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危険な魔法
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しおりを挟む良かった、2日後ならまだセオが居てくれる。それにお昼過ぎなら安心して『桜の庭』を空けることが出来る。
「トウヤ君は第一皇子様とお会いするのに平気そうだね。」
カレンダーを指折り数えた俺にノートンさんが言った。
「平気そうって、もしかして怖い方なんですか?」
「いや、そんな事ないよ。文武共にとても秀でたお方で間違いなく次代の国王様に成られるお方だよ。手紙もああしてユリウス様が『個人的に』と届けてくださったのも私達やクラウス君の心配を考慮して下さったんじゃないかな。トウヤ君の事もきっと1番良い方法で保護して下さると思うよ。」
「なら安心しました。」
慌てて否定したノートンさんの言葉にほっとした。時々驚く事もあるけれどフランディール王国はとても平和だと思う。王都から離れた町の宿屋の子が毎日笑っている。日本で育った俺がそう思える国を治めている人ならきっといい人だと思うのは単純だろうか。
途中だったモップがけを再開したら手紙の内容を聞きつけたセオが窓から顔を出した。
「トウヤさんは第一皇子様にお会いするの怖くないんですか?」
「ノートンさんと同じ様な事を事聞くんですね。やっぱり怖い方なんですか?」
「違います!間違いなく素晴らしい方です!ただ俺だったらめちゃくちゃ萎縮してしまうのでトウヤさんはいつもと変わらず掃除してるから平気なのかなって。先日の討伐遠征の報告会では王様の名代として近くでお姿を拝謁することが出来ましたが本来は成人された王族の方には式典の際に遠目にお姿をやっと見られれば良いくらいですから。」
聞くことも同じなら皇子様への評価も同じだった。2人がわざわざ口に出すくらいだからよほど皇子様が怖い人なのかと心配になったけどどうやら俺の態度が普通の反応と違うのだろう。皇子様は『怖い』んじゃなくて『畏多い』んだ。
「そうなんですね。俺はただ物を知らないだけですよ。極力失礼のないように気を付けます。」
俺にしてみれば王族だろうが貴族だろうがやっぱり上手くイメージ出来ない。わかるのはキラキラしてるっぽいってぐらいだ。
今まで出会ったキラキラした人達はエレノア様やナイデルの領主様。それにアンジェラ。みんな優しく接してくれたから第一皇子様も同じ様な人だと簡単に考えていたけどそれでは駄目なのかな。
「そう云えばセオさんはユリウス様とお知り合いなんですか?」
ユリウス様がセオをまるで子供扱いで、だけどそうされたセオがとても嬉しそうに笑っていたのを思い出した。そう、まるでクラウスみたい。
「はい、俺の恩人です。騎士になろうと思ったのもユリウス様の影響なんです。」
「じゃあセオさんはなりたいものになれたんですね。」
「いえ、俺は赤騎士隊になりたいんでまだ途中なんです。実は休暇が終わったらクラウスさんに稽古付けてもらう約束なんですよ。」
にかって笑うからそれがセオにとって凄く楽しみにしてる事だとわかった。毎朝、こんなに寒い時期でも俺が起きる頃にはいつも汗が滲んでいて鍛錬を怠らない。それは揺るがない目標があるからなんだ。
俺は諦めてしまった保育士の夢がこの世界で叶った。それで満足だったのにな。
大切にしたい時間はあっという間に過ぎてしまい今日はすでに冬の2月5日。
子供達がお昼御飯を食べ終わるのを見計らった様に裏口に馬車と共に迎えに来たクラウスに連れられ俺はすでにお城の中にいた。
まさかお城まで馬車で来るとは思ってなかったけれどおかげで俺が今までどれだけ狭い範囲で生活していたか知ることが出来た。だって『桜の庭』からこの豪華な扉の前に来るまでかなりの時間が経っていたから。
「ご予定の方を案内してまいりました。」
俺達を案内してくれた紺色の制服を着た騎士がその扉をノックする。途端に押し寄せてきた不安に左手の『お守り』を右手で掴んで胸に引き寄せ深呼吸をした。
「大丈夫か?」
心配そうに空の蒼色の瞳が俺の顔を覗き込む。もう少し話しをしたかったけれどクラウスは馬車には乗らず、その横を馬に騎乗して並走してくれていた。おかげで馬車に乗ったまま城門を通り抜け建物の前まで降りることはなかったけれどそこからは案内の騎士の人がいてここまでろくに話せなかった。
「うん、大丈夫。」
これは明らかな強がりだとクラウスもわかっているけれど今更どうにもならない事はお互いよく知っている。でも会ったことのない皇子様への恐れではない。ただ今までに手に入れてしまった沢山の大切なものを失ってしまうかもしれないのが不安なんだ。
「中へどうぞ。」
聞こえた声に「失礼いたします。」と返事を返し紺色の騎士が左右に扉を開いた。
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