バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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意識し始めた彼女と積極的に動く彼。

この時の登場人物Mの心情を文章から読み取りなさい。

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「あのさ、俺…聖良のこと好きなんだけど」
「ごめんねぇ、無理だぁ。…ていうか、君って私と釣り合うと思ってるの?」

 鋭い言葉を発したのは、例の雨宮さんだった。
 投げかけられた男子は呆然としている。雨宮さんと同じ1年生の彼は屈辱にグッと唇を噛みしめると踵を返してその場から立ち去った。
 雨宮さんは鼻を鳴らすと男子から興味をなくしてスマホに視線を落とし、そのまま歩いていく。──私が廊下の柱の陰にいるとは気づかずに、そのまま通過していった。

 うわ、きっつ。
 最後の言葉、必要かなぁ…相手を諦めさせるためにきつい言葉言ったの? それにしては高飛車な言葉だ…。

 自販機に行った帰りに彼女と遭遇するとは思わなかった。
 昨日の今日なので彼女の顔は見たくなかったな……騙し討ちのように悠木君にキスした雨宮さん。きっとあれは私に対する見せつけだろう。彼女はずっと前から私を邪魔に思っているようだったから……悠木君の口端と頬の中間に残った赤いリップの痕を思い出した私は思い出しムカをした。
 怒りに鼻をふんふん鳴らしながら歩いていると、1年の女子数人が下駄箱前で固まっていた。派手めで早熟そうな彼女たちは確か雨宮さんの友達だったような……

「聖良のやつ、強硬手段とったんだ」

 その名は先程男子を手ひどく振っていた雨宮さんの下の名前だ。

「SNSで有名になれば噂になるもんね。悠木先輩ほどの相手ならそりゃ有名になるよ」

 雨宮さんの友人らの会話の内容に私はポケットのスマホを手にとった。もしものための録画である。
 ──これは去年と同じ流れになりそうな気もしないでもない。

「悠木先輩と2人で映っている写真、聖良のことが好きだっていう男子に撮らせて拡散させたんだってさ。それでカップル特集ページに飾られたとか」
「うわ、残酷」

 私は眉間にしわを寄せた。
 隠し撮りを拡散。悠木君を利用して有名になる。
 なるほど。悠木君を取り巻く今の現状が雨宮さんの差し金だったのだ。雨宮さんはもともと目立つのが好きなタイプだと思われる。それなら今の状況が楽しくて仕方ないだろう。自分から注目浴びるように仕向けているなら、彼女の態度も理解できる。

 雨宮さんの友人らは人の耳が近くにあるとは気づいていないのか、色々と話していた。…やっぱり可愛い友達がそばにいると妬みの感情が湧いてきてしまうものなのだろうか…
 そこにぴこん、と通知音が鳴って私はギクリとするが、私のスマホからじゃなかった。

「あは、聖良ってば協力してあげたB組の男子のこと、振ったらしいよ」
「知ってたけどしたたかな女だね」

 どうやら雨宮さんの友達のスマホにメッセージが届いたらしい。
 小さく嘲笑う声が聞こえてくる。雨宮フレンズたちの悪口にも似た噂話を聞いていた私はグッと歯噛みした。
 ……彼女は人のことをなんだと思っているんだろう。
 自分が有名になりたいからって、悠木君の生活を脅かすような真似をして。

「悠木先輩、聖良に落ちるかなぁ?」

 まるで他人事のように予想する彼女たちの言葉に私は反論してやりたかった。そんなわけないだろうって。
 しかしここで出ていっても仕方がない。
 だって彼女たちは雨宮さんの友達なだけで、ただ状況を知っているだけの部外者なんだもの。

 ──私が相手にするのはただ一人だ。悠木君にとって不本意な状況を作り出した人物。好意を向けながらもじわじわと悠木君を追い詰めている彼女だ。

「……落とさせやしない」

 私は録画のままになったスマホをギュッと握りしめて、低く呟くと心に決めた。
 このふざけた茶番劇を私が終わらせてみせる。悠木君は私が守ってみせようと。


■□■


 11月末から始まる期末試験のため、全学年が6時間目で終了する日だったが、自分のクラスのHRが少し長引いて教室を出るのが遅れてしまった。
 駐輪場から出て行くと先の正門付近には人だかりができていた。みんなが一斉に下校しているからかな? と思ったけどどうにも様子がおかしい。

 私は自転車を押しながらそこに近づく。どうやら他校の生徒が待ち伏せしていて、その人達がなにやら騒いでいるからうちの生徒がやじ馬しているようだった。

「あの、こうして待ち伏せすんの、やめてもらっていいですか?」

 騒ぎの渦中にいたのはこれまた悠木君だ。女子に囲まれて腕を掴まれたり、学生カバンに触られたりとまぁもみくちゃになって……。伊達眼鏡で騙せたのも数日だけで、今日は見破られてしまったようである。
 これは去年も見た光景である。去年はなんとも思わなかったけど、今は違う。

「写真に写ってた子、別に彼女じゃないんでしょ?」
「付き合ってる子とかいないんだったら…」
「あの、これ連絡先…」
「いや、ほんと困るんですけど」

 ぐいぐいと積極的な女達に迫られた悠木君はげんなりしていた。断っても断っても諦めない女の子ばかり寄ってくるんだもん。そりゃそんな反応になるわ。
 周りの生徒達はそれを観賞用か何かのように眺めている。これも、去年と同じ。
 あ、あの女、悠木君のかばんになんかねじ込んだな。あっちの女は腕とか背中とか無断で触っちゃって…ただの変態じゃないか。

 ……見ていてとても不快である。
 悠木君にベタベタ馴れ馴れしく触らないでほしい。

 しかしここで感情的になって怒鳴り散らしても、しつこい女達は追い払えない。私は自転車を正門脇に駐輪すると、ダッと駆け出して校舎に引き返した。
 最終兵器・先生を呼ぶために。

 職員室に特攻して、体育の先生、生活指導の先生を呼び出して事情を説明すると、いつものことと言わんばかりに先生たちは慣れた様子で出動してくれた。
 連日正門に押しかける学生たちに苦慮している先生たちには申し訳ないが、ここには先生たちの力が必要なのだ。


「ちょっと! 夏生先輩に触らないでよ!」

 先生たちを引き連れて正門に近づくと、そこでは新たな騒ぎが起きていた。

「そんな顔面でよくも近づこうとか思えるね、びっくりするー」
「はぁ!?」
「どいてよ! ベタベタさわんじゃねーよ!」
「なによあんた!!」

 押し寄せてきた他校生に向けて喧嘩を売る真似をしていたのはこの騒動の原因・雨宮さんだった。
 彼女は悠木君の周りにいた女の子たちを突き飛ばす形で引き剥がそうとしているが、相手からの抵抗にあって取っ組み合いになりかけていた。

「痛い! なにするのよ!」
「鏡見てから出直して来なよこのブス!」

 ……かっこよく悠木君を助けるつもりだったんだろうが、ムキになってキャットファイト始めちゃってるよ…
 罵倒しあって、キィキィ騒ぐ彼女たち。もうめちゃくちゃである。

「こら! なにしてるんだ!」
「正門前で騒ぐのはやめなさい!」

 先生たちの声に騒いでいた当人たちの動きがピタリと止まった。

「君たち、生徒手帳を出しなさい。学校に連絡させてもらうからね」

 集まっていた他校生たちに先生が手を差し出すと、まずいと思ったのか逃げる人も複数いた。でも制服で学校はわかっているから、そっちの学校に連絡して注意してもらえばいいことである。
 泥沼キャットファイトになりそうだった騒ぎを見事おさめてくれた。流石、最終兵器先生である。

「悠木君大丈夫?」

 女子達に引っ張られたせいで着ていたカーディガンがよれてしまっている悠木君に声をかけると、彼は私を見て目をパチパチさせて、合点がいったように頷いた。

「ん。ごめん助かる」

 私が先生を呼んできたと察したのだろう。
 いいんだよ、私が単純に不快だったから先生を呼んだだけだし。
 それにしてもひどいな。カーディガン袖は伸びてるし、ボタンまでもぎ取られてるじゃないか。どこの窃盗犯だ。

「これ、もうだめだな。引っ張られて脇の下の縫い目が破けたっぽいし」

 それ以前に袖が萌え袖以上の代物になっているからもう着られないだろう。残念ながらこの服はお陀仏のようである。男子にたかって服を駄目にするとかどんな教育を受けているのやら。…性別が逆なら非難の的になるってのに…

「──森宮先輩って冷たいんですね。自分で助けてあげないんですか? 先生とか呼んでダサい」
「…は?」

 横から刺々しい言葉を吐き捨てられた私は間抜けな声を出してしまった。
 なぜなら、諸悪の根源たる雨宮さんにとても失礼なことを言われたからだ。

「あ、もしかして自分に自信がないんですか?」

 その問いかけに私は怪訝な顔をした。
 自信? そりゃあ…あの状況に首を突っ込んで無事でいられる自信はないけど…。腕っ節に自信があるわけじゃないし。
 そういった意味での自信かと思ったけど、雨宮さんの言葉の意味はそうじゃなかったようだ。

「夏生先輩と不釣り合いですもんね。化粧っ気もないし、女としての魅力皆無ですもん」

 なんか一方的にディスられて、私は沈黙した。
 傷ついたからではない。ここでは意味がわからなかったからだ。

「お前ほんと勝手なことばっか言ってんじゃねぇぞ! 魅力ありまくりだっつの!」

 私の代わりに悠木君が切れて反論してくれていたが、私は彼の腕を掴んで止めた。悠木君が私を見下ろして気を遣っている空気を感じ取ったが、私は首を横に振るだけで返事をした。
 悠木君を背後に隠すようにして前にずいっと出ると、雨宮さんと対峙した。

「私の容姿と、今回の件…因果関係あるかな? あるなら納得できるよう説明してご覧」
「はぁ? なにそれ意味分かんないし」

 彼女は喧嘩を売るような生意気な態度で私の問いかけを一蹴してしまった。
 しかし今回という今回は私は見逃してやらん。

「意味がわからないのはこっちだよ。今は無断で写真を投稿されて不本意に有名になって、知らない人に付きまとわれて困っている悠木君を助けるための手段について話しているんだよね?」

 大体、ここで学生同士が言い争っても解決しない。この場合は先生のほうがあしらえるの。被害を縮小するためにやったんだけど。
 雨宮さんは相手と口論になって余計に火をつけていたでしょ。相手のこと罵倒してさ。炎上させてもなんの解決にもならないんだよ。誰かが傷つくだけなんだから。

 私はただ安全に助け出す方法を選んだだけ。それに私の容姿とか自信って関係あるかな?
 そもそも、こうなったのは誰のせいだと思っているの?

「──大体さ、こんな騒ぎになったのは誰のせいだと思ってるわけ?」

 私は彼女を真正面から睨みつけた。
 それに応えるかのように雨宮さんも睨み返してきた。だけど彼女の睨みなんか怖くもなんとも無い。
 私はそれ以上に怒っていたから。

 いいか、雨宮聖良よ。
 こんな風に悠木君を苦しめるあんたこそ悠木君にふさわしくないのだ。これ以上あんたの好き勝手にはさせてあげないから…!
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