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剣聖の娘、裏組織と戦う!
エステルvsクレイ2
しおりを挟む開始の合図とともに、まず動いたのはクレイだ。
彼は戦闘中とは思えないくらいにゆったりとした足取りで、エステルの方に歩を進める。
彼女は構えを崩さずその場に留まって、クレイを待ち受けていた。
そして、開始の位置から半分ほど距離を詰めたところで……突然クレイが爆発的な加速を見せる!
次の瞬間、ガンッ!!と、木剣を打ち鳴らす鈍い音が訓練場に響いた。
クレイが二本の剣をそれぞれ袈裟懸けに振るった攻撃を、エステルが横に構え直した大剣で纏めて防いだのだ。
この場にいる者で、今のクレイの攻撃を視認出来たのはほんの僅かしかいなかった。
二剣と大剣の鍔迫り合いは長くは続かない。
エステルは大剣を力ずくで押しやりながら、クレイの胴に蹴りを放つ!!
しかし、彼は大剣に押される力も利用して一瞬で後方に飛び退る。
逃さないとばかりにエステルは前に飛び出し、大剣を叩き込もうと振りかぶる。
クレイはそれに合わせてカウンターを狙うが……エステルは大剣を振りかぶった姿勢のまま大きく跳躍した!!
「何っ!?」
クレイのカウンターは空を切り、エステルは身体を翻しながら彼の頭上に舞い上がる。
そして……!
ドンッ!
彼女は天井を蹴って加速し、一気にクレイの背後に着地し、そのままバックハンドで大剣を振るう!
ガァンッ!!!
「あっぶねえ!!何てことしやがる!?」
「よく止めたじゃない!」
遠心力の乗ったエステルの一撃を、かろうじて二剣を交差させて防いだクレイ。
衝撃を吸収しきれないと咄嗟に判断した彼は、剣で受け止めながら後ろに飛んで退避している。
「お前、屋内戦の経験なんかあったっけか?」
「無いけど……今のは木の枝とかでもやったことあるよ」
「あ~……なるほどな。それにしても、俺を殺す気か?」
「このくらいクレイなら全然平気でしょ。まだまだ行くよ!!」
「はぁ~……勘弁してくれ。結構ギリギリなんだぞ、こっちは」
そんな弱音を言いながらも、クレイはエステルの怒涛の連撃を捌いていく。
言葉とは裏腹に余裕を持って対処しているようには見える。
そして、エステルの斬撃による衝撃波が訓練場の中を吹き荒れる。
木剣であるのにもかかわらず、それは当たればただでは済まされない威力を持っていた。
いくつかの斬撃波がマリアベルが張った結界に衝突する。
その度に、『バァンッ!!』と破壊音が響いて見学する者たちの肝を冷やすが、今のところ結界に綻びが生じる気配はなさそうだ。
「ディ、ディセフ様……彼等はいったい……?」
あまりにも隔絶した力を持つ二人の戦いに、ディセフの近くにいた騎士の一人が呆然となって聞いてくる。
「凄いだろう?ハッキリ言って、あの二人とまともに戦えるのは……陛下か団長くらいだろうな」
「……前倒しで入団させた意味が分かりましたよ。あれなら確かに即戦力ですね」
その騎士の言葉に、周りで聞いていた者たちも同意して頷く。
実力を知らしめて疑念を払拭するという、ディセフの目論見はもう達成されただろう。
「そうだろう。彼ら程ではないが、そこのギデオンも中々のものだぞ」
「……いえ、ありゃあレベルが全然違います。比較されても困るっすよ」
ついでとばかりにギデオンの事も売り込むディセフの言葉に、当の本人は複雑そうな表情で答えた。
「何だ、デカい図体をして随分と情けないことを言うじゃないか?」
「う……陛下……」
「王国騎士たる者、常に上を目指さなければならん。ましてやあんな頂きが目の前に見えてるなら尚更だろう」
アルドは、ギデオンに発破をかける。
それは彼だけでなく、周りで聞く者にも聞かせるためでもあったのだろう。
「陛下の仰る通りだ。俺とて彼らから見ればまだまだ未熟者だと痛感させられた。だが、それで腐る必要などない」
アルドの言葉に同意してディセフもそのように告げた。
そうしている間も二人の戦闘は続く。
幼馴染同士であり、これまで何度も手合わせしてきたのでお互いに手の内は知り尽くしている。
であれば、勝敗の行方は地力で勝る方に傾くわけだが……実際にエステルがクレイを圧倒し始めていた。
「はぁ~っ!!!」
「くっ……!!」
大剣をまるで小枝のように縦横無尽に振るうエステルの攻撃。
クレイは二剣を駆使して何とかそれを防ぎつつ反撃を試みるが……暴風のような彼女の攻撃の前に飲み込まれようとしていた。
(相変わらず出鱈目だな!!狙いすました緻密な斬撃を放ってきたかと思えば、力尽くのゴリ押しもある。……いや、8割はゴリ押しかもしれんが。どちらにしても厄介この上なない)
最初こそ受けに回ったが、エステルの戦闘スタイルは息をもつかせぬ圧倒的な攻撃力こそが持ち味だ。
父ジスタル仕込の剣の技はもちろんだが、相手の防御ごと吹き飛ばす力任せの一撃が連続で襲ってくるのは脅威以外の何ものでもない。
一旦調子付かせてしまうと、嵩に懸かって攻め立てられ反撃もままならなくなる。
(こいつめ……幼馴染の入団に華を添えるとか無いのかよっ!)
そんなものあるわけない。
彼女は相手の力量に合わせる事はあっても、それは手抜きなどではない。
面倒くさがりの彼女だが、こと剣術に関しては非常に真面目で全力を尽くすのだ。
もちろんクレイはそんな事分かってはいるが、いよいよ手がなくなってくると恨み言の一つも言いたくなるのである。
既に手がつけられないくらいにエステルの猛攻はとどまることを知らず、既にクレイは防戦一方となっていた。
(だが、このままで終わると思うなよ……!)
荒れ狂う暴風の中、クレイは起死回生の一撃の機会を虎視眈々と覗っていた。
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