バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

文字の大きさ
27 / 79
普通科の彼女と特進科の彼。

ポイントの有効期限が迫っています!

しおりを挟む
 私がコンビニの早朝バイトに精を出していると、このコンビニがテナントとして入っている高級マンションの敷地内で若い女性同士が口論していると、同じバイトの大学生が教えてくれた。

「警察呼びます?」
「殺傷沙汰にはならなそうだから放っておきな」

 こんな朝っぱらから…痴情のもつれだろうかと他人事のように受け取っていると、その直後に来客のチャイムが鳴り響いた。

「いらっしゃいませー」

 お弁当の品出しをする手は止めずにいらっしゃいませの挨拶をしていると、「はよ」とお客様から声をかけられた。やけに親しげなお客だなと思えば、相手は悠木君であった。

「あれおはよう。早いね」
「お前に言われたくないよ」

 休日の早朝なのに早起きだねと褒めてあげたのに。今日は日曜だから学校もないだろうにどうしたの。目が覚めちゃったの? 見る限り今さっきまで寝てました風な出で立ちだし。
 悠木君は寝癖のある髪をワシャワシャかきながら、おにぎりコーナーを物色していた。まだ眠そうな顔している。おにぎりは逃げないから寝ていたらいいのに。品出ししながらそんなことを考えていると、また自動ドアが来客のチャイムを鳴らした。

「いら…」
「ちょっと夏生君、いきなり居なくならないで心配したでしょ!」

 挨拶をしようとしたら遮られてしまった。
 その人物はヒールのある靴をカツカツ鳴らしながら悠木君に近づくとなにやらぷんすこ怒っていた。腰まである黒髪はブリーチとか一切しておらず艶やかで美しい。黒髪は一見するともっさりと重く見えるはずなんだが、彼女の場合自然な美しさとして合っている。背が高くてスレンダーな女性を見た私は呆然とした。……うわ、ものすっごい美人…モデルかなにかだろうか。

「朝飯買おうと思って」
「だからって私を置いて行くことないでしょうが!」

 悠木君と親しそうなその女性は腕を組んで不満を訴えていた。
 ……早朝から女性と一緒……私はちらりと悠木君をみた。所謂お泊りデートというやつか…うわぁ高校生のくせに大胆……
 私が見ているのに気づいた悠木君は私の表情を見て考えていることを読んだみたいだ。

「違うからな? そんな目で俺を見るな」
「さてはエスパーだな君?」

 表情一つで私の心を読むとは。大したものだ。

「これは俺の姉ちゃんだよ。……どっかの知らない女がオートロック突破して玄関前までやってきたんだよ。それで姉ちゃんが追っ払ってくれたってわけ」

 お姉さん…? あぁ、一緒に住んでるお姉さんか。なんだてっきり…勝手に失望していたが、勘違いだったか。ごめんよ。
 早朝にインターホンが鳴って、寝ぼけつつ応対すれば知らない女が玄関カメラに写っていてそこからが修羅場だったとか。日中であれば一階のエントラス前にコンシェルジュがいるけど、夜~早朝は監視カメラがあるだけなので簡単に侵入を許してしまったようだ。
 お引き取り願ったけど「朝ごはんを作ってあげるから開けて」と言われて恐怖で固まっていたところにお姉さんが起きてきて、代わりに追い払ってくれたんだって。大学生バイトが目撃したのはお姉さんとストーカーが口論している姿だったのだな。

「…いや、警察呼びなよ…」

 普通にストーカー案件じゃないか…と言ったけど、以前被害を訴えたときに男だからと不当な扱いを受けたので警察とかそういうのは頼りにならないと返ってきた。
 そう言えば生徒会役選のとき結構冷たくあしらわれていたよね、先生にも警察にも。彼も難儀だな。

「悠木君は定期的に女に絡まれる病気でも患わっているのかね?」
「好きで絡まれてるんじゃねぇし…」

 なんか悠木君って少し女の子に冷たいなぁって思っていたけど、いつもこんな目に遭っているから苦手になりつつあるのかな…お姉さんが一緒に住んでてよかったね…。

「お前は? バイトとかで絡まれねぇの?」

 その質問に私は目を丸くした。私が女子高生ってことで絡もうとするお客がいるから、私は壁を作って接客するようにしているもの。今のところはなんともない。

「特には。仕事中はスイッチ入ってるから、隙がないのかもしれないね。私は悠木君みたいに美形というわけじゃないし、そうでもないよ」

 そもそもなんでそこで私のことになるのか。今は悠木君のほうが深刻な状況だと思うんだ。お姉さんが追い払ってくれたからいいけど、もう二度と来ないって保証はないんだぞ。そういう一方的な恋愛感情が憎悪に変わって行くって話を聞くし、ストーカーするような思い込みの激しいタイプは普通の会話ができないから後で面倒なことになるのでは。

「悠木君、ご両親に話してみたら? マンションだけのセキュリティじゃ危険だから警備会社に契約してもらったりとか」
「大げさにしたくないからいいよそんなん」

 ご両親と不仲ってわけじゃなさそうだから相談してみても良さそうなのに、悠木君はそこまでしなくていいという。彼がそれでいいなら私もそれ以上は言わないが…

「あの気難しい弟と仲良さそうな女の子……変な女にばかり絡まれて女嫌いの気もあった夏生君に!」

 私と悠木君が会話しているのをそばで見ていた悠木君のお姉さんが何やら慄いていた。その様子が異様だったので私が彼女を見上げるとぱっちり視線が合った。お姉さんは私をまじまじと見つめ、なんだか悲しそうな顔をしていた。

「磨けば光るタイプだけど、あまりにも女子力がなさすぎる…」

 人のことまじまじ見た挙げ句に勝手にがっかりされたんですが。失礼な。
 ……もしかして、私達の関係を勘違いしているのかな。確かに悠木君とは仲良いほうだけど、それは友人としてである。それにそんな誤解、悠木君に失礼である。

「おい姉ちゃん、そんなことないだろ、森宮は」
「私達別に付き合ってませんよ」

 悠木君の発言と被ってしまった。悠木君のことだ、多分私を傷つけぬよう誤解を解こうとしていたんだろう。
 お姉さんの認識は間違っている。だからがっかりする必要はないと言おうとしたのだが、お姉さんは先程よりも愕然としていた。

「ありえないでしょう! 私の弟の夏生君よ!? イケメンでしょう! 彼女になりたいとか思わないの!?」

 悲鳴混じりに反論されて私はビクッとした。
 なんなの、化粧っ気のない私にがっかりしていたくせになんなのだ。お姉さんいわく自慢の弟なのだろう。私のような女子力のない女が彼女じゃなかったと安心すればいいのに、どうして責めるような言い方をするのか。

「いやいや、付き合うって話がありえない。私と悠木君は友達ですってば」

 誰が見てもそう思うに違いない。
 私はバイトと学業で手一杯なんだ。恋愛する余裕はないし、悠木君のような最上級な男子を相手にするなんてとてもじゃないけど無理である。私だってその辺わきまえてるぞ。

「ねぇ悠木君、ありえないよね」

 私は横にいる悠木君に同意を求めると、彼の顔色が半紙のように真っ白になっていた。

「えっ!? どうしたの、気分悪いの!?」
「……大丈夫…なんでもねぇ…」

 悠木君はフラフラしながらレジにおにぎり2つを持っていった。

「ポイントたまってるけど使う?」
「うぅん…いい……」

 レジ応対している間も悠木君は心そこにあらずだった。その後ろでオロオロしたお姉さんが「夏生君、心を強く持って!」と声をかけているけど、その声も届いていないようだ。

「ありがとうございましたー」

 マニュアル通りお見送りしたけど、最後まで悠木君は様子がおかしかった。
 ……今になってストーカーの恐怖がぶり返したのだろうか。まさか店の周りにストーカー女が出現したとか? それが店の中を覗き込んでいるのに気づいて怯えていたとか。
 私は店の中から外を観察してみたが怪しそうな女は居なかった。
 大丈夫かな、悠木君。
 心配だったけど、悠木君の連絡先知らないし……月曜にでも声をかけに行こうかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?

中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。 副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。 やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。 出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。 慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。 誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。 ……嘘でしょ、団長!? かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に! 本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け! ※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

処理中です...