34 / 37
第三幕
08
しおりを挟む「ダリオン将軍っ!……?これは…….?」
営舎の一室を訪ねると、何故か絨毯が敷き詰められ、その上に食器が並べられていた。
「ここに王族の者が来ると聞いていたのだが……まさか、アリステラ、いえ、アリステラ様、貴方様は王族なのでしょうか?」
せっせと準備をしていたダリオン将軍は、私を見るなり神妙な面持ちで問いかけてきた。
「……確かにそうです。私は隣国の王族です、あとは言わなくても分かりますね」
「それは……!これは……大変無礼を働いたようで」
むしろ、なんで今まで誰も私に気がつかなかったのか、教えて欲しいくらいなんだけれど。
「あの!お父様!私は!」
「ああ、知っているぞ。ナローシュ様本人が先程伝えに来てくださったのだ」
「じゃ、じゃあ!」
「ああ、ナローシュ様からの言伝だ、今すぐに結婚の準備をしないとならん」
「そんな!私はナローシュ様と結婚したくありません!」
「何を言ってるんだ?大丈夫だ、ナローシュ様はお前の本当の気持ちを知っていたらしい」
「どういうことですか?」
「王は命じたのだ、私の所へ王族を寄越し、やってきたその者と、娘を結婚させろと。私はアルサメナ様かと思っていたが、まあアリステラ様も王族のようだから、間違いではないだろう」
「……はい?」
何がどうなってるの!?
「……え?私が?騎士様と……?」
私達は言葉を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「そうです、アリステラ様。私の娘を貴方様の花嫁にします」
「本当にナローシュが?」
「はい、まさしく」
「……どういうことでしょうか」
「あなたは彼女を、妻に娶るために此処へ来られたのでは?」
え、いや、それは困るんだけど。
というか、結局私がアイリスだって気が付いてないんですが。
あぁ、今ここにいるのがアルサメナだったら完璧だったのに。
「いや、その、私は……」
ベルミダの顔を見る。
アルサメナの方が良いと言ってくれれば、何とかなる、ここに連れて来れば良いだけなんだから!
「……構いません。彼は私を何度も守ってくれましたもの。何もしてくれなかったアルサメナ様より、よっぽど私の主人として相応しいですわ」
「え」
何で??
「貴方に命を差し上げたではありませんか、よろしいでしょう?」
いや、確かに貴女を殺す時が自分が死ぬ時って言ったけどさ、そういう意味じゃなくない?
万に一つも死なせないって意味だったのだけれど、流石にその解釈はないでしょう。
「何だ、ベルミダ。そんな事まで言っていたのか。なら話は早い。略式ではあるが、王の命令だ。すぐに人を集めて式を挙げるとしよう……」
話を進めようとするダリオンの目に涙が。
「お父様?」
「ああ、ついにこの時が来たのかと思ってな。感極まって……しかも不本意な形ではなく、お前が望む形になるとはな……こんなに嬉しいことはないだろう……」
「……ありがとうございます、お父様」
抱き合う二人。
どうしよう、この状況で断れと?
父親が涙を流しているこの風景を茶番にしろと?
……流石にそこまで私は鬼じゃないけれど、このままにしても……あ、でも逆に考えたら、ナローシュの結婚は阻止できてるし……細かいことは後からどうにかすれば……仕方ない……
「わかりました、それが王命ならば」
アルサメナには後でフォローを入れるとして……
◇◇◇◇◇◇◇◇
絨毯の上に並べられた、色とりどりの食事を囲んで座る人々は、思い思いに手を伸ばし、賑やかに歓談へ耽り、私達二人はその円の頂点に座っていた。
式はあっさりと進んでいた。
真っ白なヴェールと、煌びやかな装飾を施された鮮やかな赤色のドレスに、すらっとしたその身を包んだベルミダは、この状況に、何の疑問も無さそうな顔をしている。
略式だからなのか、王がそう命じたのかはわからないけれど、それはもう簡潔なもので。
連れて来られた楽士の演奏が始まると、殆ど普通の宴会と変わらない風景になった。
ダリオン将軍が集めて来た人達は、たまたま近くにいただけの人々らしく、最初はよく分からない顔をしていたけれど、いつのまにか自然と盛り上がり、私達を祝い始めた。
私だけがこの場で偽物で、本当は祝い事でも何でもないから、胸は申し訳なさで一杯になった。
とにかく、私が何かこの件に関して策を弄する暇も隙もまるでなかった。
ダリオン将軍が、戸口に立ち祝辞を述べようとしていた。
もはや、流れに任せるしかないように思えたその時。
「ダリオン将軍!ここにいるか!」
「うおっ」
扉を勢いよく開け放たれ、弾かれたダリオン将軍は尻餅をついた。
「な、なんだ、なんだ?アルサメナ様ではありませんか!如何なされましたか?」
入ってきたのはアルサメナだった。
「どうしたもこうしたもあるか、ベルミダは──!」
衝撃に、賑やかな部屋が一気に静まり返る。
血の抜けたような青い顔とはまるで違って、今の彼は力と自身に満ちた顔をしていた。
「アルサメナ……様」
ベルミダは目を見開いていた。
私はアルサメナとは逆に、頭からサーっと血が引いていくのを感じた。
これは不味い。何が不味いってアルサメナが凄い形相で私を睨んでる。
何かの確信を持っているように感じる。
暗号を渡す相手を間違えたことがバレたんだと、ほんの一瞬で理解した。
いや、そうじゃなかったら彼が私をそんな目で見るはずがない。
「これは一体……いや、アリステラ……!お前は一体何が目的で僕の暗号をアトランタへ渡したんだっ!」
「それは……その」
「暗号……?もしかして栞に書かれたものでしょうか?」
「そうだ!僕は君宛の暗号を、そこの騎士に運ばせたはずだったのに、受け取っていたのはアトランタだった!」
「あれは……アルサメナ様の……?じゃあ、どうして……?騎士様?どうしてですか?」
ベルミダからも責められるような目を向けられる。
「それに、この状況!どう言うことなのか、説明してもらおう!」
正直な話、私にもよく分からないのだけれど、彼が王族として復帰している今、下手な事をすれば碌な未来は待っていない。
「……言葉で説明するには、あまりにも煩雑。どうでしょうか、私と決闘をしませんか?貴方が勝てば婿の立場はお譲りいたします」
「……そうか、やはり君はそう言う奴だったんだな……!良いだろう決闘だ……!」
そう言う奴って、どう言う奴よ……まあいい、適当にやって負ければ万事解決──
「お待ちください!アルサメナ様!奴は凄腕の剣士、私ですら叶わない相手に……!」
アルサメナの背後にいたルヴィが止めようとする。
「……例え、叶わないと分かっていたとしても、男には引けない時というものがある……わかってくれ。愛する者の為に命を捨てなければならない時が来た、──ここで逃げる事は出来ない!さあ!アリステラ!剣を取れ!」
「アルサメナ……様……」
ベルミダは目を震わせている。
……ルヴィが見てる以上、手を抜いたらバレるか……しかもタダじゃ済まない雰囲気。
「そこまで言われては、手を抜くこともできませんね!さ、存分に剣で語ると致しましょう!」
──仕方ない、命懸けで"お稽古"と行きますか……!
2
あなたにおすすめの小説
わたしの婚約者なんですけどね!
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。
この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に
昇進した。
でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から
告げられて……!
どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に
入団した。
そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを
我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。
彼はわたしの婚約者なんですけどね!
いつもながらの完全ご都合主義、
ノーリアリティのお話です。
少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。
ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。
そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。
このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって…
※ご都合主義のラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
カクヨムでも同時投稿しています。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる