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第三幕
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◆◇◆◇◆◇◆◇
ベルミダの部屋からダリオンの元へ向かうナローシュは浮かれていたが、ある事に気がついて立ち止まった。
「……!もしダリオンの奴が了承しなかったらどうするべきだ……?」
考え込む彼の前へふらりと現れる影。
「あら、ナローシュ様。こんな所でどうかなさいました?」
そこへ現れたのはアトランタだった。
「ああ、いや、いまベルミダに父親から結婚の了承を得ない限り、結婚はしないと言われてな」
「なるほど、お姉さまはそんな事を」
「だが、万が一にも断られでもすれば、この俺が父親から娘を強引に奪ったと言われかねん」
「……そうですね」
アトランタは、そのまま話をした結果、父親が渋い顔をするのを想像した。
ベルミダの気持ちくらいは、知っている筈だからだ。
「……では、こうしましょう。ベルミダを要求するのではなく、"お前の娘に王族の婿を与えよう、その者を営舎へ向かわせるのでそこで結婚させよ"と言うのです」
「それで解決するのか?」
「ええ、王からの命とすれば断りようもありません、それにその場で結婚してしまえば邪魔される事もないでしょう!お父様に許可を取ったらベルミダ様を呼び出すだけです!簡単ですわ!」
結果として父親を騙す形になるが、アトランタは考えもしていなかった。
彼女もまた、目当ての者と結婚できると浮かれていたからだ。
「それもそうだな、そして一応了承した形にもなるか」
「ええ、その通りです。そしてアルサメナと私の結婚を了承した事にもなります。一石二鳥という奴ですね!」
「よし、そうしよう。助かったぞアトランタ!」
「ええ、このくらいなんて事はありませんわ!では私はアルサメナ様を呼んで参ります!」
そして暴走する二人はそれぞれ走り出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「前におまえに言ったとおり、王族より婿をお前の娘に与えよう!」
兵からの報告を聞いていたダリオンの元に、現れたナローシュは早々に告げた。
「ありがたき名誉!ですが……」
以前のように断りの文句を継ごうとするダリオン。
彼は、王宮に連れて行かれてしまった自分の娘、ベルミダとの婚姻の話だろうと当たりをつけていた。
「了解だな?賛成だな?」
しかし言葉を遮ってナローシュは聞く。
「ええ……はぁ……まあ」
ダリオンは有無を言わせないという気配を感じ取った。
本人は別に脅しているつもりではなく、ただ確認しているだけだった。
「……喜んで仰せのとおりに」
しかしダリオンにとっては含意のある言葉にしか思えなかった。
「では聞け、おまえの営舎にまもなく、余に等しき王族の者が来るであろう、そやつをおまえの娘に婿として受け入れさせるのだ」
「……今なんとおっしゃったのですか?」
ダリオンは耳を疑った。
まるで、自分以外の者のことだと言わんばかりだったからだ。
「聞こえなかったか?余と等しき王族の者をお前の娘の婿にすると言ったのだ」
「その方は王族で、私が知っている方でございましょうか?」
「ああ、このナローシュと同じようにな!」
自分のことを言っているだけだった。
「なんと……!」
それだけ言って了承を得たと確信したナローシュは足早に去っていく。
「……一体どういうことだ……?いや、すぐにわかる事か、私の前へ来るというのだし……だが誰だ?アルサメナ様だろうか……?」
ダリオンは首を傾げたままだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「アルサメナ様!私ですわ!」
アトランタは上機嫌で扉を開け放った。
「ああ……君か、何の用だい?」
再び沈みきった彼からは生気が抜けきっていた。
「あら、婚約者の顔を見に来るのに理由が入りますでしょうか?」
「……そうか、そうだったな」
アトランタの言葉もどこ吹く風と言った様子のアルサメナ。
「全く、気のないような素振りはもうしなくても大丈夫ですのよ、誰も私達を邪魔する事何でないのですから」
「……僕達、じゃなくて、君の邪魔じゃないか?」
「なにを仰いますか、貴方のお気持ちはよく存じ上げておりますのよ」
「……まさか。君にわかるわけが……」
「からかわないでください、アルサメナ様。私、貴方の暗号を受け取りましたもの」
「……え?暗号を……?」
「ええ、見慣れない騎士からでしたが、確かに私宛てだと──」
「──!な、何を言ってるんだ?あれはベルミダ宛てで……」
アルサメナは思わず摑みかかる。
「えっ……そうだったんですの!?」
愕然とするアトランタ、そして無言のルヴィ。
アトランタは一瞬で問題に気が付き、汗が止まらなくなった。
「そうか、ベルミダはあの手紙を読んでいなかったのか……いや……アリステラ……彼は一体どういうつもりで僕を……?」
アルサメナは、味方だと思っていた者の裏切りと、今まで裏切っていたと思っていた恋人が実はそうではなかったという事に混乱する。
「そういうことですか……わかりましたよ、アルサメナ様。彼は……王座を貴方に簒奪させるつもりだったのです……」
ルヴィは致命的な何かに気が付いてしまったように、主人へと告げる。
「……どういうことだ?」
「婚約が破棄されたことを知った、かの王女は、復讐の為に自分ではなくアルサメナ様の手によってそれを成そうとしたのでしょう……自らの地位の為に秘密裏に邪魔者を全て排除するような人です。ナローシュ様もその危険を感じ取ったからこそ、理由をつけて追い出したのでしょう。しかし、重すぎる愛故に、彼女は王を殺す事を選んだ。しかも、自分の手すら汚しもせずに……」
ルヴィの中ではアイリスはとんでもない極悪人であった為に、推測はこのような結果になってしまった。
「確かに……あの人ならやりかねない……!」
その考えにアルサメナも同意する、彼にとっても、恐ろしい相手という認識しかなかったからだ。
「あ、あの、どういうことですの、私、何か間違えてしまったのかしら?い、いえ、その、私は何も知りませんわ!」
冷や汗が止まらないアトランタ。
手紙の受け渡しに間違いがあったとはいえ、一連の間違いの理由が、自分が浮かれていた所為だと思い込んだからだった。
「ああ、そうだろう。君は何も悪くはない。それもこれも、兄上とあの人が悪いんだ……!ベルミダはどこにいるか分かるか?」
「え、えっと、お姉様だったら多分、お父様の営舎に行っているかと。ナローシュ様との結婚式をそこで挙げさせるつもりらしいので……」
「ありがとう!行くぞルヴィ!彼らを止めなくては!」
ほんの少しの希望をもう一度取り戻したアルサメナは、力強く奮起した。
「……御意!」
部屋を出て行くアルサメナの表情を見たルヴィは、かつての主人が戻った事を知った。
そうして二人は出て行き、アトランタは取り残される。
「……な、なんとか私の所為ということにはならないで済みそうですわ……しばらく何処かへ行くとしましょう……恋人もついでに探そうかしら」
彼女は責任の追及を恐れ、何処かへ逃亡する決意を固めた。
ベルミダの部屋からダリオンの元へ向かうナローシュは浮かれていたが、ある事に気がついて立ち止まった。
「……!もしダリオンの奴が了承しなかったらどうするべきだ……?」
考え込む彼の前へふらりと現れる影。
「あら、ナローシュ様。こんな所でどうかなさいました?」
そこへ現れたのはアトランタだった。
「ああ、いや、いまベルミダに父親から結婚の了承を得ない限り、結婚はしないと言われてな」
「なるほど、お姉さまはそんな事を」
「だが、万が一にも断られでもすれば、この俺が父親から娘を強引に奪ったと言われかねん」
「……そうですね」
アトランタは、そのまま話をした結果、父親が渋い顔をするのを想像した。
ベルミダの気持ちくらいは、知っている筈だからだ。
「……では、こうしましょう。ベルミダを要求するのではなく、"お前の娘に王族の婿を与えよう、その者を営舎へ向かわせるのでそこで結婚させよ"と言うのです」
「それで解決するのか?」
「ええ、王からの命とすれば断りようもありません、それにその場で結婚してしまえば邪魔される事もないでしょう!お父様に許可を取ったらベルミダ様を呼び出すだけです!簡単ですわ!」
結果として父親を騙す形になるが、アトランタは考えもしていなかった。
彼女もまた、目当ての者と結婚できると浮かれていたからだ。
「それもそうだな、そして一応了承した形にもなるか」
「ええ、その通りです。そしてアルサメナと私の結婚を了承した事にもなります。一石二鳥という奴ですね!」
「よし、そうしよう。助かったぞアトランタ!」
「ええ、このくらいなんて事はありませんわ!では私はアルサメナ様を呼んで参ります!」
そして暴走する二人はそれぞれ走り出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「前におまえに言ったとおり、王族より婿をお前の娘に与えよう!」
兵からの報告を聞いていたダリオンの元に、現れたナローシュは早々に告げた。
「ありがたき名誉!ですが……」
以前のように断りの文句を継ごうとするダリオン。
彼は、王宮に連れて行かれてしまった自分の娘、ベルミダとの婚姻の話だろうと当たりをつけていた。
「了解だな?賛成だな?」
しかし言葉を遮ってナローシュは聞く。
「ええ……はぁ……まあ」
ダリオンは有無を言わせないという気配を感じ取った。
本人は別に脅しているつもりではなく、ただ確認しているだけだった。
「……喜んで仰せのとおりに」
しかしダリオンにとっては含意のある言葉にしか思えなかった。
「では聞け、おまえの営舎にまもなく、余に等しき王族の者が来るであろう、そやつをおまえの娘に婿として受け入れさせるのだ」
「……今なんとおっしゃったのですか?」
ダリオンは耳を疑った。
まるで、自分以外の者のことだと言わんばかりだったからだ。
「聞こえなかったか?余と等しき王族の者をお前の娘の婿にすると言ったのだ」
「その方は王族で、私が知っている方でございましょうか?」
「ああ、このナローシュと同じようにな!」
自分のことを言っているだけだった。
「なんと……!」
それだけ言って了承を得たと確信したナローシュは足早に去っていく。
「……一体どういうことだ……?いや、すぐにわかる事か、私の前へ来るというのだし……だが誰だ?アルサメナ様だろうか……?」
ダリオンは首を傾げたままだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「アルサメナ様!私ですわ!」
アトランタは上機嫌で扉を開け放った。
「ああ……君か、何の用だい?」
再び沈みきった彼からは生気が抜けきっていた。
「あら、婚約者の顔を見に来るのに理由が入りますでしょうか?」
「……そうか、そうだったな」
アトランタの言葉もどこ吹く風と言った様子のアルサメナ。
「全く、気のないような素振りはもうしなくても大丈夫ですのよ、誰も私達を邪魔する事何でないのですから」
「……僕達、じゃなくて、君の邪魔じゃないか?」
「なにを仰いますか、貴方のお気持ちはよく存じ上げておりますのよ」
「……まさか。君にわかるわけが……」
「からかわないでください、アルサメナ様。私、貴方の暗号を受け取りましたもの」
「……え?暗号を……?」
「ええ、見慣れない騎士からでしたが、確かに私宛てだと──」
「──!な、何を言ってるんだ?あれはベルミダ宛てで……」
アルサメナは思わず摑みかかる。
「えっ……そうだったんですの!?」
愕然とするアトランタ、そして無言のルヴィ。
アトランタは一瞬で問題に気が付き、汗が止まらなくなった。
「そうか、ベルミダはあの手紙を読んでいなかったのか……いや……アリステラ……彼は一体どういうつもりで僕を……?」
アルサメナは、味方だと思っていた者の裏切りと、今まで裏切っていたと思っていた恋人が実はそうではなかったという事に混乱する。
「そういうことですか……わかりましたよ、アルサメナ様。彼は……王座を貴方に簒奪させるつもりだったのです……」
ルヴィは致命的な何かに気が付いてしまったように、主人へと告げる。
「……どういうことだ?」
「婚約が破棄されたことを知った、かの王女は、復讐の為に自分ではなくアルサメナ様の手によってそれを成そうとしたのでしょう……自らの地位の為に秘密裏に邪魔者を全て排除するような人です。ナローシュ様もその危険を感じ取ったからこそ、理由をつけて追い出したのでしょう。しかし、重すぎる愛故に、彼女は王を殺す事を選んだ。しかも、自分の手すら汚しもせずに……」
ルヴィの中ではアイリスはとんでもない極悪人であった為に、推測はこのような結果になってしまった。
「確かに……あの人ならやりかねない……!」
その考えにアルサメナも同意する、彼にとっても、恐ろしい相手という認識しかなかったからだ。
「あ、あの、どういうことですの、私、何か間違えてしまったのかしら?い、いえ、その、私は何も知りませんわ!」
冷や汗が止まらないアトランタ。
手紙の受け渡しに間違いがあったとはいえ、一連の間違いの理由が、自分が浮かれていた所為だと思い込んだからだった。
「ああ、そうだろう。君は何も悪くはない。それもこれも、兄上とあの人が悪いんだ……!ベルミダはどこにいるか分かるか?」
「え、えっと、お姉様だったら多分、お父様の営舎に行っているかと。ナローシュ様との結婚式をそこで挙げさせるつもりらしいので……」
「ありがとう!行くぞルヴィ!彼らを止めなくては!」
ほんの少しの希望をもう一度取り戻したアルサメナは、力強く奮起した。
「……御意!」
部屋を出て行くアルサメナの表情を見たルヴィは、かつての主人が戻った事を知った。
そうして二人は出て行き、アトランタは取り残される。
「……な、なんとか私の所為ということにはならないで済みそうですわ……しばらく何処かへ行くとしましょう……恋人もついでに探そうかしら」
彼女は責任の追及を恐れ、何処かへ逃亡する決意を固めた。
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