利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

637 タガローサ邸にて

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637

「今頃あわてているだろよ。だが、もう勝負はついているも同じだ。奴らに勝ち目などないわ」

元〝帝国の代理人〟エスライ・タガローサは久しぶりにうまい酒を飲んでいた。

あの日に蟄居、そして謹慎を命ぜられたまま、タガローサはパレスにある豪華な屋敷の中に閉じ込められている。だが、表向きは失ったように見える貴族との取引はまだ続いており、パレスにはタガローサの名を表に出さないまま運営している商店が多くある。

タガローサは使用人たちを屋敷に呼びつけては指示を出し、表に出ないままいまも商売を続けている。だが、シド帝国最高の商人という地位を失った彼の元からは、すでに使うことができなくなっている商人ギルドの者たちだけでなく、子飼いの者たちまでも潮時と見て逃げ出したため、その運営は厳しい状況だ。

元々金でしか結びついていない絆は、それが少しでも途切れそうだとみると、蜘蛛の子を散らすように、あっという間に崩壊していった。

とはいえ、タガローサ家の富は莫大だ。古くからの使用人たちは、それを知っているため離れることなく、粛々とこの傲慢な主人に仕え続けている。去った者たちの代わりの者を早々に雇用はしているが、多くの者たちには彼らの本当の雇い主がエスライ・タガローサであることは知らされてすらいない。

タガローサの評判は地に落ちており、彼の関わった大小様々な悪事が、巷で取り沙汰され、尾鰭がつき、どう考えてもタガローサをモデルにしたと思われる〝小さな少女が悪漢を退治し王国を救う〟という舞台劇が大入りで上映されている。

もちろんタガローサは、その劇場に圧力をかけようとしたが、芸人ギルドがそれに気づき防犯のための人員を補強してしまったため、手を出せなくなってしまった。

(小屋に火をかけてやろうかと思ったが、あの警備では絶対に見つからずにできるかどうかわからなかったからな……えい! いまいましい!)

「だが、時は来た! 正妃の面目を潰し、その責任をサイデムに負わせ失脚させてやる! 平民上がりの男などに〝帝国の代理人〟は務まらないことを、パレス中に見せてやるぞ。ふ、ふ、ぶあっふぁふぁ」

ケバケバしく飾り立てられた豪華な部屋で、タガローサは勝利の美酒に酔っていた。

今回の計画は、タガローサの妹であるシルヴァン公爵家の第二夫人オクタビアからの、金の無心を兼ねた見舞状を読んだ時から始まった。

はっきり言ってシルヴァン公爵は無能な男だ。だが、それがタガローサにとっては非常に好ましかった。貴族としての立ち振る舞いは完璧で誰もが平伏すだけの影響力を持つ最高位の貴族だが、金勘定など一度もしたことのないこの男は、自らが没落寸前にあることも理解できていなかった。

ただオロオロするだけの公爵に取り入り、金を与え始めれば、後はタガローサの言いなりになってくれた。

(公爵は妹が嫁いでいるから便宜を図ってくれていると考えているのだろうが、逆だ。利用価値があるから妹を嫁がせたんだからな)

思った通り、公爵家の権威は絶大で、どんな横紙破りでもし放題の上、商売を有利に進めることができた。公爵の紹介さえあれば、どの貴族とも簡単に会うことができ、信用が得られるのだから公爵サマサマだ。おかげでエスライが当主になってからのタガローサ家は、それまでの数倍の利益を得るようになり、多くの貴族たちから上手く利益を吸い上げることに成功していた。

だがタガローサの失脚により、シルヴァン公爵家はすぐに資金難と直面した。以前ならば、タガローサのために紹介状を書くだけで莫大なキックバックがあり、公爵家の対面を保つためならば、いくらでも金は用立てられてきた。

もうそれがなくなったいま、公爵家はこうして直接金の無心をする以外金策は思いつかないらしい。

そして切々と公爵家の困窮に対する愚痴がしたためられたその手紙には、彼らの娘レミラーナが公衆の面前で成金侯爵の娘に辱めを受けたという話が大層な悲劇としてしたためられていた。

(ドール侯爵といえば、サイデムとの関係が厚い事実上の後援者……それに〝カカオの誘惑〟はサイデムが面倒を見ている子供……確かメイロードとかいう娘が作った店だ。これは使えるかも知れん。あの娘が公爵家につながっていたのは意外だったが、その公爵家とは袂分かった平民育ちの田舎貴族、恐るるまでもない)

ここでタガローサは、〝カカオの誘惑〟を完膚なきまでに叩きのめすことで、メイロードのそしてその背後にいるサガン・サイデムの評判を地に落とすことを思いついた。

(ククク、奴らが正妃に大恥をかかせれば不興を買うことは間違いない。そうなれば、再びタガローサ家が表に出ることも……)

「ニワカ貴族に〝帝国の代理人〟など任せられぬと、パレスのすべての民の前でわからせてやる!」

作戦の進捗状況を知らせにきた使用人に、相変わらず上機嫌のタガローサは、かつての栄光を取り戻す日が近いことを確信して、高笑いが止まらなかった。

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