クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

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親友の頼みごとを引き受けたら

3P

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「へ~、そうなんだ。じゃあ、俺と帰る方向がいっしょだな」


わたしたちの会話に、芽依は『いい流れ』というふうに、首をうんうんと縦に振っている。


「わたしはこっちの道だからさ、りっくんはこのあと芽依を家まで送ってあげてよ」


…言えた!

ごくごく自然な流れで。


りっくんは優しいから、きっと「イヤ」なんて言わないはず。

それは、想像ができていた。


…しかし。


「そっか。それじゃあ、篠田さん…」

「はいっ♪」

「送るのは、また帰りがいっしょになったときでいいかな」


……えっ…?


わたしと芽依は、キョトンとして顔を見合わせる。


「俺、今日はしずくに話したいことがあって。だから、こっちに帰るから」


そう言って、りっくんはわたしの家へと続く道を指差す。

それは、芽依の家とは真逆の方向だ。


「は…話したいこと?」


予想外のりっくんの発言に、わたしが動揺してしまった。


「うん。2人きりになりたいから、しずくの家まで送るよ」


わっ…わたしと2人きりっ!?


…そうじゃないよ、りっくん!

りっくんと2人きりになりたいのは、芽依なんだからっ…!


りっくんは背中にしていて気づいていないだろうけど、いっしょに帰れないことに頬を膨らませて怒っている芽依の顔が見えた。


ここは、なんとしてでもりっくんと芽依を2人きりにしないと…!


「…ごめんね、りっくん。わたし、今から寄るところがあって…」

「寄るところ?」

「だから、今日は芽依といっしょに帰ってね!」

「あっ…。待てよ、しず――」

「…じゃあ、またねー!」


わたしは、りっくんを振り切るようにして駆け足でその場を去った。


若干強引だったけど、これでいいんだ。


芽依は、りっくんと帰りたがっている。

わたしは、あそこにいたらただのお邪魔虫。


だから、これで――…。


と思ったけど、走っていたスピードを徐々に緩めて立ち止まったら、なんだか心にぽっかりと穴が空いたように…無性に寂しくなった。


今頃2人は、同じ帰り道を歩いているのかな。

話し上手な芽依がりっくんに話題を振って、りっくんもそれに応えて…。


きっと、弾むような声が飛び交っているに違いない。

芽依のはじける笑顔が溢れているに違いない。


親友の頼みごとを聞いて、わたしはその役目を果たしたはずなのに――。


どうして、りっくんの隣にわたしじゃないだれかがいると思ったら、こんなにも胸がギュウッと締めつけられるのだろうか。


りっくんはただの幼なじみで、だれと仲よくしようとわたしには関係ないはずなのに…。


体育祭のときも、さっきもだって、前からりっくんの隣にいたのは…わたしだったのにな。

なんてことを思ってしまった。



「…はぁ~。わたしってば、なに落ち込んでるんだろう」


自分を鼓舞するように、両頬をペシペシと叩く。


「早く帰って、録画してたドラマでも見よう…!そうすれば、きっと気分も入れ替わるは――」

「確か、今から寄るところがあるんじゃなかったっけ?」


突然後ろから声がして、驚いて肩がビクッと動いた。


…この声、もしかして……。


おそるおそる振り返ると、両腕を前で組み、不服そうな表情でため息をつく…りっくんだった!


「り、りっくん…!」


びっくりしすぎて、思わず後ずさりをしてしまった。


まさか、ついさっきまで頭の中で思い浮かべていたりっくんが、真後ろにいるとは思わなくて…。


「ふ~ん。『寄るところがある』っていうのは、嘘だったんだ」

「…えっ!?う…嘘じゃないよ…!?ちょうど今から向おうと――」

「今さっき、『早く帰って、録画してたドラマでも見よう』って言ってたのは、だれだよ」


…やっぱり、わたしのひとり言を聞かれてしまっていた。


「そういえば…芽依は!?まさか、1人で帰らせたの…!?」

「ちゃんと送ったよ。しずくに頼まれたんだから。パン屋までだけどな」


りっくん、ちゃんと途中まで芽依を送ってくれたんだ。


「でもしずくの様子が気になって、すぐにあとを追ってきた」


よく見ると、りっくんはハァハァと息を整えている。

…それに、こんなに汗びっしょりで。


徒競走で全力疾走したときは、汗ひとつかいてなかったのに。


「どうして、そうまでしてこっちに…」

「俺、…言ったよな?しずくに話したいことがあるって」

「けど、それくらいあとでメッセージを送ってくれたら――」

「それじゃ、ダメなんだよ…!」


いつもはクールで物静かなりっくんが、突然大きな声を出すから、わたしは目を丸くしてしまった。


自分でも取り乱したことに驚いたのか、りっくんは恥ずかしそうにコホンと咳払いをした。


「メッセージじゃなくて、直接しずくに話したかった」

「…そうなの?なんの話だろう」

「これだよ」


そう言って、りっくんはリュックのポケットからなにかを取り出した。

それは、長細い赤色の布。


そう。

体育祭のハチマキだ。


「これ、終わってから気づいたんだけど、なんなんだよ?」


怒っているような…りっくんの低い声のトーン。


りっくんの指差すところを見ると、ハチマキの端に『篠田芽依』と小さく名前が書かれてあった。


「しずくから渡されたから受け取ったのに、なんで篠田さんのハチマキが?」

「そ…それは、あのとき言いそびれちゃったんだけど、芽依がりっくんとハチマキを交換したがってて…」


ここは、下手な嘘はつけない。

正直に話そう。


それに、さっきみたいにわたしが嘘をついたところで、きっとりっくんはすぐに見破ってしまうだろうから。


「てことは、俺のハチマキは篠田さんが?」

「…うん」


りっくんの問いに、わたしはぎこちなく頷いた。


「…なんだよ。そういうことかよ」


わたしの反応に、りっくんはガッカリしたようにため息をついた。

そして、手で目元を隠すようにして、落ち込んだように地面にしゃがみ込む。


「俺、てっきりしずくがハチマキを交換してくれると思ったから、喜んで渡したっていうのに…」


……え?

喜んで渡したって、…どういうこと?


「しずくとハチマキを交換できて、しずくも俺と同じ気持ちなんだって勘違いしてた自分がバカみてー…」


ハハハ…と自嘲気味に笑うりっくん。


そんなりっくんと視線を合わせるように、わたしもいっしょになってしゃがんでみる。

目元は手で隠れて見えないけど、その陰から悔しそうに唇を噛んでいるのが見えた。


「…も~、りっくん。なにか落ち込むことでもある?わたしなんかのハチマキをもらったところで、いいことなんてなにも――」

「あるよ」


そう言うと、りっくんは目元を覆っていた片手でわたしの手を握った。


「俺だって、恋まじないなんか信じてねぇよ。でもあのとき、マジでしずくと両思いになれるかもって思ったら、うれしくてたまらなかった」


そして、まっすぐにわたしを見つめる。


「りっくん…」


いつもと違う、りっくんの真剣でまっすぐな視線に、思わず目を奪われる。



『悪いけど、こいつ、ずっと前から俺のだから』

『しずくが、だれかのものになるかもって思ったら…。頭ぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだった』


…どうしよう。

こんなときに、あのときのことを思い出しちゃった。


あれはただ、ユウヤくんを諦めさせるために言ってくれただけで…。

わたしに向けられて言った言葉じゃないってわかってるのに。


あのときも今も、わたしが知っている幼なじみとはまた違うりっくんが垣間見えて、なぜだか胸がドキドキしている。



少しして、りっくんに見惚れていることに気づき、我に返る。


「な…なに言ってるの。わたしは、ただ芽依とりっくんが仲よくなってくれたらなぁって思って」


ごまかすように視線を逸してみたけど、すぐにりっくんに肩をつかまれてしまった。


「そんなの、仲よくするのは当たり前だろ。しずくの親友なんだから」

「それならよかった。じゃあ、これからも芽依のこと――」

「いや、そういうことじゃなくて」


りっくんは、呆れたようにため息をつく。

そして、「しずくは鈍感だから仕方ないか」と呟いて、話を続けた。


「ハチマキのこともそうだけど、さっきの帰り道もなに?」

「なに…って?」

「俺はべつに、篠田さんといっしょにいたいんじゃない。俺がいっしょにいたい相手は、しずくだけに決まってんだろ」


そう言うりっくんが、ゆっくりとわたしの頬に手を添えた。

その手は、まるで愛おしそうに優しくふわりと頬を撫でる。


くすぐったい。

だけど、どこか心地よい。
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