バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

唯ひと枝は折りてかへらむ【悠木夏生視点】

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「森宮さんはすごいわね、夏生」

 生徒会の仕事を片付けていたら、対面の席に座った礼奈がそう声をかけてきた。

「…あぁ。推理している森宮の姿はまるで、生徒会役選の時の独壇場を見ているかのようだった」
「……森宮さんも同じ生徒会役員だったらよかったのにね?」

 頬杖をついた礼奈がこちらをからかうような目で見てきた。
 こいつ…人のこと冷やかしてるつもりらしいけど、自分の方はどうなんだよ。

「うるせ。だいたい森宮はバイトで忙しいんだから生徒会で働く暇なんてねぇよ」

 俺がそう言うと、礼奈はおかしそうに笑った。感慨深そうというかなんというか、俺の成長をずっと見つめてきた近所のおばさんみたいな目をしている。何だその目は。

「夏生がそんな風になるなんて、中学の時の私からしてみたら想像もしなかったわ」
「ほっとけ」

 中学の時、委員会をきっかけによく話すようになった礼奈。よくわからんけど勝手に噂になって、交際しているみたいに見られるようになった。だが俺達の間にあるのは同族意識のようなものだ。

「でもねぇ、まだ誤解を解いてないってのはどうかと思うわ。森宮さん、私と夏生が付き合っている、特別な関係って未だに誤解してるわよ」
「……鈍感なくせに思い込みが激しすぎるんだよあいつ」

 俺、結構あからさまだと思うんだけど……やっぱり森宮の情緒って中学生で止まってるんだろうか。
 礼奈との交際を否定しても切りがないので噂を放置していたが、それが誤解の種になるとは…誤解だって説明しようと思うんだけどあいつを前にすると緊張してそのことが頭からすっぱ抜けるんだよなぁ。


□■□


 鳥の中では脳が発達してて、人間の6歳児くらいの知能を持つというカラスは視覚能力が高く、それも相まって強い光が苦手だ。不用品となったCDディスクをテグスに巻きつけると、チカチカと光を乱反射させて花壇を近づきにくい環境に整えておく。
 安価な対策だがひとまずこれで様子を見て、ダメそうなら他の対策を考えよう。

「悠木君ありがとう、ここまで手伝ってくれて」
「いえ、会長にも言われてるんで」

 環境美化委員会の人にお礼を言われたが、俺は仕事でしただけだ。自分も足を踏み入れたことだし、報告して終わりじゃなんか味気ない。カラスに好き勝手されてばっかじゃつまらないしな。

「おはよー悠木君。あ、カラスよけ設置したんだ」
「森宮」

 今朝もバイトだったのだろう。少し遅めの登校してきた彼女が声をかけてきた。普通科は時間がゆったりしてていいな…と思ったのはこっちの話だ。

「おつかれ。これバイト先のラスク。おやつに食べて」

 そう言ってラッピング袋に入ったラスクを差し出してきた森宮は俺を見上げ、パチリと瞬きをした。
 まじまじと顔を見られてドキリとした俺は彼女の目から視線をそらせなかった。

「…悠木君、動かないで」

 彼女はすっと手を持ち上げると、俺の頬に触れた。
 バイトで少し荒れてるその指先で触られると、俺の全身に電気が走ったように衝撃が走った。

「ふふ、顔に土が付いてるよ」

 さっさっと指で頬についていたらしい土を払うと、彼女は「はい取れた」と小さく笑った。
 俺はついつい彼女から目をそらしてしまった。……笑顔がこんなにも可愛いなんて。たまらなくて胸が苦しくなった。
 無自覚でこんな事するとかホント森宮は…。俺ばかり動揺しているみたいですごく恥ずかしくなる。


■□■


 花壇周辺にカラスよけを設置すると、カラスが学校の上空からいなくなった。花壇荒らしが収まったかに思えた。

 しかし、1週間後再び花壇は荒らされてしまった。

 カラスよけのテグスごと引きちぎられて、新しく植えた苗も引っこ抜かれて花壇の脇に放置されている。…俺はカラスの賢さをバカにしていたのかもしれない。

「また荒らされたんだ」

 花壇脇でうなだれていると森宮がドンマイと肩を叩いてきた。
 鳥は駆除できないからどうしようもない。いっそ花壇は閉鎖するべきか…? と環境美化委員会の面々が暗い表情で話し合っていたのを聞いたばかりだったので、なんか心苦しいと言うか。
 俺が練った対策が甘かったんだ。責任を感じて俺は凹んでいた。

「…でもさぁ、カラスがこんなお行儀よく抜いた苗を放置するかなぁ」

 森宮のつぶやきに俺は横を見た。
 彼女は荒らされた花壇を物色して、抜かれた苗をまじまじと観察していた。でたぞ、名探偵森宮が。

「カラスは雑食性だから花も食べるし、土の中にいる昆虫を食べるために花を掘り返す」

 でもこれ見て、と森宮が抜かれた苗を指差した。

「今回の掘り返された花々は潰されておらず綺麗でしょ。このまま土に埋め直せば全然問題なく育つと思う」

 カラスはこんな綺麗に済ませないと思うんだよなぁ。嫌がらせのごとく草花引きちぎると思うし…と首をひねる森宮には今回の犯行はカラスじゃないと思えるようである。
 とはいえ、そうなれば誰が犯人なんだってことになり、話は行き止まりになる。

「この学校に監視カメラつける予算があればいいのにね」

 森宮のその言葉に俺はぐっと拳を握りしめた。
 抜かれた花を元に戻し、CDをぶら下げたテグスも張り直す。そして元通りになった花壇を見張ることに決めた。……とは言え、授業もあるので四六時中とは行かないが。
 気分はまさに、親父が好きな昭和の刑事ドラマである。ここにアンパンと牛乳があれば完璧だと思う。

「なんかごめんな、生徒会の仕事もあるだろうに」

 張り込みをしている美化委員会の委員長が物陰で花壇の監視をしている俺に声をかけてきた。俺はそれに首を横に振った。

「いえ、個人的に気になるので…」

 森宮がしていたように真似して荒された花壇を観察すると、苗の根本からごっそり抜かれた草花には握られたような痕が残っていた。それこそ人の手形のような痕が。物言わぬ植物たちが受けた仕打ちがしっかり形となって残っていたのだ。
 …今回は人間の犯行なんじゃないかって俺は思うのだ。現行犯で逮捕してこの件を解決してやりたい。

 早朝と、休み時間と、放課後。時間が捻出できれば見張りをした。生徒会の仕事は役員に事情を話して負担してもらっている。彼らも俺が遊びでサボっているわけじゃないとわかっていたので快く了承してくれた。
 犯人はいつ尻尾出すかなと思っていると、視界の端にぬっと現れた男子生徒の姿。そいつは花壇を物色していた。
 ネクタイの色は3年だな。

「あいつ、C組の…」

 目を凝らして花壇を睨みつけていると、側にいた美化委員長が小さく呟く。横目で美化委員長の表情を盗み見したそのとき、彼が息を呑んだ瞬間を目の当たりにした。
 彼の視線の先を追うように視線をもとに戻すと、そこでは雑草を抜くように花壇に植えられた苗を抜く男子生徒の姿があった。

「おいっやめろ!」

 俺は慌てて飛び出すと、花壇荒らしの犯人をとっ捕まえた。とはいえ、相手の抵抗にあってガツッと手が顔にあたったりしてちゃんと捕まえられていないけど。

「受験生の辛さがお前にはわからないだろうがー!」

 逆ギレした3年は俺の胸ぐらをつかんでツバを飛ばす勢いで怒鳴りつけてきた。
 何だこいつ、自分がやってること棚に上げて逆ギレしてきたぞ。受験生の辛さって言うくらいだから、大方ストレスに任せて花を引っこ抜いたって流れか。どんなにストレスがたまっていたとしても、学校の共有物を引っこ抜いていい理由にはならないのに何言ってるんだこいつ。

「しらねぇよ! どんなにストレスが溜まっていたとしても、花壇の花を引っこ抜いていい理由にはならない!」

 俺は全力で3年に飛びかかった。もみくちゃになりかかったが、そこに美化委員長が加勢してくれたので2人で犯人を拘束してそのまま職員室に連行した。一悶着の末、花壇荒らしは指導室行きとなった。

 抵抗されたついでに殴られた頬が痛い。踏んだり蹴ったりである。
 ……ずっと思ってきたことだけどさ……推薦で入ったけど、生徒会割に合わねぇ。いくら進路に有利になるって言っても犠牲になることが多すぎない?
 俺が追い詰められたときに、森宮が表に立って庇ってくれた結果得られた地位だからその期待に恥じないように一年間頑張ったけど、生徒会の仕事って思っていたよりも八つ当たりの的になってしんどい。次の年度は推薦受けても辞退しようかな。森宮と同じ理由で「タダ働きは嫌でござる」とか言って。
 もう次は役員にならない。人知れず俺はそう決心した。


■□■


「悠木君、おはよー。あれ、ほっぺどうしたの? 現地妻に殴られた?」
「はよ…現地妻なんかいねーってば」

 朝から森宮に会えて気分が浮上したのに、不名誉な噂で流された事実無根の現地妻という単語を出されて俺は渋い顔をしてしまった。森宮にはそんなこと言ってほしくないのに、彼女は俺をからかうためにその単語を出してくる。
 抵抗のときに殴られた頬はどんどん青くなって軽く腫れてしまったので顔用の湿布を貼っているが、表情を動かすと鈍い痛みが広がる。早く腫れ引かねぇかな。

「悠木君パンいる? あ、カレーパンはだめだよ、私のだから」
「選択肢ねぇのかよ」

 バイト先でもらってきたパンを見せびらかす森宮の後頭部が見えた。髪に輝くのは俺がホワイトデーに贈ったバレッタ。使ってくれているのを見ると、心がふわふわしてきた。森宮を見ていると今までの疲れがすべて消えた気がした。
 勉強できるくせに恐ろしいくらい鈍感で、たまに残酷な部分がある森宮。だけど憎めないのだ。彼女の優しさを俺は知っているから。

「仕方ないなぁ、じゃあ今日だけはカレーパンを君に譲ってあげよう」

 屈託なく笑う彼女を見る度に俺の胸は熱くなる。かわいい。もっと笑ってほしい。その笑顔をそばで見たいという欲が湧いてくる。
 あぁ、俺はこの子が好きなんだなって改めて思った。
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