迷子の僕の異世界生活

クローナ

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危険な魔法

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お城に入ってから歩いてきた白い大理石の廊下とは違い、開かれた扉の先には高そうな絨毯が敷き詰められていた。

強がりを言ったもののその境界を越えるのをためらってしまう。

「トウヤ、ちゃんと護る。だからそれよりこっちを握って欲しい。」

そう言って俺の左側に立っていたクラウスは右手を俺の右肩を包むようにのせて左手を胸の前に差し出してくれる。その顔は優しく微笑んでいて、そこに左手をのせたら自分が震えていた事に気付いた。俺の手を柔らかく握り込んでくれる大きな手の温かさにようやく踏み出す勇気が出る。

「ありがとうクラウス。」

今度はちゃんと本当に『大丈夫』になった俺はクラウスの腕の中に護られたまま靴裏を柔らかく支える絨毯の上に足を踏み入れた。

「赤騎士隊所属クラウス=ルーデンベルク、『桜の庭』トウヤ殿をお連れいたしました。」

背中で扉が閉まるとクラウスが声を発した。
とても広い豪華な装飾のその部屋は天井から足元までの大きな窓が外の光を柔らかく取り込んでとても明るかった。沢山の書棚に豪華なソファーセット、そして大きな執務机に書類が山積みになっている為にそこに目的の人物がいるかどうかはクラウスの視線とその向こうに近衛騎士の制服を着て立っているユリウス様が教えてくれた。

「ああ、よく来てくれた。こんな所ですまない仕事から逃してもらえなくて。」

積み上がった束の一つに最も姿を隠していた書類を置き立ち上がったその人は今まで見た誰よりもキラキラと輝いていた。

身長はクラウスやユリウス様と比べると少し低いけれど190センチはある。白いシャツに金色のクラバット。黒のフロックコートには金糸の控え目な刺繍の縁取り。同じ作りの黒のスラックス。その上からでもわかる鍛えられた身体。皇子様と思えば少しシンプルに見えるけれどそれはきっとこの整った顔の所為かも知れない。その顔をさらに引き立たせているのは窓から差し込む光を受けてキラキラ輝くシルクの様な真っ白な髪。それは襟足で短く整えられていてふわふわとした長めの前髪からは真紅の瞳が輝いていた。

「キミがトウヤ殿か?」

その美しい真紅のルビーに白い長いまつ毛のシャッターが降りる。瞬きがわかる程の距離で声を掛けられるまでぽかんと口を開けて見とれてしまっていた。

「は、はい冬夜と申します。」

「その様に身を隠してどうした。私が怖いか?」

───怖いだなんて。

不本意なその問いにとっさに言葉が出ず慌てて首を横に降った。
俺は驚いた時に思わずクラウスの手を胸元に引き寄せてしまっていわれてみれば確かにクラウスの腕の中に隠れてる小さい子供の様な事をしてしまっていた。

目の前で真紅のルビーを持ったイケメンが形の良い唇でにっこり笑う姿はとても人懐っこい雰囲気で、俺の前にその美しい顔とは違う印象の節くれ立った手を差し出す。
クラウスを見上げればまぶたを閉じでみせる。これは多分『そうしていいよ』の意味だよね。
だから差し伸べられた皇子様の手にそっと右手をのせてみた。

『お手』みたいかも。

「随分懐いているのだな。トウヤ殿この男とはどんな関係なのだ?」

そう聞かれて左手を握るクラウスの手が少しだけ強くなり再び見上げれば困ったような戸惑うような顔をした。
今の俺達はどんな関係なのだろう。ウォールにいた時のままなら『恋人』と名乗れただろうか。だけど今は自信がない。それに例えそうだとしても皇子様やユリウス様のいる場で俺の中の常識ではこういうのが正しいのだと思う。

「私に居場所を下さった大切﹅﹅な友人です。」

俺の今の気持ちを『お守り』へのキスではなく言葉で伝えたくて許される中で言える言葉にできるだけ気持ちを込めた。今度は反応を返さない左手は正解かどうか教えてくれない。ましてや顔なんて見れなかった。

「ほう、『大切な友人﹅﹅』か、なら遠慮はいらんな。クラウス、控えていろ。」

「しかし……。」

「大丈夫だお前の友人﹅﹅に何もしない、信用しろ。」

「───わかりました。」

背の高い2人が俺の頭上で会話を終えるとクラウスが俺の身体から手をはなし離れるのがわかった。体温が遠ざかるのを感じた途端に心細いなんて情けない。だけどそれに浸る間もなく目の前の皇子様が俺の手を取ったまま片膝をついた。

「それではまずはトウヤ殿に礼を尽くそう。日頃我が国の愛し子たちを慈しみ育んでくれてありがとう。国王に代わり礼を言う。そしてその治癒魔法の才も見事だ。先日の討伐遠征では飾り紐のおかげで期間の短縮、そして何より1人の騎士の命を救ってくれた事心より感謝している。本当にありがとう。できればこの先も我が国に滞在してその力をフランディールのために使って頂けないだろうか。」

予想外のことが目の前で起きてびっくりしてしまった。だけど皇子様が下から真っ直ぐ俺を見つめる瞳に慌てて俺も両膝をついた。

「いえ、あの、私こそ『桜の庭』で働かせて頂いてありがとうございます。それとその……治癒魔法の方はお役に立てるかわからないので……」

王国立の『桜の庭』雇い主の先の先が王様だったことに今更気づくのは遅いだろうか。それに討伐遠征のお礼なんてやっぱり実感はない俺は受ける事なんて出来なくてここまで来たくせに覚悟ができなくて情けないと思いながらもそう返すのが精一杯だった。

「それは私の申し出を断ると言うことか?」

「違います、誉めて頂くほどの治癒魔法が本当に使えるのか私自身が半信半疑なのです。」

「ふむ、そうか。ならばこの場で見せてくれればいい──ユリウス、剣を。」

そう言うと空いていた手を背後に立っていたユリウス様に向けた。

その瞬間、頭の中にあの時の真っ赤な景色が蘇り俺は咄嗟に添えられていた皇子の手を両手で引き寄せその腕にすがった。






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