迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
278 / 333
皇子様のお披露目式

278

しおりを挟む



いつになく快晴で迎えた春月、適度に捕まえる鬼がいない状態で庭中を駆け回れば柔らかな日差しでも子供達はすっかり汗だくになってしまった。伯爵家から臨時に派遣されている侍従のジェシカは子供達を手早く着替えさせると汚れ物を抱えリネン室へ向かった。

「まりーとれいん、いまなにしてるかなぁ。」

「マリーはにゅうがくしきだよディノ。」

「レインもにゅうがくしきだよディノ。」

食堂でハンナから果実水を受け取りながら返事をしたのは双子のロイとライ。

「じゃあとおやは?」

「もう、ディノいいからはやくはいってきて。」

一度館内に入ったはずなのにいつの間にか外に出て庭に周り窓枠に手をかけ目だけをやっと出して話しを続けるディノにサーシャがしびれを切らし始めていた。

「トウヤ君はお城で入学式かなぁ。」

「トウヤも?」

「うん、もうすぐ国王陛下のご挨拶が始まるからみんなで聞こうね。」

院長のノートンは庭の子供達を呼び込んだあと食堂に持ち込んだ書類に目を通していた。

「え~でぃのおにわであそびたい。」

「さっきあそんだでしょ、もうすぐこくおうへいかのごあいさつがはじまるってノートンさんもいってるじゃない。」

今日は新年の御用始め。王城が開放されてバルコニーで挨拶をする王族を直接見ることが出来る数少ない機会だけれど全ての人が入れるほどではない。そのために魔道具を使ってお声だけを拡声する為どこにいても聞こえるのだけど遊んでいると聞きそびれてしまう。
今日は大切なご発言があるはずで、その内容が子供達にきちんと伝わるようにと落ち着く場所へ誘ったけれど小さいディノはまだ遊んでいたい様子だった。

「だってでぃのおにわのさくらみたいもん。」

「いもうとひめさまのさくらならいつもみてるでしょ。」

ノートンさんの隣に陣取ったサーシャがお姉さんぶってディノを呼ぶのが可愛らしい。

「ちがうよ、だっていつもはおはなさいてないでしょ。とおやはやくかえってこないかなぁ。そしたらねでぃのがいちばんにおしえてあげるんだ。きっとすごくびっくりするよ。」

「何を言ってるんだいディノ、桜が咲くにはまだ早いよ?」

その時ようやく皆一様に見えている瞳だけでもにこにことご機嫌に笑うディノを通り越し春を待ついつもの庭に目を向けた。



******



アルフ様に続こうとした俺をクラウスが呼び止めた。
同時にルシウスさんが目をまん丸にしてその視線は俺の後ろのクラウスに向かっていた。

「小鳥ちゃん、君は一体何をしでかすんだい?」

「何って別に何もって……え?」

視線に促されすぐ後ろに立っていたクラウスを見上げたらクラウスは更に上を見上げていてその先は一面の桜色に染まっていた。

「うわぁぁ。」

驚きすぎて開いた口が塞がらない。さっきまで蕾すらついてなかったのにこんなのあり得ない。見上げるのに夢中でふらついた俺をクラウスがすかさず抱きとめてくれた。

「なにこれ凄い!でもなんで!?」

「なんでって小鳥ちゃんの仕業だろ?」

思わず叫ぶ俺にルシウスさんが変なことを言い出すからみんなの視線が俺に集まってしまった。

「いやいや、そんなまさか。」

「いやそれ以外どう説明するんだ?こんな事ができる魔法士フランディールには存在しないよ。」

ルシウスさんはそう言うけどでも本当に?

「今願ったと言っただろう?『桜が咲いたのを早くみたい』って。」

俺を見下ろすクラウスも困惑を隠しきれていないけれどやっぱり俺の仕業と思うみたいだ。

「そうだけど……。」

自分を信じると決めたばかりだけど流石にこんなのおかしすぎるでしょう?

「疑うならその目で見てご覧、ハハッまさかここまでとは。じゃあガーデニアの常春は刻の魔法士じゃなくて願い姫が作ってたのか?いや、でも小鳥ちゃんは両陛下の子供だから一概にどちらとは断定出来ないかも?」

ルシウスさんが指先をパチンと鳴らしたら浮かび上がった魔力がたわわに咲いた花の隙間に俺の願った言葉を覗かせて一緒にキラキラと光っていた。

「そんなの今はどうだって良いだろう!凄いぞトウヤすぐ行こう!これ以上の説得力なんてない!ほら、早く。ああもうクラウストウヤを抱き上げろ!」

ルシウスさんと同じように興奮を隠さないアルフ様の声にクラウスが俺の足をすくってその胸にしっかりと抱き込んだ瞬間もの凄い速さで庭園を後にしたかと思えばあっという間に階段を駆け上がり気付いたときは目の前にバルコニーへ続く大きな窓がある部屋の中にいた。

「揃ってどうしたのだ。そんなに慌てずともまだ時間はあるぞ。」

「慌てずにはいられません、たった今トウヤが庭園の桜を咲かせたのですから。」

凄いスピードだったのに呼吸一つ乱さずにアルフ様が王様に答えた。

「まさか!本当なのかトウヤよ。」

再び俺にみんなの視線が集まるのだけどクラウスは俺を降ろしてくれない。

「本当です国王陛下、開花した桜が纏う魔力はトウヤ様の物で間違いありません。」

ぎこちなくうなずく俺の後に少し遅れて部屋に入って来たルシウスさんの報告を聞いた王様や王妃様にエリオット様、宰相様をはじめ部屋にいた近衛騎士、突然の騒ぎに扉を開けたまま覗き込む紺色の騎士、それから侍従さん達までが驚きの声を上げた所へリシュリューさんが息を切らせて飛び込んできた。

「た、大変です!城内の全ての桜の木が突然花を咲かせたと報告がありました!」

「あれだけじゃないのか!?」

アルフ様が声を上げた時、今度は近衛騎士が1人入ってきた。

「失礼致します。只今王都騎士団隊長による緊急連絡で王都の各所で桜の開花が見られるとの報告が上がりましたがいかが対処いたしましょう。」

それを聞いた王様はとうとう大声で笑いだしてしまった。他の人達はその真意を確かめようと窓へ駆け寄った。

「無自覚にも程がある、凄いよ小鳥ちゃん。でもこれ飲んで、こんな無茶な使い方しないよう勉強しよう。あとクラウス今日はもう絶対に降ろすなよ。」

ローブの内側を探り、出した小瓶を全部クラウスにお姫様抱っこの俺のお腹に乗せるルシウスさんは口では褒めながら少し怒ってるようにも見える。だって庭園の桜でもびっくりしたのに離れた場所のあちこちまで俺の魔法だと言われても想定外の更に外だ。クラウスにまで「早く」と急かされ小瓶を3本も飲み干した。

「私の説得などもう必要ないな。そなたを疑う者などもはや1人もいないだろう。」

ひとしきり笑った王様が片手を上げると立っていた紺色の騎士が大窓に手をかけ扉のように開けた。その瞬間、大きな歓声が耳に飛び込んできた。そして王様がバルコニーの中央に立つとその声は一際大きくなる。右隣に王妃様、そしてエリオット様が並び左側を一人分開けるようにしてアルフ様が立った。手摺の隙間から見えたバルコニーの下の広場には参賀に集まった人々が隙間なくひしめいている。

「私はフランディール国王である。暖かな春の陽射しの中、新しい年の始まりを愛する国民と共に穏やかに迎えられた事心から幸せに思う。」

アルフ様が教会の広場でやったのと同じ様に決して大声では話していない王様の温かく威厳のある声が歓声の中でもしっかりと耳に届く。

「この声は魔道具を使って王都中に響いているから『桜の庭』にも学校にも聞こえているんだ。だから小鳥ちゃんの大切な子供達にもちゃんと伝わるよ。」

「魔法って凄いんですね。」

「だろう?」

手摺から少し後ろに控えた場所でクラウスに抱き上げられたままの俺にルシウスさんが教えてくれる魔法の正しい使い方。俺のはやっぱりでたらめすぎる。

「今年は皆に話さねばならない事がある、他でもない先日の教会の鐘の音だ。あの鐘が鳴り響き10日あまり、慶事であると伝えはしたが中には不安の拭えぬ者も少なからずいたであろう。それについては国王として大変申し訳なく思う。だかそれ程の事が起きたのだと理解してほしい。」

上がったままだった歓声は国王陛下の言葉に徐々に小さくなりついには静まり返った。

「さて、皆には今の目の前の奇跡が見えるだろうか。あの鐘はこの奇跡を起こした方が現れたことを報せる物であったのだ。それは皆がよく知る人物、100年の昔行方知れずになってしまった恩義あるガーデニアの愛し子。『失われた皇子』が偉大なる刻の魔法士ガーデニア王の魔法によりこの地に無事戻った事を私達に報せる鐘であった。とても信じる事が出来ないとは今の王都にいる者なら思うはずもない。屋内にいる者はぜひ外に出てこの奇跡を自分の眼で見てこの喜びを共に感じて欲しい。」

「さぁこちらへ」と招かれまさかクラウスに抱き上げられたままなのかと心配になったけれど王様とアルフ様の間にはいつの間にか小さな台が置かれクラウスがそこに俺をそっと降ろすと代わるように王様が俺の手を取り、視界には沢山の人々の顔とその周りに咲く満開の桜の木が飛び込んできた。

「このお方こそ『失われた皇子』亡国ガーデニアの忘れ形見、そして一瞬にして王都の桜を開花させるこの奇跡を起こしたトウヤ=サクラギ=ガーデニア皇子その人である。この素晴らしき魔法を携えた者がフランディール王国の新たなる民となる事を私と共に祝って欲しい。今日という日は我がフランディール王国にとって歴史に残る一日になるだろう。」

王様の高らかな声に眼下に溢れた人びとの拍手と歓声が再び大きく湧き起こった。

「トウヤ、聞こえるか。」

「はい、アルフ様ちゃんと聞こえます。」

「見えるか、お前の起こした奇跡が。」

「うん。見えるよクラウス。王都にはこんなにも沢山の桜があるんだね。」

花が咲いた為に高台に建つ王城のバルコニーから王都にある桜がどこにあるのかよく分かる。それらがみな、亡きガーデニアの残したものだと知った今その全てが愛おしくなる。
終わりのない拍手と歓声の中からは確かに『おかえりなさい』の声が耳に届いた。

この世界に来て知ったのは嬉しい時も涙が出てしまう事。そしてそれを我慢するのはとても難しい事。
だからもっとよく見えるようにとクラウスが肩車をしてくれたら両手が塞がってしまって今日一日何度も堪らえてきた嬉し涙をもうこれ以上我慢することなんて出来なかった。





しおりを挟む
感想 235

あなたにおすすめの小説

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

王子に彼女を奪われましたが、俺は異世界で竜人に愛されるみたいです?

キノア9g
BL
高校生カップル、突然の異世界召喚――…でも待っていたのは、まさかの「おまけ」扱い!? 平凡な高校生・日当悠真は、人生初の彼女・美咲とともに、ある日いきなり異世界へと召喚される。 しかし「聖女」として歓迎されたのは美咲だけで、悠真はただの「付属品」扱い。あっさりと王宮を追い出されてしまう。 「君、私のコレクションにならないかい?」 そんな声をかけてきたのは、妙にキザで掴みどころのない男――竜人・セレスティンだった。 勢いに巻き込まれるまま、悠真は彼に連れられ、竜人の国へと旅立つことになる。 「コレクション」。その奇妙な言葉の裏にあったのは、セレスティンの不器用で、けれどまっすぐな想い。 触れるたび、悠真の中で何かが静かに、確かに変わり始めていく。 裏切られ、置き去りにされた少年が、異世界で見つける――本当の居場所と、愛のかたち。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...