バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

白組がリードしています。紅組は頑張ってください。

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 梅雨の中休みの今日、体育祭が開催された。
 競技決めのとき、実行委員に「私は余った競技でいいよ」と言葉を残してバイトに向かった私は、リレーに出場することになっている。ちなみに運動は得意でも苦手でもない。普通である。体育祭に燃えるわけでもなく、普通に参加する程度の熱量だ。
 チーム分けはシンプルに普通科VS特進科の紅白に分かれている。しかし燃えているのは普通科だけで、特進科はダルダルモードを隠せていない。彼らは運動よりも勉強をしていたいと思っているのだろう。


 トラックを美男美女が息を合わせて走っている姿をぼんやり眺める。
 あぁ、華がある。汗を流しても全く汗臭くなさそうな爽やかさがあった。そこだけ別空間なんじゃないだろうか。あんな密着しちゃって少女漫画みたいにラブハプニングとか起きたりしないのだろうか。

「美玖、気になってるんじゃないの?」

 ぼんやりしているところに横から声をかけられたもんだから私はびくっと肩を揺らしてしまった。

「うん? 何が?」
「悠木君と桐生さんが一緒に走っているところ、ずっと目で追いかけてんじゃん」
「だって友達が走ってるの気になるじゃない」

 体育祭では対戦相手だけども、友達なのには変わりない。だからただ目で追っていただけだ。それとも自分と同じチームの応援をしろと注意されているのだろうか。

「相変わらず鈍感なんだね」
「美玖見てると、漫画の鈍感女があざといだけの女に見えてくるわ」

 なにもしてないのに友達に悪口言われた。なんやの、人のこと鈍感鈍感って。馬鹿にしてるのは伝わってきてるんだからな。
 私がムッとしている間に悠木君たちはゴールしてしまった。なんのハプニングもなくスムーズに。長年の夫婦の呼吸のように息ぴったりな走りだった。彼ら特進科組は見事に二人三脚で1位を飾っていたが、なんだか面白くないのはなぜだろう。やっぱり対戦相手だからだろうか…?

 二人三脚では彼らに点数を奪われたが、普通科も負けていない。
 競技を重ねるとどんどん点差が開いていく。特進科やる気がなさすぎて逆に笑ってしまう。学業では負けず嫌いなのに体育祭はどうでもいいらしい。でも多分この競技での態度も体育の成績とか授業態度として評価されると思うんだけどいいんだろうか。
 
『先生VS生徒借り物リレーに出場される人は入場門にお集まりください』

 マイク越しに呼び出しがかかったので私はゆっくり立ち上がった。

「お、美玖出場か」
「がんばってー」
「うん、ぼちぼち頑張る」

 私が出場するのは文字通りの競技だ。この競技に関しては先生対生徒の借り物競争。先生が壁となって立ちはだかるのである。ゴールの順位の分だけ点数をもらえる事になっている。
 正直私は舐めていた。相手は年上の先生方だ。運動不足の彼らに負けるわけがないと高をくくっていたのだ。

「森宮さん」
「…富永先生」

 入場門には青いはちまきを巻きつけた先生方が勢揃いしていた。みんな準備運動をしてやる気バッチリだ。その中でも一番やる気を見せているのは学年主任の富永先生であった。彼は私を見つけるなり、ふっ…と怪しく笑った。それに私は不穏な空気を感じ取る。

「勝負をしないか森宮さん」
「……いや、これから普通に勝負しますし、わざわざ宣戦布告なさらなくても」

 私もこの競技に出るからどっちにしても勝負することになるし…と私が困惑してみせると、富永先生は首をゆるく横に振った。

「私はまだ、君を特進科に入れることを諦めていないのだよ。…このリレーで私よりも後にゴールしたら…私に負けたら君には特進科へ移動するための試験を受けてもらいたい」
「えぇ…」

 なにそれ、私になんのメリットもないじゃないですか…と言いかけて私ははっとする。

「じゃあ私が勝てば、もう二度と特進科へのクラスチェンジを言及なさらないでくださいね」
「そ、それはっ」
「私に勝つ自信があるからそんなことを仰るんですもんね。じゃあそういうことで、お互い正々堂々と戦いましょう」

『先生VS生徒借り物リレーに出場する選手たちの入場です』

 そこでタイミングよく入場のアナウンスが流れたので、私は小走りで入場門を超えてグラウンドに入場した。後ろで富永先生がうろたえていたが知らない。男なら二言はないだろう。勝負をふっかけたのはそちらだ。そちらだけに有利な賭けなどないのだよ。
 さっきまで適当に頑張ると考えていた私だが、ここにきて負けられない勝負になった。自分の番になる前に入念にストレッチする。足首をプラプラさせながら前の走者の動きを観察した。
 普通科の1年が悪戦苦闘しているのがここからでも確認できた。……このリレー競技、借り物もあるからそのお題によって勝負が分かれるんだよなぁ。

 第1レースは普通科が最下位となり、走者の1年がフラフラ戻ってきたが、誰も彼を責めなかった。だって彼に指定されたお題だった『科学の先生』が一緒にゴールまで行くのを最後まで拒絶していたんだもん。誰が1年生を責められることか。先生方も大人げないことこの上ない。勝つためならどんな卑怯な手でも使うらしい。

「お題が先生だとおしまいだな…」
「先生たちでなんか変な賭けでもしてんじゃない…大人げない…」

 普通科だけでなく、特進科の生徒まで先生の大人気なさを責めているが、先生方はどこ吹く風。大人って汚い。
 そう来るなら、勝負に乗ってやる他ないよね。第2走者の私はスタート地点に並ぶ。隣のレーンに例の富永先生。私はお題が置かれている場所を見つめて深呼吸をした。
 よっしゃ、やるぞ…

「位置について、よーい」

 パァンとピストルが鳴った。私は地面を蹴りつけてお題のある場所まで駆けていく。隣に並ぶは富永先生。意外と先生、足が早かった。もしかしたらリレーのために身体を鍛えてきたのかな…私との勝負を前もって計画していたと考えると恐ろしいのだが……
 お題をさっと拾い上げて、書かれている文字を目で追った。
 私はギュンッと首を動かして、特進科の生徒たちが塊になって座っている応援席に向かって駆け出す。

 私の顔がマジで怖かったのかどうか知らないが、前列に座っていた生徒がぎょっとした顔をしていた。それに構わず私は2年A組の面々が座る応援席前に立ちはだかる。

「眼鏡っ! ちょっときて!!」

 仲良し3人組で固まって座っていた彼らのうち、眼鏡に向かって声をかけた。私に声をかけられるとは思ってなかったのか、最初眼鏡はキョトンとしていたが、すぐに何やら面白そうなものを発見したとばかりにニヤニヤ笑いを浮かべていた。

「えぇ、なになに? もしかして好きな人ってお題引いちゃったの? やぶさかじゃないけどぉ、いいのかなぁ?」

 チラチラと隣に座る悠木君に視線を送る眼鏡。悠木君は不快そうな顔をしている。…君たちって友達だよね? なんでたまにギスつくの。
 なんか一人で勘違いしてニヤつきながら焦らすような真似をするので私は苛ついた。そうこうしている間に富永先生に負けてしまうだろう!!
 座っている生徒の間をずんずん侵入すると、私は眼鏡へ手をのばす。

「え…森宮さ…ぁっ!?」

 奴の顔についている眼鏡を分捕ると、眼鏡を付けていない本体が呆然としていた。それに構わず私はくるりと踵を返した。

「えっ!? ちょっと森宮さん!? それっ俺の眼鏡っ」
「本体はいらない! 必要なのは眼鏡だけ!」
「眼鏡!?」

 応援席を飛び出すと、私はゴールまで一直線。途中、保健の先生を連れた富永先生とかち合ったので私は彼とデッドヒートを繰り広げた結果、ほぼ同じタイミングでゴールした。
 そこから映像判定に切り替わるも、そう時間を置かずに私が1位という判定が出た。その判定に対して異議があると富永先生が必死こいて抗議していたが、実行委員会の生徒に「肝心のお題(※保健の先生)がゴールしてなかったので」と淡々と返されてがくりと肩を落としていた。
 私は額に滲んだ汗をふぅと拭った。
 あーよかった。後もうちょっとで負けるところだったわ。

「ちょっと森宮さん!? 俺の眼鏡いい加減に返して!?」

 退場門には悠木君と桐生さんに手を借りた眼鏡が待ち伏せしていた。目を眇めて睨まれているように見えるが、眼鏡がないと見えないのだろう。人の手を借りないと一人で歩くのが怖いとは相当目が悪いんだろうな…。

「ごめんごめん。はい返す」
「雑に扱わないで! レンズを直に触っちゃだめ!」

 はい、と手渡すと、語気荒めに叱られた。
 ごめんて。私にも譲れない戦いがあったんだよ。

「あのね、眼鏡はとてもデリケートなの! 眼鏡のツルだけを持って走ったらこの金具が緩んだり変形するから…」
「あれ、眼鏡ってそんなに目が大きかったっけ?」
「レンズで小さく見えるからね!」

 眼鏡をしていない眼鏡の顔はレアだ。こうして眺める機会はそうそうない。私は物珍しくて彼の顔をまじまじ見つめる。眼鏡がないと知らない人に見える。
 それにしてもコンタクトにはしないのだろうか。

「指何本に見える?」

 私が眼鏡の裸眼の前で指を2本立てると、彼は渋い顔をしていた。

「何本かはわかるよ。バカにしてるでしょう?」

 眼鏡所有者にとって眼鏡は生命線のようだ。正直悪かったと思っている。今度お詫びにパン持ってきてあげるから許してほしい。私がヘラヘラ謝罪すると、眼鏡は「ったくもう…」といいながら眼鏡を装着していた。
 あぁやっぱり眼鏡には眼鏡がついてないと違和感があるね。そう思いながら彼の顔を観察していると、横から視線がチクチク刺さってきた。
 言わずもがな桐生さんと…なぜか悠木君だ。
 ふたりともなんだかとても冷ややかな視線を私に注いできており、私はゾッとしたのであった。
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