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4 聖人候補の領地経営
636 パレス菓子博覧会
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636
その日の夜、私はイスのマリス邸の居間で、ややぐったりしながら、菓子勝負に駆り出されることになった顛末をセーヤとソーヤに話した。
「そういうわけで、おそらく相手の背後にはタガローサがいると思う。だから、後手ではあるけれど、相手のやり口の目星はなんとなくつくんだ。でも、確証はないから、相手のやろうとしていることの確認をふたりにお願いしたいの」
そして、私の前に神妙に座っているセーヤとソーヤに私は密命を伝える。
「お任せください、メイロードさま。必ずや、敵の作戦暴いてまいります!」
「なんだか頭にきますよね。食べ物をこんな争いの道具にするなんて! 絶対悪巧み見つけますから!」
こうしてベテランの隠密も真っ青の私のステルス妖精さんに、今回も敵に関する情報収集をお願いした。
「ふたりはやすやすと見つかったりはしないとは思うけど、決して無理はしないでね。約束よ」
私の言葉にうなずいたふたりは、すぐに部屋から消えた。あとは結果待ち……というわけにもいかない。対策を考えなくては。
(でも、今日は無理だわ……)
いろいろとディープな話を聞きすぎたせいか、さすがに精神的な疲労でぐったりだったため、その日はゆっくり温泉風魔石風呂に入って、早めに就寝した。
翌日は、朝からおじさまの家の居間に陣取り、書類を広げて対策を考えていた。
(対外的には、私はおじさまの家に泊めてもらっていることになっている。おじさまもそう思っているだろうけど、実際は、夜はイスの私邸に戻ってるんだけどね)
今回の話は、巷には〝パレス菓子博覧会〟としてすでに告知の上、宣伝されている。さすがに、不正疑惑を……と言った話を喧伝するのは外聞が悪いとのことで、パレスの人たちには、純粋にうまい菓子に投票して貰えば良いということになり、イベントをすることになったそうだ。
投票は住人登録証を示して記名された投票用紙をもらう形式なので、ひとりで複数の投票は行えない。投入時にも登録証を確認されるので人の票を使うこともできない。菓子を購入したときにもらえる店の名前が押された紙も投票時に回収するので、買わずに投票もできない。
帝国が主催するイベントでの不正は絶対に許してはならないと、妨害行為などを含め公正を欠く行為に対しては厳罰が課せられることも告知されている。もちろん投票を促すため、投票者には抽選で優勝した店の菓子が贈られたり、優先的に買う権利が与えられるという、楽しいイベントもついている。
自分で使ってもよし、この権利もまた売ればかなりの高値になるだろう。
では、出店する側はどういう形式かといえば、会場に同じ大きさの店を開き、店の商品を販売する。認められた範囲内での店の装飾、レイアウトは自由。商品は店の主力商品、新作商品、その店で取り扱うものならば何でもいいという。当日は半額まで値引きしていいが、定価を店頭に表示し、博覧会後にはそれぞれの店で必ずその値段で売り続けることが求められている。違反すれば失格、後日違反がわかった場合も失格の上厳罰となる。
ここにまずひとつ落とし穴。
うちの店〝カカオの誘惑〟の商品は、すでに半年先まで予約が入っている。店から持ち出せる商品などないのだ。もちろん、私が《生産の陣》を使えば、いくらでも量産は可能だが、店にも全然置いていないほどレアな商品が、屋台でドカドカ積み上げられているのはおかしいだろう。そんな職業倫理を疑われるようなことをすれば、店の評判にも傷がつく。
(つまり、既存のチョコレート菓子はこの勝負で使えないってことだ)
もちろん、これを相手は狙ってきている。たくさんの人たちに食べさせなければ、たくさんの票を集めることは不可能だ。これは、予約の取れない人気店〝カカオの誘惑〟が、人気すぎる故に、この勝負に必要な主力商品の在庫が用意できないことをわかって提案された勝負方法なのだ。
(おそらく、もうすでに向こうは大量の菓子の準備を終わらせているんだろうなぁ……)
相手の用意したルールがすでに決まっていて、異議も言えずに従わなければならないこの状況は最悪だ。
ここで二つ目の落とし穴。
この競技のルールとして、店で売る予定のない商品は使えない。だから、チョコレート専門店である〝カカオの誘惑〟はチョコレート縛りということになる。でも、大量のチョコレートは使えない。新商品を作るにしても、ものすごく制約が大きいのだ。
頭を抱える私のところへサイデムおじさまがやってきた。おじさまには屋台の発注をお願いしている。インパクトを出すため、チョコレート色で統一してもらう予定だ。
「おい、メイロード。まだ什器の指定が何にもないが、どうするつもりだ? もう数日しかないんだからな!」
「そんなこと言われても、まだ何を売るかも決めてないのにわかるわけないじゃないですかぁ! 大体屋台で菓子を作るわけには……あ!」
そこから私はブツブツ言いながら考え始めた。
(そうか、そうだよね……せっかく屋台があるならそれを生かさなきゃ! あれとこれを使って……うん、いける!)
「おじさま、目立つ色の小袋の調達を大量にお願いします。千枚は欲しいかな。それに大きく〝カカオの誘惑〟って入れてもらって下さい。あと、このぐらいの大きさの紙箱用意できます?」
私は長方形の箱の大きさを手で示した。
「わかった、まかせろ! それにも屋号は入れるのか?」
「もちろん、大きく入れて下さい!」
おじさまは私の要望をノートに書き取ると、またすぐ何処かへと去っていった。人のことは言えないが、忙しい人だ。
やっと頭が動き出し、どうにかこちらの作戦の目星がつき、細かいことを考える余裕ができてきた頃、やっと1日が終わった。
(明日からは本格的な準備と試作かぁ……はぁ、間に合うかな)
その日の夜、私はイスのマリス邸の居間で、ややぐったりしながら、菓子勝負に駆り出されることになった顛末をセーヤとソーヤに話した。
「そういうわけで、おそらく相手の背後にはタガローサがいると思う。だから、後手ではあるけれど、相手のやり口の目星はなんとなくつくんだ。でも、確証はないから、相手のやろうとしていることの確認をふたりにお願いしたいの」
そして、私の前に神妙に座っているセーヤとソーヤに私は密命を伝える。
「お任せください、メイロードさま。必ずや、敵の作戦暴いてまいります!」
「なんだか頭にきますよね。食べ物をこんな争いの道具にするなんて! 絶対悪巧み見つけますから!」
こうしてベテランの隠密も真っ青の私のステルス妖精さんに、今回も敵に関する情報収集をお願いした。
「ふたりはやすやすと見つかったりはしないとは思うけど、決して無理はしないでね。約束よ」
私の言葉にうなずいたふたりは、すぐに部屋から消えた。あとは結果待ち……というわけにもいかない。対策を考えなくては。
(でも、今日は無理だわ……)
いろいろとディープな話を聞きすぎたせいか、さすがに精神的な疲労でぐったりだったため、その日はゆっくり温泉風魔石風呂に入って、早めに就寝した。
翌日は、朝からおじさまの家の居間に陣取り、書類を広げて対策を考えていた。
(対外的には、私はおじさまの家に泊めてもらっていることになっている。おじさまもそう思っているだろうけど、実際は、夜はイスの私邸に戻ってるんだけどね)
今回の話は、巷には〝パレス菓子博覧会〟としてすでに告知の上、宣伝されている。さすがに、不正疑惑を……と言った話を喧伝するのは外聞が悪いとのことで、パレスの人たちには、純粋にうまい菓子に投票して貰えば良いということになり、イベントをすることになったそうだ。
投票は住人登録証を示して記名された投票用紙をもらう形式なので、ひとりで複数の投票は行えない。投入時にも登録証を確認されるので人の票を使うこともできない。菓子を購入したときにもらえる店の名前が押された紙も投票時に回収するので、買わずに投票もできない。
帝国が主催するイベントでの不正は絶対に許してはならないと、妨害行為などを含め公正を欠く行為に対しては厳罰が課せられることも告知されている。もちろん投票を促すため、投票者には抽選で優勝した店の菓子が贈られたり、優先的に買う権利が与えられるという、楽しいイベントもついている。
自分で使ってもよし、この権利もまた売ればかなりの高値になるだろう。
では、出店する側はどういう形式かといえば、会場に同じ大きさの店を開き、店の商品を販売する。認められた範囲内での店の装飾、レイアウトは自由。商品は店の主力商品、新作商品、その店で取り扱うものならば何でもいいという。当日は半額まで値引きしていいが、定価を店頭に表示し、博覧会後にはそれぞれの店で必ずその値段で売り続けることが求められている。違反すれば失格、後日違反がわかった場合も失格の上厳罰となる。
ここにまずひとつ落とし穴。
うちの店〝カカオの誘惑〟の商品は、すでに半年先まで予約が入っている。店から持ち出せる商品などないのだ。もちろん、私が《生産の陣》を使えば、いくらでも量産は可能だが、店にも全然置いていないほどレアな商品が、屋台でドカドカ積み上げられているのはおかしいだろう。そんな職業倫理を疑われるようなことをすれば、店の評判にも傷がつく。
(つまり、既存のチョコレート菓子はこの勝負で使えないってことだ)
もちろん、これを相手は狙ってきている。たくさんの人たちに食べさせなければ、たくさんの票を集めることは不可能だ。これは、予約の取れない人気店〝カカオの誘惑〟が、人気すぎる故に、この勝負に必要な主力商品の在庫が用意できないことをわかって提案された勝負方法なのだ。
(おそらく、もうすでに向こうは大量の菓子の準備を終わらせているんだろうなぁ……)
相手の用意したルールがすでに決まっていて、異議も言えずに従わなければならないこの状況は最悪だ。
ここで二つ目の落とし穴。
この競技のルールとして、店で売る予定のない商品は使えない。だから、チョコレート専門店である〝カカオの誘惑〟はチョコレート縛りということになる。でも、大量のチョコレートは使えない。新商品を作るにしても、ものすごく制約が大きいのだ。
頭を抱える私のところへサイデムおじさまがやってきた。おじさまには屋台の発注をお願いしている。インパクトを出すため、チョコレート色で統一してもらう予定だ。
「おい、メイロード。まだ什器の指定が何にもないが、どうするつもりだ? もう数日しかないんだからな!」
「そんなこと言われても、まだ何を売るかも決めてないのにわかるわけないじゃないですかぁ! 大体屋台で菓子を作るわけには……あ!」
そこから私はブツブツ言いながら考え始めた。
(そうか、そうだよね……せっかく屋台があるならそれを生かさなきゃ! あれとこれを使って……うん、いける!)
「おじさま、目立つ色の小袋の調達を大量にお願いします。千枚は欲しいかな。それに大きく〝カカオの誘惑〟って入れてもらって下さい。あと、このぐらいの大きさの紙箱用意できます?」
私は長方形の箱の大きさを手で示した。
「わかった、まかせろ! それにも屋号は入れるのか?」
「もちろん、大きく入れて下さい!」
おじさまは私の要望をノートに書き取ると、またすぐ何処かへと去っていった。人のことは言えないが、忙しい人だ。
やっと頭が動き出し、どうにかこちらの作戦の目星がつき、細かいことを考える余裕ができてきた頃、やっと1日が終わった。
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