【短編】我儘王女は影の薄い婿を手放したくありません

しろねこ。

文字の大きさ
7 / 10

第7話 根回し

しおりを挟む
 花園でキリトから別れた後に、どのような報復をすればもう二度とカミディオンを訪れなくて済むのかに頭を悩ませる。

 ディルスは考えがあるという事で耳元に顔を寄せ、話をしてくれた。

「怒鳴る様に話しても人は萎縮し、話を冷静には聞いてくれない。どうすれば聞いてくれるかが重要かな。君は何も話さなくていいからね、側で困った顔をしていてもらってもいいかな。怒りは抑えていてね」

 会場に戻ると早速ディルスは暗く沈んだ表情をする、私もそれに倣い、彼の隣で同様に表情を作る。

 顔見知りの他国の者の前を通るとすぐに話しかけられた。

 明らかに何かがあったという表情をしていたら、気になる人が出てくるのも当然だろう。

 気にかけてくれる人に対して、ディルスは暗い声と顔で話し始める。

「実の弟が妻を口説くなんて思ってもいなかった。それに僕とエルマの離縁を望むような話しぶりにショックを受けたよ」

 目元を押さえ、まるで今にも涙を零しそうな素振りを見せる。

「二人は仲睦まじい夫婦ですよね。キリト殿下は、何故そんな事を?」

 交流のあるものならば私達の関係性をしっかりとわかっているから、キリトのような考えは出ない。

「僕が至らないから、かな。でも弟がこんな考えを持っているなんて、夢にも思わなかったよ」

 ディルスはそっと魔導具を取り出した。

 それは周囲の音を記録出来るものだ。先程の私とキリトの会話が流れ出す。

 魔法が使えないからこそ、このような魔導具を普段から活用している。こちらはよく大事な会議の場でも使用している、愛用品だ。

「信じられないかもしれないがこのような事があって……内緒だよ」

「これは……まさか離縁もしていないのにこんな発言が出るとは」

 聞かされた方は、会話の中身に眉を顰める。

「とてもショックだ。カミディオンとレグリスを繋ぐ為にこんなに尽力したのに。弟は僕からかつての地位を奪うだけでは飽き足らず、エルマをも奪おうとしている」

 さめざめと泣く真似をし、私はギュッと唇を噛んでディルスに掴まることで、健気に耐えるお姫様を演じる。

 愛する二人を引き離そうとするキリトの言葉に聞いたものは信じられないという素振りをしてくれた。

「実に悲しい事だけれど、余計な争いが起きぬように、もうこの国には来ないつもりだ。母国に来れないなんて辛いけど、変わってしまった弟に耐えられないからね。それにエルマも奪われたくない」

 私達はただ悲しみにくれるばかりだ。

「家族同士のこのようないざこざに心は痛むが、最愛の女性は渡せないし、弟と表立って争いたくはない。聞いてくれてありがとう」

 そう言うと、聞いてくれた人達は同情と、そして私達の代わりに怒ってくれる。

 同様の話を複数の者に行なっていった。

 中にはこのような醜聞を興味津々で聞く者もいるが、概ね話は静かに聞いてくれ、着々と話が浸透していく。

「もっとこう、大声で主張するのかと思っていたわ」
 スカッとするやり方とは到底思えない。

「これでいいんだよ、怒りのまま喚くと、中には諭そうとする者も出てくるし、僕が悪いと責める者も出てくる。でも悲しんでる者を更に責める者ってなかなか居ないものさ。そして他人の悲劇は、人によっては喜劇になる。大声で主張しなくても、皆誰かに話したくなるものさ」

 人の口に戸は建てられないし、醜聞も今日の主役によるものだ。

「大声で訴えたらすぐに止められてしまうかもしれないけれど、こうして根回ししておけば信じる者も増えていく。皆自分の信頼するものに内緒話をするものだよ」

 ディルスは人を見るのに長けている。

 こうしたら人はどのように思い、どう動くか。個人の事を良く把握しているものだ。

 だから話す相手もキリトの事を好ましく思わないものや、中立の立場であるものを選んでいる。

 お陰でディルスを嗜める者はいないし、話が広まるばかりだ。

 そんな中、カミディオン国の者が先程から忙しなく会場を走っているのがわかる。
 恐らくキリトがディルスを探すように命令したのだろうが、こちらに全然気づいていないようだ、まだ見つけられていない。

(凄い特殊能力よね)

 ディルスはよく影が薄いと言われるが、どうも本人が見つかりたくないと思えば、気配を消せるらしい。

 だから離宮にいた時に食料を求め王宮に来た時も、誰にも会わずに入る事が出来たそうだ。

 後程に勝手な事をしてごめん、とこっそりと謝られたけど、咎めることはない。

 自分の為ではなく、一緒に来た侍従の為に仕方なく行なった事だ。そもそもこちらの不備で起こさせてしまった事だもの。

 でもまさか、思うだけで身を隠せ、しかも衛兵たちの目もすり抜ける事が出来るなんて。
 変な話だけれど、魔法みたいだと思ってしまった。

 諜報員にとても向いている人ね。

「では最後に伝えたい人達の元へ行こうか」

 散々色々な人に話した後は私の両親の元に来た。

 「そうね、父と母には話をしないといけないわ」

 でもそれを予測していたのかキリトもいる。

 親しげに話しているようだが、キリトのこの発言を聞かせればきっとこの空気も変わるだろう。





 そんな下積みがあったからこうしてすんなりと受け入れてくれる者が多い。

 今の録音を聞き、真偽に迷っていた人も、直に私達の話を聞いただろう友人から話を聞く事で、私達の味方はどんどん増えてくる。

 まるでリバーシの駒を返すように困惑した者達の表情が変わっていくわ。

 私達への同情と、そしてキリトへの嫌悪に。

 ようやく遠くからディルスとキリトの父親であるカミディオン国の国王が来る。

(後は国王同士の話で決着をつけてもらいましょう)

 私とディルスは悪戯が成功したような笑みを浮かべて、地に降り立った。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

割込み王女に祝福を(婚約解消いただきました。ありがとうございました)

久留美眞理
恋愛
 没落貴族の令嬢ベアトリックスは、父を亡くした後、母の再婚相手のブライトストーン子爵の養女となった。この義父の借金を返済するために、義父によって新興成金の息子エドワードとの縁談を画策されてしまう。家門を救い、母を守るため、彼女はこの結婚を受け入れる決意をし、エドワードと婚約が成立した。ところが、王宮の茶会で会った王家の第三王女が、エドワードにひと目惚れ、ベアトリックスは婚約を解消されてしまった。借金を肩代わりしてもらえたうえ、婚約破棄の慰謝料まで貰い、意に添わぬ結婚をしなくてよくなったベアトリックスはしてやったりと喜ぶのだが・・・次に現れた求婚者はイトコで軍人のレイモンド。二人は婚約したが、無事に結婚できるのか?それともまた一波乱あるのか?ベアトリックスの幸福までの道のりを描いた作品 今度の婚約は無事に結婚というゴールにたどり着けるのか、それとも障害が立ちはだかるのか?ベアトリックスがつかむ幸福とは?

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい

楠結衣
恋愛
「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」 こう告げられたのは、真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもなく、学園から帰る馬車の中だったーー。 由緒あるヒビスクス伯爵家の一人娘であるエリーゼは、婚約者候補の方とお付き合いをしてもいつも断られてしまう。傷心のエリーゼが学園に到着すると幼馴染の公爵令息エドモンド様にからかわれてしまう。 そんなエリーゼがある日、運命の二人の糸を結び、真実の愛で結ばれた恋人同士でいくと幸せになれると噂のランターンフェスタで出会ったのは……。 ◇イラストは一本梅のの様に描いていただきました ◇タイトルの※は、作中に挿絵イラストがあります

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

旦那様は、転生後は王子様でした

編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。 まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。 時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。 え?! わたくし破滅するの?! しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

恋詠花

舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。 そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……? ──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。

処理中です...