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普通科の彼女と特進科の彼。
お触りは禁止ですよ。
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教育実習の日程は約3週間。
教師志望であれば、その間慣れないながらも必死に実習をこなすだろうに、あの手塩先生とやらは何を考えているのだろう。学年主任の富永先生が個人的に注意するとは言っていたけどどうなることやら……
私は日直の仕事を終えたので空き時間はお昼寝に当てようといつものお昼寝スポットに出向いた。4階の社会科準備室は今では物置で、私が占拠しているものである。
それなのに、今日は電気が付いていた。
なぜだろう…ドアの隙間から覗き込むとそこには人影が。
どこのどいつだ。私のお昼寝部屋に侵入しているとは……
「あの、先生…これは私が手伝う必要のあるものなのでしょうか」
…中から話し声が聞こえた。私は目を細める。うーむ。もしかすると中にいるのは桐生礼奈なのかな? 角度的に顔がしっかり確認できない…
中ではソファに座った桐生さんがプリントをホチキスでとめる作業をしているようだった。そして資料室の中にいたもう一人の人物はデスクに着いており、立ち上がった気配がした。その拍子に錆びた椅子がギィ…と音を立てる。
「桐生さんはとても優秀だと聞いていたからね、迷惑だったかな?」
その問いかけに桐生さんは一瞬だけ沈黙して口を開いた。
「……あの…私にも生徒会の仕事や学業とかがあるので、こう頻繁に手伝いを任されると…差し障りがあるといいますか…」
この先生……ホストみたいな教育実習生は生徒にまで仕事を任せていたのか…しょうもないな…! あまつさえ私のお昼寝スポットで、密室でとか下心しか感じさせないよね!
私は呆れを隠せなかった。
ホストのような手塩先生は、桐生さんが座っているソファの隣に馴れ馴れしく座ると、ぴったりくっついていた。桐生さんの表情に怯えが見え隠れする。それを察しているのかどうかは知らないが、桐生さんの手を包み込み、なにやらいやらしく撫でさすっている……あかん、アウトや。
私はすでに構えていたスマホで撮影しながら、扉に手をかけた。
「失礼しまーっす!!」
私は引き戸を力いっぱい開けた。その反動でぴしゃぁーんと大きな音を立ててしまったがまぁいいだろう。
突然の乱入に手塩先生も桐生さんも目を丸くして固まっていた。
「特進科教育実習の手塩先生、はじめまして、私は普通科1年1組出席番号38番森宮美玖です。質問よろしいですか!」
私はわざと4階全体にびりびり響きそうな声を張り上げた。
見るからに桐生礼奈に下心抱いてあわよくば恋愛関係にもつれこもうとしているぞこの教育実習生。…駄目だぞ!! 立場を弁え給え!
ポカーンとしていた手塩先生だったが、私が邪魔しに来たと気づいたのだろう。鋭い視線で睨みつけてきたではないか。
「……先生は特進科の担当だから、普通科の実習生に聞いてくれる?」
馬鹿だなぁ、勉強の質問とは言っていないでしょう?
はやく出て行けと言いたそうな手塩先生に対して私はにやりと笑い返す。
「飯田先生はお忙しそうなので。飯田先生は普通科の実習担当のはずなのに、何故か特進科の仕事をなさっています。…なぜでしょうね?」
言外におめーは何してんだよと質問しているんだ。馬鹿じゃないならわかるよね?
「なぜ、特進科の授業で使うプリントを飯田先生が作ってるんだろうなぁーと思っていたら…手塩先生は手伝いとかこつけて女子生徒を囲っていたんですか」
「…口の聞き方に気をつけなさい」
「間違ってないでしょ? 私撮影したんですよ? 桐生さんの手を握っている瞬間を」
私がスマホを掲げると、相手はギクッとした顔をしていた。
「学校SNSに流してもいいけど、そしたら桐生さんに誹謗中傷行きそうだから、学年主任の先生だけに報告しておきますね」
ちゃんと保存しておこう。決定的瞬間。物的証拠は大切。
「あ、それと桐生さん」
「え?」
「男と2人きりになったら変な誤解を受けるよ。これ悠木君が言ってた」
彼ああ見えて口うるさいところあるから、後で怒られちゃうかもしれないよ。手伝いするなら、できれば人目のある場所でしたほうがいいと思う。もしくは友達を連れてくるとか。
「この、クソガキ…!」
女子高生だと思って舐め腐っていたのだろう。突然乱入した私の行動にブチギレた手塩先生が私に飛びかかろうとしていた。
なんだ、やるか! と私がファイティングポーズを取ると、ぐわっと横から伸びてきた腕に抱きこまれた。
「!?」
「何すんだ離せ!」
抱きこまれた腕の中で手塩がぎゃわぎゃわ騒いでいる声が聞こえた。なんだ、何が起きたんだ。
「…ったくもー…お前は馬鹿か!」
至近距離から聞こえてきた声でその腕の持ち主が誰かわかった。
「…悠木君?」
「何してんだよ、あぶねーだろうが!」
私が呼びかけると、悠木君は腕を解いた。そしてとどめとばかりに私のおでこをピシャリと叩いてきた。
「いたっ」
「このバカタレ! 戦おうとすんじゃねーよ!」
「暴力に走ろうとしていたのはあっちだよ! なんで私を叱るのさ!」
私は君たちのお姫様を助けてあげようとしたんだよ? 今はお礼しか受け付けないからね。お説教なんてノーサンキューだ!
ほっぺたを指で掴まれてぐいぐい左右に伸ばされていた私は悠木君とワチャワチャしていたため気づくのに遅れた。
資料室の中では尻餅ついている手塩と、眼鏡に抱きついて泣いている桐生礼奈の姿に。
あれ、あれれ?
私は視線を目の前の悠木君に戻す。
「反省してんのか、森宮」
「にゃんでよ!」
なぜ私が反省せねばならんのか。それよりも眼鏡と桐生礼奈が熱く抱き合ってるよ、そのままにしていいの?
お姫様の桐生礼奈を救出に来たんでしよ? 手柄をすべて眼鏡に奪われるぞ。
同じく4階にある生徒会室で仕事していた悠木君たちは私の声に驚いて飛び出してきたんだって。その後学年主任の富永先生にしっかり報告した。流石に見過ごせないからね。
私は人助けをしたというのに、悠木君に叱られ、富永先生には注意された。
納得いかないのだが。ここはよくやったと私を持ち上げる場面だと思うのだ。
桐生礼奈はグズグズ泣いて話できる状態ではなく、眼鏡の胸から離れないし、眼鏡はらしくもなくオロオロしているし。説教に反論しようとしたら悠木君がほっぺ引っ張ってくるし。
何なのだこれは。
色々と解せぬ。
□■□
バイトから登校してからの、束の間の朝寝をしていると、肩をポンポン叩かれた。
寝ぼけ眼で顔を上げると、そこにはうちのクラスにはいないはずの人物が立っていた。
「…ここ、普通科だけど」
私のツッコミに相手は余裕の笑みを浮かべている。
「はいこれあげる」
渡された物に私は怪訝な顔をしてしまう。
「私の誕生日は先月だけど?」
「あらそうなの、遅くなったけど誕生日おめでとう」
それ以前に誕生日プレゼント貰うほど親しくなった覚えもないけどね。
机に置かれた紙袋は百貨店に入っている輸入化粧品店のものだ。ボタニカルやらなんやらの高そうなスキンケア、ヘアケア商品が販売されてる…
「私、借りを残したくないのよ」
桐生礼奈は言った。
借り? なんのことだと考えて、昨日のことかと思い出す。理不尽に説教され、ほっぺを引っ張られた苦い思い出が蘇ってくる……
「こんな高そうな物もらえない。そもそもお礼もらうためにしたんじゃないし」
私のお昼寝場所を占拠されてるのがムカついたのが大半だ。別に義憤に駆られてやったんじゃないし。
「返品不可よ。…森宮さんて、バイトばかりで全然自分磨きしてないでしょ? 夏生の隣に立つつもりならもう少し頑張ったら?」
「……」
悠木君の隣に…? それはお前はみすぼらしいぞって嫌味か。友達としても認められん、失せろと言っているのかね?
「悠木君は友達に対してそんなこと言わないと思うけど」
「友達って…」
桐生礼奈の言い分にムカッとしたので言い返すと、桐生礼奈は唖然とした顔をしていた。そもそも顔面のいい人にあれこれ言われたくないんだが。自分磨きというのは自主的に行うものだろう。誰かに強制されてするものじゃないぞ。
今の化粧っ気ない私をライバルとして認めないと言いたいのかもしれんな。しかしだな、私は自分の容姿が平凡で、悠木君とは釣り合わないと理解しているぞ。
「そもそも桐生さんと競い合う気もないし、私の容姿がどうだろうと誰も構わないでしょう」
「え……?」
ライバル認定しなくていいよ、ほんと。立ち向かう気もないし、本当に私と悠木君は友達なだけだし。
「え、待ってまさか私と夏生のこと誤解してるの?」
「別に誤解してないけど」
──キーンコーンカーンコーン…
困惑した様子の桐生礼奈が更に何かを言おうとするとチャイムが鳴った。彼女は慌てて教室に戻ろうとして1組を飛び出した。
やれやれ、やっと居なくなった。
紙袋を机の荷物掛けに引っ掛けていると、後ろからツンツンと背中を突かれた。
「いいなー! それユニベールのでしよ、何が入ってるの?」
友達が目を輝かせて来たので、袋の中身を確認すると、ギフト包装されたシャンプーとトリートメントのセットが出てくる。
いいなぁと羨ましがられるが、今日バイトだから荷物になるので私は困る。
桐生礼奈、やっぱり苦手だ。
教師志望であれば、その間慣れないながらも必死に実習をこなすだろうに、あの手塩先生とやらは何を考えているのだろう。学年主任の富永先生が個人的に注意するとは言っていたけどどうなることやら……
私は日直の仕事を終えたので空き時間はお昼寝に当てようといつものお昼寝スポットに出向いた。4階の社会科準備室は今では物置で、私が占拠しているものである。
それなのに、今日は電気が付いていた。
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…中から話し声が聞こえた。私は目を細める。うーむ。もしかすると中にいるのは桐生礼奈なのかな? 角度的に顔がしっかり確認できない…
中ではソファに座った桐生さんがプリントをホチキスでとめる作業をしているようだった。そして資料室の中にいたもう一人の人物はデスクに着いており、立ち上がった気配がした。その拍子に錆びた椅子がギィ…と音を立てる。
「桐生さんはとても優秀だと聞いていたからね、迷惑だったかな?」
その問いかけに桐生さんは一瞬だけ沈黙して口を開いた。
「……あの…私にも生徒会の仕事や学業とかがあるので、こう頻繁に手伝いを任されると…差し障りがあるといいますか…」
この先生……ホストみたいな教育実習生は生徒にまで仕事を任せていたのか…しょうもないな…! あまつさえ私のお昼寝スポットで、密室でとか下心しか感じさせないよね!
私は呆れを隠せなかった。
ホストのような手塩先生は、桐生さんが座っているソファの隣に馴れ馴れしく座ると、ぴったりくっついていた。桐生さんの表情に怯えが見え隠れする。それを察しているのかどうかは知らないが、桐生さんの手を包み込み、なにやらいやらしく撫でさすっている……あかん、アウトや。
私はすでに構えていたスマホで撮影しながら、扉に手をかけた。
「失礼しまーっす!!」
私は引き戸を力いっぱい開けた。その反動でぴしゃぁーんと大きな音を立ててしまったがまぁいいだろう。
突然の乱入に手塩先生も桐生さんも目を丸くして固まっていた。
「特進科教育実習の手塩先生、はじめまして、私は普通科1年1組出席番号38番森宮美玖です。質問よろしいですか!」
私はわざと4階全体にびりびり響きそうな声を張り上げた。
見るからに桐生礼奈に下心抱いてあわよくば恋愛関係にもつれこもうとしているぞこの教育実習生。…駄目だぞ!! 立場を弁え給え!
ポカーンとしていた手塩先生だったが、私が邪魔しに来たと気づいたのだろう。鋭い視線で睨みつけてきたではないか。
「……先生は特進科の担当だから、普通科の実習生に聞いてくれる?」
馬鹿だなぁ、勉強の質問とは言っていないでしょう?
はやく出て行けと言いたそうな手塩先生に対して私はにやりと笑い返す。
「飯田先生はお忙しそうなので。飯田先生は普通科の実習担当のはずなのに、何故か特進科の仕事をなさっています。…なぜでしょうね?」
言外におめーは何してんだよと質問しているんだ。馬鹿じゃないならわかるよね?
「なぜ、特進科の授業で使うプリントを飯田先生が作ってるんだろうなぁーと思っていたら…手塩先生は手伝いとかこつけて女子生徒を囲っていたんですか」
「…口の聞き方に気をつけなさい」
「間違ってないでしょ? 私撮影したんですよ? 桐生さんの手を握っている瞬間を」
私がスマホを掲げると、相手はギクッとした顔をしていた。
「学校SNSに流してもいいけど、そしたら桐生さんに誹謗中傷行きそうだから、学年主任の先生だけに報告しておきますね」
ちゃんと保存しておこう。決定的瞬間。物的証拠は大切。
「あ、それと桐生さん」
「え?」
「男と2人きりになったら変な誤解を受けるよ。これ悠木君が言ってた」
彼ああ見えて口うるさいところあるから、後で怒られちゃうかもしれないよ。手伝いするなら、できれば人目のある場所でしたほうがいいと思う。もしくは友達を連れてくるとか。
「この、クソガキ…!」
女子高生だと思って舐め腐っていたのだろう。突然乱入した私の行動にブチギレた手塩先生が私に飛びかかろうとしていた。
なんだ、やるか! と私がファイティングポーズを取ると、ぐわっと横から伸びてきた腕に抱きこまれた。
「!?」
「何すんだ離せ!」
抱きこまれた腕の中で手塩がぎゃわぎゃわ騒いでいる声が聞こえた。なんだ、何が起きたんだ。
「…ったくもー…お前は馬鹿か!」
至近距離から聞こえてきた声でその腕の持ち主が誰かわかった。
「…悠木君?」
「何してんだよ、あぶねーだろうが!」
私が呼びかけると、悠木君は腕を解いた。そしてとどめとばかりに私のおでこをピシャリと叩いてきた。
「いたっ」
「このバカタレ! 戦おうとすんじゃねーよ!」
「暴力に走ろうとしていたのはあっちだよ! なんで私を叱るのさ!」
私は君たちのお姫様を助けてあげようとしたんだよ? 今はお礼しか受け付けないからね。お説教なんてノーサンキューだ!
ほっぺたを指で掴まれてぐいぐい左右に伸ばされていた私は悠木君とワチャワチャしていたため気づくのに遅れた。
資料室の中では尻餅ついている手塩と、眼鏡に抱きついて泣いている桐生礼奈の姿に。
あれ、あれれ?
私は視線を目の前の悠木君に戻す。
「反省してんのか、森宮」
「にゃんでよ!」
なぜ私が反省せねばならんのか。それよりも眼鏡と桐生礼奈が熱く抱き合ってるよ、そのままにしていいの?
お姫様の桐生礼奈を救出に来たんでしよ? 手柄をすべて眼鏡に奪われるぞ。
同じく4階にある生徒会室で仕事していた悠木君たちは私の声に驚いて飛び出してきたんだって。その後学年主任の富永先生にしっかり報告した。流石に見過ごせないからね。
私は人助けをしたというのに、悠木君に叱られ、富永先生には注意された。
納得いかないのだが。ここはよくやったと私を持ち上げる場面だと思うのだ。
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「私の誕生日は先月だけど?」
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「……」
悠木君の隣に…? それはお前はみすぼらしいぞって嫌味か。友達としても認められん、失せろと言っているのかね?
「悠木君は友達に対してそんなこと言わないと思うけど」
「友達って…」
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今の化粧っ気ない私をライバルとして認めないと言いたいのかもしれんな。しかしだな、私は自分の容姿が平凡で、悠木君とは釣り合わないと理解しているぞ。
「そもそも桐生さんと競い合う気もないし、私の容姿がどうだろうと誰も構わないでしょう」
「え……?」
ライバル認定しなくていいよ、ほんと。立ち向かう気もないし、本当に私と悠木君は友達なだけだし。
「え、待ってまさか私と夏生のこと誤解してるの?」
「別に誤解してないけど」
──キーンコーンカーンコーン…
困惑した様子の桐生礼奈が更に何かを言おうとするとチャイムが鳴った。彼女は慌てて教室に戻ろうとして1組を飛び出した。
やれやれ、やっと居なくなった。
紙袋を机の荷物掛けに引っ掛けていると、後ろからツンツンと背中を突かれた。
「いいなー! それユニベールのでしよ、何が入ってるの?」
友達が目を輝かせて来たので、袋の中身を確認すると、ギフト包装されたシャンプーとトリートメントのセットが出てくる。
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