時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo

文字の大きさ
93 / 106

time.92

しおりを挟む
「お前はもっと自分が成長することを考えろ」

香恋ちゃんに向けて、静かだけど厳しい声が発せられた。

「誰かを羨んだりひがんだり、おとしめたりしても、何も変わらない。結局、自分がどうあるか、じゃないのか」

チーフだった。

私をかばうように前に立った高野チーフは、淡々と香恋ちゃんに語りかける。
遠巻きに見ていた人々が、動きを止めて静まり返った。

チーフの言葉が刺さった。

『お前は、強いな』

強くなりたいと思った。
成長したい。
自分として、もっと。

『いらないものは、処分しなきゃね』

必要とされたい。
役に立ちたい。

大切な人を大切にできる強さが欲しい。

派手な泣き声を上げていた香恋ちゃんがぴたりと泣き止んだ。

「…ごめんなさい」

顔を上げた香恋ちゃんは、涙の膜に揺れる瞳で、初めてまっすぐに私を見た。
蚊の鳴くような謝罪の言葉は、本心から出たものだと信じたかった。

「…うん」

頷くと、香恋ちゃんは唇を震わせて涙を落としながら、うなだれた。

「香恋ちゃんっ! 大丈夫だよ。俺、ちゃんと香恋ちゃんのこと導くからっ‼」

シュート先輩に無駄に力強く励まされる香恋ちゃんに、

「…あのドレス100万だから。今年のボーナスはないと思え」

チーフがしれっと言い放つ。

「え、…えええ―――っ‼」

顔面蒼白になって大声を上げる香恋ちゃんは、

「だ、大丈夫だよ。…導くから。痛いけど、…」

無意識なのか、シュート先輩の腕をひたすら雑巾絞りにしていた。


「ここ、帰ろうか」

待ち合わせたホテルのエントランスで、スマートに立っている千晃くんは、奇跡みたいにきれいで、その姿を目に焼き付けた。

長い手足。柔らかな髪。
くっきり二重。整った鼻筋。
澄んだ瞳。艶やかな唇。

ありとあらゆるパーツが完璧で配置も申し分ない。

神様に愛された外見と天性の才能を持つ千晃くんが、
私を見つけて優しい微笑みを投げる。

「千晃くん、…」

やっぱり。どうして。
千晃くんを見ると泣きたくなる。

微笑んだまま、千晃くんが私の手を取った。

夜の街を千晃くんと2人で歩く。

合わせてくれる歩調。滑らかな手の感触。
少しひんやりした体温。絡められた指と指。

『手つないでやろうか』

初めて手をつないでくれた時を思い出す。
千晃くんの温もりだけが命綱だった。

つないでくれたこの手が、私の全てだった。

「千晃くん、…」

言葉が出なくて、何度も確かめるように名前を呼ぶと、

「…うん」

千晃くんの甘くかすれた声が応えてくれる。
つないだ手に力を込めたら、優しく握り返してくれる。

ぴったりと、最初から決まっていたように、
自然と一つにつながる手と手。

千晃くんがいる。確かにここにいる。
私に愛を教えてくれて。私に幸せを教えてくれた。

千晃くんは確かにここにいるのに。
胸が張り裂けそうに痛い。

千晃くんの完璧に整った横顔は揺るぎない。

神様。
もしも、ひとつだけ願いが叶うなら。

どうか時間を止めて。
この一瞬を永遠に変えて下さい。

神様はいつも。
たったの一度も。

願いを叶えてくれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。

星乃和花
恋愛
【完結済:全8話】 ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて) 村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう! 問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。 半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!? 周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。 守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

処理中です...