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普通科の彼女と特進科の彼。
人にあなづらるるもの。築土のくづれ。あまり心よしと人にしられぬる人。
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最近、特進科の3人組が微妙な空気を纏っていると言ったのは誰だっただろうか。あの人たちみんな生徒会役員だし、3人中2人が目立つもんで嫌でも噂になっていた。
私は違うクラスだし、そんなに接点はないのだが……いつも一緒の彼らの様子がおかしいのは察していた。ちょうど先日卒業式があったんだけど、その時も妙にギクシャクしてて、いうなれば桐生礼奈が2人を…じゃなく、眼鏡の方を避けていると言えばわかるだろうか。
『三角関係に変化かな?』
『緑谷先輩は大学で彼女作ったほうがいいですよ。本当』
卒業生の緑谷先輩は傍観者気取って他人の恋愛模様を見て楽しんでいたが、その趣味はいいとは言えない。恋愛に興味があるなら自分自身が恋愛をするべきだと思うよ。でないと実際に恋愛できなくなってしまうと思う。彼氏いない私が言うのはなんだけど。
『それよりも森宮さんはいいのか? 悠木とは』
『三角関係に私を混ぜないでくださいよ。私と悠木君は友達です』
『…俺はそうは思わないけどなぁ…』
……という会話を卒業式に交わしたのも懐かしい思い出である。
私が見るからに、悠木君は2人に挟まれて気を遣っている風にも見える。彼に関しては桐生礼奈とも眼鏡とも普通に会話しているし…
やっぱりあれかな。バレンタインの日の……
「森宮さん」
私がぼんやり考え事をしながら掲示物を眺めていると、ぬっと目の前に中年のおっさんが現れた。驚いて声を出さなかったのを誰か褒めてほしい。
「学年末テスト普通科一位おめでとう」
「……ありがとうございます」
いつの間に忍び寄っていたんだ学年主任の富永先生よ。びっくりしたなぁ。
「それでだね。2学年から特進科に進まないか? 今なら間に合う。それには試験を受けてもらう必要があるが…」
「進みません。バイト行きますね」
富永先生の勧誘にはきっぱりお断りした。先生方も諦めが悪いなぁ。何度言われても私は普通科を貫くぞ。
それより私よりも、特進科から普通科落ちの生徒がウツっぽくなってるからそっちのケアしてあげたら。
この一年間の集大成と言える学年末テストは特進科クラスの生徒にとっては大きな勝負となる。基準点に達しなかった生徒たちは普通科にランクダウンするのだ。
まぁ特進科の授業についていけないのだ、そうなってしまうのも仕方のないことだろう。…だけど特進科の生徒であるとプライドを持っている彼らはまるで島流しを言い渡されたみたいに打ちひしがれている。そっちのサポートしてあげたほうがいいよ。非行とかされたらかなわんし。
私が富永先生から逃げていると、「森宮さぁん!」と3人娘から呼び止められた。
「お姉さんにどうぞよろしく!」
彼女たちは晴れ晴れとした笑顔だった。どうやら島流し回避できたらしい。良かったね。お姉ちゃんの秘伝の書は活躍中のようである。
学年末テストが終わった後は補習の生徒と島流しの生徒以外はのんびり終業式までの時間を過ごすことになる。終業式までの期間中は次学年の学習内容をのさわりをサラッと習う程度の授業が続くが、補習の予定がない私は余裕である。
今日もバイトに精を出す気満々で階段を駆け下りていった。
「──あぁ、桐生さん、ちょっといいかな」
「はい?」
階段を降りて下駄箱に向かっていると、女子生徒がスーツ姿の男性に声をかけられていた。……あれは確か、3月の頭に全校集会で紹介されていた教育実習生だ。たしか特進科担当してるんだったな。なんかチャラチャラしてそうな大学生だな。スーツ着てる姿とかまんまホストじゃないの。教育実習なら髪を黒くしてこいよ……
一方の普通科担当の教育実習生は見るからに真面目で気弱そうな大学生だった。最初はガチガチに緊張していたけど、最近は授業にも慣れてきたようで、生徒から質問されたらちゃんと返してくれるし、授業で使うプリントもなかなかわかり易かった。毎日忙しくしているようで、授業以外は職員室でずっとお仕事をしているのであまり遭遇しない。
それに比べて特進科の方の教育実習生は昼間っからぷらぷらして、生徒とおしゃべりしてる。彼が事務仕事をしている姿を見たことがない。学生たちが帰った後に居残りして片付けてるのかな…どうでもいいけど。
桐生礼奈が教育実習生に何かを頼まれている。教育実習生が生徒に頼むこととは…?
まぁいいか私には関係ない。私は興味をなくすと踵を返してその場を離れた。
■□■
「失礼します、1年1組森宮です」
その日は日直だったので、提出する課題をクラスメイト全員からかき集め(終わっていないと泣き声を漏らすヤツのも奪ってきた)昼休みに職員室へ訪れた。パソコンに向き合ってだかだかキーボードを打ち込む教育実習の飯田先生に声をかける。
「飯田先生、今日提出分の課題ここに置いておきますね」
「あっありがとう」
飯田先生は一旦手を止めてへにゃりとした笑顔を向けてきた。その顔は疲労が滲んで見える。先生はまだ大学生なのに、くたびれたサラリーマンに見えてしまう。
忙しそうだな、こんなに仕事を抱えて。教育実習生ってこんなに仕事があるのか……。机の端に積まれた提出物らしきものをちらりと見た私は一旦視線を外し、もう一度見た。
【1年A組 悠木夏生】
見覚えのある名が記名されているそれは……
「先生、これは特進科の提出物では…?」
なんで普通科担当の飯田先生の机に特進科のプリントが置いてるの? そんな疑問が口から飛び出してきたのだが、飯田先生は諦めたように苦笑いを浮かべていた。
「同じ教育実習の手塩先生がね、特進科の仕事が大変だ、終わらないっていうから…」
それ、騙されてるんじゃないでしょうかね。
先生が今パソコンで打ち込んでるの、よく見たら特進科の科目だし。普通科よりもカリキュラムも多く、内容も濃い特進科。確かに受け持ったら大変だろうが、受け持ったからには自分の仕事は自分で片付けるものだと思うのですが…。手に余る部分は特進科の先生に助けを求めるなりすればいいだけだし…教育実習なんだしさ。
「あっ森宮さんちょうどいいところに」
目ざとい学年主任が私を見つけるなり、飽きもせずまぁた不毛な交渉をしようとしていたので、話をそらすために私はチクってやった。
「富永先生、特進科の教育実習生が飯田先生に仕事振ってサボってますよ」
「え?」
「も、森宮さん!」
慌てた声が聞こえたが、私は無視した。
私の報告に怪訝な顔をした富永先生は飯田先生のデスクを覗き込み、渋い表情を浮かべていた。
「…道理で。要領がいいのかと思っていたがとんだ思い違いだったな」
関わったことがないので人柄までは存じ上げないが、手塩先生の実習態度がいいとは言えないよね。今ってモンペとかブラック環境とかいろんな要因で教師志望の人が少ないから簡単に教師になれるとか言われているけど、流石に舐めた態度すぎると思うのだ。
お人好しな飯田先生もちゃんと断る勇気を持つべきだと思うが、一番悪いのは手塩先生だろう。
富永先生は後で本人を注意しておくと言った後に、飯田先生も注意していた。そんなことしても点数にはならないぞと言われて凹んでいた。これに関しては富永先生の言うとおりである。お人好しも大概にしないと自分の首を絞めるだけだぞ。
それにしても職員室にもいない手塩先生とやらは今どこで何をしているんだろうか。
私は違うクラスだし、そんなに接点はないのだが……いつも一緒の彼らの様子がおかしいのは察していた。ちょうど先日卒業式があったんだけど、その時も妙にギクシャクしてて、いうなれば桐生礼奈が2人を…じゃなく、眼鏡の方を避けていると言えばわかるだろうか。
『三角関係に変化かな?』
『緑谷先輩は大学で彼女作ったほうがいいですよ。本当』
卒業生の緑谷先輩は傍観者気取って他人の恋愛模様を見て楽しんでいたが、その趣味はいいとは言えない。恋愛に興味があるなら自分自身が恋愛をするべきだと思うよ。でないと実際に恋愛できなくなってしまうと思う。彼氏いない私が言うのはなんだけど。
『それよりも森宮さんはいいのか? 悠木とは』
『三角関係に私を混ぜないでくださいよ。私と悠木君は友達です』
『…俺はそうは思わないけどなぁ…』
……という会話を卒業式に交わしたのも懐かしい思い出である。
私が見るからに、悠木君は2人に挟まれて気を遣っている風にも見える。彼に関しては桐生礼奈とも眼鏡とも普通に会話しているし…
やっぱりあれかな。バレンタインの日の……
「森宮さん」
私がぼんやり考え事をしながら掲示物を眺めていると、ぬっと目の前に中年のおっさんが現れた。驚いて声を出さなかったのを誰か褒めてほしい。
「学年末テスト普通科一位おめでとう」
「……ありがとうございます」
いつの間に忍び寄っていたんだ学年主任の富永先生よ。びっくりしたなぁ。
「それでだね。2学年から特進科に進まないか? 今なら間に合う。それには試験を受けてもらう必要があるが…」
「進みません。バイト行きますね」
富永先生の勧誘にはきっぱりお断りした。先生方も諦めが悪いなぁ。何度言われても私は普通科を貫くぞ。
それより私よりも、特進科から普通科落ちの生徒がウツっぽくなってるからそっちのケアしてあげたら。
この一年間の集大成と言える学年末テストは特進科クラスの生徒にとっては大きな勝負となる。基準点に達しなかった生徒たちは普通科にランクダウンするのだ。
まぁ特進科の授業についていけないのだ、そうなってしまうのも仕方のないことだろう。…だけど特進科の生徒であるとプライドを持っている彼らはまるで島流しを言い渡されたみたいに打ちひしがれている。そっちのサポートしてあげたほうがいいよ。非行とかされたらかなわんし。
私が富永先生から逃げていると、「森宮さぁん!」と3人娘から呼び止められた。
「お姉さんにどうぞよろしく!」
彼女たちは晴れ晴れとした笑顔だった。どうやら島流し回避できたらしい。良かったね。お姉ちゃんの秘伝の書は活躍中のようである。
学年末テストが終わった後は補習の生徒と島流しの生徒以外はのんびり終業式までの時間を過ごすことになる。終業式までの期間中は次学年の学習内容をのさわりをサラッと習う程度の授業が続くが、補習の予定がない私は余裕である。
今日もバイトに精を出す気満々で階段を駆け下りていった。
「──あぁ、桐生さん、ちょっといいかな」
「はい?」
階段を降りて下駄箱に向かっていると、女子生徒がスーツ姿の男性に声をかけられていた。……あれは確か、3月の頭に全校集会で紹介されていた教育実習生だ。たしか特進科担当してるんだったな。なんかチャラチャラしてそうな大学生だな。スーツ着てる姿とかまんまホストじゃないの。教育実習なら髪を黒くしてこいよ……
一方の普通科担当の教育実習生は見るからに真面目で気弱そうな大学生だった。最初はガチガチに緊張していたけど、最近は授業にも慣れてきたようで、生徒から質問されたらちゃんと返してくれるし、授業で使うプリントもなかなかわかり易かった。毎日忙しくしているようで、授業以外は職員室でずっとお仕事をしているのであまり遭遇しない。
それに比べて特進科の方の教育実習生は昼間っからぷらぷらして、生徒とおしゃべりしてる。彼が事務仕事をしている姿を見たことがない。学生たちが帰った後に居残りして片付けてるのかな…どうでもいいけど。
桐生礼奈が教育実習生に何かを頼まれている。教育実習生が生徒に頼むこととは…?
まぁいいか私には関係ない。私は興味をなくすと踵を返してその場を離れた。
■□■
「失礼します、1年1組森宮です」
その日は日直だったので、提出する課題をクラスメイト全員からかき集め(終わっていないと泣き声を漏らすヤツのも奪ってきた)昼休みに職員室へ訪れた。パソコンに向き合ってだかだかキーボードを打ち込む教育実習の飯田先生に声をかける。
「飯田先生、今日提出分の課題ここに置いておきますね」
「あっありがとう」
飯田先生は一旦手を止めてへにゃりとした笑顔を向けてきた。その顔は疲労が滲んで見える。先生はまだ大学生なのに、くたびれたサラリーマンに見えてしまう。
忙しそうだな、こんなに仕事を抱えて。教育実習生ってこんなに仕事があるのか……。机の端に積まれた提出物らしきものをちらりと見た私は一旦視線を外し、もう一度見た。
【1年A組 悠木夏生】
見覚えのある名が記名されているそれは……
「先生、これは特進科の提出物では…?」
なんで普通科担当の飯田先生の机に特進科のプリントが置いてるの? そんな疑問が口から飛び出してきたのだが、飯田先生は諦めたように苦笑いを浮かべていた。
「同じ教育実習の手塩先生がね、特進科の仕事が大変だ、終わらないっていうから…」
それ、騙されてるんじゃないでしょうかね。
先生が今パソコンで打ち込んでるの、よく見たら特進科の科目だし。普通科よりもカリキュラムも多く、内容も濃い特進科。確かに受け持ったら大変だろうが、受け持ったからには自分の仕事は自分で片付けるものだと思うのですが…。手に余る部分は特進科の先生に助けを求めるなりすればいいだけだし…教育実習なんだしさ。
「あっ森宮さんちょうどいいところに」
目ざとい学年主任が私を見つけるなり、飽きもせずまぁた不毛な交渉をしようとしていたので、話をそらすために私はチクってやった。
「富永先生、特進科の教育実習生が飯田先生に仕事振ってサボってますよ」
「え?」
「も、森宮さん!」
慌てた声が聞こえたが、私は無視した。
私の報告に怪訝な顔をした富永先生は飯田先生のデスクを覗き込み、渋い表情を浮かべていた。
「…道理で。要領がいいのかと思っていたがとんだ思い違いだったな」
関わったことがないので人柄までは存じ上げないが、手塩先生の実習態度がいいとは言えないよね。今ってモンペとかブラック環境とかいろんな要因で教師志望の人が少ないから簡単に教師になれるとか言われているけど、流石に舐めた態度すぎると思うのだ。
お人好しな飯田先生もちゃんと断る勇気を持つべきだと思うが、一番悪いのは手塩先生だろう。
富永先生は後で本人を注意しておくと言った後に、飯田先生も注意していた。そんなことしても点数にはならないぞと言われて凹んでいた。これに関しては富永先生の言うとおりである。お人好しも大概にしないと自分の首を絞めるだけだぞ。
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