十二輝の忍神 ーシノビガミ― 第一部

陵月夜白(りょうづきやしろ)

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31 武蔵と清十郎

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第九話 武蔵と清十郎

 清十郎の剣が、きらりと光った。

 ――その瞬間、武蔵もうしろにいた誰しもが、何が起こったか理解できなかった。

 風が遅れて鳴った。
刀の音ではない。 空気が裂けた音だ。

 清十郎は一気に間合いを詰め、下から鋭く切り上げた。

 ざんっ。
武蔵の右わき腹から左肩口へ、衣がまっすぐ裂ける。

 裂け目が走った一拍あとに、ぶわっ。
真っ赤な血が飛び散った。

 武蔵の眉がわずかに動く。
驚きでも痛みでもない。

 ――“面白いものを見た目”だ。

 清十郎は止まらない。
斬った足で地を蹴り、次の瞬間には、お蘭の正面へ滑り込んでいた。

 距離が、消える。
清十郎は上段に構え、一気に振り下ろす。

 ずん。
刃が落ちる前に、お蘭の目が危険を拾った。
「……っ」

 お蘭は躊躇なく、口元から毒液を吹き付ける。

 清十郎の野生の勘が、刃より先に反応した。
 振り下ろした剣が、信じられないほどの精度で、ぴたりと止まる。

 そのまま身体を後ろへ弾いた。

 ひゅん!
毒液が空を裂き、清十郎がいた場所の灰を黒く焼いた。

 清十郎は着地と同時に半身を切り、刀を低く構え直す。

 ――危なかった。
息を吐く暇もない。

 武蔵が、裂けた衣の間から胸を覗き込み、ふっと笑った。
「はは……やるじゃねぇかよ」

 そう言いながら、
懐から干し肉を取り出してむさぼり始める。

 ぐしゃ、ぐしゃ。
血と肉の匂いが混じる。

 その瞬間だ。
ぱっくり割れた胸の傷が、
ぶつぶつと蠢いて、塞がっていく。
 
 肉が寄り、血が吸い込まれ、裂け目がなかったことみたいに滑らかになる。

 武蔵は食べながら、平然と言った。
「なんだこいつは。
 速すぎんだろ」

 清十郎は目を丸くして武蔵を見た。
――切ったはずだ。
 確かに刃は肉を裂いた。
あの感触は嘘じゃない。

 それが、数息で消えた。
「……ばけものか」
清十郎の呟きは、灰の中で凍えた。

 武蔵は肩を回し、歯を見せて笑う。
「ばけもの?
 違ぇよ。
 しかし、ちょっと楽しくなってきたなぁ」

 お蘭が毒の気配を確かめ、
薄く笑った。
「……お前。
 いまの止め方、普通じゃないね」

 清十郎は答えない。
答える暇がない。

 金之助と鉄之介は、少し離れた場所でじっと戦況を見ている。

 鉄之介は口を歪め、金之助は目を細めたまま、誰も割り込まない。

 ――割り込む必要があるかどうか、見極めている。
 清十郎の背筋に、ぞわりと冷たいものが走る。

 この連中は、善も悪も、敵も味方も、まだ決めていない目だ。

 そのとき。
「やめなされ!」
虚舟の一喝が、門前の空気を叩き割った。

 青い杖が、もう一度鈍く光る。
止まっていた黒屍人の群れが、さらに深く沈黙し、戦場の熱が強引に押し戻される。

 虚舟の目は、清十郎と武蔵、お蘭を順に射抜いた。
「これ以上は無益じゃ。
 ……器を潰し合ってどうする」

 武蔵が干し肉を噛みちぎり、不満げに鼻を鳴らした。
「無益?
 俺、まだ全然遊び足りねぇんだけど」

「黙れ」
 虚舟の声が鋭く落ちる。

 武蔵が肩をすくめ、
だが目の奥の獣の火は消えていない。

 清十郎は、柄を握ったまま一歩も引かず、老人を睨んだ。

 胸の鼓動が、速さではなく硬さに変わっている。

 ――こいつらの正体は分からない。
だが、ただの人間じゃない。
 そしてこの戦いは、
黒屍人よりも厄介な“何か”の入口に立っている。

 清十郎は、刃を鞘に戻さぬまま、次の言葉を待った。

第十話 城内

 そのころ、城内――奥の座敷。
外のうなりと斬撃の轟きが、障子越しに重たく響いていた。

 館林の藩主はなお奥に隠れたまま、城の中枢だけが空洞のように静かだ。

 座敷には、お菊と、それを護衛する忠壽、斎藤、吉村。
少し離れて、佐野政親。

 その周りには虎之進と伊賀もの数名が控えている。

 お菊は外の気配に耳を澄ませ、数珠を握り直した。
「金之助殿たちは、大丈夫でしょうか……」

 お菊の声は抑えているのに、指先に焦りが滲む。

 忠壽は外の響きを一度測り、静かに答えた。
「表がだいぶ騒がしい。
 拙者も見てまいります」

 斎藤と吉村に目を向ける。
「斎藤。
 お菊様のことは任せたぞ」
「はっ」
「吉村も、油断するな」
「承知」

 忠壽が戸口へ向かう。
その背に、お菊が小さく声をかけた。

「忠壽様――どうか、ご無事で」
忠壽は振り返らず、短く頷き、座敷を出ていった。

 残る空気が、ふっと冷える。
虎之進は外のうなりに落ち着かず、何度も障子へ視線を投げる。

 だが佐野は、平然としていた。
まるで外の騒ぎなど、最初から盤の上の駒にすぎぬと言わんばかりに。

 佐野は虎之進に、ゆるく手を振って言う。
「やつらに任せて問題ない。
 おぬしはここでゆっくりしておればよい」

「……しかし殿、あの騒ぎ。
 門前で何か起きておるのでは――」

「起きているさ」
佐野は笑ってみせる。

「だから面白い」
その一言に、伊賀ものたちの肩がわずかに強張る。

 虎之進は唇を噛んだが、それ以上は言い返さない。

 佐野はふとお菊へ目を向け、声音を変えた。
「ところで、お菊様」
 奥方への呼び方は丁寧だ。

 だがその目は、刀のように冷たい。
「私たちと一緒に田沼様のところへ行く決心は、つきましたか?」

 お菊は背筋を伸ばし、視線を逸らさない。
「なにをおっしゃるのですか。
 私は館林の人間。
 ここに留まって民を助けるのが使命です」

「まだ、そんなことを」
佐野の笑みが薄くなる。

「世の中が天地をひっくり返したかのようになっているのは、
 あなたもご存じの忍神の珠のせいですよ。
 これを早く沈めねば、藩も民も持たぬ」

 お菊は眉を寄せる。
「……あなたたちは、珠をどうしようとなさるつもりです?」

 佐野は少しも迷わずに言った。
「徳川の世のために、田沼様が活用すること以外にありますか?」
 その言い切りに、座敷の空気が硬くなる。

 虎之進が息を飲み、伊賀ものたちが互いに目配せする。
 “活用”という言葉の重さが、皆に同じ形で刺さった。

 お菊はゆっくりと首を振った。
「……そうは思えません」
「あなたたちは珠を理解なさっていない。
 一刻も早く封じないと、もっと大変なことになります」

 佐野の目が細くなる。
「封じる?」

「はい」
 お菊の声は静かだが揺らがない。
「珠は人の都合で使える道具ではありません。
 欲で触れれば触れるほど、災いは濃くなります。
 黒屍人の増え方が、それを物語っています」

「災いは、人が扱うからこそ価値がある」
 佐野は淡々と返す。
「扱わなければ、ただの災いだ」

「……違います」
 お菊は一段、声を強くした。
「珠は“器”と“流れ”を選びます。
 人が選ぶのではない。
 だからこそ恐ろしいのです」

 佐野はその言葉に、ほんのわずかだけ興味を覗かせる。
「器と流れ……
 虚舟も似たことを言っていたな」

 虎之進の眉が動く。
伊賀ものたちの視線が一瞬、お菊へ集まる。

 佐野は畳に指を置き、ゆっくりとなぞるように言った。
「だが、封じる封じると口では言いながら、
 あなたは辰の器を手放さぬ。
 寅の珠も、こちらの手には渡さぬ」

 お菊の喉が、かすかに鳴った。
 佐野の言葉は、刃の先端だけを撫でてくる。

「私は……」
お菊は息を整え、はっきりと言う。
「金之助殿たちを守るために、ここにおります。
 辰の珠が目覚めようと、寅の珠が揃おうと、まず守るべきは“民と命”です」

「民と命のために、田沼様の力が要る」
 佐野は微笑みを戻した。

「あなたがここで戦って死ねば、民はもっと困る。
 ――だからこそ、あなたには“世の中心”へ来ていただきたい」

 お菊は佐野を見据えたまま、静かに答えた。
「世の中心が、珠を武器にする場所なら――
 私は行きません」

 座敷の空気が一段、冷えた。
虎之進が息を詰める。
 伊賀ものたちの指が、わずかに柄へ寄る。

 佐野の笑みの裏の温度が、じわりと落ちる。
「……頑なだな、お菊様」

 佐野は低い声で言った。
「外でどれほど血が流れようと、
 あなたはこの城にしがみつくつもりか」

「しがみつくのではありません」
お菊は一歩も引かない。
「ここが、私の家だからです」

 佐野は細く息を吐き、ふっと肩をすくめた。
「ならば――
 外で決着がつくまで、ここで待つとしよう」

 その言葉が終わると同時に、遠く門前からまた一段大きな轟きが響いた。

 座敷の誰もが、一瞬黙る。
外はまだ、終わっていない。
 そしてその終わり方次第で、この座敷の“言葉の戦”も、刃に変わる。

 お菊は、数珠を胸元へ引き寄せた。
――どうか、金之助殿たちが無事でありますように。
 祈りは声にならず、静かに座敷の闇に沈んだ。

第十一話 寅の器

 虚舟が、青い杖を畳に軽く突いた。

 こん。
その音だけで、止まっていた黒屍人たちがさらに静まる。

 門前の空気が、老いた声へ吸い寄せられていった。
「このものが、寅の器であることは明白」

 虚舟の細い指が、まっすぐ清十郎を指す。
 清十郎は旅笠の陰で眉をしかめたが、言葉を挟める間はない。

「異存はなかろう?」
虚舟はゆっくりと視線を移し、金之助を見る。

「おぬしの持つ寅の珠を、手渡したらどうじゃ」

 金之助は返事をしない。
辰の鼓動が胸の奥で小さく鳴り、呼吸の間に熱が挟まる。

 目の前の剣客――清十郎の剣技は、たしかに凄まじい。
 あれが珠に順応すれば、寅の力は何倍にも増すだろう。

 だが。
善か悪か、まだ見極めきれない。
 もしこの剣が、敵の側へ渡ったなら。

 もし寅の暴力が、辰と噛み合わぬ形で走ったなら。

 その先にあるのは――
黒屍人の海より濃い破滅だ。

 金之助の唇が、かすかに結ばれる。
「……」

 沈黙の重さが、答えになりかけた、その時。

「おい、じじい」
鉄之介が、苛立ちを隠さず踏み出した。

 清十郎を顎でしゃくる。
「なんでそんなに急がせる。
 本人は何も分からずポカーンだぜ」

 鉄之介の声は、門前の石に跳ね返って荒い。
「怪しいんだよ、このじじい」

 大槌の柄が持ち上がり、
虚舟へ向けて、ゆっくりと影を作った。

 武蔵が面白がって肩を揺らし、
お蘭は目を細める。
左門は槍先を少し上げた。

 虚舟は鉄之介の槌を一瞥し、少しも怯まず、淡々と答える。
「器は導かれるんじゃ。
 むりやり与えても壊れるだけ」

「知ってるさ、じじい」
鉄之介は鼻を鳴らした。
「だがな、怪しいんだよ。
 お前が言うこと、都合が良すぎんだ」

 虚舟の目が、鉄之介の巾着へ一瞬だけ落ちる。
「都合ではない。
 流れじゃ」

「流れ流れって、うるせぇんだよ」
鉄之介の槌が、さらに半寸持ち上がる。

 空気がきしむ。
その緊張の糸を、清十郎の声が割った。
「……お前ら」

 清十郎が口を開く。
低く、乾いた声。

 だが刃と同じ鋭さを含んでいる。
「寅とか珠とか、勝手にしゃべってないで――ちゃんと教えろ」

 旅笠の陰の目が、ひとりずつを射抜いた。
「どういうことだ。
 俺は何の器で、何を渡す?
 なぜ黒屍人は止まっている。
 お前らは何者なんだ」

 風が止んだみたいに、門前が静まる。
 清十郎の声は怒鳴りではないのに、その場の全員の背筋を正した。

 虚舟がひとつ目を細める。
金之助は、清十郎を見る。
鉄之介も槌を止めたまま、舌打ちして視線を戻す。

 答えねばならない段に入った。
誰もが、そのことを本能で理解していた。

第十二話 虚舟と利吉

 虚舟が名乗るその名は、もともと“名”ではない。

 根来の残り火が、世に溶けぬよう被せた皮だった。
 虚舟――本名、利吉。
 根来衆残党の末裔として生まれた利吉は、物心ついた頃から耳にたたき込まれてきた。

 未の珠の話を、何百回も。
それは昔話ではなく、祈りであり、命令であり、呪いだった。

 ――根来は滅びた。
 ――だが珠は滅びぬ。
 ――珠が戻る刻、根来も戻る。

 利吉の前にあった未の珠は、長いあいだ封印の眠りに沈んでいた。
 光は消え、ただ冷たい石のように黙っている。

 だが“魂はいつか戻る”と教えられていた。
 魂が戻り、青く光るとき。
そのときこそ、珠を拒むな、と。

 身体へ取り込め。
 珠を宿せ。
根来のすべてを、その青い鼓動に預けろ。

 利吉は子供の頃から、その言葉を胸の奥で育てた。
 同じ年の子が鬼ごっこを覚えるころ、利吉は“復活の誓い”を覚えた。

 そして、珠は戻った。
ある夜、封じの壺の中で、石が――呼吸するように青く脈を打った。

 その光に目を焼かれながら、利吉は恐れず受け入れた。

 教えられた通り、身体へ宿した。
未の珠の効力は、洗脳。
 すべてを操る呪ではない。
だが知能が低く、欲望に素直なものほど、その青い鼓動に簡単に絡め取られる。

 動物全般。
野犬、狼、猪、鳥でさえ。
 未は“野獣使いの珠”と呼ばれた。
その昔、根来はこの珠で野獣を従え、戦場へ放ったという。

 火を恐れぬ獣の隊列。
剣や槍よりも先に敵陣を裂き、
 混乱の中で根来の忍が刈り取った歴史。

 利吉はその話を、まるで自分の記憶のように聞かされてきた。

 人間に効くことも教わった。
欲にかられた者、知の浅い者、恐怖に支配された者。

 そういう人間は、獣と同じく脈に引っ張られる。
 たとえ知性が高く、欲深くなくとも。
 一瞬の隙ができる。
 怒り、恐れ、悲しみ、焦り、絶望。
 心が乱れる一拍の“割れ目”が生まれる。
 そこを突けば、操れる。

 利吉はそれを、“珠の牙の差し込みどころ”として叩き込まれていた。

 利吉が世に出た頃、根来は“影の種火”に過ぎなかった。

 残党は散り散り、名前も捨て、
復活を語る者ほど早く消された。

 復活を現実にするには――
強い後ろ盾がいる。
 だから利吉は“虚舟”を名乗り、幕府の権力へ取り入る道を探した。

 その先にいたのが田沼意次である。
力が集まるところへ珠も集まる。
 根来の復活には、徳川の中心が要る。

 だが利吉は知っていた。
反田沼側に、寅の珠がある。

 寅の器は限られる。
しかも欲深い人間には、寅の珠は宿らない。

 寅は“猛き器”を選ぶ。
器が薄ければ、珠は噛み砕く。
 だから田沼の懐へ寅を持ち込むだけでは駄目だった。
 器の側ごと、こちらへ引き寄せねばならない。

 ――付け入る隙は、どこだ。
利吉が狙いを定めたのは、珠が身体と融合する瞬間。

 珠が器へ宿るとき。
人間の内側は不安定になる。
欲、恐怖、不安、絶望、歓喜、怒り、羞恥――
 あらゆる感情が泡のように湧いては消える。

 その一瞬、
どんな強い器にも“割れ目”ができる。
 そこへ未の珠が輝けば、思い通りに操れる寅の器が生まれる。

 利吉に残された道は、それしかなかった。
 寅をこちら側に引き込めば、
一気に珠を全取りできる。
 辰も寅も未も――三つが集まる。
根来復活の現実味は、初めて“盤面”に上がる。

 しかも今、三つが揃いかけている。
――今が、機会だ。
利吉はそう確信していた。

 だが、悟られてはならない。
寅が相手側に渡ったら、辰との相性で“力が増幅する”。

 相手が寅の器を確保すれば、
こちらの未の珠など、優先度の低い駒に落ちる。

 失敗は許されない。
だから利吉は、青い杖で黒屍人を操りながらも、自分の狙いを“味方のための策”に見せた。

 城下を囲うのは脅しではなく導きだ、と。
 珠を集めるのは乱れを止めるためだ、と。
 寅の器を求めるのは流れだ、と。

 すべては正しいように聞こえる言葉で包み、その内側に牙を隠した。

 根来の虚舟は、
誰にも気づかれぬまま――
寅の器が珠と融合し、割れ目を作るその瞬間だけを待っていた。

 その青い鼓動が牙を差し込むのは、
“次の一拍”だ。
 利吉の目は、すでにそこを見ている。
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