35 / 37
第三幕
09
しおりを挟む
広場に立つ私とアルサメナ。
お互いの距離は数歩の間でしかない。
結婚式に参列した人々は遠巻きに、固唾を飲んで見守る。
乾いた風が砂を運んで鼻を掠めていく。
視界の端に、ベルミダの苦しげな表情が見えた。
「さあ、剣で語ってもらおうか!」
「あまり多くを語るつもりはありません。一撃で決着を付けましょう」
「舐められたものだな」
「いいえ、これがたったひとつの冴えたやり方というものです」
アルサメナとは、手合わせしたことがある。
他の方法は思いつかない。
剣を上段に構える。
改めて決闘相手としてみるアルサメナはあまりに屈強で強大に見える。
その暴力的な斥力が齎す剛剣の前には、生半可な技術なんて意味はないだろう。
私の細腕では、剣を逸らすための力があまりにも足りない。
所詮小手先の技術と曲芸に過ぎないのだから。
そして、そもそもこの決闘は負ける為のもの。
数合ならば誤魔化しが効くだろうけど、そう長い間本気で戦うフリは出来ない。
まず間違いなくルヴィにバレる。
だからこそ、態々一撃で決めると宣言する。
あらかじめ、アルサメナにどうやって攻撃するのかを知らせる。
全力の一撃を演出して敗北!完璧な流れ!
「いざ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁぁぁぁぁぁ!」
集中する。時間が減速していく。
思考が世界の速度を凌駕する。
踏み込み、担ぎ上げた剣を振り下ろす。
無駄な動きはない、手加減もしない。
王族なら、私の剣程度受け止めて貰わなければ──!
「流石に早いっ!だが!」
私の剣に合わせて振り上げるアルサメナ。
そう!真っ直ぐ来るだけなんだから、弾くか、上手に擦り上げて!
お願いだから!本当に!
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
──けれど。
ああもう!
振り上げる動きに無駄が多い!
上体を横に逸らして直撃は避けるつもりらしいけど、それじゃ重心で次の動きが簡単にわかる……
剣の先端は地面に掠めてるし……
これじゃ、私の振りに間に合う訳が……
どうしよう、私にはもう、これ以上簡単にする事は──
「負けないで──!」
ベルミダの声がした。
「っ──」
誰が、とは言っていないけれど。
「ああ!」
それでも彼には十分伝わったらしい。
でもごめんなさい、アルサメナ、そしてベルミダ、私の剣はもう止める事が出来そうに……
「おおおぉぉぉぉぉぉ!」
「ッ──!」
──振り抜かれた剣は、無機質で硬質な音を立てる。
それは決着を知らせる音。
私の剣は空を舞った。
信じ難い事に、振り下ろす直前に弾き飛ばしたらしい。
私には何が起きたのか、よく分からなかった。
目の前でアルサメナの剣が"弾かれた"ように一瞬で跳ね上がり、私の剣を打ったのだ。
視界の片隅に落ちる剣が、再び音を鳴らし、時間が止まったように静まった広場を、観衆の声で満たす。
「僕……いや、俺の勝ちだ。アリステラ」
喉元に向けられた剣。
「……!」
私には言葉もなかった。
侮っていたわけじゃなく、純粋に剣では私の方が上だと思っていた。
少なくとも、私がこの王宮を去る2年前まではそうだった。
「……参りました」
私は改めなければいけないかもしれない。
私が誘導した結果、心優しい青年に、悪く言えば気弱な青年になってしまった彼は……自分の力でその戒めを解いた。
そこにあったのは、次代の王の姿だった。
お互いの距離は数歩の間でしかない。
結婚式に参列した人々は遠巻きに、固唾を飲んで見守る。
乾いた風が砂を運んで鼻を掠めていく。
視界の端に、ベルミダの苦しげな表情が見えた。
「さあ、剣で語ってもらおうか!」
「あまり多くを語るつもりはありません。一撃で決着を付けましょう」
「舐められたものだな」
「いいえ、これがたったひとつの冴えたやり方というものです」
アルサメナとは、手合わせしたことがある。
他の方法は思いつかない。
剣を上段に構える。
改めて決闘相手としてみるアルサメナはあまりに屈強で強大に見える。
その暴力的な斥力が齎す剛剣の前には、生半可な技術なんて意味はないだろう。
私の細腕では、剣を逸らすための力があまりにも足りない。
所詮小手先の技術と曲芸に過ぎないのだから。
そして、そもそもこの決闘は負ける為のもの。
数合ならば誤魔化しが効くだろうけど、そう長い間本気で戦うフリは出来ない。
まず間違いなくルヴィにバレる。
だからこそ、態々一撃で決めると宣言する。
あらかじめ、アルサメナにどうやって攻撃するのかを知らせる。
全力の一撃を演出して敗北!完璧な流れ!
「いざ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁぁぁぁぁぁ!」
集中する。時間が減速していく。
思考が世界の速度を凌駕する。
踏み込み、担ぎ上げた剣を振り下ろす。
無駄な動きはない、手加減もしない。
王族なら、私の剣程度受け止めて貰わなければ──!
「流石に早いっ!だが!」
私の剣に合わせて振り上げるアルサメナ。
そう!真っ直ぐ来るだけなんだから、弾くか、上手に擦り上げて!
お願いだから!本当に!
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
──けれど。
ああもう!
振り上げる動きに無駄が多い!
上体を横に逸らして直撃は避けるつもりらしいけど、それじゃ重心で次の動きが簡単にわかる……
剣の先端は地面に掠めてるし……
これじゃ、私の振りに間に合う訳が……
どうしよう、私にはもう、これ以上簡単にする事は──
「負けないで──!」
ベルミダの声がした。
「っ──」
誰が、とは言っていないけれど。
「ああ!」
それでも彼には十分伝わったらしい。
でもごめんなさい、アルサメナ、そしてベルミダ、私の剣はもう止める事が出来そうに……
「おおおぉぉぉぉぉぉ!」
「ッ──!」
──振り抜かれた剣は、無機質で硬質な音を立てる。
それは決着を知らせる音。
私の剣は空を舞った。
信じ難い事に、振り下ろす直前に弾き飛ばしたらしい。
私には何が起きたのか、よく分からなかった。
目の前でアルサメナの剣が"弾かれた"ように一瞬で跳ね上がり、私の剣を打ったのだ。
視界の片隅に落ちる剣が、再び音を鳴らし、時間が止まったように静まった広場を、観衆の声で満たす。
「僕……いや、俺の勝ちだ。アリステラ」
喉元に向けられた剣。
「……!」
私には言葉もなかった。
侮っていたわけじゃなく、純粋に剣では私の方が上だと思っていた。
少なくとも、私がこの王宮を去る2年前まではそうだった。
「……参りました」
私は改めなければいけないかもしれない。
私が誘導した結果、心優しい青年に、悪く言えば気弱な青年になってしまった彼は……自分の力でその戒めを解いた。
そこにあったのは、次代の王の姿だった。
3
あなたにおすすめの小説
わたしの婚約者なんですけどね!
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。
この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に
昇進した。
でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から
告げられて……!
どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に
入団した。
そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを
我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。
彼はわたしの婚約者なんですけどね!
いつもながらの完全ご都合主義、
ノーリアリティのお話です。
少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。
それでもフランソアは
“僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ”
というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。
そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。
聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。
父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。
聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる