塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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「バジル。さっきの新米冒険者、まだそこにいるのか?」
 階下から呼びかけながら近づいてくる声。
 バジルがドアを開けて「いるぞ」と答えたら、相手が焦った声で怒鳴ってきた。
「早く降りてこい。そいつの相方がカチコミしてきた。ヤベえ魔法使いだ」
「え?」
 相方、魔法使い、という言葉にカミーユは反応したものの、カチコミの意味がわからない。
「もしかして迎えに来てくれたのかな」
 そう呟いたらバジルが違うだろ、と言いたげにげんなりした顔をした。

 下階に降りてみると、室内にいた冒険者たちは壁際でぐったりしていた。書類や小物もバラバラになっている。その真ん中で杖を片手にしたアレクが立っていた。
「アレク……」
 カミーユの顔を見ると険しかった表情がふわりと和らいだ。
「もう、びっくりするじゃないか。剣を抜いたらわかるように魔法をかけておいたけど、それがギルドの中で……とか荒事に巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかったよ。聞いてみたら彼らは知らないの一点張りだし。嘘をつくからちょっと風魔法を使ったんだけど」
「すみません……」
 呼びに来たギルド職員は顔が真っ青だ。多分バジルが絡んでいるから誤魔化そうとしたんだろうけれど、アレクは一体何をやったんだろう。
「大人しくしてなきゃだめだって言ったよね?」
「大人しくしてたんだよ? 何も目立つことしてないし」
 カミーユがそう答えると、バジルが小声で「嘘つけ」と呟いていた。
「それで? どうして彼が剣を抜いたのか理由を教えてもらおうかな? 嘘ついたら今度は火魔法使っちゃうよ?」
 一見優しげな美貌の持ち主がほほえみながら強烈な圧をかけると、バジルのような大男でさえ怯えるんだということをカミーユは知った。

 階下はアレクの風魔法のせいでぐっちゃぐちゃだったので、二階の部屋に戻る。
 アレクが鳥の亜人だと聞いたバジルは震え上がっていた。鳥の亜人が伴侶に執着するのは亜人たちには常識らしい。
「申し訳ない。まさか鳥の伴侶とは知らないから……」
「大丈夫だよ、アレク。わたしは何もされてない。剣に手をかけようとしたから止めただけだよ」
「いやそれ、剣を向けられそうになったってことでしょ。大丈夫じゃないからね? でもまあ僕も下階の部屋ぐちゃぐちゃにしちゃったからそれでおあいこでいいかな?」
「もちろんだ。あの程度で済ませてもらえるなら安いものだ」
 ……鳥の亜人ってそんなに伴侶に過保護なの? というか、今まで伴侶に手出しした人に相当な報復があったってこと?
 カミーユはそう思いながら事情を説明した。
「まあ、ちょっと相手をよく見て欲しかったね。密偵だと疑うのは当然だろうけど。下手によそ者に噛みついてたら逆に怪しまれるだけだよ」
 アレクもカミーユと同じ推理にたどり着いたらしい。その理由を教えてくれた。
「このギルドは比較的新しいんだよ。ロラン殿下の出資で招致されたんだって。それまではこのルフェーブル領は冒険者には大不評な場所だったんだ。招致したのは亜人の雇用にも繋がるからというのが理由だったらしい。つまりこのギルドの亜人たちはロラン殿下に恩義を感じている」
 だよね? とアレクはバジルに目を向ける。バジルは渋々という顔で頷いた。
「だけど、そうやって集めた冒険者たちを領軍にぶつけちゃだめだよ。冒険者は軍人じゃないんだからね?」
「……だが……我々も覚悟はできている。外部からじゃまをしないでもらいたい」
 バジルは重々しく口を開いた。計画がすでにアレクにバレてしまっていると気づいて開き直ったようだった。
「ぶつけるって……まさか正面から?」
「冒険者たちとは別の集団が鉱山地区に近い村で待機していた。かなりの数の馬車と平民を装った者たちが。あっちはおそらく亜人救出のための部隊だろうね。冒険者たちは魔物討伐の妨げになっているから鉱山の管理者に抗議の目的で行って、それが激昂して武力衝突になる……みたいな筋書きかな」
 アレクの言葉にバジルがぐっと口を引き結んだ。図星だったのだろう。
 つまり冒険者たちは陽動なのか。
「……だけど、亜人は一カ所にいるわけじゃなくて、鉱山の中に入っている者もいるんだよね? 一度に全員を連れ出すことは難しいんじゃないかな」
 カミーユは疑問を口にした。
 冒険者たちが魔物の件で鉱山と揉めている間に別動隊が亜人たちを連れ出すとしても、所在がバラバラでは時間がかかりすぎるんじゃないだろうか。かといって鉱山を完全掌握するほどの兵力ではないはずだ。
 アレクがそれを聞いて頷いた。
「ああ、だから今が狙い目だったんだよ。鉱山は記念式典の間は亜人奴隷たちにも休暇を取らせるんだって。そうしないと人族の鉱山管理者や領兵たちは休めないでしょ? 亜人たちは住まいにしている集落に閉じこめておくんだとか」
 指摘されたバジルは黙り込んだ。
 ロラン殿下は十三年前のドミニク三世の挙兵を再現させるつもりだと言っていた。けれどあれは数で優位になるように情報操作で平民たちを動かして味方につけていた。あまりに無理がある。
「ただ、鉱山には交替で休暇中とはいえ多くの領兵が配置されていて、国境並みの魔法障壁もある。あれを解除するのは相当の力が必要だ。それともう一つ、鉱山地区の山林には瘴気が濃い。瘴気溜まりがある可能性が高い。救出部隊がそっちからの侵入を狙っているのなら魔物対策をしっかりした方がいい。むしろ救出側に冒険者が少ない方が問題だ」
「瘴気溜まり……? 一体どうやって調べた?」
「それは秘密だよ」
 瘴気というのは地面から薄く湧いている毒素のようなものだ、とカミーユは書物で読んだ。それに触れた植物を口にした草食獣やさらにそれを喰らった肉食獣が体内で瘴気を貯めると魔物化して魔獣と呼ばれる生きものに変容する。
 瘴気溜まりは瘴気の濃度が極度に高い場所だ。周辺には魔物が多くなり、植物も変容する。だから人は近づかなくなる。
 ほとんどの亜人は瘴気に耐性があるが、人族は瘴気に弱い。
 だから警備も手薄になっている。それでも魔法障壁はあるだろう。逆に亜人は魔力持ちが少なくて魔法には疎い。
「……そんなことはわかってる。だが、これは千載一遇の機会なんだぞ? コレを逃したら鉱山奴隷たちを一斉に開放するのは難しい。やるしかないんだ」
 アレクはバジルの怒号に全く動じずに答えた。
「……陽動には僕たちが二人で行く。救出部隊にギルドの冒険者たちを合流させるんだ。魔物が現れても冒険者たちなら対処できる。入り口は作っておいた」
「……え?」
 アレクは地図を拡げてほぼ空白の鉱山地区に印をつけていく。鉱山の位置、亜人の集落、駐留している領軍の駐屯地。管理者たちが暮らしている地区。亜人の子供たちがいる孤児院の場所。
 そして森林の中に唯一通っている細い道に印を加えた。
「このあたりの魔法障壁を解除しておいた。木に赤いリボンを結わえてあるからそれを目印にすればいい」
「まて。二人で領軍に喧嘩を売る気か? お前ら一体何者だ?」
 それを聞いてアレクが首を傾げる。
「あれ? それはまだ話してなかったの?」
「わたしは新米冒険者だとしか言ってない」
「そうかあ……そこはちゃんと頑張ってたんだね」
 アレクがふわりと微笑むと、バジルに向き直る。
「僕はサミュエル・アレクサンダー。ダイモス連合王国の王太子だ。彼は王太子配でこの国の先代国王の王子、カミーユだよ」
 今度こそバジルは顎が外れそうなくらい口を開いて固まっていた。
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