【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿

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第三幕

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 望み通り、決闘に私は負けた。

 アルサメナとベルミダが結ばれる。
 これで、ナローシュへの復讐は達成された。

 なのに、私はそれほど気分が晴れなかった。

 決闘のすぐ後、私は人々に囲まれるアルサメナを視界の隅に収めながら、広場から去ろうとしていた。

「騎士様……どちらへ?」

 私に気がついたベルミダに引き止められる。

「良いのですベルミダ様。私はここを去ります、もう大丈夫でしょう。アルサメナ様も、貴女も……それにナローシュ様もこれで余計な事を……いや……或いはもう救いようがない」

 今まで、彼の王座を簒奪しようとする相手はいなかった。

 簒奪が繰り返されてきたが故に、王になるよりか、王を暗愚なままに操って、利益だけを得た方が余程得だからだ。

 そして、弟のアルサメナが弱気なままで、王の器がないと思われていれば、誰かが彼を立てることもなかっただろう。

 けれど、戦に負け続ければ話は別。

 利益が見込めなければ暗愚な王にもこの国にも用はなくなる。

 商人達はいずれ手の平を返す。

 その時こそ、一人の男になったアルサメナを祭り上げて、ナローシュを殺させるんだろう。

「……騎士様、その胸に親切で慈悲深い心をいだいているのなら、私の願いを聞いてください」

「お願いではなく、命令するのが当然です。 私は所詮ただの騎士に過ぎず、……恐らく貴女は王妃となるのでしょうから」

「……それは……いえ、貴方には感謝しても仕切れません。それで、一体どうして私を助けようと思ったのか、本当の事を教えて頂きたいのです、何度も心の内に燃える炎の為とおっしゃっていましたが、どうやら私が思っていたものとは、違うような気がしてなりません……その炎とは一体何だったのですか?」

「……復讐」

「!では貴方は」

「──の、つもりだったのですが、私はそれには値しません。ですから大人しくここを去ろうと思うのです」

 ナローシュがどうしようもないままなのも、アルサメナやベルミダが苦しんだのも、そして、ルヴィ、その家族を国外に追い出したのも。

 全てではないにしても、私の罪はあまりに重い。そんな私にナローシュを断罪できる理由があるだろうか。

 きっと彼が、アルサメナが正しく裁いてくれるはず。

 正当性があるのは彼なのだから。

「……よろしいのでしょうか?もししなければならないとお思いだったのなら……」

「なら、あなたにお願いします。この私の手紙を王に渡すことを」

 万が一、殺された場合の為に書いておいた手紙を渡す。

「急いで送り届けましょう」

「……それでは……お幸せに」

 何故気分が晴れないのか分かっている。

 私自身が私の苦しみの原因なんだ。

 馬鹿馬鹿しい事に。
 まだ、あの裏切り者を愛しているのだろう。

「騎士様!」

 私は逃げるようにその場を離れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 本来の在るべき形に戻った二人は、漸く結ばれることになった。

 ダリオン将軍の前に立つベルミダとアルサメナ。

「ベルミダ、同意してくれるか?」

「ええ、お父様、アルサメナ様」

 二人を見て頷くダリオン将軍。

「さあ、手を結ばれよ」

 互いに手を取り合う二人。

「さぁ、この大いなる栄誉の喜びに報いるため、私は一足先に王へ報告して参りましょう、暫くして落ち着いたらアルサメナ様達もおいで下さい」

「そうしよう」

「あの、お父様。この手紙を王へ届けていただけますか?」

「ああ、わかった、それではまた後ほど」

 彼らはまさか、ナローシュがこの結婚を望んでいないとも知らず、幸せを噛み締めていた。
 

◆◇◆◇◆◇◆◇


「ダリオン!よく来た、余はもう準備が出来ている」

 報告に来たダリオンを無邪気にナローシュは歓迎した。

「無敵なる陛下、 敬礼いたします」

「さて、おまえは誰だと思う? おまえに言った王族の花婿とは」

「光栄の極みです」

「美しきベルミダは満足しておるかな?」

「これ以上の望みはないと」

「彼女は来ないのか?どこにいる?」

「ええもちろん、花婿と一緒に」

「おお、そうか。花婿と一緒に……ん?今何と言った!?」

「花婿と一緒にいます、陛下」

「は、花婿とは誰だ!?」

「あなたが命じられたとおり……」

「俺が!?命じた!?何を?」

「陛下と等しく、王族の血をひき、私の営舎へ来た者に……」

「で、結婚させたと!?」

「させました」

「この役立たずが!!何を間違えている!」

「わが王……!?」

「お前は俺の心を裏切った!にもかかわらず"我が王"など!」

「そ、それは……その、そうだ、この手紙を……」

 誤魔化すようにベルミダから預かった手紙を差し出すダリオン。

「なんだこれは、ベルミダが?顔すら見せたくないと見える!」

「……な、なんと、恐れ多い……!」

「読め!」

 手紙をダリオンに突き返すナローシュ。

「なんとある?」

「"最低に恩知らずな恋人へ!"」

「なんだと!恩知らずだと?なんとも大胆な女だ」

「"私はあなたのものとなるために来ましたが"……」

「で、他の奴と結婚するのか?」

「"あなたは私を侮辱していると知りました"」

「ああ、悪辣な書き付けだ!」

「"私は去ります!でも天はあなたの罪を罰するでしょう"」

「おまえを愛したという罪か!」

「"私は息絶えるまで泣くことでしょう。あなたのアイリスより"」

「……は?」

「……手紙はベルミダのものではないのですな」

 ナローシュは、怒って手紙を掴みとり署名を見る。

「あ、アイリス……!?一体どうやってこの事を……?いや、ダリオン、出て行け、お前も追放だ!役立たず! これほど怒ってうんざりさせられるなど──」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「兄上、参りました」

 怒り狂うナローシュの前に、何も知らないアルサメナとベルミダが訪れる。

「っ!裏切り者ども!あえて俺の前に出てくるか?次は何を奪うつもりだ!王座か!」

「兄上?そのような事は──」

「お前達も俺を馬鹿にするんだろう!」

「どういうことです、陛下?」

「おまえは余からベルミダを奪った!」

「……兄上の命令だったのでは?」

「その通りです」

 ナローシュの怒りの前に、キョトンとする二人。

「厚かましい言い訳を!愚弟よ!この剣で、この非道者の胸を貫け!」

 ナローシュは剣をアルサメナの足元へ転がす。

「……花嫁を切れ……と?」

「そうだ、それ以外に聞こえるか?それとも王の命令が聞けないか?」

「……そうか、そう言う事か、最初から俺たちを苦しめる為だけに、こんな事を命令したのか……もはや兄とは呼ぶまい!この剣はお前の血を吸うべきだ!」

「なるほど、やはり花嫁の次は王座か!結局、それだ!勝手に持ち上げて期待した挙句、俺を貶める!信用した者も悉く裏切る!欲望に塗れた者どもめ!」

「黙れこの暗君が──!」

「痴れ者め──!」

 剣が交差する寸前、割り込んだ影が剣を止める。

「──止まりなさい」
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