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第三幕

06

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「わが王に従いましょう」

 私達は最悪のタイミングで、扉の向こうの、その会話を聞いてしまった。

 部屋を意気揚々と出て行くナローシュから隠れ、アルサメナの顔を見る。

「アリステラ君、どうやら……僕の再起は何の意味もなかったらしい」

 再び活力を失った目を見てしまった。

 その姿に、私は言葉を掛ける言葉もなかった。

 経緯は分からないけれど、ベルミダはナローシュとの結婚を了承したらしい。

「……わが王に従いましょう、か……!そうか、そうだな、ああ……!」

「あ、アルサメナ様!」

 私の制止を振り切って部屋に押し入る。

「なんと清らかな愛に、すばらしき貞節だ!それに比べれば僕の感情など塵ほどでもないだろうな……!」

 強い口調で、憤りを吐き出すアルサメナ。
 
「……聞いたのですか?」

 突然の来訪に驚いているベルミダが、聞き返す。

「ああ、聞いたさ!」

「貴方は何が不満なのですか?一度は了承したのでしょう?」

「何の話だ!それはこっちの台詞だ!」

「もういいわ!貴方と話す事何て何一つありません!」

「何一つ!?何故だ!どうしてこんな!」

「やめて!出て行って!さあ、誰かさんは約束通りに私を殺す手助けをしてくれるでしょう!」

「そんなに……僕が嫌いか?」

「そんな事はありません!でも、さようなら。あなたとは、さようなら……なんです……」

「そうか!離れよう!きっと、それだけが人生なんだろう、僕は無慈悲な運命が導くところへ行くとするよ!君はどこへ」

「どこにも行きませんわ、命を失えば動く事もなくなるのですから」

「……未来は約束されていると言われたのに」

「行ってください、さようなら、もうお会いすることはありません」

「くっ!」

 お互いに背を向け、アルサメナは走り去った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「あぁ……」

「ベルミダ様!」

 残されたベルミダが崩れ落ちそうになるのを、受け止める。

「騎士様、まだ、希望があるように見えますか……?」

「何があったのですか?」

「王に脅されたのです。自分が暗殺されていない理由を考えてみろ、と。従わなければ殺されるという意味でしょう」

 暗殺されてない理由……?何だろう。

 少なくとも私がやってた事は知らないはずだし……いや、この際そんなのはどうでもいい。

「それで、ナローシュは何処に向かったのですか?」

「私は、父が了承するなら王の心に従うと言いました、すぐにでも了承させるつもりでしょうね。父が私の気持ちを理解していることを願うばかりですわ」

 仮に、ベルミダの父親が彼女の心を知っていたとして、ナローシュの言うことを断りきれるだろうか?

 それじゃあ、時間稼ぎ程度にしかならないんじゃ……?

「ベルミダ様、お父上の元へ参りましょう。いくら王の頼みとはいえ、直接、拒絶する娘の言葉を聞けば、快く受け入れることはできないでしょう」

「まだ、私を切らないのですか?」

「まだ諦めるような時間じゃあ、ありませんので」

「どうして、貴方はそこまでしてくれるのですか?」

「以前にも言ったでしょう、私の心の内に燃える炎の為に……です」

 もし、これで本当にどうにもならなくなっていた時こそ、その復讐の炎で、あの男を焼き尽くすとしましょう……!
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