるとチキン商戦に乗り上がる。もれなくバイトの私も販売に参戦することとなったのだ。厚着した上でダウンジャケット着用しているけど寒いもんは寒い。私は寒さを紛らわせるために声を張り上げていた。

「いらっしゃいませー! チキンはいかがですかー!」

 本日の目標販売数目指してキビキビ働いていた。
 それにしても繁華街に近いせいか、カップルが多い。右を見ても左を見てもカップルカップル。とにかく多い。今日がクリスマスってこともあるんだけど、カップルと家族連れ以外は肩身が狭くなりそうな空間ができあがってしまっている。

「ありがとうございましたー!」

 だがリア充だろうとなんだろうと、買い物をしてくださるお客様は立派な金づる! 誠心誠意対応させていただきます!

 当社比120%の営業スマイルでお見送りすると、イルミネーションに輝く街灯から真っ暗な空へと視線を移す。
 今日の勤務時間は20時まで。朝8時から働いていたので本来は夕方までの勤務だったが、急に本部から応援要請がきて人が抜けてしまい、店長に勤務時間の延長を頼まれたのだ。残業手当は弾むとの言葉に私は1つ返事で快諾した。
 たくさん売れれば大入り袋という名のご褒美もゲットできるし、俄然モチベアップである。

「いらっしゃいませー! ケーキとご一緒にチキンはいかがですかー!」

 向かい側に入っているケーキ屋から出入りする人めがけて声をかける。チキン、チキンを買っておくれ。ポテトもあるよ!

「……お前、やっぱり働いてるのな」

 半ば呆れ気味と言うか慣れたと言わんばかりの声音で掛けられた言葉に私は怪訝な顔をしてしまう。

「あ、悠木君ではないか。なにしてんの? 現地妻とデート?」
「現地妻なんかいねーよ。冬期集中講座ゼミの帰り」
 
 おちゃめなジョークなのに、悠木君は現地妻という単語に嫌悪感を示していた。地雷なのであろうか。
 でもだってさ、クリスマスに悠木君ほどの男が独り歩きって逆に不自然なんだよ? 女の一人や二人引っ掛けてもおかしくないと思うのだ。

「じゃあ一人寂しくロンリークリスマスな悠木君、チキンを買ってくれまいか」
「ロンリー言うな。あーじゃあこれ1つ」

 パーティチキンの他に一人客用に包んだチキンもあったんだけど、悠木君はポテトとサラダ、チキン8個くらい入っている、一番お高いパーティセットを購入してくれた。同居しているお姉さんと食べるのだろうか。それとも一人で…?
 スマホ決済でお買い上げいただくと、私はパーティセットを袋に詰めた。

「お前遊んだりしないの? ずっとバイトしてんの?」
「バイトの稼ぎどきだもん。私は目的があって働いているからね」

 ふふんとドヤ顔すると、悠木君は苦笑いと心配を含んだ微妙な顔をしていた。

「……年明けの実力テストで勝負するって大勢の前で宣戦布告してたのに、大丈夫か?」

 あぁ、そのことを心配しているのか。バイトしている暇はないんじゃないのかっていいたいのね。

「ちゃんと勉強はしてるから心配ご無用だよ」

 そもそも喧嘩を売ってきた特進科の奴らのためにバイトを自粛するなんてアホくさいし、両立した上で勝負に勝ってやろうと思っているんだ。ご心配召されるな。

「お前、塾とか行ってないんだよな? 家庭教師も」
「独学だよ」
「どんな勉強法してんだよ」

 3人娘と同じ問いかけである。こっちは別に鬼気迫っている風じゃないけど、そんなに気になるのであろうか。

「悠木くんこそどうなの? ゼミはいつも通っているの?」
「いや、普段は独学。俺はバイトせずに勉強時間に費やしてるから、今ん所は問題ねーよ」

 ただ成績によっては塾か家庭教師に頼ることになるけどな、と言った悠木君に商品を手渡すと、彼は何を思ったのかファーストフード店の中に足を踏み入れていた。
 なんだろう他に欲しい物があるのかなとチラ見していると、温かい飲み物をお持ち帰りで購入していた。はぁ、あたたかいもの…寒いからバイト上がりに私もなにか飲もう。

「バイト頑張れよ」
「うん、チキン買ってくれてありがと」

 お店を出た後、彼は外で働く私に軽く手を上げると、そのままどこかに消えていった。



「森宮さん時間だよ。ごめんね急な無理言っちゃって」
「いいえーお給料期待していますんでー」

 上がりの時間を知らせてくれた店長にえへへーと笑顔を振りまくと、「はい、これ」と湯気を立てた紙コップを差し出された。

「あっコンポタ! いいんですか!?」
「頼まれたんだ。ほらものすごいイケメン男の子が森宮さんに渡してくださいって。お代はもう頂いているからね」

 その言葉に私は目を丸くした。
 悠木君ってば、自分の飲み物買うついでに…なんと粋なことをしてくれるんだ。
 受け取ったコンポタはやけどしないように加工された紙コップに入っているが、じんわりとぬくもりが指先に伝わってくる。冷え切っていた私の身体がホカホカ暖まっていく。

「彼氏? あの子ジャ○ーズにいそうだよね。僕、おじさんなのに接客するの緊張しちゃった」

 いい年した店長が悠木君を思い出して何やらテレテレしている。美しさには性別なんて関係ないもんね。

「いや、彼氏ではないです」
「そうなんだ? なんかめちゃくちゃいい雰囲気だったけどねー」

 なんかひとり楽しそうな店長はうっきうっきしながら「あっそうだ、シフトの確認してくれる?」と紙を差し出してきたので私はそれをまじまじ見て…一言。

「あ、店長この週の月火は休みにしてもらっていいですか。その代わり翌日からは出られるんで」
「いいよー試験か何か?」
「3学期はじめに実力テストがあって…ちょっと頑張ろうかなって」

 私がシフト訂正をお願いすると店長は書き直していた。
 なんか、勝負には適当に勝てばいいでしょ。って思っていたけど、今では絶対に負けたくない。
 あの日、私を庇って同じ特進科の人間と敵対した悠木君の期待を裏切るわけにはいくまい。

 普通科だからと馬鹿にされるのは終わりにする。いや、私が終わらせてみせる。
 普通科の境界線を乗り越えてピーピー言ってくるのをやめさせてやるんだ…!

「あつぅ!」

 私は勢いそのままにコンポタを呷り、舌を火傷してしまった。
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