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第13章 魔族領
第265話 光明
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「おいおい、あれって………」
「ああ。2大事件を終わらせた"英雄"
シンヤ・モリタニだな」
「それだけじゃないぞ。他にも"生命の大樹"や"戦場楽団
"、"水清航路"……………」
「それと"神々の祝福"・"サンド・キャッスル"・"
ウォーターフォール"のクランマスター
達までいやがる。一体どうなってん
だ?」
「なんか同盟とか言ってなかったか?」
「同盟?あいつら全員がか?もし、そう
なら俺達が知らないのも無理はねぇ。な
にせ同盟はギルド非公認の関係だ。それ
故に公になることはほぼないからな」
「あの面子が同盟関係………………とんで
もないな。特にあの"英雄"を引き込ん
でいるのがな」
聴衆が口々に感想を述べる中、それらを
一切気にすることなく、シンヤは口を開
いた。
「ハーメルン。お前、自分が何をしてい
るのか分かってんのか?」
「そ、そんなの当然だよ。僕は身内がし
たことの責任を取って…………」
「冒険者の引退とその後の贖罪方法を民
意に委ねるってか?お前、舐めてんの
か?」
「なっ!?」
「それは一見、真摯的な責任の取り方に
聞こえるかもしれない。だが、お前の場
合は……………単なる逃げだな」
「違うよ!な、なんでそんなことを言う
のさ!」
「いいや、違わない。お前の様子を見て
いれば分かる。冒険者を引退するのは何
もケジメからじゃない。このまま冒険者
業を続けていけば、いずれどこからか自
分が犯罪者の身内だということがバレて
批判が殺到するかもしれず、それに耐え
られる自信がないからだ。だから、自ら
引退を宣言した。その方が批判も軽くな
るかもしれないからな」
「……………」
「そして、その後の贖罪方法を民意に委
ねたのもこのまま十字架を背負いながら
生きていく苦痛から解放して欲しかった
からだ。周りが決めたことに従っていれ
ば、ぐちぐち悩む必要もないからな。さ
ぞかし気持ちも楽になることだろう。ま
ぁ、民意によっては"生"からの解放と
なるかもしれないが、どのみちお前にと
っては好都合だ。あらゆるものを直視し
なくて済む」
「……………くっ」
「だが、それ自体を否定するつもりはな
い。人間、同じ状況に置かれたら、その
ように考える奴は大勢いるだろう。加え
てお前の場合はただの現実逃避ではな
く、そこに自責や弔意の念があるし、被
害者に寄り添おうとする心まで持ち合わ
せている。それは心の底から反省してい
ることを表し、お前の気持ちはおそらく
被害者に届いている筈だ………………とは
いっても全員が全員、お前の提案した今
回のようなやり方に賛成しているかと聞
かれれば、そうではないだろう。現にこ
こにいる俺達は反対だからな」
シンヤのその言葉に頷く同盟クランのク
ランマスター達。皆、真剣な面持ちでハ
ーメルンを見つめている。
「な、なんでさ!これでも僕なりに一生
懸命考えて出した結論なんだよ!?それ
を同志である君達が何故賛成してくれな
いんだ!?」
「俺達を同志だと思うのなら、何故そん
な結論に至る?」
「えっ、いや、だって……………」
「ここまできても分からないようだか
ら、はっきりと言ってやる………………お
前が冒険者を引退した場合、残された俺
達はどうなるんだ?」
「………………あっ」
「お前は以前、言っていた筈だ。"同盟
とは相互扶助の関係である"と」
「そ、それは……………」
「きっと普段のお前なら、周りの者達へ
の配慮を欠かすことはないだろう。しか
し、今回は事が事だけにその余裕はなか
った。お前は身内のしでかしたことの責
任をどう取ったらいいかで頭が一杯だっ
たんだ。だから、そこまで頭が回らなか
った。言っておくがそれで困るのは俺達
だけじゃないぞ。お前のクランのメンバ
ー達も同様だ」
「で、でも、みんなにはちゃんと伝えた
し、きっと納得してくれている……………
はず」
「口ではそう言ったかもしれないが本心
は違うだろう。クランメンバーとは俺達
以上に関係が深いんだろ?だったら、お
前には辞めて欲しくない筈だ。それに感
情面は抜きにしても金銭面はどうなる?
お前にいきなり野に放たれた者達はこれ
から、ちゃんと生活していけるのか?」
「そ、それは大丈夫な筈。だって実力は
あるし、顔だってそこそこ売れてるし」
「実力はあってもそこに心が追いついて
いなければ、どうにもならないだろ。お
前がいなくなった心的外傷はしばらく続
くぞ。その間は仕事など以ての外。何も
手につかず、気力なんて湧きやしない。
お前はそれを放置しておく気なのか?」
「そんなこと言っても………………僕だっ
て、いつどうなるか分からないんだ。こ
の先、不慮の事故でいなくなっても同じ
ことになる。結果は一緒だ」
「お前はどこまで馬鹿なんだ。一緒な訳
ないだろ。お前は自ら死地へと飛び込も
うとしている。そんなのは不慮でもなん
でもない。だから当然、結果は違ってく
る。お前の仲間達がそれを受け入れてく
れるとも限らない」
「………………」
「お前は……………この先、自由に生きて
いきたくはないのか?」
「っ!?」
シンヤのその言葉に驚いたハーメルンは
ハッとした表情で顔を上げた。すると、
そこには温かい表情で彼を見守る同盟ク
ランのマスター達がおり、それによって
少しの間は心が温かくなった……………の
だが、やはり未だ自責の念に駆られるハ
ーメルンにはそれすらも完全に受け入れ
ることは出来なかった。そんな心中でい
る中、続けてシンヤから発された言葉は
彼にとって驚くべきものだった。
「正直、俺はハーメルンには罪を償う必
要があるとは到底思えない。だから、引
退宣言を撤回し、贖罪もやめてもらお
う。俺達はその為に来たんだ」
「な、何を勝手なことを言っているの
さ!そんなの今更できる訳ないだろ!」
「いいや、できる。その理由もここにい
る聴衆にもちゃんと聞いてもらって納得
させるさ」
「何を言われようとも僕は罪人だ。あい
つの弟なんだから」
「そうか。ではお前のその理論でいけ
ば、彼らも同じということだ
な?」
「…………彼ら?」
ハーメルンの質問に答える代わりにシン
ヤは目にも止まらぬ速さで抜刀し、真横
の空間を斬りつけた。するとそこには蜘
蛛の巣状に罅が入り、それは徐々に広が
っていった。そして、数秒後ガラスが割
れた時のような大きな音を立てて、人が
2人分通れる程の穴が開いた。穴の先に
は一切の光明もない真っ暗な空間が広が
っており、得体の知れない恐怖で見た者
を身震いさせる何かがあった。
「…………ん?」
多くの者達がその光景に驚いている中、
穴の中から誰かが歩いているような音が
反響して聞こえてくるのにハーメルンは
気が付いた。数秒後、目を凝らして穴を
注視しているとそこから2人の壮年の男
女がいきなり現れた。これにはハーメル
ンはもちろんこと、事態を見守っていた
聴衆も驚くこととなった。
「……………シンヤ、その方達は?」
一刻も早くその正体が知りたいと思った
ハーメルンはしかし、少しばかりの警戒
心を抱きつつも訊いた。それに対しての
シンヤの返答は実に驚くべきものだっ
た。
「この者達の名はユーサー・ラゴンとイ
グレイン・ラゴン。"聖義事変"の首謀
者であるハジメ………………いや、アーサ
ー・ラゴンの両親だ」
「ああ。2大事件を終わらせた"英雄"
シンヤ・モリタニだな」
「それだけじゃないぞ。他にも"生命の大樹"や"戦場楽団
"、"水清航路"……………」
「それと"神々の祝福"・"サンド・キャッスル"・"
ウォーターフォール"のクランマスター
達までいやがる。一体どうなってん
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「なんか同盟とか言ってなかったか?」
「同盟?あいつら全員がか?もし、そう
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にせ同盟はギルド非公認の関係だ。それ
故に公になることはほぼないからな」
「あの面子が同盟関係………………とんで
もないな。特にあの"英雄"を引き込ん
でいるのがな」
聴衆が口々に感想を述べる中、それらを
一切気にすることなく、シンヤは口を開
いた。
「ハーメルン。お前、自分が何をしてい
るのか分かってんのか?」
「そ、そんなの当然だよ。僕は身内がし
たことの責任を取って…………」
「冒険者の引退とその後の贖罪方法を民
意に委ねるってか?お前、舐めてんの
か?」
「なっ!?」
「それは一見、真摯的な責任の取り方に
聞こえるかもしれない。だが、お前の場
合は……………単なる逃げだな」
「違うよ!な、なんでそんなことを言う
のさ!」
「いいや、違わない。お前の様子を見て
いれば分かる。冒険者を引退するのは何
もケジメからじゃない。このまま冒険者
業を続けていけば、いずれどこからか自
分が犯罪者の身内だということがバレて
批判が殺到するかもしれず、それに耐え
られる自信がないからだ。だから、自ら
引退を宣言した。その方が批判も軽くな
るかもしれないからな」
「……………」
「そして、その後の贖罪方法を民意に委
ねたのもこのまま十字架を背負いながら
生きていく苦痛から解放して欲しかった
からだ。周りが決めたことに従っていれ
ば、ぐちぐち悩む必要もないからな。さ
ぞかし気持ちも楽になることだろう。ま
ぁ、民意によっては"生"からの解放と
なるかもしれないが、どのみちお前にと
っては好都合だ。あらゆるものを直視し
なくて済む」
「……………くっ」
「だが、それ自体を否定するつもりはな
い。人間、同じ状況に置かれたら、その
ように考える奴は大勢いるだろう。加え
てお前の場合はただの現実逃避ではな
く、そこに自責や弔意の念があるし、被
害者に寄り添おうとする心まで持ち合わ
せている。それは心の底から反省してい
ることを表し、お前の気持ちはおそらく
被害者に届いている筈だ………………とは
いっても全員が全員、お前の提案した今
回のようなやり方に賛成しているかと聞
かれれば、そうではないだろう。現にこ
こにいる俺達は反対だからな」
シンヤのその言葉に頷く同盟クランのク
ランマスター達。皆、真剣な面持ちでハ
ーメルンを見つめている。
「な、なんでさ!これでも僕なりに一生
懸命考えて出した結論なんだよ!?それ
を同志である君達が何故賛成してくれな
いんだ!?」
「俺達を同志だと思うのなら、何故そん
な結論に至る?」
「えっ、いや、だって……………」
「ここまできても分からないようだか
ら、はっきりと言ってやる………………お
前が冒険者を引退した場合、残された俺
達はどうなるんだ?」
「………………あっ」
「お前は以前、言っていた筈だ。"同盟
とは相互扶助の関係である"と」
「そ、それは……………」
「きっと普段のお前なら、周りの者達へ
の配慮を欠かすことはないだろう。しか
し、今回は事が事だけにその余裕はなか
った。お前は身内のしでかしたことの責
任をどう取ったらいいかで頭が一杯だっ
たんだ。だから、そこまで頭が回らなか
った。言っておくがそれで困るのは俺達
だけじゃないぞ。お前のクランのメンバ
ー達も同様だ」
「で、でも、みんなにはちゃんと伝えた
し、きっと納得してくれている……………
はず」
「口ではそう言ったかもしれないが本心
は違うだろう。クランメンバーとは俺達
以上に関係が深いんだろ?だったら、お
前には辞めて欲しくない筈だ。それに感
情面は抜きにしても金銭面はどうなる?
お前にいきなり野に放たれた者達はこれ
から、ちゃんと生活していけるのか?」
「そ、それは大丈夫な筈。だって実力は
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「実力はあってもそこに心が追いついて
いなければ、どうにもならないだろ。お
前がいなくなった心的外傷はしばらく続
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手につかず、気力なんて湧きやしない。
お前はそれを放置しておく気なのか?」
「そんなこと言っても………………僕だっ
て、いつどうなるか分からないんだ。こ
の先、不慮の事故でいなくなっても同じ
ことになる。結果は一緒だ」
「お前はどこまで馬鹿なんだ。一緒な訳
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うとしている。そんなのは不慮でもなん
でもない。だから当然、結果は違ってく
る。お前の仲間達がそれを受け入れてく
れるとも限らない」
「………………」
「お前は……………この先、自由に生きて
いきたくはないのか?」
「っ!?」
シンヤのその言葉に驚いたハーメルンは
ハッとした表情で顔を上げた。すると、
そこには温かい表情で彼を見守る同盟ク
ランのマスター達がおり、それによって
少しの間は心が温かくなった……………の
だが、やはり未だ自責の念に駆られるハ
ーメルンにはそれすらも完全に受け入れ
ることは出来なかった。そんな心中でい
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彼にとって驚くべきものだった。
「正直、俺はハーメルンには罪を償う必
要があるとは到底思えない。だから、引
退宣言を撤回し、贖罪もやめてもらお
う。俺達はその為に来たんだ」
「な、何を勝手なことを言っているの
さ!そんなの今更できる訳ないだろ!」
「いいや、できる。その理由もここにい
る聴衆にもちゃんと聞いてもらって納得
させるさ」
「何を言われようとも僕は罪人だ。あい
つの弟なんだから」
「そうか。ではお前のその理論でいけ
ば、彼らも同じということだ
な?」
「…………彼ら?」
ハーメルンの質問に答える代わりにシン
ヤは目にも止まらぬ速さで抜刀し、真横
の空間を斬りつけた。するとそこには蜘
蛛の巣状に罅が入り、それは徐々に広が
っていった。そして、数秒後ガラスが割
れた時のような大きな音を立てて、人が
2人分通れる程の穴が開いた。穴の先に
は一切の光明もない真っ暗な空間が広が
っており、得体の知れない恐怖で見た者
を身震いさせる何かがあった。
「…………ん?」
多くの者達がその光景に驚いている中、
穴の中から誰かが歩いているような音が
反響して聞こえてくるのにハーメルンは
気が付いた。数秒後、目を凝らして穴を
注視しているとそこから2人の壮年の男
女がいきなり現れた。これにはハーメル
ンはもちろんこと、事態を見守っていた
聴衆も驚くこととなった。
「……………シンヤ、その方達は?」
一刻も早くその正体が知りたいと思った
ハーメルンはしかし、少しばかりの警戒
心を抱きつつも訊いた。それに対しての
シンヤの返答は実に驚くべきものだっ
た。
「この者達の名はユーサー・ラゴンとイ
グレイン・ラゴン。"聖義事変"の首謀
者であるハジメ………………いや、アーサ
ー・ラゴンの両親だ」
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