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普通科の彼女と特進科の彼。
静止している流体に加わる圧力はどこでも等しい。
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桐生さんの言い方にむかっ腹を立てた私が彼女と対峙したその夜。連絡先交換した眼鏡からメッセージがきて、桐生礼奈は悪い子じゃないんだとフォローするようなことが書かれていたので、変な顔をしたキャラクターのスタンプで返信しておいた。
【なにこれ、やっぱり怒ってるの?】と更に返信が来たので、スタンプ連打して黙らせておく。返信が面倒なのはあったが、フォローされて納得するほど私は桐生さんを知らないし、仲良くもないので、できればあんまり関わりたくないと言うか。
今回のことで彼女の仮面が剥げたような気もしないこともないけど、そのせいか想像よりも面倒くさそうな人だなって印象に変わった。
スマホを充電器に接続すると私はさっさと布団に入った。本当なら勉強したいところだがちょっと調子が悪いので早めに寝る。…明日は校内マラソン大会なんだよなぁ。運動神経が鈍いわけじゃないけど、長距離走はどうも苦手だ。ただ苦しいだけだし何故あんな苦行を強いるのか。
身体に鉛が入り込んだように重い。うん、原因はわかってるんだけどしんどい。
□■□
大雨大雪でも降れば中止になるのになぁと思っていた当日は清々しいほどの晴天であった。ちくしょう。マラソン大会自体は午後から開催で、午前はしっかり授業があった。生徒たちの顔が怠そうなのはきっと午後のマラソンが嫌なんだろうなぁ。私も嫌だもん。
憂鬱だなぁと思っていてもマラソン大会は決行。その時はやってきてしまった。
マラソンコースは学外の決まったルートを走る。ショートカット防止で決まったチェックポイントでスタンプをもらわなくてはならない。女子からのスタートで始まったマラソン。
…昨日早めに寝たけどやっぱり怠い。毎月のことだけど今月は妙に重い。今朝もお母さんが顔色悪いからマラソン見学にしてもらう? と気にかけてくれたけど、それしたらバイトのせいだって先生に言われそうだったから断ったんだよね……
一緒に走ろうという友達には先に行ってもらって、私はスローペースで走っていた。みんなドベは嫌だからと飛ばして行ってしまったため、私は取り残された感じである。後からスタートした男子の先頭が次々に追い越していくが、早く走らなきゃと焦る余裕もなかった。目の前がグラグラして、身体が重だるくて仕方がない。
「森宮さん、どうした?」
トップ走者の中に3年の緑谷先輩がいたらしく、私の姿を見つけて声を掛けてきた。私は振り向いて普通に応対するのも億劫で、無表情で振り返った。
「顔色が死人みたいだぞ。体調が悪いのか」
死人って。
緑谷先輩は私の腕を掴んで引き止めてきたので私は走るのをやめる。あぁ、普通に立っているだけでもくらくらする。地面が粘土みたいに柔らかいや……
「おっと」
ぐらりとふらついた私をすかさず緑谷先輩が支えてくれた。
「すみません」
「マラソンは中断したほうがいい。体調悪いときは無理するな。おぶってやろう」
うん、私ももう無理かもって思う。朝よりも調子が悪くてこのままだと地面にスライディングしてしまいそうだ。
緑谷先輩の厚意に甘えて私はしゃがみこんだ彼の背中に乗ろうと腕を伸ばし…ぐいっと後方に引っ張られたと思ったら身体がふわりと宙に浮いた。
何事なのか。貧血でチカチカ白黒反転する視界のその先には学校イチの美男と名高い同級生のお顔。うわめっちゃ近いな。自慢できそうである。
「…ぅき、くん」
「俺が運びますんで緑谷先輩はマラソンを続けてください」
ひょーいと抱っこされた私はいわゆるお姫様抱っこされていた。普通ならそれに恥ずかしがるものなんだろうが、私としては今にも寝てしまいたい気分だったのでどうでも良かった。
「ふむ、嫉妬か」
「うるさいですよ先輩」
なんか緑谷先輩が心なしかワクワクした声でなにか言うのを悠木君が冷たく返していた。
「ったくもう…きついなら無理して走るな! 顔色めっちゃ悪いじゃねーか!」
意識が朦朧としている私に構わず悠木君はお説教を噛ましてきた。
だって仕方ないじゃん。バイトするからには学業はしっかりこなすってのが私の流儀で、ここで休んだら周りにバイトのせいにされる。私はそれが嫌だっただけなのだ。それにスローペースで走ればなんとか保つと思っていたのだ。結果途中リタイヤになってしまったけども。
私は悠木君によって運ばれている最中に意識をなくした。保健室で寝かせられてマラソン大会が終わった後に目を覚ますと、帰る準備を先生が整えてくれていたのでおとなしく帰宅しようとしたのだが、そこへ悠木君がスマホ片手に保健室にやってきた。
お見舞いに来てくれたのだろうかと思っていると、彼は私の荷物であるリュックサックを持ち上げて背負った。なんで私の荷物を背負うの…?
不思議に思った私が彼をぼんやり見上げると、彼は「タクシーがあと5分で来る」と言った。
「え…」
「今日はバイト入っていても休めよ。電話しにくいなら俺が代わりにしてやるから。お前は帰っておとなしく寝ていろ」
そう言って当然のように私をお姫様抱っこしようとしていたので私は拒否した。いま下校時間でしょう。目立って仕方ないでしょうが! もう今は意識がはっきりしているので流石に恥ずかしい。
私が拒絶したことに悠木君はなんかムッとしていたけど、私の手を引いて行くことにしたようだ。歩けないわけじゃないからそれもいらないんだけど…更に拒否したら彼の気分を損ねそうなので黙っておいた。
正門前にででーんと止められたタクシー。学校ではどうしても目立ってしまうその存在。学校の関係者でタクシーを呼びつけたのは誰だ? と生徒たちの興味津々な眼差しを浴びながら、私は悠木君に手を引かれてタクシーに乗り込む。うぅ、視線が刺さってくるよ……バスとか電車でも良かったんだけど……うぅん、ここで悠木君の気遣いを無下にしてはいけないな。
「あの、ありがとう」
てっきりここでお見送りしてくれるのだと思っていたのだが、彼は私に「もっと詰めて」と言ってきた。
詰める? なぜに?
言われるがまま奥のシートに座ると、なぜか悠木君が隣に座ってきた。
「住所は?」
「え、あ…」
これまた促されて私はタクシーの運転手さんに住所を告げた。車が動き始めると、悠木君に今日のバイト先の番号教えてと言われ、私がおとなしくスマホを見せると私が今日体調不良でバイトに出られないことをバイト先の人に連絡してくれた。
「なにからなにまで…申し訳ない」
「貧血なんだろ。仕方ねーよ。でも体調悪いのを押して行くのはよくない」
耳が痛い。
私が何も反論できずに黙りこむと、彼は私の頭をそっと撫でた。
「着いたら起こしてやるから寝ろ」
家まで送ってくれるのか。なんなのだ君は紳士か。
そんなんだから女の子に付きまとわれるのだよ君は。友達だとしても異性相手ならそこまでしなくてもいいんだよ。勘違いされちゃうんだから。
そう言ってやろうと思ったけど、私は彼の手のぬくもりに安心してそっと瞼を閉じた。
その後家に到着すると、おんぶして家の玄関まで送り届けてくれた。本当は自分の足で歩くつもりだったけど、気が抜けてしまったようで足元が覚束なかったため、悠木君がおんぶすると言ってくれたのだ。
悠木君はそこそこ背が高いけど、筋肉がついていない印象だった。だけどそんなことない。私を軽々おんぶできるくらい力持ちで、その背中は広かった。……男の子におんぶされたの初めてだから緊張して落ち着かない。
彼の首に抱きついて首元に頭を埋めると、なんだか不思議な気持ちになった。
「…森宮、ちょっと腕緩めて」
「ごめん…苦しかった?」
「いや、苦しいと言うか……」
言いにくそうにしている悠木君の耳が真っ赤に見えたのは、夕焼けのせいだろうか。
【なにこれ、やっぱり怒ってるの?】と更に返信が来たので、スタンプ連打して黙らせておく。返信が面倒なのはあったが、フォローされて納得するほど私は桐生さんを知らないし、仲良くもないので、できればあんまり関わりたくないと言うか。
今回のことで彼女の仮面が剥げたような気もしないこともないけど、そのせいか想像よりも面倒くさそうな人だなって印象に変わった。
スマホを充電器に接続すると私はさっさと布団に入った。本当なら勉強したいところだがちょっと調子が悪いので早めに寝る。…明日は校内マラソン大会なんだよなぁ。運動神経が鈍いわけじゃないけど、長距離走はどうも苦手だ。ただ苦しいだけだし何故あんな苦行を強いるのか。
身体に鉛が入り込んだように重い。うん、原因はわかってるんだけどしんどい。
□■□
大雨大雪でも降れば中止になるのになぁと思っていた当日は清々しいほどの晴天であった。ちくしょう。マラソン大会自体は午後から開催で、午前はしっかり授業があった。生徒たちの顔が怠そうなのはきっと午後のマラソンが嫌なんだろうなぁ。私も嫌だもん。
憂鬱だなぁと思っていてもマラソン大会は決行。その時はやってきてしまった。
マラソンコースは学外の決まったルートを走る。ショートカット防止で決まったチェックポイントでスタンプをもらわなくてはならない。女子からのスタートで始まったマラソン。
…昨日早めに寝たけどやっぱり怠い。毎月のことだけど今月は妙に重い。今朝もお母さんが顔色悪いからマラソン見学にしてもらう? と気にかけてくれたけど、それしたらバイトのせいだって先生に言われそうだったから断ったんだよね……
一緒に走ろうという友達には先に行ってもらって、私はスローペースで走っていた。みんなドベは嫌だからと飛ばして行ってしまったため、私は取り残された感じである。後からスタートした男子の先頭が次々に追い越していくが、早く走らなきゃと焦る余裕もなかった。目の前がグラグラして、身体が重だるくて仕方がない。
「森宮さん、どうした?」
トップ走者の中に3年の緑谷先輩がいたらしく、私の姿を見つけて声を掛けてきた。私は振り向いて普通に応対するのも億劫で、無表情で振り返った。
「顔色が死人みたいだぞ。体調が悪いのか」
死人って。
緑谷先輩は私の腕を掴んで引き止めてきたので私は走るのをやめる。あぁ、普通に立っているだけでもくらくらする。地面が粘土みたいに柔らかいや……
「おっと」
ぐらりとふらついた私をすかさず緑谷先輩が支えてくれた。
「すみません」
「マラソンは中断したほうがいい。体調悪いときは無理するな。おぶってやろう」
うん、私ももう無理かもって思う。朝よりも調子が悪くてこのままだと地面にスライディングしてしまいそうだ。
緑谷先輩の厚意に甘えて私はしゃがみこんだ彼の背中に乗ろうと腕を伸ばし…ぐいっと後方に引っ張られたと思ったら身体がふわりと宙に浮いた。
何事なのか。貧血でチカチカ白黒反転する視界のその先には学校イチの美男と名高い同級生のお顔。うわめっちゃ近いな。自慢できそうである。
「…ぅき、くん」
「俺が運びますんで緑谷先輩はマラソンを続けてください」
ひょーいと抱っこされた私はいわゆるお姫様抱っこされていた。普通ならそれに恥ずかしがるものなんだろうが、私としては今にも寝てしまいたい気分だったのでどうでも良かった。
「ふむ、嫉妬か」
「うるさいですよ先輩」
なんか緑谷先輩が心なしかワクワクした声でなにか言うのを悠木君が冷たく返していた。
「ったくもう…きついなら無理して走るな! 顔色めっちゃ悪いじゃねーか!」
意識が朦朧としている私に構わず悠木君はお説教を噛ましてきた。
だって仕方ないじゃん。バイトするからには学業はしっかりこなすってのが私の流儀で、ここで休んだら周りにバイトのせいにされる。私はそれが嫌だっただけなのだ。それにスローペースで走ればなんとか保つと思っていたのだ。結果途中リタイヤになってしまったけども。
私は悠木君によって運ばれている最中に意識をなくした。保健室で寝かせられてマラソン大会が終わった後に目を覚ますと、帰る準備を先生が整えてくれていたのでおとなしく帰宅しようとしたのだが、そこへ悠木君がスマホ片手に保健室にやってきた。
お見舞いに来てくれたのだろうかと思っていると、彼は私の荷物であるリュックサックを持ち上げて背負った。なんで私の荷物を背負うの…?
不思議に思った私が彼をぼんやり見上げると、彼は「タクシーがあと5分で来る」と言った。
「え…」
「今日はバイト入っていても休めよ。電話しにくいなら俺が代わりにしてやるから。お前は帰っておとなしく寝ていろ」
そう言って当然のように私をお姫様抱っこしようとしていたので私は拒否した。いま下校時間でしょう。目立って仕方ないでしょうが! もう今は意識がはっきりしているので流石に恥ずかしい。
私が拒絶したことに悠木君はなんかムッとしていたけど、私の手を引いて行くことにしたようだ。歩けないわけじゃないからそれもいらないんだけど…更に拒否したら彼の気分を損ねそうなので黙っておいた。
正門前にででーんと止められたタクシー。学校ではどうしても目立ってしまうその存在。学校の関係者でタクシーを呼びつけたのは誰だ? と生徒たちの興味津々な眼差しを浴びながら、私は悠木君に手を引かれてタクシーに乗り込む。うぅ、視線が刺さってくるよ……バスとか電車でも良かったんだけど……うぅん、ここで悠木君の気遣いを無下にしてはいけないな。
「あの、ありがとう」
てっきりここでお見送りしてくれるのだと思っていたのだが、彼は私に「もっと詰めて」と言ってきた。
詰める? なぜに?
言われるがまま奥のシートに座ると、なぜか悠木君が隣に座ってきた。
「住所は?」
「え、あ…」
これまた促されて私はタクシーの運転手さんに住所を告げた。車が動き始めると、悠木君に今日のバイト先の番号教えてと言われ、私がおとなしくスマホを見せると私が今日体調不良でバイトに出られないことをバイト先の人に連絡してくれた。
「なにからなにまで…申し訳ない」
「貧血なんだろ。仕方ねーよ。でも体調悪いのを押して行くのはよくない」
耳が痛い。
私が何も反論できずに黙りこむと、彼は私の頭をそっと撫でた。
「着いたら起こしてやるから寝ろ」
家まで送ってくれるのか。なんなのだ君は紳士か。
そんなんだから女の子に付きまとわれるのだよ君は。友達だとしても異性相手ならそこまでしなくてもいいんだよ。勘違いされちゃうんだから。
そう言ってやろうと思ったけど、私は彼の手のぬくもりに安心してそっと瞼を閉じた。
その後家に到着すると、おんぶして家の玄関まで送り届けてくれた。本当は自分の足で歩くつもりだったけど、気が抜けてしまったようで足元が覚束なかったため、悠木君がおんぶすると言ってくれたのだ。
悠木君はそこそこ背が高いけど、筋肉がついていない印象だった。だけどそんなことない。私を軽々おんぶできるくらい力持ちで、その背中は広かった。……男の子におんぶされたの初めてだから緊張して落ち着かない。
彼の首に抱きついて首元に頭を埋めると、なんだか不思議な気持ちになった。
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