塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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 ジョエルが預かってきた手紙はロラン王子がエルネストに託されたものだという。
 もし、カミーユがシーニュに戻るなら、その時にと。
 一人になってからその手紙を開くと、几帳面な文字が並んでいた。
『君はきっと姉上に似て優しい子だろうから、関わらないつもりでもいつか祖国の現状に心を痛めるかもしれない。もし、帰国しようと思うなら、ぜひ王都の侯爵家邸を使ってほしい。厳重な警備と丁重なおもてなしを約束する。姉上の遺品コレクションの展示室もあるからね。いつか君を迎えるための一番眺めのいい部屋も用意してあるよ』
 遺品コレクション? 眺めのいい部屋? 用意周到すぎないか、エルネスト叔父上……。
 カミーユは脱力しかけてから、ふと気づいた。
 襟元からペンダントを取りだしてじっと見つめる。
 母の遺品だとバルバラから渡されたペンダント。これは母が万一の時のために用意した毒が入っていると聞いていた。愛する人からもらったのだと。
 ……これを贈ったのは、誰なんだろう。ずっとドミニク三世が母の元恋人だという噂しか知らなかったから、あの人からだと思っていた。
 バルバラがこれをわたしにくれたのは、わたしが塔の生活で完全に絶望した時のためなのかもしれない。けれど毒の存在など忘れるほど毎日忙しくて、思い出したのはドミニク三世の側妃にされかねないと聞いた時だ。
 その話を聞きつけたアレクがペンダントの中に入っていた小さな紙包みを没収してしまった。
『薬は年月が経ったら変質して危険なんだからね? そんな身体に悪いものは持ってちゃダメだから』
 ……そもそも毒なんだから身体に良くないのは当たり前なんだけれど。
 アレクが真顔でお説教してきたのでカミーユは素直に頷くしかなかった。紙に包まれていたのは毒物ではないと後で教わった。
 毒じゃない? だったら贈り主は母がそれを持っているだけで気が休まるなら、と思ったんだろうか。
 カミーユが何気なくペンダントを開くと、蓋の裏側に薄く何かの刻印がしていることに気づいた。
「文字……? 数字?」
 薄くて読み取れない。ふとカミーユが指で触れると、ぱっと光が浮かんだ。何が起きたのかわからなくて周囲を見回すと、ちょうど部屋に入ってきたバルバラが「おやまあ」と呟いた。
「光魔法のからくりでございますね」
「え?」
 カミーユが戸惑いながら光が浮かび上がったペンダントに目を向ける。するとその光の中に浮かび上がるように一人の男性の顔が見えた。金色の髪と褐色の瞳、華やかな美貌のその人がにこりと笑顔を浮かべる。
 絵姿じゃない……これは記録映像?

 男性は軽く息を吸い込むと真面目な表情になって一気に告げた。
『シーニュ暦一三一年七の月十の日。愛しい人とそしてまだ見ぬ我が子へ。すぐに会えぬことを申し訳なく思う。どうか身体を労い、吾子と安らかに過ごして欲しい。わたしの心は二人の許にある。王宮ではまだ流行病の感染が落ち着いていないから、赤子に会うことは憚られる。だからもうしばらく待っていてほしい』
 映像はそれだけで切れた。魔法を使ってこうした記録ができるのは知っていたけれど、このペンダントにそんな仕掛けがあるとは知らなかった。
「今の……わたしの父上?」
「左様でございますね。マルク王ご本人です。日付からしてカミーユ様がお生まれになった日のものかと」
 バルバラが即答した。
「お綺麗な方だったんだね。肖像画で見たより遙かに綺麗だった」
 弟のドミニク三世は父親似だったと聞いている。確かに全く似ていない。母親似だったのだろうか。華やかで神々しい顔立ちをしている。
 即位した当初、その美貌に人々が驚いたと書物にあったのは本当だったのだろう。
「ええまあ。見ていると目が痛くなるほどキラキラとまばゆい方でした」
 カミーユが生まれた当時、正妃の子供たちが流行病に倒れていたのに気を使って離宮に来ることはなかった。そうして母もそのすぐ後亡くなってしまった。
 会いに来なかったのは王宮で疫病が流行っていて、それをカミーユたちにうつさないためだったのか。カミーユと母が暮らしていた離宮は王宮から離れていて人の交流も少なかった。そのおかげでカミーユは病にはかからなかった。
「このペンダントの贈り主は父上だったんだね」
「その通りです。このペンダントには他にもいくつか映像が入っていると聞いています。光魔法が使える人間でないと映し出すことができない仕掛けだとも」
 母の実家ダルトワ侯爵家には多い光魔法。カミーユは聖魔法の適性があると言われた。光魔法の上位に当たるので、カミーユにも使えたのだろう。
「なんで毒が入ってるなんて嘘ついたの?」
 中身が毒だと言ったのはバルバラだ。中身を知っていたのに。
「そう言えば無闇に開けようとはしないと思ったからです。それに塔の中でこの映像の存在をお教えするのはまさしくカミーユ様には毒となったでしょう」
 カミーユは父マルク王のことを噂でしか知らなかった。処刑されたのも父に罪があったからだと。けれどその父が自分に対して情を向けてくれていて、本当は悪い人ではなかったと知らされたらあの塔での生活に耐えられただろうか。
 不条理に怒り嘆いてもとらわれの身で何もできない自分に絶望したかもしれない。
「……そうだね。毎日あの映像を見続けて嘆いていたかもしれない。けど、バルバラ。わたしをあまり甘やかさないで欲しい。アレクにも言ったけど、あんまり甘やかすと増長した人間になってしまいそうだ」
「私はむしろ厳しくお育てしたつもりでしたが……」
「それは剣術とか作法とかそういう方面ではそうだけど、父や母のこともずっと黙っていたし、【祝福】のことだって。そうやってわたしを守ろうとしていたんだよね? だけどもうわたしも自分で判断できると思うから、隠し事はなるべくしないでほしい」
 バルバラはふっと微笑んだ。
「左様ですか。私はまだまだカミーユ様に過保護だったのですね。では何なりとお聞きいただければ、シモーヌ様の幼い頃の武勇伝なり、マルク陛下が幼いカミーユ様にどれだけデレデレで情けなかったか……など、お話いたしましょう」
「……それはわたしが聞いてもいい話なのかな……?」
 ちょっと聞きたいような、聞かない方がいいような気がしてカミーユは戸惑った。
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