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普通科の彼女と特進科の彼。
貧血には鉄分・タンパク質・ビタミンが多く含まれた食材を摂りましょう。
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家まで送ってくれた悠木君は私の部屋までおんぶして連れて行ってくれた。「早く寝ろよ」と言葉を残して帰っていく姿を見送ると、すぐにお布団に入った。
お腹の痛みに顔をしかめながら、おんぶしてくれた悠木君の背中の感触を思い出していた。お父さんの肩よりは細いけど、お母さんやお姉ちゃんより何倍もがっしりした肩。安定感があって、居心地が良かった。
──寝ようとは思っているんだけど、なんだか胸が落ち着かなくて眠れない。
仕事から帰ってきたお母さんは私がベッドで横になっているのに気づいて、やっぱり体調が悪かったんでしょう、と心配してきた。貧血でマラソンリタイヤして、同級生がタクシーで送ってくれたのだとお母さんに説明すると、お母さんがタクシー代金はいくらだったの? と聞き返してきたのでふと我に返る。
そう言えば私貧血でくらくらしていて代金のこと何も……
「お金出しておくから、送ってくれた子に明日返しておきなさい」
お母さんは私の反応で察したらしい。勉強机の上にお金が入った封筒を置かれた。学校からタクシーっていくら位かかるのかな…なにからなにまで悠木君には申し訳ないことをした。
□■□
早朝バイトを終えてから登校すると、何やらあちこちから視線が刺さっていた。その大体が女子である。気になるけど気にしていないふりをして特進科へ足を運ぶと、ちょうど特進科の朝課外と0時間目が終わったようだった。ひょこっと教室の出入り口から覗き込んだら中に居た眼鏡と目が合った。
なぜあんたが先に私の存在に気がつくのかね。
「森宮さーん心配したよー。メッセージ送ったけど未読のままだし」
「カバンからスマホ取り出してないから見てない」
昨日は早々に寝たし、朝はバイトだったし。時間を確認するのにちらっと見たけど、メッセージは企業からのものもあるから逐一確認しないタイプなのだ。
「おい森宮、今日はもう出てきて大丈夫なのか? 念の為休んだほうがいいんじゃ」
眼鏡の後ろから声をかけてきた彼の姿に私は自分らしくもなく動揺した。どきりと心臓が跳ねて声が上擦りそうになったけどいつも通りを心がける。
「大丈夫。それとタクシー代払う。これはお礼のバイト先のパン」
「いいよ、金は。親父に貰ったタクシー券使ったから実質無料だし」
腹減ったからパンだけは貰う、と悠木君は私の手からパン屋の袋だけを受け取った。さすがお金持ちの息子。お金にがめつくないな。金よりパンに関心があるみたいである。
私がじっと悠木君の顔を見上げているのに気づいたのか、悠木君がずずいと私の顔を覗き込んできた。
「顔色…やっぱり悪くないか?」
私よりも大きな手が両頬を包み込む。
顔近……私は息をするのを忘れた。
周りがこっちを見てヒソヒソ話をはじめたが、悠木君は私の下瞼をあっかんべぇしてきた。
……なんか、男女の距離感じゃない気がする。これはちょっと色々とまずいんじゃないだろうか。ただでさえいろんな伝説を持っている悠木君である。変な噂が立つのではないだろうか…
「悠木君、それわざとやってる?」
噂になって被害を被るのは私なのだが。君は私になにか恨みでもあるのかね。
「白いな。貧血にはレバー食え。レバー」
しかし悠木君は私の質問に答えることなく、私の頬をさすさす擦っていた。なんだこれ。
「姉ちゃん医学生なんだろ、貧血改善の秘訣でも聞いとけ」
至近距離から見つめられ、緊張で私は言葉が出てこなかった。
顔が近すぎませんか。変に動いたら唇がくっつきそうで動けない…
「ちょっとちょっとーふたりしていつの間に急接近したのー?」
眼鏡の冷やかす言葉に私は恥ずかしくなった。意図せずに顔が発熱してきて、それを見た悠木君が「おい、マジで大丈夫か?」と心配してくる。
眼鏡はニヤニヤと嫌な笑い方をしてる。眼鏡を割ってやりたい衝動に駆られた。お前のアイデンティティを破壊してやろうか…
「森宮さん、昨日はマラソン大会で倒れたと聞いたけどもう大丈夫なのかね」
廊下を歩いていた学年主任の先生に声をかけられたので、私は悠木君から素早く離れた。いかん、男女の距離じゃないと怒られてしまう。悠木君が表現の難しい複雑な顔をしていたのはこの際無視である。悠木君は女子との距離感を学んだほうがいい。
「やはり日頃のバイト漬けがこうして弊害を起こしているんじゃないのかな」
あ、そっちなの。てっきり男女交際はどうのと文句言われるのかと……
貧血をバイトのせいにはしたくないけど、何も言い返せない……まぁチクチク言われてもバイトはやめないし、スタンスは変えないけどね。
いつもなら煙に巻いて先生のお説教から逃げる私であるが、今日はいつもの調子が出ない。私が学年主任のお説教に黙って耳を傾けていると、私の前にずいっと割り込んでくる影。
「誰だって調子の悪いときはあるでしょ。何もかもバイトのせいにしなくていいと思いますよ?」
悠木君が割り込んできたことに先生は難しい顔をした。学年主任の先生は1学年全員の顔を憶えているわけじゃないと思うのだが、優秀な生徒の顔と名前は把握していそうだ。
「確かに森宮はこっちが心配になるくらいバイトしていますけど、学業をおろそかにしたことは一度もないでしょ。ならいいじゃないですか」
「先生は心配してだな」
「それは森宮だってわかってますよ。でも過度な期待をかけるのは森宮の負担になると思いません?」
意外である。悠木君が私を庇うとは。
私の調子が悪いから代わりに相手してくれているのかもしれないけどさ。
「…とにかく、体調管理はしっかりするように」
「…わかりました」
悠木君に押し負けた先生は一言言い残して撤退していった。それと同時に予鈴が鳴ったので、私は教室に戻ろうと足を進めてピタリと立ち止まる。
「悠木君、色々とありがと」
昨日から色々迷惑かけてしまっているので改めてお礼を告げると、悠木君はニッと笑っていた。
「お前が俺にしてくれたことと同じことを返しただけだよ」
彼の言葉に私は目を丸くする。同じこと……私なんかしたっけ?
それよりもだ、悠木君のいたずらに成功した子どもみたいな笑顔に見惚れてしまった私は自分の周りの時間が止まったような錯覚に陥った。
「森宮ー早く教室に入れー」
担任の先生に言われるまで、私はぼーっと廊下に突っ立っていたのである。
お腹の痛みに顔をしかめながら、おんぶしてくれた悠木君の背中の感触を思い出していた。お父さんの肩よりは細いけど、お母さんやお姉ちゃんより何倍もがっしりした肩。安定感があって、居心地が良かった。
──寝ようとは思っているんだけど、なんだか胸が落ち着かなくて眠れない。
仕事から帰ってきたお母さんは私がベッドで横になっているのに気づいて、やっぱり体調が悪かったんでしょう、と心配してきた。貧血でマラソンリタイヤして、同級生がタクシーで送ってくれたのだとお母さんに説明すると、お母さんがタクシー代金はいくらだったの? と聞き返してきたのでふと我に返る。
そう言えば私貧血でくらくらしていて代金のこと何も……
「お金出しておくから、送ってくれた子に明日返しておきなさい」
お母さんは私の反応で察したらしい。勉強机の上にお金が入った封筒を置かれた。学校からタクシーっていくら位かかるのかな…なにからなにまで悠木君には申し訳ないことをした。
□■□
早朝バイトを終えてから登校すると、何やらあちこちから視線が刺さっていた。その大体が女子である。気になるけど気にしていないふりをして特進科へ足を運ぶと、ちょうど特進科の朝課外と0時間目が終わったようだった。ひょこっと教室の出入り口から覗き込んだら中に居た眼鏡と目が合った。
なぜあんたが先に私の存在に気がつくのかね。
「森宮さーん心配したよー。メッセージ送ったけど未読のままだし」
「カバンからスマホ取り出してないから見てない」
昨日は早々に寝たし、朝はバイトだったし。時間を確認するのにちらっと見たけど、メッセージは企業からのものもあるから逐一確認しないタイプなのだ。
「おい森宮、今日はもう出てきて大丈夫なのか? 念の為休んだほうがいいんじゃ」
眼鏡の後ろから声をかけてきた彼の姿に私は自分らしくもなく動揺した。どきりと心臓が跳ねて声が上擦りそうになったけどいつも通りを心がける。
「大丈夫。それとタクシー代払う。これはお礼のバイト先のパン」
「いいよ、金は。親父に貰ったタクシー券使ったから実質無料だし」
腹減ったからパンだけは貰う、と悠木君は私の手からパン屋の袋だけを受け取った。さすがお金持ちの息子。お金にがめつくないな。金よりパンに関心があるみたいである。
私がじっと悠木君の顔を見上げているのに気づいたのか、悠木君がずずいと私の顔を覗き込んできた。
「顔色…やっぱり悪くないか?」
私よりも大きな手が両頬を包み込む。
顔近……私は息をするのを忘れた。
周りがこっちを見てヒソヒソ話をはじめたが、悠木君は私の下瞼をあっかんべぇしてきた。
……なんか、男女の距離感じゃない気がする。これはちょっと色々とまずいんじゃないだろうか。ただでさえいろんな伝説を持っている悠木君である。変な噂が立つのではないだろうか…
「悠木君、それわざとやってる?」
噂になって被害を被るのは私なのだが。君は私になにか恨みでもあるのかね。
「白いな。貧血にはレバー食え。レバー」
しかし悠木君は私の質問に答えることなく、私の頬をさすさす擦っていた。なんだこれ。
「姉ちゃん医学生なんだろ、貧血改善の秘訣でも聞いとけ」
至近距離から見つめられ、緊張で私は言葉が出てこなかった。
顔が近すぎませんか。変に動いたら唇がくっつきそうで動けない…
「ちょっとちょっとーふたりしていつの間に急接近したのー?」
眼鏡の冷やかす言葉に私は恥ずかしくなった。意図せずに顔が発熱してきて、それを見た悠木君が「おい、マジで大丈夫か?」と心配してくる。
眼鏡はニヤニヤと嫌な笑い方をしてる。眼鏡を割ってやりたい衝動に駆られた。お前のアイデンティティを破壊してやろうか…
「森宮さん、昨日はマラソン大会で倒れたと聞いたけどもう大丈夫なのかね」
廊下を歩いていた学年主任の先生に声をかけられたので、私は悠木君から素早く離れた。いかん、男女の距離じゃないと怒られてしまう。悠木君が表現の難しい複雑な顔をしていたのはこの際無視である。悠木君は女子との距離感を学んだほうがいい。
「やはり日頃のバイト漬けがこうして弊害を起こしているんじゃないのかな」
あ、そっちなの。てっきり男女交際はどうのと文句言われるのかと……
貧血をバイトのせいにはしたくないけど、何も言い返せない……まぁチクチク言われてもバイトはやめないし、スタンスは変えないけどね。
いつもなら煙に巻いて先生のお説教から逃げる私であるが、今日はいつもの調子が出ない。私が学年主任のお説教に黙って耳を傾けていると、私の前にずいっと割り込んでくる影。
「誰だって調子の悪いときはあるでしょ。何もかもバイトのせいにしなくていいと思いますよ?」
悠木君が割り込んできたことに先生は難しい顔をした。学年主任の先生は1学年全員の顔を憶えているわけじゃないと思うのだが、優秀な生徒の顔と名前は把握していそうだ。
「確かに森宮はこっちが心配になるくらいバイトしていますけど、学業をおろそかにしたことは一度もないでしょ。ならいいじゃないですか」
「先生は心配してだな」
「それは森宮だってわかってますよ。でも過度な期待をかけるのは森宮の負担になると思いません?」
意外である。悠木君が私を庇うとは。
私の調子が悪いから代わりに相手してくれているのかもしれないけどさ。
「…とにかく、体調管理はしっかりするように」
「…わかりました」
悠木君に押し負けた先生は一言言い残して撤退していった。それと同時に予鈴が鳴ったので、私は教室に戻ろうと足を進めてピタリと立ち止まる。
「悠木君、色々とありがと」
昨日から色々迷惑かけてしまっているので改めてお礼を告げると、悠木君はニッと笑っていた。
「お前が俺にしてくれたことと同じことを返しただけだよ」
彼の言葉に私は目を丸くする。同じこと……私なんかしたっけ?
それよりもだ、悠木君のいたずらに成功した子どもみたいな笑顔に見惚れてしまった私は自分の周りの時間が止まったような錯覚に陥った。
「森宮ー早く教室に入れー」
担任の先生に言われるまで、私はぼーっと廊下に突っ立っていたのである。
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