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「カラン、王子……?」
「プラム、俺はこのようなことを望んだ覚えはないが」
プラムを止めてくれた……助けてくれた? くせに、カラン王子は私を一瞥しただけで、すぐに跪く己の従者へと視線を戻す。
その瞳は冷え切っていて、見ているだけのこちらにも冷や汗が浮かんでくる。
「申し訳ございません。王子の妨げになると判断し、独断で動きました」
「不要だ。下がれ」
「は」
「…………」
無言で見ているしかできなかったやり取りは、思いのほか早く終わってしまった。
プラムは去り際にこちらをちらりとだけ見て、暗くなった森の中に消えていった。
……正直こっちを見る余裕があるなら、私も連れてって欲しかったなぁ!
なんて文句を心の中で叫んでみるけど、無駄なんだろうな。知ってる。
だってプラム、ほんとにルートの終盤にならないとカラン王子に逆らわないもん……。
王子が「下がれ」言ったら無駄なことせず下がるよね。くそっ。
とはいえ、私はどうしよう。
そもそも動いていいのかもわからない。
なんたってこちとらここ数回の死因は全て目の前にいるこの男である。
一応言っておくが、彼が直接私を狙ってきたことはない。
が、この男。とにかく邪魔者=殺す、な思考なのでもうどうしようもない。
レリアを連れて行くのを邪魔するイキシアは殺そうとするし。
王都教会からの圧力にも屈さないフリージア神父も殺そうとするし。
とにかく無礼なザンカも殺そうとするし。
そこかしこであらゆる人の死亡フラグを立ててくれる。
場所も崖の上から裏庭から森の中から町の路地裏とバラエティー豊かなのも勘弁してほしい。
そしてそれを阻止する私はどうするか?
そうだね、最悪盾になるしかないね。
いや、ほんとはそんなことしたくないよ?
でも一般市民の一介の小娘(中身は前世平和な世界を生きた社畜な元気なアラサー)が頑張って頑張ってそれでも駄目だったらそれしか手段なくない??
だいたいカラン王子も悪いと思うんだよね。
目的の人物じゃない人間を殺しそうになったら、普通少しくらい剣が鈍るものじゃない?? 容赦なく振りぬくからね、この男。
最愛で最推しがイキシアだけど、キャラとしてのカラン王子は嫌いじゃなかったんだけどなぁ……。
今? ちょっと嫌い。
「怪我をしている」
「へぁ!?」
なんて悪口を考えていたから罰があたったのか。
唐突に掛けられた声に、とんでもない声が口からまろび出てしまった。
「「…………」」
そんな目で見ないで……!!
思わず顔ごと目を逸らすと、とても呆れた顔をされた。
見えないだろって? 空気が呆れてるんだよ!
「……悩んでいた俺が馬鹿らしくなるな」
しかもため息を吐きながらものすごい馬鹿にされた!
「……それは、どういう」
「お前は何者だ?」
少しムッとしてカラン王子の方へ向き直ると、その人は思ったよりも近くにいた。
月あかりを背中に浴びて佇む彼の柔らかな金髪が、キラキラと輝いているようで。
思わず、ほんの少し、見とれてしまった。
だから、その言葉を理解するのに、時間がかかった。
「聞こえないのか、お前は何者だ?」
「……え、あ。何者、って……」
「お前も、この世界を繰り返しているのだろう。──ラーレ」
──ドクン。
紡がれた言葉は、思いもよらないもので。
心臓がまた、きしむような音を立てた。
※ ※ ※
「…………はあぁぁぁぁぁ~~~~~」
ぼすっと自分のベッドへ倒れこむ。
窓から見える月はもうずいぶん高いところに登っていて。あの時からの時間の経過を教えてくれる。
「…………イキシア」
ごろりと寝がえりを打って、見飽きた天井を眺める。
ああ、顔が熱い。呟いた彼の名前すら、まるで熱を持っているかのようで。
きっと今、私の顔は真っ赤になっていることだろう。
思い出すのは、数時間前のこと。
カラン王子との邂逅の、その後だ。
カラン王子の衝撃発言のあと、私は動けずにいた。
だってそうだろう。思っても居なさすぎる発言だったんだ。
何度も言うが、私は一介の小娘に過ぎないんだ。
前世の記憶だって、こんな中世ヨーロッパもどきの世界じゃいまいち役に立たないし。
──お前も、この世界を繰り返しているのだろう。──ラーレ。
そんな私にとって、彼の発言はあまりにインパクトがありすぎた。
「……おい」
固まった私にしびれを切らしたんだろう。
カラン王子は、その手を私へと伸ばした。
その時。
「ラーレ!」
「お、わ……!」
ぐいっと、体が引き寄せられる。
すぐそばに感じる、乱れた息遣い。
懐かしい香りが、汗のにおいに混じって、ふわりと鼻孔に届く。
それは、ここにいるはずもない、彼のもの。
「……イキシ、ア……?」
──まるでそれは、ヒロインのピンチに駆け付ける、ヒーローそのもので。
ぽかんと見上げた彼は、息を切らし、焦る様子を隠しもせずに、カラン王子を睨みつけていた。
……私を、その腕に抱きしめた、まま。
「──っ……!」
ボンと音がしそうな勢いで、顔に熱が集まったのが、自分でもわかった。
『原作』が始まってから、イキシアとこんなに距離が縮まったことなんてなかった。
推しの過剰摂取で死んでしまう!!
……なんてことは、ちらりとも頭をよぎらなくて。
ただただ、イキシアの傍にいれることが嬉しくて。
久しぶりに感じる、彼の体温が、熱いくらいで。
──ああ、好きだなぁ。
そんな一言が、胸を満たしていた。
「……なるほど」
けれど、そんな夢心地も、目の前で目を瞬いていた王子の一言で現実に引き戻される。
「明日、『神父を庇った』場所で待つ」
「……!」
「何のことだ。ラーレに、何の用だ……!」
おい! と呼び止めるイキシアの声に答えることもなく、その人は暗い森の中へ消えていった。
カラン王子の言葉。
その意味を理解できるのは、きっとこの世界で私だけだ。
けれど、今の私にはそれをしっかり考える余裕はなくて。
「……あ、の……、イキシア……?」
「! ラーレ、怪我をしている」
「へ? あ、これは……」
そろそろ離さない? なんて続くはずだった言葉は、イキシアの声にかき消される。
……なんだか、懐かしいなぁ。
胸によぎるのは、懐かしい日々の記憶。
ザンカに突き飛ばされた私を抱き留めて、イキシアは同じようなことを言っていた。
そっと傷口のそばをなぞる指の、暖かさも。
ラーレは綺麗だと、頬を撫ぜる、あの時と、変わらなくて。
「……痛いか?」
「……? ううん、平気だよ」
これくらい、大丈夫だよ。
そう告げても、イキシアの眉間のシワは、取れてくれない。
どうしたの? と首を傾げれば、彼はさらに眉間の山を高くした。
「……泣いてる」
「……え……」
気が付かないうちに、私は泣いてしまっていたらしい。
あれ、と指を目元にやれば、熱い液体が指を濡らす。
……いつの間にか泣いてる、って、本当にあるんだなぁ。
思わず関心していれば、イキシアはその沈黙を別の意味に受け取ってしまったようだ。
少し離れていた体が、また、イキシアへと優しく引き寄せられた。
「助けに来るのが遅れてしまって、すまない。……もう、大丈夫だ」
「────」
優しく、まるで壊れ物を扱うような、少し不器用な手つきは、昔とちっとも変わらなくて。
まるで、今までの全てが悪い夢だったかのようで。
──夢、だったら、よかったのになぁ。
言葉に出せない、その思いを。
涙へ変えて吐き出すかのように、それは止まらなかった。
そして、ひとしきり泣いて、泣いて。
やっと涙の止まった私は、イキシアに手を引かれて教会へと帰ることができた。
どうやらイキシアは私の涙を「怖かったから」と捉えてくれたらしい。
門限をだいぶ過ぎたのに、シスターや神父様からのお叱りがなかったのは、イキシアが説明を買って出てくれたお陰だろう。
先に戻っていたレリアにも泣いて抱きつかれ、ザンカにも怒鳴られ、マシロからは猫パンチを頂き。
ようやく長い一日がやっと終わり、自室へ戻ることができたのだ。
改めて思い出し、また顔に熱が集まる。
茹蛸って、こういう時に言うんだろうなぁ。
もぞもぞとベッドを抜けだし、鏡の前に立つ。
そこに映るのは、情けないくらいに耳まで真っ赤にした、一人の少女。
見慣れたその顔の半分くらいには、大きな火傷痕がある。
そっとなぞり、小さくため息を吐いた。
イキシアがそんな小さい男じゃないのは、分かってる。
外見で態度を変えるような人じゃないのも、分かってる。
けれど、好きになれば、なってしまう程に。
「……これがなかったら……」
もっと前に、あの人と付き合えていたんだろうか。
彼の、イキシアの特別に、なれていたんだろうか。
そう、考えてしまうのだ。
ベッドへと戻り、目を閉じる。
疲れからか、睡魔はすぐにやってきて。
今日は、鐘の音も聞こえない夜だった。
「プラム、俺はこのようなことを望んだ覚えはないが」
プラムを止めてくれた……助けてくれた? くせに、カラン王子は私を一瞥しただけで、すぐに跪く己の従者へと視線を戻す。
その瞳は冷え切っていて、見ているだけのこちらにも冷や汗が浮かんでくる。
「申し訳ございません。王子の妨げになると判断し、独断で動きました」
「不要だ。下がれ」
「は」
「…………」
無言で見ているしかできなかったやり取りは、思いのほか早く終わってしまった。
プラムは去り際にこちらをちらりとだけ見て、暗くなった森の中に消えていった。
……正直こっちを見る余裕があるなら、私も連れてって欲しかったなぁ!
なんて文句を心の中で叫んでみるけど、無駄なんだろうな。知ってる。
だってプラム、ほんとにルートの終盤にならないとカラン王子に逆らわないもん……。
王子が「下がれ」言ったら無駄なことせず下がるよね。くそっ。
とはいえ、私はどうしよう。
そもそも動いていいのかもわからない。
なんたってこちとらここ数回の死因は全て目の前にいるこの男である。
一応言っておくが、彼が直接私を狙ってきたことはない。
が、この男。とにかく邪魔者=殺す、な思考なのでもうどうしようもない。
レリアを連れて行くのを邪魔するイキシアは殺そうとするし。
王都教会からの圧力にも屈さないフリージア神父も殺そうとするし。
とにかく無礼なザンカも殺そうとするし。
そこかしこであらゆる人の死亡フラグを立ててくれる。
場所も崖の上から裏庭から森の中から町の路地裏とバラエティー豊かなのも勘弁してほしい。
そしてそれを阻止する私はどうするか?
そうだね、最悪盾になるしかないね。
いや、ほんとはそんなことしたくないよ?
でも一般市民の一介の小娘(中身は前世平和な世界を生きた社畜な元気なアラサー)が頑張って頑張ってそれでも駄目だったらそれしか手段なくない??
だいたいカラン王子も悪いと思うんだよね。
目的の人物じゃない人間を殺しそうになったら、普通少しくらい剣が鈍るものじゃない?? 容赦なく振りぬくからね、この男。
最愛で最推しがイキシアだけど、キャラとしてのカラン王子は嫌いじゃなかったんだけどなぁ……。
今? ちょっと嫌い。
「怪我をしている」
「へぁ!?」
なんて悪口を考えていたから罰があたったのか。
唐突に掛けられた声に、とんでもない声が口からまろび出てしまった。
「「…………」」
そんな目で見ないで……!!
思わず顔ごと目を逸らすと、とても呆れた顔をされた。
見えないだろって? 空気が呆れてるんだよ!
「……悩んでいた俺が馬鹿らしくなるな」
しかもため息を吐きながらものすごい馬鹿にされた!
「……それは、どういう」
「お前は何者だ?」
少しムッとしてカラン王子の方へ向き直ると、その人は思ったよりも近くにいた。
月あかりを背中に浴びて佇む彼の柔らかな金髪が、キラキラと輝いているようで。
思わず、ほんの少し、見とれてしまった。
だから、その言葉を理解するのに、時間がかかった。
「聞こえないのか、お前は何者だ?」
「……え、あ。何者、って……」
「お前も、この世界を繰り返しているのだろう。──ラーレ」
──ドクン。
紡がれた言葉は、思いもよらないもので。
心臓がまた、きしむような音を立てた。
※ ※ ※
「…………はあぁぁぁぁぁ~~~~~」
ぼすっと自分のベッドへ倒れこむ。
窓から見える月はもうずいぶん高いところに登っていて。あの時からの時間の経過を教えてくれる。
「…………イキシア」
ごろりと寝がえりを打って、見飽きた天井を眺める。
ああ、顔が熱い。呟いた彼の名前すら、まるで熱を持っているかのようで。
きっと今、私の顔は真っ赤になっていることだろう。
思い出すのは、数時間前のこと。
カラン王子との邂逅の、その後だ。
カラン王子の衝撃発言のあと、私は動けずにいた。
だってそうだろう。思っても居なさすぎる発言だったんだ。
何度も言うが、私は一介の小娘に過ぎないんだ。
前世の記憶だって、こんな中世ヨーロッパもどきの世界じゃいまいち役に立たないし。
──お前も、この世界を繰り返しているのだろう。──ラーレ。
そんな私にとって、彼の発言はあまりにインパクトがありすぎた。
「……おい」
固まった私にしびれを切らしたんだろう。
カラン王子は、その手を私へと伸ばした。
その時。
「ラーレ!」
「お、わ……!」
ぐいっと、体が引き寄せられる。
すぐそばに感じる、乱れた息遣い。
懐かしい香りが、汗のにおいに混じって、ふわりと鼻孔に届く。
それは、ここにいるはずもない、彼のもの。
「……イキシ、ア……?」
──まるでそれは、ヒロインのピンチに駆け付ける、ヒーローそのもので。
ぽかんと見上げた彼は、息を切らし、焦る様子を隠しもせずに、カラン王子を睨みつけていた。
……私を、その腕に抱きしめた、まま。
「──っ……!」
ボンと音がしそうな勢いで、顔に熱が集まったのが、自分でもわかった。
『原作』が始まってから、イキシアとこんなに距離が縮まったことなんてなかった。
推しの過剰摂取で死んでしまう!!
……なんてことは、ちらりとも頭をよぎらなくて。
ただただ、イキシアの傍にいれることが嬉しくて。
久しぶりに感じる、彼の体温が、熱いくらいで。
──ああ、好きだなぁ。
そんな一言が、胸を満たしていた。
「……なるほど」
けれど、そんな夢心地も、目の前で目を瞬いていた王子の一言で現実に引き戻される。
「明日、『神父を庇った』場所で待つ」
「……!」
「何のことだ。ラーレに、何の用だ……!」
おい! と呼び止めるイキシアの声に答えることもなく、その人は暗い森の中へ消えていった。
カラン王子の言葉。
その意味を理解できるのは、きっとこの世界で私だけだ。
けれど、今の私にはそれをしっかり考える余裕はなくて。
「……あ、の……、イキシア……?」
「! ラーレ、怪我をしている」
「へ? あ、これは……」
そろそろ離さない? なんて続くはずだった言葉は、イキシアの声にかき消される。
……なんだか、懐かしいなぁ。
胸によぎるのは、懐かしい日々の記憶。
ザンカに突き飛ばされた私を抱き留めて、イキシアは同じようなことを言っていた。
そっと傷口のそばをなぞる指の、暖かさも。
ラーレは綺麗だと、頬を撫ぜる、あの時と、変わらなくて。
「……痛いか?」
「……? ううん、平気だよ」
これくらい、大丈夫だよ。
そう告げても、イキシアの眉間のシワは、取れてくれない。
どうしたの? と首を傾げれば、彼はさらに眉間の山を高くした。
「……泣いてる」
「……え……」
気が付かないうちに、私は泣いてしまっていたらしい。
あれ、と指を目元にやれば、熱い液体が指を濡らす。
……いつの間にか泣いてる、って、本当にあるんだなぁ。
思わず関心していれば、イキシアはその沈黙を別の意味に受け取ってしまったようだ。
少し離れていた体が、また、イキシアへと優しく引き寄せられた。
「助けに来るのが遅れてしまって、すまない。……もう、大丈夫だ」
「────」
優しく、まるで壊れ物を扱うような、少し不器用な手つきは、昔とちっとも変わらなくて。
まるで、今までの全てが悪い夢だったかのようで。
──夢、だったら、よかったのになぁ。
言葉に出せない、その思いを。
涙へ変えて吐き出すかのように、それは止まらなかった。
そして、ひとしきり泣いて、泣いて。
やっと涙の止まった私は、イキシアに手を引かれて教会へと帰ることができた。
どうやらイキシアは私の涙を「怖かったから」と捉えてくれたらしい。
門限をだいぶ過ぎたのに、シスターや神父様からのお叱りがなかったのは、イキシアが説明を買って出てくれたお陰だろう。
先に戻っていたレリアにも泣いて抱きつかれ、ザンカにも怒鳴られ、マシロからは猫パンチを頂き。
ようやく長い一日がやっと終わり、自室へ戻ることができたのだ。
改めて思い出し、また顔に熱が集まる。
茹蛸って、こういう時に言うんだろうなぁ。
もぞもぞとベッドを抜けだし、鏡の前に立つ。
そこに映るのは、情けないくらいに耳まで真っ赤にした、一人の少女。
見慣れたその顔の半分くらいには、大きな火傷痕がある。
そっとなぞり、小さくため息を吐いた。
イキシアがそんな小さい男じゃないのは、分かってる。
外見で態度を変えるような人じゃないのも、分かってる。
けれど、好きになれば、なってしまう程に。
「……これがなかったら……」
もっと前に、あの人と付き合えていたんだろうか。
彼の、イキシアの特別に、なれていたんだろうか。
そう、考えてしまうのだ。
ベッドへと戻り、目を閉じる。
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