【完結済】ラーレの初恋

こゆき

文字の大きさ
12 / 18

12

しおりを挟む
 薄暗い森の中で、青い顔でへたり込む私。
 そんな私にいつものへらりとした笑顔を隠さず剣を突き付けるプラム。

 はい、いつもの死亡フラグ回収です!! もうやだ!!

 心の中で叫んでみるも、今日のこれに関しては自分から代わりにきたから、自業自得とも言える。

 だってこれ、プラムルートのバッドエンドシチュだもの。



 ほんの少し、時はさかのぼる。
 夕焼けに染まる裏庭で、レリアが「あれ!?」と大きな声を上げたのが始まりだ。

 洗濯物を取り込んでいる最中だった。
 レリアは一生懸命ロープから外した洗濯物をばさばさと籠から出しては仕舞い、何かを探しているようだった。

 その光景に、ピーンと嫌な予感が脳天を突く。
 はい来ましたバッドエンドフラグ。

 このシチュエーションには覚えがあるぞ~、と心の中でヤケクソ祭りを繰り広げながら、しれっとした顔で「どうしたの?」と声を掛ける。

 手伝っていてくれたイキシアも、首を傾げて彼女を待っていた。

「干してた洗濯物が一枚足りなくて……どうしよう」
「何が足りないんだ? 俺も探そう」
「私も手伝うよ」

 持っていた籠をもう一度地面において、無駄と知りつつも洗濯物を検分し始める。
 レリアは「ありがとう!」と半泣きでお礼を言って、また口を開いた。
 その手はずっと動いているから、よっぽどその探し物が大切なんだと伝わってくる。

「お母さんが小さい時に、刺繍してくれたハンカチなの……! 宝物で、失くしたら、私……!」

 はいバッドエンドルート確定。
 これはカラン王子の側近、プラムのバッドエンドの一つだ。

 カラン王子第一主義なプラムは、王子の意志をはねのけ続けるレリアを邪魔と判断し、独断でその刃で彼女を襲う。
 実際レリアが継いでしまい、カラン王子に狙われる原因でもある「浄化の能力」。
 それも「今の所有者」が亡くなれば別の人間に移るものだとその後国王が明言しているので、プラムの独断が罰せられることもなかった。

 ……と、言うわけで。

「もしかして風に飛ばされちゃったのかな……。ごめん、二人とも! 洗濯物お願いしていい?」
「あ、おい!」
「私、森の中を探してく、る!?」

 ぐわし。
 イキシアの制止も聞かず、森へ駈け込もうとするレリア。
 そんな彼女の腕をとっ捕まえて、にっこり笑った。

「そのハンカチって、いつもレリアが使ってるあれでしょ? 白地にオレンジでレリアの名前と猫ちゃんの刺繍のしてある」
「そ、そう! だから、私、探しに……」

 イキシアがぼそっと「あれ。ウサギじゃなかったのか……」って呟いてるけど、知らん。
 誰がどう見てもとっても可愛い猫ちゃんだろがい。

「私が探してくるから、レリアは教会の中を探してきて? もしかしたら子供たちが拾ってきてるかもしれないし」
「え、けど……」
「それに、そろそろ晩御飯だよ? 今日はレリアがご飯当番だよね?」
「うっ……」

 レリアは言葉に詰まり、視線をうろうろとさまよわせてから、小さく「……お願いしていい?」と尋ねてきた。
 我ながらよく回る口だと思うよ。アラサー万歳。

 任せといて! と頷いて、森へと入ろうとした、その時。

「ラーレ」
「? なぁに? イキシア」

 珍しく、イキシアが声を掛けてくれた。
 それだけで気分が上がってしまうのだから、もうどうしようもない。

 多分これ死ぬし、死ぬ前にイキシアと話せるなんてラッキー、なんて思っていたら。

「気を付けて」
「へ……」
「もう暗くなってる。……一緒に行くといっても、お前は聞かないんだろう」

 ラーレは意外と頑固だからな、と。
 そう、困ったように笑う顔は、以前に、ほんの少し似ていて。

「……うん、いってきます」

 ああ、こんなに思ったのは久しぶりだ。

「死にたくない、なぁ」

 森へと進んで、ポツリとこぼれ出た一言は、こちらへ近づくプラムの足音で掻き消えた。



 と、いうのが数分前の出来事。
 そして今に至る。

 プラム、お前の中の人の大ファンだから、お前のルートも飽きるほどやったんだよ! 残念だったな!
 なんて内心では強がってみるけど、現実だと半泣きだ。普通に怖い。

 プラムはカラン王子第一主義の男だ。
 そんな男が、敬愛する主君ではなく、ヒロインを選び、苦悩しながらも王子に剣を向けて対決する。

 そんなシチュにしびれたユーザーは数多い、罪作りな男である。

 だが、それはあくまでも画面の向こうにいた時の話であって。
 実際に対面すると、この男めちゃくちゃ怖いんだが!?
 笑顔の狂気ってこういうこというんだね!?

「本当は、あの姫さんの方を狙ってたんですけどねぇ……」
「なっ、なら、私を殺さなくてもいいのでは……」

 うーん、と小首をかしげる動作をするから、ワンチャン逃げれるのではと慌てて口を開く。
 どもったけども、きちんと言えたあたり、私偉いと思う。

「けど、まぁ……見せしめにはなりますから」
「遠回り過ぎるアピールは伝わらないと思いますよ!?」
「教会の仲間が殺されるのは、結構直接的じゃないです?」
「ごもっともすぎる……」

 死にたくない一心の必死の説得は正論で返されて終わった。
 ああ、さようなら世界……。また初めからやり直しか……。

 イキシアにただいまって言わなきゃいけないのに。
 生きたくても、死にたくなくても、世界は私にとことん優しくない。

 諦め半分、ヤケクソ半分。こうなればおとなしく痛くなく一発で仕留めてもらおう……。
 と、居住まいを正したら、プラムに爆笑された。
「そんなに笑うなら見逃してください……」「すいませんね、無理です」「知ってた」なんて会話をしながら、プラムは剣を構え直す。

「いやぁ、あの姫さんのオトモダチじゃなかったら……仲良くしたかったんですけどね」

 せめて苦しまないように送ってあげますよ、という言葉に、ぎゅうっと目を瞑った、その時。

「止めろ。プラム」
「──っ」

 ひゅん、という風を斬る音に紛れて聞こえた声。
 それと同時に、ピタリと首筋にナニカが当たり、静止する。

「……あ、れ」

 生きて、る……?
 恐る恐る目を開けば、投げ出された剣と、跪くプラム。

 そして、冷たい瞳でこちらを見下ろす、カラン王子がそこにいた。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ずっとお慕いしております。

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄される令嬢のお話。 アンハッピーエンド。 勢いと気分で書きました。

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました

ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」  公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。  留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。  ※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。 【完結】

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...