40 / 79
勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
光の焦点距離の違いをコントロールし、レンズを通して対象を壁に大きく映しています。
しおりを挟む
【明日バイト?】
そのメッセージを見つけたのはバイトの休憩中だった。彼からの問いかけに私は【早朝と夕方からのバイトがある】と返信しておいた。明日は高校の創立記念で学校がお休みなのだ。
生憎休みではあるが、労働に関しては話は別である。早朝3時間のコンビニバイトと夕方からのスーパーのバイトに入る予定だ。
間を置かずにぴこん、と音を立てて新たなメッセージがポップアップ表示される。
【空いてる時間使って遊びに行かない?】
突然のお誘いに私はドキッとした。まさか彼から遊びのお誘いがやってくるとは思わなかったからだ。
しかしこれにイエスと返事はできない。
【ごめん、明日のスキマ時間は用事がある】
バイトじゃないけど、先約がはいっているんだ。せっかく誘ってくれたのにすまんな。
■□■
映画割引チケットをお父さんにもらったので、大学の講義が教授の都合でなしになったお姉ちゃんと一緒に映画を観た。普段あまり映画観に行かないけど、大画面スクリーンも音響も迫力があって楽しかった。午前中は映画を観て、午後は私のバイトの時間までウロチョロすることになった。映画館隣接のショッピングモール内を散策していると、どこからか視線を感じたので視線を巡らせる。
視線の主と目があった瞬間、私はあっと声を漏らした。
なんと、奇遇にも通路を挟んだ向こう側に悠木君がいた。私服姿の彼は女性向けコスメショップの前で女性たちの視線にさらされながら棒立ちしていた。なんでそんなところにいるの? 最近ポツポツ出てきた美容系男子にチェンジしたのかね?
「おぉ、悠木君偶然だね」
私が手を振ると、悠木君はお店から離れてこちらに向かって歩いてきた。
「美玖、どしたの?」
「学校の同級生がいた」
雑貨屋で南米先住民の伝統的な帽子を発見して試着していたお姉ちゃんが帽子をかぶったまま声をかけてきた。悠木君が私の前に来たついでに紹介しておく。悠木君の姿を一目見た瞬間、お姉ちゃんはキラリンと目を光らせた。
「なんと、君は噂の悠木君だね!?」
「あっはい…噂…?」
「お父さんが言ってた通りのイケメンだね! えっそれでそれで? 美玖とはどこまで行ったの?」
お姉ちゃんは気安く悠木君に絡むと、ワクワクした様子で何かよくわからない問いかけをしていた。友達だと言ってるのにこの姉は…
「友達だって言ってるでしょ。変なこと言わないで」
「えー私はそうは思わないけどなぁ」
「ごめんね悠木君、気にしないでね」
唇を尖らせて納得できないと言う姉の代わりに謝罪すると、悠木君は複雑そうな顔で苦笑いしていた。
「お前、今日の誘い断ったのって姉ちゃんと出かけるからか」
「うん。映画観にいってた」
お姉ちゃんから映画に誘われて創立記念日の今日行くことにしたの。土日は人が多いし、私がバイトに入っていることもあるのでちょうどよかったのだ。
「そっか…なら、これから一緒に食事でも…」
「でも私お姉ちゃんと一緒だから」
折角のお誘いだけど同行者が居るからとお断りすると、背後からぐっと肩を握られた。
「いいじゃん! いこうよ!」
ノリノリで返事したのはお姉ちゃんである。私は驚きで固まってしまった。
…まさかお姉ちゃん、悠木君に興味を持った? 4歳年下の、妹と同い年の男子高生に女子大生が……自分の身内が同級生とどうこうなるのを想像するとそれはそれで複雑なんだが、ここで拒否するのもおかしな話なので私は口を閉ざす。
売り物の帽子を元の場所に戻すと、彼女はワクワクした表情で「早く行こう!」と私と悠木君の背中をぐいぐい押した。
「私も是非ご一緒させてください。森宮先輩」
横から森宮先輩、と呼ばれたお姉ちゃんはピタリと動きを止め、まじまじと身長差のある相手を見上げる。
そこではモデル顔負けのスーパー美女がにっこり微笑んでいるではないか。私も森宮だけど、彼女に先輩と呼ばれる立場じゃないので、お姉ちゃんに対してで間違いないだろう。
「…私のことを知っているの?」
お姉ちゃんは突然現れた美女に目をシパシパさせながら、困惑気味に問いかけていた。お姉ちゃんは相手が誰だかわからないみたいだ。
「もちろんです。特進科の彗星だった森宮莉子先輩を知らない、在籍時代が被っていた特進科の生徒はおりませんよ。私一学年下だった悠木さや香と申します。こうしてお話するのは初めてですね」
初対面で私を女子力がなさすぎるとディスってきた悠木君のお姉さんはめちゃくちゃ愛想よく私のお姉ちゃんに話しかけていた。
何だこの態度の差。
そっか、悠木君のお姉さんも特進科出身でお姉ちゃんと在学期間が被っていたのか。口ぶりからしてふたりは知り合いじゃないけど、お姉ちゃんが有名だったから一方的に知られていたみたい。
「私、後夜祭のミスコンにも出ていたんですけど、ご存じなかったですか?」
「あー…私、2年生以降の後夜祭フケてたから……ごめんね、これだけの美人さんなら有名人だろうに…私ガリ勉だからさ」
1年の時後夜祭まで参加してたけどつまんなかったので、2年生以降は先生に適当に言って帰宅していたのだとお姉ちゃんが言うと、悠木君のお姉さんもといさや香さんは肩をすくめていた。
これだけの美人だ。後夜祭のことがなくても男子の間で噂になってその名前も耳にする機会があっただろうけど、お姉ちゃんは医学部目指す毎日を送っていたのでスルーしていたのかもしれない。
自己紹介はそこそこに、商業施設のレストラン街に入っているイタリアン料理店に入ると、そこで各自食べたいメニューとサイドメニューを頼んで遅めのお昼ごはんを食べることにした。
席につく時、何故かさや香さんが私のお姉ちゃんの横の席を強奪してきたので、今私は悠木君の隣に座っている。2人は同じ女子大生ということもあり話が盛り上がっているのかずっとおしゃべりしている。
「映画、何観たんだ?」
おとなしく食事をしていると横から質問されたので、私は一旦水で喉を潤した。
「映画? 宇宙人と通信できる少年のシリアス成長ドラマだよ。悠木君こそ、コスメショップで…美容系男子に目覚めたの?」
「違う、あれは姉貴の買い物がなかなか終わらねぇから外で待ってたの」
私は悠木君と普通に話していただけだ。お互いに何していたのかって雑談していただけなのだが、ふと気づけば目の前に座る姉sがこちらに聞き耳を立てていた。お姉ちゃんに至ってはにやにやが隠せていない。だからそういう関係じゃないって言っているのに…
「映画かぁ、俺もそっちがよかった」
「割引チケットあるからあげようか。これから観に行けばいい」
かばんの中から割引チケットを取り出すと、それを悠木君に差し出す。彼はチケットと私の顔を見比べて、「うん、お前のことだし別に他意はないんだよな」となんか一人で納得しながらチケットを受け取っていた。何だよ、私がお金でも請求するとでも思っているのか。
なんか…対面の席で「夏生君! 頑張れ!」とさや香さんが応援していたけど、何を頑張るというのだろう。悠木君ははぁ…と肩を落として元気を失ったし…情緒不安定ここでもか。
「ちょっとトイレ」
全員が食べ終わった頃、すっと席を立ち上がった悠木君はお花を摘みに行った。
「ちょっと美玖、さっきのは一緒に観に行こうって誘う場面でしょ!」
悠木君の姿がなくなるととたんにお姉ちゃんが私を注意してきた。
注意されるようなことをした覚えはないので、私は口をへの字にして不満を示す。映画ならさっき観たし、悠木君にだって都合ってものがあるだろう。そんな簡単に言わないでくれ。
「美玖、お姉ちゃんは賛成だよ? 一途っぽいし、いい子じゃない」
「だからそんなんじゃないって…」
お姉ちゃんの目から私達がどんな関係に見えているのかわからないがいい加減にしてほしい。私に何度否定させるんだ。悠木君と気まずくなりたくないからそういう風に冷やかすのやめてほしいのだけど。
「私の夏生君はね、女嫌いの気があるの。その中でも貴方には心をひらいているのよ?」
「あーはい。友達として良い付き合いができていると思います」
「私が求めているのはそういう返事じゃないの!」
さや香さんまで情緒不安定な反応をし始めた。やはり姉弟だからだろうか。どういう返事ならご満足いただけるのであろうか。
「姉ちゃんそういうのいいから──そろそろ出ようぜ。支払い終わったし」
どこから聞いていたのかはわからないが、悠木君はお姉さんを窘めつつ、店を出ようと提案してきた。
…支払い終わった。その言葉を聞いて私は慌てて財布を取り出す。
「えぇと私は…」
「いいよ金は」
「良くないよ何言ってるの!?」
男がごちそうする時代なんてもう終わりそうになっているってのに、なに太っ腹なところを見せようとしているんだ。悠木君のご両親が稼いだお金でご飯食べさせてもらうなんて、とても申し訳ないじゃないか!
「悪いよ四人分とか、せめて私とお姉ちゃんの代金は…」
「こういうときは男に花を持たせるんだよ、美玖」
ぽん、と私の肩を叩いたお姉ちゃん。私は何を言っているんだと信じられない気持ちで彼女の顔を見返す。
「美玖がかわいーく、ごちそうさまって言えば、悠木君は嬉しいと思うよ?」
「そんな訳無いでしょう」
何を言っているんだ。ただの厚かましい女じゃないかそんなの。私は納得行かなかったが、礼儀として「ごちそうさまでした」とお礼を告げると、悠木君からは「ん」と小さく返事を返されたのである。
「じゃあここから別行動ね」
お店を出ると、お姉ちゃんはさや香さんと2人でショッピングしてくると言って別行動を申し出てきた。
いつの間に2人はそんなに仲良くなったの…
「悠木君、美玖は鈍感だからはっきり言わないと伝わらないよ!」
お姉ちゃんの意味深な捨て台詞に悠木君はギクリとした表情を浮かべていた。なに? 私が鈍感だからはっきり言わないと伝わらないって……
その場に取り残された私達は微妙な空気感の中にいた。
「…悠木君、私になにか言いたいことがあるの?」
「あ、いや…」
「私がなんかとんでもなく失礼なことしているなら言って?」
気づかずに悠木君の気に障っていたなら申し訳ない。
言ってくれたら直すから遠慮せずに言ってほしい。私がお願いすると、悠木君は困ったような顔をしていた。頬を赤らめた悠木君はいつもよりも幼く見えた。
「…もうちょっと、俺の心の準備ができるまでは待ってほしいっていうか…」
「心の準備?」
心の準備をせねば言えないことなの?
私が怪訝にしていたからだろうか。悠木君はぱっと顔を隠すように背中を向けると、私の手をガシッと掴んで「行くぞ!」と引っ張り始めた。
行くってどこに。悠木君は無言でぐいぐい引っ張るので私は仕方なく彼の跡を追った。そうしてたどり着いたのは隣接の映画館……
そのあと私はまた映画を観た。今度は連続ドラマの劇場版を観たけど…一日に二度も映画を観る羽目になるとは思わなかったよ…
映画館に出た頃には丁度いい時間帯になったので、現地解散しようとしたら、悠木君はバイト先までわざわざ送ってくれた。明るいからいいって言ってるのに、「俺がしたいことだから」と言って聞かなかった。
今日も情緒不安定に輪をかけているな、悠木君。
そのメッセージを見つけたのはバイトの休憩中だった。彼からの問いかけに私は【早朝と夕方からのバイトがある】と返信しておいた。明日は高校の創立記念で学校がお休みなのだ。
生憎休みではあるが、労働に関しては話は別である。早朝3時間のコンビニバイトと夕方からのスーパーのバイトに入る予定だ。
間を置かずにぴこん、と音を立てて新たなメッセージがポップアップ表示される。
【空いてる時間使って遊びに行かない?】
突然のお誘いに私はドキッとした。まさか彼から遊びのお誘いがやってくるとは思わなかったからだ。
しかしこれにイエスと返事はできない。
【ごめん、明日のスキマ時間は用事がある】
バイトじゃないけど、先約がはいっているんだ。せっかく誘ってくれたのにすまんな。
■□■
映画割引チケットをお父さんにもらったので、大学の講義が教授の都合でなしになったお姉ちゃんと一緒に映画を観た。普段あまり映画観に行かないけど、大画面スクリーンも音響も迫力があって楽しかった。午前中は映画を観て、午後は私のバイトの時間までウロチョロすることになった。映画館隣接のショッピングモール内を散策していると、どこからか視線を感じたので視線を巡らせる。
視線の主と目があった瞬間、私はあっと声を漏らした。
なんと、奇遇にも通路を挟んだ向こう側に悠木君がいた。私服姿の彼は女性向けコスメショップの前で女性たちの視線にさらされながら棒立ちしていた。なんでそんなところにいるの? 最近ポツポツ出てきた美容系男子にチェンジしたのかね?
「おぉ、悠木君偶然だね」
私が手を振ると、悠木君はお店から離れてこちらに向かって歩いてきた。
「美玖、どしたの?」
「学校の同級生がいた」
雑貨屋で南米先住民の伝統的な帽子を発見して試着していたお姉ちゃんが帽子をかぶったまま声をかけてきた。悠木君が私の前に来たついでに紹介しておく。悠木君の姿を一目見た瞬間、お姉ちゃんはキラリンと目を光らせた。
「なんと、君は噂の悠木君だね!?」
「あっはい…噂…?」
「お父さんが言ってた通りのイケメンだね! えっそれでそれで? 美玖とはどこまで行ったの?」
お姉ちゃんは気安く悠木君に絡むと、ワクワクした様子で何かよくわからない問いかけをしていた。友達だと言ってるのにこの姉は…
「友達だって言ってるでしょ。変なこと言わないで」
「えー私はそうは思わないけどなぁ」
「ごめんね悠木君、気にしないでね」
唇を尖らせて納得できないと言う姉の代わりに謝罪すると、悠木君は複雑そうな顔で苦笑いしていた。
「お前、今日の誘い断ったのって姉ちゃんと出かけるからか」
「うん。映画観にいってた」
お姉ちゃんから映画に誘われて創立記念日の今日行くことにしたの。土日は人が多いし、私がバイトに入っていることもあるのでちょうどよかったのだ。
「そっか…なら、これから一緒に食事でも…」
「でも私お姉ちゃんと一緒だから」
折角のお誘いだけど同行者が居るからとお断りすると、背後からぐっと肩を握られた。
「いいじゃん! いこうよ!」
ノリノリで返事したのはお姉ちゃんである。私は驚きで固まってしまった。
…まさかお姉ちゃん、悠木君に興味を持った? 4歳年下の、妹と同い年の男子高生に女子大生が……自分の身内が同級生とどうこうなるのを想像するとそれはそれで複雑なんだが、ここで拒否するのもおかしな話なので私は口を閉ざす。
売り物の帽子を元の場所に戻すと、彼女はワクワクした表情で「早く行こう!」と私と悠木君の背中をぐいぐい押した。
「私も是非ご一緒させてください。森宮先輩」
横から森宮先輩、と呼ばれたお姉ちゃんはピタリと動きを止め、まじまじと身長差のある相手を見上げる。
そこではモデル顔負けのスーパー美女がにっこり微笑んでいるではないか。私も森宮だけど、彼女に先輩と呼ばれる立場じゃないので、お姉ちゃんに対してで間違いないだろう。
「…私のことを知っているの?」
お姉ちゃんは突然現れた美女に目をシパシパさせながら、困惑気味に問いかけていた。お姉ちゃんは相手が誰だかわからないみたいだ。
「もちろんです。特進科の彗星だった森宮莉子先輩を知らない、在籍時代が被っていた特進科の生徒はおりませんよ。私一学年下だった悠木さや香と申します。こうしてお話するのは初めてですね」
初対面で私を女子力がなさすぎるとディスってきた悠木君のお姉さんはめちゃくちゃ愛想よく私のお姉ちゃんに話しかけていた。
何だこの態度の差。
そっか、悠木君のお姉さんも特進科出身でお姉ちゃんと在学期間が被っていたのか。口ぶりからしてふたりは知り合いじゃないけど、お姉ちゃんが有名だったから一方的に知られていたみたい。
「私、後夜祭のミスコンにも出ていたんですけど、ご存じなかったですか?」
「あー…私、2年生以降の後夜祭フケてたから……ごめんね、これだけの美人さんなら有名人だろうに…私ガリ勉だからさ」
1年の時後夜祭まで参加してたけどつまんなかったので、2年生以降は先生に適当に言って帰宅していたのだとお姉ちゃんが言うと、悠木君のお姉さんもといさや香さんは肩をすくめていた。
これだけの美人だ。後夜祭のことがなくても男子の間で噂になってその名前も耳にする機会があっただろうけど、お姉ちゃんは医学部目指す毎日を送っていたのでスルーしていたのかもしれない。
自己紹介はそこそこに、商業施設のレストラン街に入っているイタリアン料理店に入ると、そこで各自食べたいメニューとサイドメニューを頼んで遅めのお昼ごはんを食べることにした。
席につく時、何故かさや香さんが私のお姉ちゃんの横の席を強奪してきたので、今私は悠木君の隣に座っている。2人は同じ女子大生ということもあり話が盛り上がっているのかずっとおしゃべりしている。
「映画、何観たんだ?」
おとなしく食事をしていると横から質問されたので、私は一旦水で喉を潤した。
「映画? 宇宙人と通信できる少年のシリアス成長ドラマだよ。悠木君こそ、コスメショップで…美容系男子に目覚めたの?」
「違う、あれは姉貴の買い物がなかなか終わらねぇから外で待ってたの」
私は悠木君と普通に話していただけだ。お互いに何していたのかって雑談していただけなのだが、ふと気づけば目の前に座る姉sがこちらに聞き耳を立てていた。お姉ちゃんに至ってはにやにやが隠せていない。だからそういう関係じゃないって言っているのに…
「映画かぁ、俺もそっちがよかった」
「割引チケットあるからあげようか。これから観に行けばいい」
かばんの中から割引チケットを取り出すと、それを悠木君に差し出す。彼はチケットと私の顔を見比べて、「うん、お前のことだし別に他意はないんだよな」となんか一人で納得しながらチケットを受け取っていた。何だよ、私がお金でも請求するとでも思っているのか。
なんか…対面の席で「夏生君! 頑張れ!」とさや香さんが応援していたけど、何を頑張るというのだろう。悠木君ははぁ…と肩を落として元気を失ったし…情緒不安定ここでもか。
「ちょっとトイレ」
全員が食べ終わった頃、すっと席を立ち上がった悠木君はお花を摘みに行った。
「ちょっと美玖、さっきのは一緒に観に行こうって誘う場面でしょ!」
悠木君の姿がなくなるととたんにお姉ちゃんが私を注意してきた。
注意されるようなことをした覚えはないので、私は口をへの字にして不満を示す。映画ならさっき観たし、悠木君にだって都合ってものがあるだろう。そんな簡単に言わないでくれ。
「美玖、お姉ちゃんは賛成だよ? 一途っぽいし、いい子じゃない」
「だからそんなんじゃないって…」
お姉ちゃんの目から私達がどんな関係に見えているのかわからないがいい加減にしてほしい。私に何度否定させるんだ。悠木君と気まずくなりたくないからそういう風に冷やかすのやめてほしいのだけど。
「私の夏生君はね、女嫌いの気があるの。その中でも貴方には心をひらいているのよ?」
「あーはい。友達として良い付き合いができていると思います」
「私が求めているのはそういう返事じゃないの!」
さや香さんまで情緒不安定な反応をし始めた。やはり姉弟だからだろうか。どういう返事ならご満足いただけるのであろうか。
「姉ちゃんそういうのいいから──そろそろ出ようぜ。支払い終わったし」
どこから聞いていたのかはわからないが、悠木君はお姉さんを窘めつつ、店を出ようと提案してきた。
…支払い終わった。その言葉を聞いて私は慌てて財布を取り出す。
「えぇと私は…」
「いいよ金は」
「良くないよ何言ってるの!?」
男がごちそうする時代なんてもう終わりそうになっているってのに、なに太っ腹なところを見せようとしているんだ。悠木君のご両親が稼いだお金でご飯食べさせてもらうなんて、とても申し訳ないじゃないか!
「悪いよ四人分とか、せめて私とお姉ちゃんの代金は…」
「こういうときは男に花を持たせるんだよ、美玖」
ぽん、と私の肩を叩いたお姉ちゃん。私は何を言っているんだと信じられない気持ちで彼女の顔を見返す。
「美玖がかわいーく、ごちそうさまって言えば、悠木君は嬉しいと思うよ?」
「そんな訳無いでしょう」
何を言っているんだ。ただの厚かましい女じゃないかそんなの。私は納得行かなかったが、礼儀として「ごちそうさまでした」とお礼を告げると、悠木君からは「ん」と小さく返事を返されたのである。
「じゃあここから別行動ね」
お店を出ると、お姉ちゃんはさや香さんと2人でショッピングしてくると言って別行動を申し出てきた。
いつの間に2人はそんなに仲良くなったの…
「悠木君、美玖は鈍感だからはっきり言わないと伝わらないよ!」
お姉ちゃんの意味深な捨て台詞に悠木君はギクリとした表情を浮かべていた。なに? 私が鈍感だからはっきり言わないと伝わらないって……
その場に取り残された私達は微妙な空気感の中にいた。
「…悠木君、私になにか言いたいことがあるの?」
「あ、いや…」
「私がなんかとんでもなく失礼なことしているなら言って?」
気づかずに悠木君の気に障っていたなら申し訳ない。
言ってくれたら直すから遠慮せずに言ってほしい。私がお願いすると、悠木君は困ったような顔をしていた。頬を赤らめた悠木君はいつもよりも幼く見えた。
「…もうちょっと、俺の心の準備ができるまでは待ってほしいっていうか…」
「心の準備?」
心の準備をせねば言えないことなの?
私が怪訝にしていたからだろうか。悠木君はぱっと顔を隠すように背中を向けると、私の手をガシッと掴んで「行くぞ!」と引っ張り始めた。
行くってどこに。悠木君は無言でぐいぐい引っ張るので私は仕方なく彼の跡を追った。そうしてたどり着いたのは隣接の映画館……
そのあと私はまた映画を観た。今度は連続ドラマの劇場版を観たけど…一日に二度も映画を観る羽目になるとは思わなかったよ…
映画館に出た頃には丁度いい時間帯になったので、現地解散しようとしたら、悠木君はバイト先までわざわざ送ってくれた。明るいからいいって言ってるのに、「俺がしたいことだから」と言って聞かなかった。
今日も情緒不安定に輪をかけているな、悠木君。
1
あなたにおすすめの小説
元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?
中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。
副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。
やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。
出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。
慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。
誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。
……嘘でしょ、団長!?
かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に!
本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け!
※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる