冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。

文字の大きさ
7 / 31

アドガルム国での生活

しおりを挟む
がらりと変わった生活だが、皆この生活にだいぶ順応してきた。




最初の頃とは違い、レナンにはエリックが、ミューズにはティタンと二人きりで話す機会が増えた。

それぞれで案内役をするようになったのだ。

リオンは時折ティータイムを一緒にするくらいだが、二人に対し冷遇することもなかった。

むしろ実姉のように二人を慕い、レナンもミューズも弟が出来たようで可愛く思っていた。




最初は王族が付き添うなんて、とレナンもミューズも遠慮したのだが、隣国のとはいえ公爵令嬢である二人を、他の者に案内させるわけにはいかないと、変更されることはなかった。

二人の父、ディエスの投獄がアドガルムまで報じられた事も、原因の一つである。


ミューズとティタンは二人でティータイムを過ごしていた。

「美味しいか?」
「えぇ、とっても。特にこちらのチョコレートが好きです」

甘いものを頬張り、幸せそうな顔をするミューズを見てティタンも嬉しそうだ。
口調もだいぶ砕けてきた。

「喜んで頂けてこちらも嬉しいよ、今度街へも行ってみよう。皆へのお土産とか一緒に選ぼう、カフェ限定のスイーツもあるぞ」
「まぁ!カフェ限定ですか、ぜひ行きたいです。その際はご飯を抜いて万全にしないといけませんね」
気合をいれてその日に臨みたいとするミューズに、ティタンは笑った。

ミューズの反応が嬉しい。



以前誘ったときは硬い表情をし、社交辞令で返されたのに、今はコロコロと変わる表情で、受け入れてくれる。

とても愛しく思えた。

「どれだけ食べるつもりなんだ、最近少しし顔が丸くなったぞ」
可愛いミューズを、ついからかいたくなってしまった。

「うっ、本当ですか?!」
真っ青になりながら、ミューズは自分の顔を両手で触る。

「冗談だ。だがミューズは少し太ったほうがいい、今までが痩せすぎだったんだから。気になるなら一緒に鍛錬するか?」

エリックが王太子となった事もあり、ティタンは騎士としてこの国を支えるつもりだと以前教えてくれた。

今日も、実は訓練の合間の短い休憩時間にわざわざ来てくれている。



騎士になりたい。
兄に万が一があった場合は弟のリオンがいるし、気楽な次男坊だと話していた。



(気楽とは思えないけど、ティタン様は元が優しいのよね)
優秀な兄と弟と比べられて、辛かったのではないだろうか。

本人の思惑を別として、第二王子とは王太子のスペアとして見られる事が多い。

容姿も線の細い二人と違い、鍛えているため筋肉質だ。

縁談もあまりないと聞く。
既に王太子が決まっており、臣籍降下することが決まってるからだろうと、メイド達の憶測がされていた。

頭脳面もけして悪いわけではないが、王宮の重役につくことは無いだろうと考えられているため、将来性が今のところ見込めないと令嬢方から敬遠されている。

そんな噂はだんだんとミューズの耳にも入るようになった。

だが実際に話をするミューズには、噂など当てにならないと思っていた。

実直なティタンにミューズは好感を抱き始めているのだ。

(真面目で優しく、女っ気もない。夫としては申し分ない人だわ)
打算的な考えかもしれないが、とても良い人なのだ。

接してわかるが、家族からも愛されている。
特に兄弟仲が良く、エリックもリオンもティタンを敬愛していた。

自分にない強さを持つものとして、一目置かれているようだ。

ミューズも同い年ながら、しっかり自分の将来を見据えているティタンを尊敬している。




ミューズと別れ、訓練に戻る僅かな時間に、ティタンは従者のマオに感謝を伝える。

「ありがとう、ミューズもとても喜んでいた」
「良かったです、それなら僕も知恵を貸した甲斐があるのです」

ふふんと胸を張るは、ティタンの従者だ。




「味見した際は甘すぎるかと思ったが、紅茶に合った。自分で好んで食べるものではないから、貴重な情報は助かる」

「ティタン様には甘すぎても、ミューズ様には合うこともあるです。そのあたりは好みを熟知する事が必要なのです」

「次はそこも考慮しよう」

しっかりとメモを取るこの主は、本当に真面目で素直だなぁとマオは思った。




自分のわからない事は知ってそうな人に聞くのが一番早い。

ティタンは自分が知らないことは知らないと、素直に認めているのだ。

そして直感的に誰に聞けば良いのかわかるらしくて、無駄がない。



今回はマオの言ったものとミューズの好みが合ったので、成功した。



ティタンは情報をまず自分で調べてから確認で聞きに行く。

聞いたことも鵜呑みにせず、自分で試すし、裏も取る。

甘いのは苦手としながらも、試食品も誰かにあげたりはせず自分で完食していた。




曰く、「ミューズにプレゼントする為のものを、他の人にあげることは出来ないだろ?」
との事。

ミューズに一番にあげるのだから、試食品でも他の人にあげることはしない、という言い分だ。



無自覚だが、その人の為だけに何かをするのに優れている男だ。

(まぁここまでいくと、愛が重いのですが…)

婚約者にしたいが為とはいえ、ここまでするものかと呆れてはいる。

しかし政略的に婚姻しても利益のある女性のため、マオは応援するつもりであった。

「今まで女性経験がないため、意図せず尽くすですか…まぁ僕は実を結ぶことを祈るです」
多分だが、ミューズもティタンに惚れている。



楽しそうに話す様子や気兼ねない言葉掛けなどからの推測だ。

飾らないティタンに魅力を感じているのが伺われる。

彼女はマオのような従者にも優しくしてくれた。

主に幸あれ、と祈っといた。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛
恋愛
薬師である『緑の聖女』と呼ばれたエリスは、王子に見初められ強引に連れていかれたものの、学園でも王宮でもつらく当たられていた。それなのに聖魔法を持つ侯爵令嬢が現れた途端、都合よく冤罪を着せられた上、クズ王子に純潔まで奪われてしまう。 辺境に戻されたものの、心が壊れてしまったエリス。そこへ、聖女の侍女にしたいと連絡してきたクズ王子。 後見人である領主一家に相談しようとした妹のカルナだったが…… 「エリスもカルナと一緒なら大丈夫ではないでしょうか……。カルナは14歳になったばかりであの美貌だし、コンラッド殿下はきっと気に入るはずです。ケアードのためだと言えば、あの子もエリスのようにその身を捧げてくれるでしょう」 偶然耳にした領主一家の本音。幼い頃から育ててもらったけど、もう頼れない。 カルナは姉を連れ、国を出ることを決意する。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

処理中です...