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皇子様のお披露目式
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しおりを挟む「そうだトウヤさん、どうせなら庭園へ行きませんか?少しですが花も咲き始めて綺麗ですよ。」
エリオット様の明るい声で部屋の空気が少し変わった。
「庭園ですか?」
「ああ、良いな。庭園なら部外者が入ることもない。だがエリオットは駄目だぞ?他の者にも顔を覚えてもらうための御用始めだ。」
「あ……そうでした。じゃあトウヤさんバルコニーでまたお会いしましょうね。」
せっかく提案してくれたのにエリオット様は残念ながら王様達と一緒に別行動みたいだ。でも王妃様にダメ出しされたエリオット様よりアルフ様の方が明らかにしゅんとしていた。
王様達に送り出され部屋を出ると廊下にはルシウスさんがいた。
「やあ小鳥ちゃん、待ってたよ。ふふ、素敵なお披露目式だったね、最高に可愛かったよ。」
見守ってくれたお礼を言いに駆け寄ると今日のルシウスさんは結った髪を崩さない様にそうっと頭を撫でてくれた。身長差も一番あるけれどルシウスさんに撫でられるといつも小さな子供になった気分になる。けれど全然嫌じゃない。
「ありがとうございます。」
「終わったらこのまま帰るんだよね?でないと小鳥ちゃんのこんなに可愛い姿僕だけ見たなんて言ったら先生に恨まれちゃう。」
確かにリシュリューさんもそのまま着て帰っていいとは言ったけどこの衣装は違うよね。だけどそんな風に言われるとノートンさんや子供達にもいつもと違う俺を見てもらいたい様な気にならなくもない。
「もちろんだ、帰りは馬車を用意してある。なぁユリウス。」
「はい、宰相首席補佐官殿よりそう報告がありました。」
この格好で帰る事を肯定されるとそれはそれでやっぱり恥ずかしいかも。それに馬車だとクラウスと一緒じゃなくなっちゃう。ああでもフード被ったら髪が崩れちゃうから仕方ないのか?
「なんだトウヤはもう帰ることを考えてしまってるな。兄としては淋しいな。だがもう少し付き合ってくれよ?」
ぐるぐると考えているのを気付かれて指摘された。そしてほら、と腕を差し出されたのに従ってアルフ様と一緒に庭園まで歩く事になった。
大理石の床からアルフ様達王族の居住区である絨毯の床に変わってしばらく歩いてから外に出るととても広い庭に出た。確かに美しく整えられた花や木もあるけれど屋根のある場所にテーブルセットがあったり芝生の部分がとても広く取ってあって子供達が見たら喜びそうな庭だ。
「懐かしいなぁ、何年ぶりだろう。小鳥ちゃんここはね僕達の遊び場だったんだよ。」
ルシウスさんは手入れされた庭園に一足早く咲いている花から香る春の空気をいっぱいに吸い込んで背伸びをした。
「お城のお庭が遊び場だったんですか?」
「年齢、家柄、力量が皇子様方の遊び相手に丁度いいってね。ほら、小さい頃は魔力操作が下手っぴだろう……って小鳥ちゃんにはわからないか。まあ要するに僕達なら喧嘩してもあいこになるって事。」
「クラウスもここで遊んだ事あるの?」
「そうらしい、あんまり覚えてないけどな。」
答えがそっけないのは興味がないからではなく幼くて本当にうろ覚えなんだろうな。
例えばそれが学校へ上がる前なら7歳のアルフ様とユリウス様に少し小さなルシウスさん、そこに加わるクラウスはディノくらいの大きさでこの庭を駆け回る様子を子供達に重ねれば想像は容易い。
そっか、だから王妃様小さい頃のクラウスを知ってるんだ。
芝生に足を踏み入れてから腕を組む相手はアルフ様からクラウスに変わっていた。本当はもうブーツにも慣れてしまったのだけどお仕事中のクラウスにくっつくには理由が必要だからもうしばらく内緒にしててもいいよね。
「この庭は代々の王妃の為の庭園だ。確かこの先に……と、あった。」
庭園の小径をもっと暖かくなったら、夏月になったらと花壇の木々のまだ見ぬ花の咲く様子を教えてくれながらアルフ様が視線と伸ばした指先で示した場所にあったのは一本の大きな桜の木だった。
「これをトウヤに見せておきたかった。この桜の木は妹姫様がご結婚されてまもなくガーデニアから送られたものだ。『桜の庭』の桜もそうだ、他にも何本か同じ時に頂いたものが王都にある。その他の王都の桜はすべてガーデニアにあった桜の子孫になるそうだ。」
春の青い空に伸びた幾つもの枝を太く逞しい幹が支えるその桜は樹齢100年を超えるというのに若々しく見えた。きっと大切にされてきたんだろうな。それは『桜の庭』の桜も同じだ。
───妹姫様の桜なのよ。
『桜の庭』で働く事になった日にマリーが誇らしげに教えてくれた時の顔を思い出した。
「春月を迎えたからもう間もなく蕾がつくだろう。満開の桜が王都を彩るのは見ものだぞ。合わせて開かれる桜まつりに各地から観光にやって来て王都に人が溢れかえる。」
「お祭りがあるんですか?」
「ああ、それはそれは賑やかだ。」
ユリウス様もなんだか誇らしげなそのお祭りは日本のお花見の様だろうか。
「気になるか?それなら一緒に行こう。」
「───うん。行きたいな。」
もう何年も無縁だったお祭りに誰かと行く、そんな日が来るなんて想像もしなかった。
『桜木冬夜』
子供の頃にもこの名前を褒められた事が確かにあった。
桜は日本の春の象徴で多くの人に愛され蕾が綻びるのを今か今かと待ちわびる。
もちろん俺もその中のひとりでクラウスが言ってくれたように自分の名前の中にある春を彩る桜の花がずっと好きだった。もちろん星のきれいな冬の夜も。
俺の保護された場所にちなんで役所の人がつけた名前だけどやっぱりこの名前はお父さんとお母さんがつけてくれたんだと今は思う。
だってどこよりも平和な日本の桜の下に俺が無事に生きることを願って転移させてくれたのだから。
「国王陛下の話は気になるだろうが心配しないでくれ。前にも言ったように雑音は俺が消してやる。冬夜は今まで通りの暮らしを思うがままにすればいい。」
「ありがとう、でも大丈夫クラウスを信じてるから本当に心配なんてしてないよ。それに頼りになるお兄様達もいてくださるでしょう。」
何度も何度も大丈夫と支えてくれたその信頼の証を示せば優しく微笑む心強いその姿にまた正解を知る。
「もちろんだ願い姫。」
「やっと呼んだな。」
「ふふ、今度は兄として遊びに行くね。」
今までだったらこんな風に考えることは出来なかった。でもそれが間違いなのだとアルフ様が教えてくれた。
傷だらけになりながら俺のために近衛騎士になってくれたのにクラウスの真意に気付けずに心から応援できなかった事を俺は今も悔やんでいる。俺がいなかったら近衛騎士になっていないと言ったけれどそれは俺も同じ。クラウスがいなかったら今の俺はここにいない。
それなのに上手く言えずエリオット様に頭を下げさせてしまった俺の代わりに謝ってくれた。言ったことが事実であれ聞く人が違えばあの言葉はクラウス自身を貶める言葉だったに違いない。
この先クラウスが俺のせいで軽んじられるのは嫌だ。
今ならリシュリューさんが教えようとしてくれた意味がちゃんとわかる。いつまでも自信がないと甘えてはいられない、過ぎるように感じた肩書も俺に値すると信じて与えられたものなんだ。
今は支えてもらうばかりのハリボテの俺だけど俺の側で支えてくれる沢山の人達の価値を下げるような事が二度とないように足りない所は学んで自信を付けて胸を張りこの桜の木の立派な太い幹の様に自分の足でひとりで立てるようになりたい。そしていつか俺の事を心から誇ってもらえるようにな人になりたい。
春を迎え、ほのかに枝先を桜色に染める樹齢100年の逞しい幹にそっと触れれば温かく感じるのはこの日和のせいかな。
これはかつてガーデニアにあった桜。俺の代わりにこの世界で100年の時を過ごした桜。
1年前の春にこの大好きな桜から目をそむけてしまったことが悔やまれる。
大切に育てられたこの桜は春の空に伸ばした枝に可憐な花をたわわにつけてきっと美しく咲いてくれるに違いない。
「どうした冬夜。」
桜の温もりがお父さんとお母さんに繋がっているように思えて幹におでこをくっつけたままの俺をクラウスが気に掛けてくれた。
「この桜、ガーデニアのお父さんとお母さんも見たのかなって。もしもそうならこの桜が咲いたの……早く見たいなって。」
今日はマリーとレインの入学式。
クラウスが正式に近衛騎士になった日でセオが赤色の騎士服に初めて袖を通す日。
それから俺のお披露目で新年を迎えた春月の1日。
遠い町では一番の恩人も制服を着て入学式に出ているだろう。咲くのはもう少し先だと言うけれど春の到来を寿ぐこんな日には満開の桜がふさわしい。
『桜の庭』にもお母さんの桜だけじゃなく沢山の桜の木があるから満開になったらとても綺麗だろう。桜色に埋め尽くされた庭でセオやアンジェラ、それにカイとリトナも呼んでみんなとお花見がしたいな。
それから夜にはクラウスが連れて行ってくれた林の中にひっそりと佇むあの大きな桜の木が満開になるのを一緒に見たいな。夜空に咲く桜もきっと美しいに違いないから。
「そろそろお時間になります。」
やりたい事を次から次に思い浮かべていたらいつの間にか紺色の騎士がいて時間が来たことを報せてくれた。
「ああ、もうそんな時間が。では行こかトウヤ。」
「はい。」
「冬夜。」
アルフ様に続いて桜に背を向けた俺をクラウスが呼び止めた。
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