時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

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ホテルの建物に向かって歩いていくと、
中庭に降りる入り口で、千晃くんが待っていてくれて、

「ここ。無事で良かった」

私の姿を認めると、ふんわり優しく抱きしめてくれた。

千晃くんの優しい腕。
千晃くんの甘い声。
千晃くんの爽やかな匂い。

千晃くんに抱きしめられたら、
改めて、生きてることを実感できた。
生きてて良かったって思えた。

もう涸れたと思ってた涙がまた込み上げてくる。

「もう。…大丈夫かな」

千晃くんは一度だけぎゅっと強く私を抱きしめた。

何かを確かめるように。
何かを刻み込むように。

それから、そっと優しく腕を解き、膝をかがめて私の目をのぞき込んだ。

「ここ。一緒に帰ろう。手つないでやるから」

『手つないでやろうか』

千晃くんの瞳が揺れている。
切なさと愛しさと優しさを浮かべて。

どこまでも澄んだ美しい瞳。
心まで見通す瞳が、私だけを映して揺れている。

どうしてだろう。
千晃くんが優しくて、優し過ぎて、涙が出る。
千晃くんが消えてしまうような気がして怖い。

『ここは高いところが、…』

千晃くんに、聞きたいことがあったのに。

「千晃くん、…」
「ん?」

千晃くんが優しく瞳を緩めた。

千晃くん、記憶戻ったの?
私のこと、思い出したの?

「…うん。一緒に帰ろ」

千晃くんが私の頭を撫でてくれた。

だけど、聞いたら。
この優しい手が、無くなってしまうような気がして、
何も聞けなかった。

パラシュートの演出を最後に、30周年記念パーティは幕を閉じた。

ご来賓の皆様が退席されて、
社員もそれぞれ片付けを終え、解散になった。

千晃くんと待ち合わせをして、更衣室に荷物を取りに行くと、

「申し訳ありませんでした‼ 弁償しますっ‼」

入り口で待ち構えていた香恋ちゃんに、若干切れ気味に謝られた。

「…香恋がやりました」

香恋ちゃんは、顔を引き攣らせてパステルピンクのドレスを揺らし、
濃いマスカラに縁どられた瞳いっぱいに涙をためると、

「だって、そこにカギとハサミがあったから、…っっ」

両手で顔を覆って泣き崩れた。

レモンイエローのドレスを切ったのは、香恋ちゃんだったらしい。
まりな先輩が連行されたことを知って、恐怖心が煽られたらしい。

「香恋ちゃん、大丈夫⁉」

床に座り込んでいる香恋ちゃんを目ざとく見つけたシュート先輩が、風のように飛んできて、香恋ちゃんの肩を抱く。

「おい、佐倉。香恋ちゃんに何したんだよ?」

いや、こっちがされたんだし。

と、思うけど。

「何? 揉めてる」
「けんか?」「いじめ?」

なんだなんだと人が集まってきて、ひたすら泣いている香恋ちゃんと責めるような視線のシュート先輩の前に立たされて、なんだか微妙な感じになってくる。

「あ、…ええっと」

この場を一体どうしたらいいのか分からなくなって、
うろたえている私の前に、スッと長身の影が立った。
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