【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
74 / 151
剣聖の娘、裏組織と戦う!

禁じ手

しおりを挟む


 エステルとクレイの手合わせが続く。

 ……いや、その戦いの激しさはもはや手合わせの範疇を超えていた。


「……木剣なのによく壊れねぇな」

 ギデオンが呟く。
 彼が言う通り、あれほど激しく剣を打ち合わせていれば、とっくに壊れていていてもおかしくないが……

 その疑問にはアルドが答える。

「あれは剣にまで『闘気』を纏わせているんだ。おそらく、鉄製並みの強度があるだろうな」

「マジですか……」

 ギデオンのレベルでもそれは理解を超えていた。
 エステルやクレイ、アルドの領域に到達して初めて体現できるものなのだろう。



「だが……どうやら決着は近そうだ。エステル嬢がこのまま押し切って終わりだろう」

 ディセフが二人の戦いの先行きを予測し言う。
 彼が言う通り、クレイはエステルの怒涛の攻撃を防ぐので手一杯で反撃もままならないように見えた。

 しかし。

「……それはどうかな?」

 アルドは意見が違うようだ。

「陛下……ですが、クレイはもうどうにも手詰まりのように見えます」

「何を狙っているのかはわからん。だが、あいつの目はまだ諦めていない。俺の目には、あいつは何らかの策を繰り出すタイミングを見計らっているように見える」

「……確かに、勝負を投げてはいないですね」

「ああ。お前たちもよく見ておけよ」

 最後まで勝負を諦めない。
 その姿をクレイは見せてくれているのだ……と、アルドは騎士たちに言う。


 果たして……クレイの策とはいったい何なのか?
 その時は直ぐにやって来た。







「はぁーーーっっ!!」

 エステルがこれまでよりも更にギアを上げて猛然と踏み込み、裂帛の気合で大剣を大上段から振り下ろす!

 その一撃をクレイはかろうじて横に飛んで躱した。


 ドゴォッッ!!!


 エステルの大剣は、クレイの脇をギリギリ掠めて地面に叩きつけられ、そこに大穴を開けた。

 通常であれば、大振りの一撃のあとには隙が生まれそうなものであるが……エステルは即座に叩きつけた大剣を無理やり引き上げて構えを取っている。
 恐るべき膂力である。


「おいおいおい!!攻撃の殺意が高くないか!?」

「え?普通でしょ?」

 エステルはしれっと言うが……暫く稽古が出来なかった鬱憤を爆発させている自覚はない。
 その相手をするクレイはたまったものではないだろう。




(このままでは押し切られる……しかし、例えこいつが相手でも、入団後の初戦は勝ち星で飾りたいところだ。……仕方ない。ここは『禁じ手』を使わせてもらおう)

 いよいよ後が無くなったクレイは、ついに起死回生の一撃を放つ事を決心する。



「ふふふ……そろそろ終わりにするよ!」

(何て邪悪な笑みなんだ……だが、調子に乗るのもここまでだ!)


 クレイはエステルの攻撃を受け止めるべく、足を止めて腰を落として構えた。
 それを最後の攻防のための覚悟と見たエステルは、これまでで最速の踏み込みでクレイに肉薄する。


「もらったよ!!」

 勝負を決する渾身の一撃をエステルは振るおうとする……そのとき。

 彼女と繋がっていたクレイの視線が、何故かあらぬ方向に向いた。

 次の瞬間……!







「あ、あんなところにドラゴン肉が!?」

「え!?どこどこ!?」

 クレイの言葉につられ、エステルの攻撃の手が止まる。
 そして。


「隙ありぃっ!」

 ポコンっ!

「あいたっ!?」


 エステルとクレイ以外の、その場の全員の目が点になった。


「…………きたねぇ」

 ギデオンのその言葉に、騎士たちは『うんうん』と頷いて同意するのだった。










「ずるいっ!!」

「何を言う、戦いの最中に油断するほうが悪い」

「う~!!ば~かば~かおたんこなす~!」

「子供か……」

 悔しさのあまりエステルは幼児退行しているようだ。
 クレイを罵る言葉のボキャブラリーが乏しすぎる。


「大体さ、騎士なのにあんな卑怯なマネしていいの!?」

「……いいか、エステル。俺たち騎士の使命は正々堂々戦うことじゃない。この命に変えても民を護ることこそが至上の使命なんだ!俺はそれをお前に伝えたかったんだ!」

 エステルに言い聞かせるように、クレイは堂々と言い放った。

 だが、それを聞く先輩騎士たちは顔を見合わせて微妙な表情だ。

「……まぁ、ものは言いようだな」

 ギデオンが皆の心の内を代弁する。

 そんな騎士たちの微妙な空気をよそに……マリアベルは余程ツボにハマったのか、笑いを堪えるのに必死になっていた。



「うぇ~ん!!おと~さんに言いつけてやる~!」

「子供か……。ていうかお前、師匠にも同じ手で何度もやられてるだろうが」

 クレイのあの『禁じ手』は、師ジスタルから対エステル用の切り札として伝授されたものだったりする。
 ドラゴン肉が最も効果的だが、その他にも様々なバリエーションがあるのだ。
 ……何というしょうもない奥義だろうか。



「そうむくれるなエステル。勝負は殆ど君の勝ちだったぞ」

 エステルの頭をポムポムしながら、アルドは彼女を慰める。

「ぐすっ……へ~か……」

 幼児退行ぎみのエステルは子犬のように潤んだ瞳をアルドに向けた。
 彼の顔が心なしか赤くなる。

「う……ま、まぁ、クレイは冗談めかしていたが、言ってる事自体は一理あるぞ。実際、お前たちの使命は民を護ることだ。騎士として正々堂々に拘るのも良いが……それよりも大切なことがあるのは肝に銘じておくように」

 そのアルドの言葉に騎士たちは真面目な顔で頷いた。


 そんなふうに、微妙な空気を良い話として纏めるのは、流石の国王陛下の手腕……なのだろうか。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...